あれから数回仕合を重ねたが、ラウラが勝つことはなかった。
全力で挑み、息を切らしているラウラと数仕合行った後でも平然としているレオンでは明確な隔たりがあった。
汗一つかいていないレオンを見ていると、自分と彼にどれだけ差があるのかと思ってしまう。
「同世代の中でもそれなりにできると自負していたのだが、やはり上には上がいるものだな。悔しいが、手も足も出なかった」
「そんなことないさ、ラウラは十分強いよ。それに僕も修行中の身だしね」
「ふっ、ここまで差があるとは……。だが、そなたには感謝を。また一つ超えるべき壁が増えた、喜ばしいことだ」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいね。僕も負けないように頑張らないと……」
アルゼイド流の教えを受けているだけあって、エステルと同等の実力はあるように見受けられた。
このまま修行を続けていけば、名のある武芸者になるだろう。
「……そろそろいい時間だし、僕はこれで失礼するよ」
長く付き合っていただけあって日も暮れようとしている。
宿も確保していなかったため、練武場を後にしようとするレオン。
「もし宿が決まっていなければ、当家に泊まっていくが良い」
ラウラの意外な提案に驚く。
「あ、いや、でも悪いよ」
「私の我儘に付き合わせてしまったせめてもの礼だ」
「それは気にしなくていいから」
「ほっほっほ、お嬢様。すでに部屋の準備はできております。」
いつの間にか執事のクラウスさんが立っており、その申し出にラウラは満足したように頷いた。
「うん、さすがは爺だ。仕事が早くて助かる」
「……えっと」
どんどんと話が進んでいく様をみて困惑するレオンだったが、断る理由もなかったので二人の厚意に甘えることにした。
クラウスに連れられ、まずは食堂に到着する。
「すぐにお食事をお持ち致しますので、少々お待ちくださいませ」
それから様々な料理が出された。猪肉を使用した料理はレグラムの郷土料理らしい。
豪勢な食事に舌鼓を打った後は屋敷の中を案内された。
屋敷の中は以前見たダルモアのものとは違い、必要以上な装飾はなくシンプルで所々にあるアルゼイド家の家紋が目立つ造りになっている。
その案内途中でラウラが思い出したかのように口を開いた。
「レグラムに来たのであれば、この光景は是非見てもらいたい」
その一言により最後に案内されたのはバルコニーだった。
「これは……、すごいな」
「槍の聖女が本拠地にしたという古城―――ローエングリン城だ」
湖に浮かぶ古城。月明かりに照らされた城は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「アルゼイド家は槍の聖女が率いた《鉄騎隊》の副長を務めた人物の家系だ。《鉄騎隊》は神速の機動力で戦場を駆ける一騎当千の実力者たちであり、特に聖女は常勝無敗を誇る槍の使い手だった。―――私もいつか聖女『リアンヌ・サンドロット』のように……」
最後の方は呟くような声だったが、レオンの耳にはしっかり届いていた。
ちらりと横目で見ると、その顔は先ほどまでの凛々しい表情とは違い、儚げで古城を見つめるラウラの顔は美しかった。
「……」
幻想的な景色も相まって思わず見とれてしまったレオン。
「うん? どうかしたのか?」
「! いや、なんでもないよ!」
「ならばよいが……」
それから少しの間、会話もなくただただ景色を見つめる二人。先に沈黙を破ったのはレオンだった。
「そういえば、ラウラのお父さんはあの『光の剣匠』なんだよね?」
「そうだ。娘の私が言うのもなんだが帝国最高の剣士、確かに父上の実力は私から見ても人間離れしていると思う。そして、その強さを弱者に向けることを決してしない気高い人だ」
確かにラウラや領民の話を聞いていると、どれもアルゼイド子爵の良い話ばかりで悪い噂は一切なかった。アルゼイド子爵は理想の領主のようだ。
「そういえば父上は、前々から叶うならギルドに所属して働きたいと仰っていたな。独立独歩、人を助ける理念、そして誇り高さ……父上の気風に通じるところがあるらしい。」
「そうなんだ。なんだか僕の父さんに似てるな」
「そなたの父上も遊撃士なのか?」
「うん、『剣聖』カシウス・ブライトといってリベールでは有名な人なんだ」
「『剣聖』か……、剣術を嗜む者なら必ず聞く言葉だ。なるほど、そなたの強さにも合点がいったぞ。では、そなたの流派も噂に聞く八葉一刀流か?」
「ううん、八葉の流派ではないよ。僕はサイハーデンの流派だ」
聞いたことないと思うけどねと付け加える。
サイハーデンの流派を使うのはこの世界では自分だけであるし、当然と言えば当然だが。
「そうか、父上から「剣の道を極めれば、必ず八葉の者と出会うだろう」と言われていたが、世界にはまだ私の知らない強き流派がたくさんあるのだな。……ふっ、井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったものだ」
「僕もいち武芸者としてアルゼイド子爵に一目お会いしたかったよ」
アルゼイド子爵は今回の事件の対応のため、他の地域に出向いており不在。
ただ遊撃士とはいえ、一般人であるレオンが領主である子爵に会うのは難しいかもしれないが。
「そなたなら父上も気に入るだろう。それこそ一戦くらい申し込まれるかもしれないな」
冗談交じりに笑うラウラにレオンも笑顔で対応する。
「その時はお手柔らかにお願いしたいね」
「ふっ、……そろそろそなたも休むが良い。今日は付き合ってもらって感謝する」
「こちらこそ、ご馳走になった上に部屋まで貸してもらって。お礼を言うのは僕の方だよ、ありがとう」
お互いが礼を言い合い、バルコニーを後にする。
レオンを部屋まで送り、ラウラも自室へと戻っていった。
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あれからラウラに町を案内されたり(なぜか三人娘から監視されていた)、模擬戦を行ったりとあっという間に3日が過ぎた。
そして―――。
「ついに作戦の日時が決まった」
「やっときたわね、それで?」
ギルド内にはレオン含め3人全員集まっていた。
「今回は軍との共同作戦だ。俺たちは軍のサポートに徹し、ジェスター猟兵団を無力化、確保する。な? 簡単だろ?」
「はぁ!? 今更軍と協力なんてどういうことよ!?」
「帝国内の事件を正規軍ではなく遊撃士が解決したなんてことになってみろ、軍の面目が丸潰れだ。世論も黙っちゃいない」
「ちっ、結局おいしいとこだけ持ってかれるってわけね」
サラは吐き捨てるように皮肉を言った。
「でも、なんで軍は重い腰を上げる気になったんでしょうか?」
レオンの疑問はもっともだ。
事件が起きた後も軍は非協力的で動くことはなかった。襲撃犯がジェスター猟兵団だと判明したのも遊撃士のおかげであり、なぜ今回動くのかがわからない。
「俺も詳しくは聞けなかったが、カシウスさんが敵に情報を流し、自分の抹殺を企てさせた。つまり、囮になったってことだ」
「父さんが!?」
「なるほどね。事前にその情報を軍に知らせ、表向きは軍が解決し、遊撃士はあくまでそれに協力したに過ぎないと……。理に適っているわね」
「ああ、さすがカシウスさんだ」
恐らく軍の計画もカシウスが立てたものだろう。なんともチート親父である。
「それで、場所と作戦日時は?」
「場所は黒銀の鋼都ルーレ、その北東にあるザクセン鉄鉱山だ。日時は明日、二二○○開始だ」
(これが終われば、父さんに会えるかもしれない)
帝国ギルド襲撃事件も間もなく終わりを迎える―――。
「このままだと思った以上に早く終わっちゃうなぁ……、そうだ!」
スーツを着た少年は何か思いついたのか嬉しそうに笑う。
「あの人に頼んでみようっと♪ アハハハハ♪」
道化師は嗤う。笑顔を狂気で歪ませて―――。
ゲームをプレイしてから時間が経ち過ぎたので、キャラの言葉遣いが合っているか不安。
あとラウラの「うん」は好き。