前の話より数日以内のお話です。
これより少し、こうして外伝が入ります。
――ドサッ。
強烈な一撃をくらい、今年で14になる少年、ウィル・ガーデンズは地面に倒れ込んだ。彼は荒い息を吐きながら、空を見上げる。
ここは第90管理外世界『リプシロード』。魔法生物が数多く暮らすが、文明レベルが低いために管理局が手を出していない場所だ。……まあ、そうでなくとも数日前に『ソルトルージュ』で起こった事件、『闇の書の復活』によって管理局はてんてこ舞いだ。ここに目を向ける余裕などないのだが。
「おーい、どうしたぁ? もう終わりかー?」
空を見上げていたウィルに、そんな声がかかった。その声を聞き、ウィルは彼自身のデバイスである『アルガンツァ』の柄を強く握り締める。
「誰が……俺はまだ、やれるっ!」
「お、ええぞ。男はそうでないといかん」
聞こえてくる笑い声をウィルは無視。顔を上げる。
眼前にいるのは、テンリュウ・シンドウがその力をもって屈伏させ、従える黒竜サリヴァルム。ウィルの模擬戦の相手だ。その黒竜は大きく翼をはためかせると、その瞳でウィルを捉えた。
「ギャウ!」
サリヴァルム――サリヴァと呼ばれるその竜は、鳴くと同時に火球を吐き出した。ウィルはそれを避けず、受け止める構えを見せる。
《Protection》
アルガンツァが魔法を固定し、障壁を展開。ウィルはアルガンツァを前に出し、受けに入る。
「ぐぐっ……!」
しかし、そもそもの力として、人と竜では大きな差がある。
ドンッ、という音と共に爆発が起こる。ウィルは吹き飛び、地面に倒れた。その上に、サリヴァがのしかかる。
「ぐっ……!?」
――ペロペロ。
しかし、サリヴァはウィルに噛みついたりはせず、その顔を舐めるに止まった。これは模擬戦で、サリヴァはうぃりのことが大好きなのだ。必要以上に傷つけることはありえない。
パン、パンと手を叩く乾いた音が響き渡る。ホムラがこちらへ歩いてきていた。
「はい、お疲れ~。サリヴァもお疲れや。ほい、ご褒美」
「ギャオ♪」
言いながらホムラが生肉を投げると、サリヴァはそれを器用に口でキャッチ。美味しそうに食べ始める。その光景から視線を外し、ホムラはさて、とウィルに言葉を紡いだ。
「自分、どうして負けたか理解しとるか?」
「……力不足だからだよ」
ウィルは吐き捨てるように言う。サリヴァに力で負けた。それだけだ。
だが、ホムラはその解答を聞いてはぁ、とため息を吐いた。
「何もわかってへんのやな。そんなんじゃ、強くなるなんて夢のまた夢やで?」
「……何だと?」
「言葉通りや。……お前たちを拾ってからもう8年くらいか。自分は強いよ。その年で陸戦AAランクくらいの力があれば、十分に天才や。管理局にいた頃でも、中々自分みたいなんは見たことがなかったわ」
まあ、例外はおったけど、とホムラは呟く。その表情が苦笑じみているのは、何故だろうか。
「で、お前が強くなりたいゆーからこうして鍛えとるけど、あれやな。どうしてもお前はそこを超えられへんね」
ホムラは苦笑。ウィルは、彼が何を言いたいのかわからない。
「まあ、仕方ないんやけどな。それを受け入れるには、お前はちょいと若すぎる」
「どういう意味だよ? ガキだって言いてぇのか?」
「それが半分。けど、今の自分を否定もせんよ。それをしてしもたら、自分の成長も止まってまうからなぁ」
ホムラは笑う。ウィルには、何が何だかわからない。
ホムラはウィルに歩み寄ると、その頭を撫でた。ウィルの顔が不機嫌になる。
「わしの言葉の意味をここで教えんのは容易い。せやけど、それじゃあ意味がないんや。お前が自分で気付かなアカン。せやけど、ヒントなしはキツいやろうから、二つほどヒントをやるわ」
ホムラはウィルの頭から手を離すと、笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。
「『自分より強い相手に勝つには、相手より強くなければならない』。……せやな、手始めにメンバーにでもサリヴァの倒す手段でも聞いてこい」
そしたらわかるはずや、とホムラは笑った。
◇ ◇ ◇
――テンリュウ・シンドウの場合――
「サリヴァの倒し方ですか?」
魔力消費を抑えるための小型モードに入っているサリヴァを撫でながら、テンリュウは言った。テーブルを挟んでテンリュウと向かい合うように座っているアリアも、首を傾げている。
「…………戦うの?」
「いいえ、アリア。今のサリヴァは私にとって大切な友人です。ただ、昔は戦わねばならない事情がありましたが」
アリアにサリヴァを渡し、空になったアリアのカップに甘い香りのするミルクを入れながら、テンリュウは微笑む。アリアはこくん、と頷きながらサリヴァを撫でた。
キュウ、と気持ちよさそうにサリヴァが唸る。
「ウィル殿も、私がサリヴァと戦うならば、という仮定の話を伺いたいのでしょう?」
「はい。テンリュウさんなら、どうするかと」
「そうですね……」
ウィルの分のお茶を入れ、座るよう促しながらテンリュウは顎に手を当てて考える。
「ご存知の通り、私には苦手な距離というものがありません。ですから、それこそ臨機応変に立ち回りますね」
「…………」
「もっとも、広域魔法については詠唱の時間もないでしょうし、自然と使うことがなくなるでしょうが。基本的には持久戦ですね。若くとも竜。その力を侮るわけにはいきません」
……まあ、勝てるかはともかく、負けることはないでしょう。
テンリュウはそう結んだ。ウィルは、ありがとうございます、と礼を言いながらも、考え込む。
テンリュウの実力は圧倒的だ。ホムラやエリアでさえ、ニ対一でようやく互角の希望が見えると本人たちが言うほど。その実力があれば、成程、そういう立ち回りになるのだろう。
考え込むウィル。そのウィルに、アリアが言葉を紡いだ。
「…………大丈夫?」
「ん、ああ。大丈夫だって。ホムラのおっさんに出された問題について、色々考えてるだけだから」
大丈夫だよ、とアリアの頭をウィルは撫でた。アリアは気持ちよさそうに目を細め、頷く。その光景を微笑を浮かべながら見ていたテンリュウが、問いとは、とウィルに聞いた。ウィルは頷く。
「ええと、『自分より強い相手に勝つには、相手より強くなければならない』っていう言葉の意味を考えろって。あと、サリヴァの倒し方を聞いて回れって」
「……成程、流石はホムラ殿。元戦技教導官です。素晴らしい言い回しですね」
テンリュウは微笑み、では、と言葉を紡いだ。
「私からの助言です。その言葉は、戦いの真理そのもの。その意味がわかれば、あなたは強くなれる」
そのテンリュウの言葉に続き、頑張って、とアリアが言う。
ウィルは、頷いた。
◇ ◇ ◇
――グリス・エリカランの場合――
「逃げるね♪」
「逃げんのかよ!」
ウィルは思わずつっこんだ。グリスは、キャハハ、と笑う。
「だってさー、サリヴァルムでしょ? お侍さんの竜の? 無理無理、無理に決まってる。ボクはデバイスもないしね~♪」
「でも、戦い方とかあるんじゃねぇのか?」
「キャハハ♪ だからその意味がないんだって♪」
グリスは笑いながら、椅子でくるくると回る。本当にいつも楽しそうな少年だ。
「わざわざ倒すなんて無駄な労力支払うくらいなら、逃げた方が効率的だよん♪ そのくらいの力はあるし? というか、そのくらいの力しかないし?」
だから、とグリスは言った。
「ボクは戦わないのが戦いなんだよん♪ 試合じゃないんだから、わざわざ戦う必要なんてなーんにもないの♪」
グリスは回転を止め、ウィルを見る。
「戦わないのも戦いだよ?」
◇ ◇ ◇
――リヴァイアス・バルトマカリの場合――
「ほう、銀月が。よいだろう、答えてやる」
「すみません、お願いします」
リヴァイアスに対し、ウィルは思わず敬語になる。何となくだが威圧感があるのだ。この男は。
「訓練をしながらで構わんか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「よろしい。しかしサリヴァルム……竜か。奴とではないが、一度殺し合ったことがある」
リヴァイアスは見るからに重そうなダンベルを持ち上げながら、思い出すように言った。
「まあ、俺様なら多少強引でも近付き、全力の一撃を叩き込むことになるだろうな」
「…………」
「俺様はミッドベルカ混合の術者だが、得手不得手がある。何より射砲撃は性に合わん。叩いて落とした方が早い」
リヴァイアスはふふん、と得意気に言う。
「例え竜の一撃であろうと、数発ならば耐えられるだけの力と技術はあると確信している。その間に力で落とす自信も同時にだ」
漲る自信は語っていた。負けるはずがないと。
それは雰囲気と言葉でわかる。だからウィルは、一つだけ問いを発した。
「それでも、倒せなかった時は?」
「決まっている。死ぬだけだ。それは食物連鎖の真理。弱肉強食。違うか、若僧?」
リヴァイアスは、壮絶な笑みを浮かべる。
「貴様もベルカの技を使うなら、覚えておけ。己の信ずる武器と技。それこそが全てだ。通じなければ、待っているのは死。故に我らは何があっても信じねばならん」
己をだ、と、歴戦の勇士はそう言った。
◇ ◇ ◇
――エリア・カリアの場合――
「ギレンさんはいねぇし、ロードは話したとこ見たことねぇし、宗主は……戦えるかわかんねぇし」
つか、話しかける気にならねぇ、と呟きながら、ウィルは歩いていた。すると不意に、前に人影が現れる。
透き通るような蒼い髪を宿した女性騎士、エリア・カリア。
「ウィルか。こんなところで何をしている? 主との訓練ではなかったか?」
「いや、その訓練で出された問題で」
言って、ウィルはエリアにホムラから出された問題について述べた。エリアは数秒考えた後、外を見る。
「ウィル。少し外で話そうか。いい月が出ている」
――外は、すでに暗くなっていた。
眩く浮かぶ月を見上げながら、エリアはウィルに背中を向けた状態で言葉を紡ぐ。
「ます、サリヴァだが。私ならば双剣の取り回しの速さで戦う。相手は竜。サイズが大きい以上、小回りは効かんだろう。……まあ、これは私の刃が通じるという前提があってこそだがな」
「通じない場合は?」
「死ぬさ」
エリアは、酷く平坦な声でそう言った。
「私は端くれとはいえ騎士なのだ。お前にもわかるだろうが、ベルカというものは己の武器が通じねばもう打つ手は一気に失われる。それに、己を信じることができなくなれば死ぬしかない」
騎士とはそういう生き物だ、とエリアは言う。
「主のため、信じるもののために戦い、通じねば死ぬしかない。そういう生き物なのだ。……まあ、騎士のことはいい。強くなるため、だったな。参考になるかはわからんが、私の話をしてやろう」
エリアはそう言って、振り返った。
「もう過去の話だが、私は一時期、最強の騎士などと謳われていた。だが、それは初めからそうだったわけではない。きっかけと、理由があった」
「きっかけと、理由?」
「ああ。……当時の私は、自惚れていただけの愚か者だった。私は全てが救えると、本気で信じていた馬鹿者だった。そんな時だ。とある次元世界で、それこそ天災と呼ぶべきロストロギアの暴走があった。管理局では手が足りず、私を含め多くの騎士が人命救助に駆り出された」
エリアは、何かを思い出すように空を見上げる。
「……地獄だった。歩けば見つかるのは死体だけ。あちこちで泣き声と呻き声が上がり、炎が収まることはなかった。私はがむしゃらに動き回った。三日、四日、五日と、休むことなく人を救い続けた。私ならば救えると過信していたから。しかし、六日目だ。私は一人の少女を見つけた。瓦礫に押し潰されそうになっている少女だ。私はすぐに救おうとした。少女を押し潰そうとしていた瓦礫が倒れるまで時間がなかった。だが、私の体はもうすでに限界を迎えていた。……今でも夢に見る。きっと、私が間に合わぬと悟ったのだろうな。少女は、叫んだよ」
――『逃げて』。
自らが死ぬというその瞬間に、当時のエリアよりも遥かに小さな少女は、自らよりもエリアを案じた。
エリアは何かを堪えるように右手で顔を覆い、月を見上げる。
「情けないことに、私は止まってしまった。その言葉を聞き、足がな。その私の目の前を、瓦礫が落ちていった。少女が叫んでくれなければ、私も死んでいただろう」
救おうとした少女に救われた。それが、辛かった。
何より、全てを救えると信じていた自らの自信が、砕け散った。
「その後の私は酷かった。それこそ鬼のように動き回った。だが、体はすでに限界だ。終わりなど見えていた。……一時間、二時間。その程度で良かったのだ。休んだほうが、より効率的に人を救えた。しかし、私はそれを受け入れられなかった。頭で納得しても、心が納得しなかった。……そして、私はまた過ちを犯した。人を救った身代わりに、命を落としかけてな。その時だ。主に出会ったのは」
エリアは、言う。
人を庇い、死にかけた自分を、ホムラが救ってくれたと。
「その時、私は主に怒られた。そこで初めて、自分の傲慢さに気付いたよ」
――『お前はお前が救った人間にお前の死を背負わせる気か!? 傲慢やとは思わんのか!?』
ホムラはそう言い、エリアをはたいた。
そして、エリアは知ったのだ。
自らが命を落として誰かを救っても、誰も喜ばないと。
「主は私に帰れと言い、自分は再び現場に戻ったよ。……後で知ったが、主は結局、当時から親友だったランバード殿と共に二週間近くギリギリのラインで人を救っていたらしい。それを聞いて、私はますます自分が情けなく思えたのを覚えているよ」
休むのは、一日きっかり一時間。冷静に、冷徹に、助けたいという熱を抱えながら、彼は戦った。
そして、その時、二人で合わせて四桁もの人を救い、二人は『エース・オブ・エース』と呼ばれるようになった。
「ウィル。私は、憧れたんだ。あの人のようになりたいと。それが私が強くなれた理由。ただの傲慢な子供から、最強の騎士とまで呼ばれるに至った理由だ」
お前はどうだ、とエリアはウィルに問いかけた。
「お前が刃を握る理由はなんだ? 何故、強くなろうと考えた?」
「俺は……守りたい。アリアを、守ってやりたいんだ」
ウィルは即座に答えた。その答えにエリアは微笑む。この少年が強くなりたい理由がそこであることは、エリアも知っていた。だから、これは迷いがあるか否かの問題。
即答できるなら、この少年は大丈夫だ。
「その気持ちを忘れるな。そうすれば、お前は強くなれる。その気持ちこそが答えだ」
ウィルは、頷いた。
◇ ◇ ◇
「絶景かな絶景かな」
落ちれば確実に死ぬような高さの崖の上で酒を片手に、ホムラは言った。世界が美しい。こういう景色を見ていると、心の底からそう思う。
そんなホムラの背後に、音もなく人影が現れた。見る必要はない。気配でわかる。
現に――
「主。こんなところにおられたのですね。……随分、ご機嫌なようですが?」
「おー、エリアか。いやいや、ウィルがちゃんとした答えを持ってきよったから、嬉しくてなぁ」
あいつは伸びるで、とホムラは楽しそうに言った。エリアは頷くと、ホムラの隣に座る。
「失礼します」
「堅いなぁ。そんなかしこまらんでもええのに」
「そういうわけにも参りません。……あの問いは、教導隊の教えでしたか?」
「せや。普通は悩んで悩んで答えが出るもんやけど、わしとカグラは即答して教導官を驚かせた」
――『自分より総合力で強い相手に勝つには、相手より強い部分で勝たなければならない』。
それが、答えだ。
ホムラとカグラという二人の『エース・オブ・エース』は、互いに勝つためにずっとそれをしてきた。
「懐かしいなぁ、ホンマ……」
「……後悔、しておられるのですか?」
「少しはしとるよ」
エリアの言葉に、ホムラは即答した。
「坊主の言うことにも一理あったし、正直、揺れとった。せやけど、思い出したわ。わしは、変えようと思ったんや」
外から、管理局という狂った場所を変えよう。
怒りをぶつけ、変えていこう。
そう、思っていた。
「結局、勝ったもん勝ちや。わしを止められんのやったら、管理局はおしまい。そんだけやね」
だから、もう迷いはない。ホムラは、そう言い切った。
エリアは、そうですか、と頷く。
「ならば良かった。主、あなたは前を向いているのがあなたらしい」
「おおきに。……てか、エリア。自分、ウィルに話したやろ」
「ふふっ、大丈夫です。あの後の……私があなたを主と呼ぶようになったきっかけについては話していませんから」
「……ならええけどな」
ホムラは言い、そして、エリアに問いかけた。
「なぁ、エリア。自分、今幸せか?」
「どうでしょう?」
それは、二人にしかわからない問答。ホムラは、わからんのやったら、と言葉を紡いだ。
「幸せかわからんのやったら、こっちに来るとええ。抱き締めたる」
「……あなたはいつも、私を救ってくれるのですね」
エリアは、泣くように微笑む。ホムラは、そんなエリアを抱き締めた。
「ったく、無理しおって。トラウマ自分から抉るアホがあるか」
「……すみません」
エリアはホムラの胸元に顔を埋めている。ホムラは、ええよ、と言った。
「わししかおらん。泣いてもわからんよ」
「……あなたは、本当に優しい」
エリアは呟き、そして、沈黙が流れる。その中でホムラが思い出すのは、エリアが自分のことを主と呼ぶようになった日のことだ。
『嬢ちゃん、塞ぎ込んでどうした?』
『…………』
『助けられんかったことを悔いとるんか? やったら、それはお門違いや。そうやって塞ぎ込むんは、自己満足やぞ』
『……えっ?』
『塞ぎ込んどる暇があったら、少しでも強くなれ。今度こそ救えるようになれ。そして、忘れるな。お前が救えなかった奴のことを。そんで、そいつの分まで幸せになる。それが、わしらの義務や』
『……でも、私は幸せがわからない。こんな気持ちで、幸せになんてなれない』
『幸せがわからんか。よし、こっち来い。抱き締めたる』
『…………!?』
『どや? 暖かいやろ? それが人や。これを感じられるんやったら、幸せにならなアカン。死を背負って笑わないと、誰も救われん』
『…………暖かい。けど』
『ん?』
『あなたも、震えてる』
『……わしもな、仰山救えんかったんや。だから、強くなろうや。お互いに』
『……はい』
そして、数日後エリアはホムラの下を訪れ、いきなり言ったのだ。
『あなたに剣を捧げます。我が主』
そうして、エリアは騎士になった。
それがこんなにも自分たちを苦しめるとは、思ってもみなかった。
「……なあ、エリア。わしを名前で呼ばんのやね?」
「呼べませんよ」
エリアは、どこか嬉しそうに微笑んだ。
「あの日憧れた、あなたの背中に追いつくまでは」