シェラさんもかわいいですよね。
「では行きましょうか」
あれからドロシーという若い女のカメラマンと合流し、以前ルックとパットを助けたマルガ山道に聳える翡翠の塔へ向かった。
「お前さんはともかく、二人の方は大丈夫なのか?」
「どういう意味よ!」
武闘大会でレオンの実力を十分に認知しているナイアルだが、エステルとヨシュアの強さは未知数。訝しげな顔をするナイアルは隠すつもりもなく本音をぶちまけた。
「僕たちも遊撃士ですから、それなりに腕は立ちますよ」
あまりの言いように怒るエステルであったが、ヨシュアは冷静に自分たちも戦えるとナイアルに伝える。
「ほえー、その年で遊撃なんてすごいですぅ」
パシャパシャとストロボをたいて、暢気なことを言ったのはドロシー。一見とろそうに見える彼女だが、撮影する写真は超一流で、普段から迷惑を被っているナイアルもその点だけは認めていた。
「ここから先は魔獣だらけなので静かにお願いします」
「お、おう」
三人でナイアルとドロシーを囲いながら移動する。問題なく進む一行であったのだが、三階を過ぎたころ、我慢の限界が来たのかドロシーが写真を撮り始めた。
「いいですねぇ、とってもキュートですぅ」
「「「は?」」」
突然の行動に仰天するレオンたち。
「おい!何してんだ!そんなことをしたら魔獣が寄ってくるだろーが!」
「「「え?」」」
危険な状況を弁えず呑気にカメラ自慢に現を抜かすドロシーに、ナイアルはぶち切れた。当然魔獣が蔓延っている塔の中でそんな大声を出せば魔獣は寄ってくるわけで…
「囲まれたな…」
「おいい、どうすんだ!?ドロシーのせいで魔獣に襲われちまうじゃねーか!」
「先輩の大声のせいですぅー」
こんな状況の中ムキになって罵り合う二人。だが次第に増えていく魔獣にようやく静かになる。退路を完全に断たれ、三人は戦闘準備に入った。
「二人とも下がってて!ハァァァァァ!」
クラフト【旋風輪】
エステルを中心に棍を竜巻のように振り回し、多くの魔獣を巻き込む。ヨシュアもそれに合わせて討ち漏らした魔獣を切り捨てていく。絶妙なコンビネーションの前に魔獣はその数を減らしていく。レオンは終始護衛に徹し、襲いかかってきた敵のみを倒していった。
「これで終わりだよ…」
クラフト【絶影】
一瞬でトップスピードに入ったヨシュアは残像を残しながら直線状の敵を切り刻む。遅延効果のあるこの技をヨシュアは好んで使う。
寄ってきた魔獣を全て倒し、二人の実力を見たナイアルはようやく安心したようだ。
.
「お前さんたち、やるじゃねえか」
「すごいですぅー、これで安心して写真が撮れますね!先輩」
「元はといえばお前のせいだろーが!」
再び漫才のようなやり取りを行う二人をどうにか諌めながら先へ進む。
いろいろあったがようやく屋上へ着き、目的である風景や何かの装置の写真を撮れそうである。仕事に取り掛かろうとする瞬間、レオンとヨシュアは人の気配に気づいた。
「出てきたらどうですか?」
「すまない!手持ちのミラはあげるから見逃してくれ」
柱の陰から出てきた眼鏡の男性は、こちらを盗賊かなにかと勘違いしていた。
「ちょっと…、この紋章を見ればわかるでしょ?」
民間人の安全と地域の平和を守ることを第一の目的とした遊撃士は「支える篭手」の紋章を身に着けており、それで身分を証明している。遊撃士だとわかった男性はホッとした表情で自らをアルバと名乗った。
「古代文明の研究でこの塔を調べに来たんですよ」
「たった一人で?よく無事でしたねぇ」
「むちゃくちゃねえ」
考古学者であるアルバに対し、ナイアルは記事にできそうなことはないか?と質問し、アルバ教授は静かに話し始めた。
“七つの至宝(セプト・テリオン)”
古代の人々が《空の女神》エイドスから授かったとされる7つの《古代遺物》。1つ1つが属性を司っている。陸海空の遍く世界の全てを支配したと言われるその至宝の一つがリベールに眠っているという言い伝えがある。
話を聞き終えたナイアルだったが、不確実な情報を記事にできないと話し、通常通りの仕事に入ったのであった――。
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「いやあ、助かりました」
仕事を終えた一行はアルバ教授をそのままほっとくわけにもいかず、帰りのついでに一緒に護衛をしたのだ。次から危険な場所に行くときは遊撃士を頼ってほしいと言うエステルであったが、ミラが足りないためか曖昧な返事をして去っていくのであった。
「それにしても、なかなか二人も腕が立つじゃねえか」
「ふふん、当然よ」
「ありがとうございます」
「お前さんも記事に書かせてもらうぜ」
「うっ、あんまり目立たせないで下さいよ…」
大会後、ものすごい反響があったレオンは、もうあんな状況は懲り懲りだと言わんばかりにナイアルに伝えた。噂ではレオンのファンクラブまで出来上がったとまで聞く。
こうして無事?に依頼も終わり、ギルドへ報告しに向かった。
ギルドへ入るとシェラザードも依頼報告として戻ってきており、久しぶりの会話に話が盛り上がるのだった。
「じゃあ今夜は飲むわよ~」
「えー、シェラ姉酒癖悪いんだもん。騒ぐし、踊るし、脱ごうとするし」
「確かに、あれは目のやり場に困るよね」
アイナはシェラザードの行動に呆れ、シェラザードは不満気に言葉を返す。ロレント支部の受付をしているアイナとは飲み友達の関係であり、最強の酒豪コンビとして居酒屋のフォークナーに恐れられている。底無しのアイナと違い悪酔いと絡み酒がヒドく、暴れだすタイプなので、非常に後処理が大変なのだ。
「ふんだ、二人がそのつもりなら勘弁してあげるわよ…。その代り――」
シェラザードがレオンに抱き着く。
「へ?」
「たっぷりとレオンに付き合ってもらうわ♡」
豊満な胸を押し付けられ、長い付き合いのレオンでさえもドキドキしてしまう。女性特有の甘い香りにクラクラしそうになるが、妹と弟の手前なんとか我慢した。
「ちょっと、シェラさん…」
「さすが引き締まった体ねぇ…、お姉さんもドキドキしてきたわ♪」
「あ、あんですってー!シェラ姉何してるのよ!それにレオン兄もいつまでそうしてるつもり!?」
「ちょっと待ってよ、シェラさんいい加減離れてくださいよ!」
エステルのキレっぷりに焦るレオン。エステルが切れた時は手が付けられないと知っているため、エステルの怒りを鎮めようとシェラザードから離れようとする。
「私といるのがそんなに嫌なのね…」
目を潤ませながら訴えるシェラザード。それを見たレオンはどうしていいかわからずオロオロする。だがシェラザードは止まらず手で顔を覆い泣き出してしまった。正確には嘘泣きなのだが、パニック状態のレオンはそれに気づかない。それどころか謝る始末。
横眼からシェラザードの口角が吊り上っている様子をみたヨシュアは、口元をヒクヒクさせ、兄の不幸を悼んだのであった。だが…
「シェラさんといるのが嫌なわけないじゃないですか!」
シェラザードの肩を掴み、顔を上げさせる。
「へ?」
レオンの透き通った青い瞳がシェラザードを射抜く。当然お互いの顔は至近距離で、息遣いまで感じるほど。幼さを残しつつかなり整った顔を近くで見たシェラザードは思わず頬を赤く染めた。
(ちょ、これはまずいわ!)
最初はからかうつもりだけだったのだが、あまりにも紳士的かつ男らしさを見せるレオンに鼓動が早くなるシェラザード。レオンの魅力を改めて思い知らされた時、ギルドへ慌てて入り込んできた人がいた。
「市長さん!?」
「家に強盗が入ったのじゃ!」
レオンたちに新たな試練が降りかかる――。
序章も後半に向かいます。