「ラッセル博士、無事に救出できたかな……?」
ツァイスに残してきたエステル達を心配しながら、ベンチに座りボーっとするレオン。
トヴァルから作戦の日時を聞かされてから1時間後、彼はレグラムの街並みを見学していた。
湖畔の町レグラムはバカンスに訪れる者が多いだけあって、美しい景色が広がっている。
依頼があれば手伝うつもりだったが「休めるうちに休んどくのも遊撃士の仕事だ」と言われれば、素直に従うしかない。また、一連の事件によりギルド自体がほぼ機能停止に近い状態となっており、トヴァルやサラも依頼を受けてはいないとの事だ。
レオンにとってエレボニア帝国は初めての場所であり、途中で買ったサンドイッチを頬張りながら、これから何をしようか考えていた。
「そなたがレオン殿か?」
気が付けばベンチの後ろから突然声を掛けられた。
「うん?」
振り返れば一人の少女が立っていた。長い青髪を後ろでポニーテールに纏めており、その容姿は間違いなく美少女と言える。
「突然すまない、私はラウラ・S・アルゼイドという。……そうだな、ダラダラと話すのは私の性分に合わないから単刀直入に言おう、私と手合わせをして欲しい」
「……え?」
いきなり手合わせを願い出た少女に対して、レオンは目を丸くしたのと同時に既視感を感じた。
(あれ? これなんかどっかで……)
レオンは少女を見つめる。
青く透き通った瞳。強く在りたいと願う決意の瞳。
その瞳を見つめながらレオンは思い出した。
―――そう、あれはこの世界に来る前の話。
レイフォンが天剣授受者となって数か月後のある日。レオンはレイフォンと共に買い出しに出かけていた。
「今日は肉が安売りしてて良かったね! でも買い過ぎたかな?」
「みんないっぱい食べるし、この前の大会でもらった賞金があるし、たまにはね」
「そうだね、材料があればリン姉のご飯もいっぱい食べられるし!」
ニカッと笑うレオンとそれにつられて笑うレイフォン。それからも他愛のない話で盛り上がっていたところで彼女はやって来た。白と黒の入り混じった独特の髪が特徴的な美少女だ。
「お久しぶりです、レイフォン様……それにレオン」
「……クラリベール様?」
「うわっ!?」
綺麗にお辞儀するクラリベールと呆気にとられるレイフォン、そして驚きながらも身構えるレオン。
彼の対応はあまりにも失礼なものであったが、少女は特に気にする素振りも見せず言葉を続けた。
“クラリーベル・ロンスマイア”
グレンダン三王家のひとつ、ロンスマイア家の娘で、天剣授受者であるティグリスの孫であり、女王アルシェイラの従妹にあたる。
「今日はあなたに用があるのです。さぁ、闘いましょう!」
ゆっくりと指を向ける先にはレオンがいた。
「今日はって、今日もでしょう!? 最近来過ぎじゃないですか!?」
「そんなことはありません。最後にお会いしたのは一週間前ですし」
声を荒げるレオンに対し、クラリベールはあっけらかんに答える。
「……えっと、ごゆっくり」
「いい加減に―――ってレイ兄! さらっと逃げないでよ!」
「ええ、またお会いしましょう」
買い物袋を持ったまま孤児院に帰ろうとする義兄と優雅に挨拶するクララ。
「リーリンには伝えておくからね」
「ちょっと待って! 僕も「さぁ、行きましょうか」人の話を聞いてよぉぉぉぉ!」
顔を引きつらせて去っていく義兄について行こうとするが、クラリベールに襟を掴まれ引き摺られていく。
なぜこのような事態になったのか?
事の始まりは彼女の初陣の後見役にレイフォンが選ばれてからだ。
その時にレイフォンが危なくなった彼女を助けたことが因縁となっているらしい。それから彼女の目標は「レイフォン越え」となったが、さらにそこに現れたのがレオンだ。
突如レイフォンに勝負を挑むクラリベール、しかし義兄を襲う悪い奴だと勘違いしたレオンが間に入り圧勝した。
それからはずっと今のような状態が続いている。
レオンは思う。―――どうしてこうなった?
「……殿、レオン殿!」
「……はっ!」
ラウラの呼び掛けで現実に戻る。
「ごめん、少し考え事をしてた」
「それなら良いが……」
眉を寄せながら心配そうな表情をする少女に申し訳ない気持ちになる。
だが、突然の手合わせの申し出には驚く他ない。
(いきなり手合わせして欲しいって言われてもなぁ、トヴァルさんには休めって言われてるし……)
先程の試合はあくまで模擬戦であり怪我もしていない。帝国までの旅で精神的な疲労は感じているものの、身体的な疲労はわずかしかない。
そもそも、レオン程の武芸者であれば活剄を駆使すれば一か月間程は戦い続けることができる。後遺症を考えなければという条件はあるが――。
しかし、今回の作戦は下位とはいえ猟兵団を相手にする。負けるとは思えないがこの事件には身喰らう蛇という秘密組織も関わっている可能性が高く、不確定要素が多い。
なるべくベストコンディションに持っていきたいのがレオンの本心だ。
そう考えるとレオンの中では断る方向に傾いてきた。
(うん、やっぱり今回は断ろう)
レオンはそう判断した。だが、
「……やはり無理だろうか?」
凛とした雰囲気はいずこへ、ラウラは捨てられた子犬のような目でレオンを見つめた。
「うっ……」
……レオンは断れなかった。
◇ ◇ ◇
再び練武場へ向かうレオンは、前を歩くラウラに気付かれないよう静かに溜息をついた。
(あんな顔されたら断れないよなぁ、はぁ……)
基本的に頼まれたら断れない性格なのだ。
自分でも損な性格だと思う。
心の中で何度目かわからない溜息をつきながら歩いていく。
先程歩いた道を戻り、練武場へと辿り着いた。
「―――お嬢様、お帰りなさいませ」
「うむ、出迎えご苦労」
「どうやらうまくいったようですな。レオン殿、この度はお嬢様のご無理を聞いてくださり、感謝致します」
「まあ、成り行きと言いますか……」
ハハと苦笑いをしながら答える。対するクラウスはレオンの身に起こった出来事が想像できたのか笑みを深くした。
実際クラウスは短時間でレオンの性格を看破していた。
十中八九お嬢様は彼を連れてくるであろうと。レオンの情報を流したのもクラウスなのだが。
「準備はできております。こちらへどうぞ」
「うむ」
クラウスは練武場の扉を開け、二人を招き入れる。
中には誰もいない。そしてサラと戦闘をした痕跡もなく綺麗に片付いていた。
二人は距離を開けつつ練武場の中心まで向かった。
「私の準備はできている。後はそなた次第だ」
「僕はいつでもいいよ」
レオンの落ち着いた様子に思わず口角が上がる。
「そうか、なら始めさせてもらおう」
ラウラは身の丈に近い大剣を構えた。
「両手剣(バスターソード)か……」
レオンも刀を抜き、正眼に構える。
それと同時に剄を高めていく。
溢れる剄が周囲に零れ、ラウラの身体に熱を伝える。
「フッ、ではゆくぞっ!!」
ラウラは小さく笑うと先に仕掛ける。重量級の武器を扱っているはずなのにその動きは素早い。
すぐにレオンの間合いに入ると剣を降り下ろした。
しかし、レオンは足をずらし半身になることでそれを避ける。
降り下ろされた剣が地面を砕く。
「はぁッ!」
降り下ろした剣を下から横へ薙ぎ払う。
だがレオンも迫る剣に刀を添えると、刃を滑らせ受け流す。そして受け流した力を利用し、
胴を狙って刀を振るう。
刀が届くまでにラウラは剣を地面に突き刺した。剣を盾にするのと同時に、柄を握ったままそれを起点とし逆さに跳び上がる。
レオンもそれを見る。動きは止めず、次に備える。
ラウラの闘気が増す。
「ゆくぞッ!」
クラフト【鉄砕刃】
空中で剣を引き抜き、落下の力も利用して剣を降り下ろす。
(なかなかやるね、……なら)
「―――僕も反撃といこうか」
グレンダンでも両手剣を扱う者はいた。
刃渡りが使用者の身長近くもある大型の剣。
剣ではあるが切れ味よりもその重量で対象を叩き割ることに重点が置かれている。
ラウラの剣も外観に相応しい重量を備えていることは攻撃を受けてみて十分に実感できた。ラウラの筋力と練熟に、レオンは心の中で舌を巻いていた。
だからこそラウラの攻撃を真正面から受けて立つ。一瞬で決めた。
レオンは抜き打ちの構えを取る。
【サイハーデン刀争術、焔切り・翔刃】
跳ぶと抜くを同時に行う。炎を纏った刀身が曲線を描き、剣を降り抜くラウラと行き違う。
正直ラウラを侮っていた。そのせめてもの償いとしてこの一撃は少し本気を出す。
衝突は一瞬。衝剄と炎、そして刀の一閃がラウラの剣を弾き返した。
空中で仰け反ったラウラは体勢を整えながら着地。痺れた手を気にしながらもレオンを探す。
「―――僕の勝ちだね」
声は後ろから。
気付けば顔の横に刀がある。
「……ふぅ、まいった」
強張った体を息を吐きながら脱力させる。
そしてレオンも剄を落ち着かせ、ラウラから離れた。
ちなみに、この仕合を耳にした《光の剣匠》がレオンに興味を示すのはまだ少し先の話である。
ラウラとの出会い。
クララとの過去。
筆者の勝手なイメージです。(笑)