第4話です。
市長邸の中に入れば、そこは酷い有様となっていた。
「うわ~、メチャクチャね」
「女王陛下に贈るはずだったセプチウムも盗まれてしまった…」
“七耀石(セプチウム)”
鉱山等から採掘される天然資源の結晶体で、地・水・火・風・時・空・幻という7つの属性を持ち、導力を生み出すための重要なエネルギー資源となる。商店や銀行などの施設で換金可能なほか、加工したものは導力器に結晶回路(クオーツ)として組み込まれ、利用される。特にロレント地方は七耀石の一種である翠耀石が採れる。
盗まれたものは以前エステルとヨシュアが依頼で運搬を頼まれたもの。自分たちが関わった依頼であるがゆえに、人一倍解決の意思があった。
それからシェラザードが事情聴取、レオンたち三人で現場検証の形をとることになり、家の中を調べた。
一通り内部を調べ、事情聴取も一段落したシェラザードと内容を確認していき、犯人が市長邸に訪れたジョゼットであるとわかった。そもそも金庫には暗証番号があり、そしてそれを知ることができるのは実際に金庫を開錠した瞬間である。その場に居合わせたのはジョゼット一人。
「…問題は彼女がどこにいるかってことね」
市長の権限を持ってすれば、飛行船の発着を一時的に停止するのも、関所に検問を引いて盗人をロレント市内に封じ込めることもできる。だがそんなことは向こうも理解しているはず、ということは…
「自力でロレントを脱出できる手段を持っているということか…。独自で飛空艇を持っている可能性が高いね」
「部屋の中で見つけたセルベの葉です。ミストヴァルトの森に生息している木の葉なので、恐らくはそこかと…。」
「なるほど…、ミストヴルドの森なら飛空艇を隠すのにもってこいの場所ね」
ここまでの話の流れからエステルはようやく理解したようで「よーし、ならミストヴァルトの森へ行くわよ!」と張り切っていた。
*******************************
「…こんな時に!」
エステルがぼやくのも無理はない。エリーズ街道を南下した橋にいたのは手配魔獣であるライノサイダー。普段は森の中で生息しており、皮膚は鎧のように固く攻守ともに隙がない。
エステルはライノサイダーめがけ、棒術具を降り下ろす。並みの魔獣なら一撃で倒せるほどの威力だったが固い皮膚に阻まれる。鉄を殴ったかのような衝撃に硬直してしまい、逆に魔獣の一撃を受けてしまった。
「エステルっ!」
すぐさまヨシュアがカバーに入る。皮膚の薄い部分を正確に見切り、切りつける。ヨシュアの攻撃に怒った魔獣は標的をヨシュアに変更するも、その隙にシェラザードのアーツの詠唱が完了する。
魔獣の中心に竜巻が発生し、真空の刃によって相手を切り刻む。多数の敵にも有効な【エアリアル】は風属性を中心としたシェラザードの十八番である。そして
「これでケリを付ける」
飛び出したのはレオン。ライノサイダーに向け迷いなき突きが放たれる。
【サイハーデン刀争術 波紋抜き】
浸透破壊。刀身に注ぎ込まれた衝剄はライノサイダーの細胞に浸透し、遅行爆発を起こし破壊の嵐を振りまいた。いかに皮膚が固いと言っても内側までも固い生物などほぼ存在しない。浸透破壊の影響下となった手配魔獣は、全身から体液を吹きだして動かなくなった。
「先を急ごう」
破壊に晒された亡骸を見下ろし、4人はミストヴァルトの森へ向かった――。
*****************************
「まったく、チョロイもんだよね」
「しかしお嬢にはびっくりだぜ。いくら制服を着てたとはいえ、あんな演技ができるなんてよ」
「さすが元・貴族令嬢だねぇ」
「しっかし、あの能天気な女遊撃士には笑いそうになっちゃったよ」
(あんですって~)
ジョゼットの言い分に今にも飛び出しそうなエステルだったが、もっと情報が欲しいヨシュアはなんとか彼女を留めた。
しかし、続くエステルの悪口にとうとう我慢の限界が来た。
「黙って聞いてりゃあ、能天気だのおめでたいだの好き勝手言ってくれちゃって…覚悟はできてるんでしょーね!?」
「な、なんで遊撃士が!?」
「フフ、詰めが甘かったみたいね」
「遊撃士協会規約に基づき、あなたたちを拘束します」
突然現れた遊撃士に戸惑うものの、すぐに立て直した
「ちっ、こうなったらやっちまうよ!『カプア一家』の力を見せてやれ!」
戦闘開始とともにエステルの掛け声が響く。
「みんな、行くわよ!」
大きな声に気合が入り、全身に力が漲る。
盗賊が短剣をぶん回して襲いかかるが、エステルは軽く避け棒術具を真横に薙ぎ払う。襲ってきた盗賊は簡単に数アージュほど吹き飛ばされ気絶した。
「口ほどにも「エステルッ!」きゃっ」
ジョゼットが放ったのは【ペトロブレス】、石化の状態異常を行き起こす地のアーツは非常に厄介だ。レオンがエステルを庇いアーツ上から逃がすが、足の一部がブレスに当たりレオンの片足が石化する。
「ちっ」
「れ、レオン兄ぃ…」
好機と見た盗賊の二人がレオンとエステルに短剣を降り下ろす。
が、こちらにも頼れる二人の遊撃士がいる。
クラフト【双連撃】
双剣から繰り出される二つの斬撃は、一撃目で短剣を弾き、二撃目で相手を再起不能にさせた。
クラフト【シルフェンウィップ】
鞭から放たれる真空の刃は小範囲の敵を巻き込む。レオンとエステルに当たらないよう威力を調節し、こちらも再起不能に追い込んだ。残ったジョゼットは仲間三人がやられ焦り始める。
「そんな、馬鹿な…」
「そういえば、面白い名前を言ってたわね。確か『カプア一家』…」
「さ、さあね?なんの事かな?」
バチンとジョゼットの前に鞭が飛んでくる。
「危ないじゃないのさ!」
「口を開かないのなら、身体に聞くしかないじゃない?大丈夫、優しくしてあげるから♡」
シェラザードのドSっぷりが発揮され、ジョゼットの顔は恐怖に歪んだ。レオンたちもそれぞれが思いに耽る。しかし…
「「「!」」」
真上から機関銃が放たれ、すぐに後ろに下がる。突如、強風が吹き荒れ、上空に大きな影が浮かび上がる。そこには緑色の見慣れぬフォルムの飛行艇が、上空を旋回していた。
「キール兄、遅いよ!」
「ジョゼット、すぐにボースに向かうぞ」
仲間の登場に倒れていた盗賊も息を吹き返し、逃走を始める。飛行艇から垂らされた縄梯子を掴み、四人の盗賊たちは空中へ引き上げられる。
「このまま逃げるつもり!?」
「待って、エステル」
飛空艇から機関銃を覗かせ、こちらに標準を定めている。仲間が全員、船内に保護されたのを確認すると、急発進をして山猫号は空の彼方へと消えていった。
「ごめん、足を引っぱちゃったね…」
ソールの薬で石化を解いたレオンが謝る。エステルを救ったとはいえ、自分の不甲斐なさに腹が立った。
「ごめんレオン兄、私がもっと周りを見てたら…」
「そうね、今回はエステルが悪いわ。でもレオンもあの程度の攻撃を食らうなんて、らしくないわね?」
「面目ないです…。」
兄弟そろって遊撃士となり、同じ任務を受けていたためか気が緩んでいたと反省するレオン。
(向こうの世界だと死んでたな…)
汚染物質が蔓延するレギオスの世界は、汚染物質を遮断するスーツを着て戦う。相手の一撃を食らうということは、スーツに傷がつくという事。そこから汚染物質が侵入すれば、確実に死が待っている。
「でもセプチウムは取り返しましたし…」
「ええ、逃がしたのは痛いけどギルドに報告しましょうか」
****************************
ギルドに戻った4人はアイナに報告を始めた。レオンたち3人は迂闊だったと反省していたが、シェラザードとアイナは今回の活躍を認め、正遊撃士資格の推薦状を手渡した。
「これって…」
「いいんですか?」
「ロレント支部からの『正遊撃士資格の推薦状』よ。あなた達二人を正遊撃士の資格所有者として、正式に推薦します」
正遊撃士になるためには五つの支部から推薦状をもらう必要がある。そのため準遊撃士は全国各地を回らなければならないのだ。
「ひゃっほー!やったー!!」
「すごい喜び方だな」
「兄さん、これがエステルだよ」
三者一様に喜ぶ。しかし、それは長くは続かなかった…。
ギルドにカシウスが乗った飛行船が行方不明になったと連絡があったのだ。
三人の試練は始まったばかりだった――。
ついに序章が終わりました。
それにしても空の軌跡の音楽はなんであんなにも泣けるんだろうか・・・
不思議ですね。