魔法少女リリカルなのは~優しい嘘~   作:アマネ・リィラ

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第十八章〝激動、轟いて〟

 

 強さの定義とは、あまりにも難しい命題である。

 歴史が示すように『勝者が正義』であり、『正義が勝つ』わけではないからだ。

 故に、『正義』とは『最強』示す言葉ではない。あくまで結果に過ぎないのだ。

 だからこそ、その定義はより一層難しくなってしまう。

 勝ち続ければ良いのか。

 負けなければ良いのか。

 それとも、もっと別の理由が必要なのか。

 

『自分より総合力で強い相手には、相手より強い部分で勝たなければならない』

 

 教導隊に関わりを持つならば必ず突き付けられる問答である。

 それが、より一層『最強』の定義を難しくする。

 しかし、そんな中でも『最強』を謳われる存在は確かに存在している。

 一人は、管理局の『エース・オブ・エース』。

 管理局局員の誇りを背負い、数多の戦場を駆け抜け、同時にいくつもの偉業、奇跡を成し遂げてきたその誉れは確かに『最強』に相応しいかもしれない。

 だが、もう一人。

 現代の『エース・オブ・エース』とは別に最強を謳われる怪物がいる。

『剣聖』、『辺境の英雄』、『最強の侍』、『ソードマスター』……数多の異名を背負うその者は、正に一騎当千。

『最強を名乗り、それを誰にも否定させない』――かつて、とある男が定義した『最強』の意味。

 それが、真実であるならば。

 成程、相応しき者は他にいない。

 その、並び立つ者なき『最強』の存在は、今。空を駆けている。

 たった一つの……願いのために。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「はあっ!」

 

 振り抜かれた巨大な魔力刃は、しかし、いとも容易く防がれてしまう。その結果を前に、フェイト・T・ハラオウンは内心で表情を歪ませた。

 左手に持つ刀、『血桜』で攻撃の全てをシャットアウトし、同時に右手に持つ巨大な薙刀『桜花』ですぐさま反撃に転じてくる。

 あまりにも異質なそのスタイルはしかし、確かに強い。

 ――テンリュウ・シンドウ。

 ユーノ・スクライアの調査によると歴史にさえ度々姿を現すその名は、確かに伊達ではない。

 ガギギ、という、魔力の衝突による火花が散る。瞬間。

 

「…………」

 

 テンリュウが、右腕一本で操っているとは思えないほど流麗に『桜花』を一回転させ、思い切りフェイトに叩き付けた。

 

「――――ッ!?」

 

 間一髪、フェイトはそれを受け止めるが、威力を殺しきれず、弾かれる。

 距離が空く。フェイトは、大きく息を吐き出した。

 ツゥ。

 フェイトの頬を、血が伝う。衝撃の余波だけで、僅かではあるが傷が刻まれていく。

 長引けば、長引く程不利になっていく――フェイトは、内心で呟いた。

 

(一か八かだけど、やるしかない)

 

 決心してからの行動は速い。フェイトはバルディッシュを両手で構えると、魔力スフィアを精製。そのままそれを撃ち込んだ。

 

《Foton Lancer》

「ファイア!」

 

 牽制の一撃。しかしテンリュウはそれを軽々と避ける。だが、放たれた弾丸はテンリュウがいた場所を通り過ぎると、すぐさま方向転換し、テンリュウに追いすがり始めた。

 

「追尾弾とは」

 

 だが、彼女にとっては何の問題もない。テンリュウはすぐさま停止すると、それらを難なく打ち払う。

 そして反撃のためにテンリュウがフェイトへと視線をやると、目に入った光景におや、と思わず呟いた。

 フェイトの足下に展開する、巨大な魔法陣。それは、明らかな必殺の魔法。

 その巨大な魔力を感知し、『桜花』が言葉を紡いだ。

 

《儀式魔法みたいだね。どうする?》

「――受けて立ちます」

 

 何の迷いもない言葉だった。桜花は、了解、と言葉を紡ぐ。

 

《先代もそうだったけどさ。愚直だよね、侍って》

「相手の全力をねじ伏せるだけの気概なくして、戦場に立てる道理はありません」

 

 仕えるべき主がために磨き上げられてきた、必殺の刃。それこそが、『神道天龍』という存在。

 それが、たった一人の魔導師に敗れることは許されない。

 

「夢幻天声」

 

 ゴゥン、という音と共に、巨大な障壁が展開される。それは、絶対にして最強の盾。

 それを前にし、しかし、臆せぬフェイトの魔法が紡がれる。

 かつて彼女が高町なのはと戦った時、彼女を墜とすために紡がれた大魔法が。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なる天神、今導きのもと撃ちかかれ」

《Photon Lancer Phalanx Shift》

 

 展開されるのは、合計38基の魔力スフィア。

 その全てが、雷を――魔導弾丸を撃ち出すために力を纏う。

 

「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト」

 

 秒間七発。合計1064発もの弾丸が、テンリュウ目掛けて豪速で飛来する。

 

「…………ッ!」

 

 フェイトは、歯を食いしばって術を維持する。儀式魔法――強大な威力と引き換えに詠唱と術の維持の難しさ、莫大な魔力を要求するそれを、どうにか維持する。

 ――弾丸の嵐が、止む。

 果たして……テンリュウは、立っていた。

 フェイトは、右手を掲げる。

 

「打ち砕け、ファイア!」

 

 そして、最後の一発が放たれる。

 それはテンリュウの障壁に直撃。ひびが入っていたテンリュウの障壁を打ち壊し、テンリュウの左肩に威力を殺されながらも着弾する。

 初めての、まともな一撃。テンリュウは、微笑んだ。

 

「見事」

 

 その言葉が届いた頃には、すでにフェイトは動いている。

 

《Jet Zamber》

 

 フェイトの持つ光刃が伸び、テンリュウを狙う。それを、テンリュウは居合で迎え撃つ。

 

「夢魔龍閃」

 

 閃光と轟音が瞬いた。互いの技は相殺し、魔力をばら撒く。

 そして、フェイトは大きくバルディッシュを振りかぶり、大きく振り抜いた。

 

「雷光一閃!! プラズマザンバー……!!」

《Plasma Zamber Breaker》

「ブレイカアァァァッッ!!」

 

 放たれたのは、一撃必殺の奥義。対し、テンリュウも彼女の奥義で応える。

 

「夢想演舞」

 

 衝突する、力と力。あまりの威力に世界が軋み、悲鳴を上げる。

 振り撒かれる魔力が爆発を起こし、そして、均衡が限界を迎える。

 ――爆発。

 互いの力があまりにも強かったが故に、拮抗も一瞬。轟音と共に、その衝突が終わりを見せた。

 

「…………ッ」

 

 爆発の余波で、フェイトは後方へと大きく後退。だが、すぐさま前に出る。

 

「疾風迅雷!!」

 

 二本の刃となった雷の剣を携え、フェイトは空を駆ける。対し、テンリュウは迎え撃つ構え。

 

《Sonic Move》

 

 フェイトの代名詞、音速に迫る超高速のスピードが解き放たれ、空を駆ける。

 

「…………嘘」

 

 だが、すぐにその表情が驚愕に彩られた。

 ――互角。

 速さにおいては管理局でも並び立つ者はいないとまで謳われるフェイトと、テンリュウは互角の速さで空を駆けていた。

 空に瞬く、いくつもの光。

 金色と紅色。

 空を彩るその輝きは、数多の魔導師たちが目指し、しかし、辿り着けない領域。

 ……そして。

 フェイトが、最後の勝負に出る。

 

「打ち抜け、雷刃!!」

 

 全力で振り抜かれるバルディッシュの一撃。

 渾身のそれを、テンリュウは『桜花』と『血桜』、その両方を交差させて受け止める。だが、威力を殺しきれず、後退することで威力を殺し切る。

 ――それは、初めて生まれた一瞬の隙。

 あのテンリュウが、全力で『受け』に回った瞬間。

 

 ――ここだ!

 

フェイトは自身の体を高速で回転させ、速さと遠心力を上乗せした一撃をテンリュウへ叩き込む。

 

「轟け!! 神雷!!」

 

 正真正銘の、最高の一撃。手応えがあった。どんな魔導師であっても、墜とせたはず。

 ――しかし。

 現実は、どこまでも残酷にフェイトを襲う。

 

「……決着です」

 

 背後。そう気付いた時には、もう……遅い。

 

「夢想演舞」

 

 至近距離からの、SSランク魔導師のそれに匹敵する砲撃魔法。

 あの高町なのはの全力にも迫り、あるいは凌駕するとされるその一撃に、速さのために限りなく装甲を薄くしていたフェイトに耐えられる道理はなく。

 ……『雷光の死神』が、墜ちていく。

 

「特務部隊機動六課……制圧完了」

 

 テンリュウは、特に感情も乗せずに呟いた。

 こんなものかと。

 確かにそれなりに手こずったが、それだけだ。

 これで……終わりか?

 

「…………」

 

 ため息。

 それが漏れた、その瞬間。

 

 

「ウイングロード!!」

 

 

 空に、無数の青い軌跡が紡がれた。同時に、凄まじい魔力を纏った火柱が上がる。

 

「『烈火の将』シグナムと、『烈火の剣精』アギト。……参る」

 

 剣を振るうのは、かつて古代ベルカを駆け抜けた騎士とそのユニゾンデバイス。

 そして。

 かの『エース・オブ・エース』のように、不屈の心で立ち上がる先程墜としたはずの魔導師たち。

 

「結論に至るにはいささか、早急でしたね。まだまだ修行が足りません」

 

 笑みを浮かべながら、テンリュウも構える。

 左半身の、受けて立たんという強者の佇まいで。

 

 信じるものは、磨き上げてきた力。

 振るうのは、共に駆け抜けてきた自分の全て。

 

 ――御心、確かに。

 信念、抱きて。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 自らが突き出した刃は、特に抵抗らしい抵抗も受けぬまま、相手の体を刺し貫いた。

 

「…………」

 

 そんな現実を前に相手は悲鳴も上げず、むしろ苦笑さえ浮かべながら床へと倒れ込む。

 エリア・カリアはそんな風に倒れていくゲンヤ・ナカジマから愛機である『クリスティナ』を引き抜くと、一度だけ振るった。

 血が飛び散り、床を濡らす。彼女の足下には、今、二人の人間が倒れていた。

 ゲンヤ・ナカジマ。

 ギンガ・ナカジマ。

 今回エリアたちのターゲットとなった陸士108部隊の部隊長と、その部隊におけるエースの二人だ。

 だが、所詮は一部隊のエース。エリア・カリアという、かつて騎士団筆頭という名を冠していた騎士に適うべくもない。

 エリアは二人を一瞥すると、その場を立ち去ろうと踵を返す。その瞬間。

 そこへ――砲撃魔法が降り注いだ。

 

「…………ッ!」

 

 不意の一撃に驚きながら、エリアはその場を飛び退く。だが当てる気がそもそもなかったらしいその砲撃は、エリアが立っていた場所から少し離れた場所に着弾した。

 エリアは、空を見上げる。

 そこにいたのは、彼女の主がかつて冠していた名を引き継いだ、奇跡を起こす不屈の魔導師。

『エース・オブ・エース』――高町なのは。

 

「今のは警告です」

 

 なのはは、言葉を紡ぐ。

 

「武器を捨て、投降してください」

「断れば?」

「……実力行使も、やむをえません」

 

 なのははレイジングハートを構える。エリアは、成程、と頷いた。

 

「私に投降する気はなく、同時にここに長居するつもりもない。……そう言えば、どうする?」

「力ずくでも、あなたを止める」

 

 迷いはなかった。流石だ、とエリアは呟く。

 そして。

 二人の魔導師が、空を駆ける。

 

「レイジングハート!」

《Yes,cartridge load》

「エクセリオン――」

 

 先手必勝、手加減なし。

 高町なのはの十八番、桜色の純魔力砲撃が放たれる。

 

「バスターッ!」

 

 ――直撃。

 想像以上の威力に、エリアは表情を僅かに変え、そして、なのはは追撃の手を緩めない。

 

「いくよレイジングハート!」

《Yes,Divine Buster A.C.S》

「ドライブ!」

 

 突撃。エリアは彼女の愛機、『クリスティナ』を眼前で交錯させると、障壁を展開した。

 魔力刃が、突き刺さる。

 

「カートリッジロード!」

 

 拮抗は一瞬。増幅された魔力によって魔力刃が更なる力を得、エリアの障壁が食い破られる。

 そして、エリアに対応する隙を与えない――零距離砲撃の展開。

 

「――――ッ!?」

 

 あまりの威力にエリアは後方へと吹き飛ぶ。いや、敢えて彼女は自分から後方へと飛んでいた。そうすることで威力を受け流したのだ。

 

「成程、『管理局の白い悪魔』か……中々、的を得ている。確かに悪魔のような威力だ」

 

 受け流したがらまだよかったものの、ノーガードで入れられたら一撃で意識を持って行かれるであろう一撃だった。

 ただでさえ、その威力故に防ぎきるのが困難な砲撃……それを、至近距離から叩き込んでくるとは。

 どこまでも――似ている。

 

「やはり、砲撃魔法を極めた魔導師は同じ場所へと至るのか。主と、どこまでも似ている」

 

 二振りの刃を構えながら、エリアは言う。そして、ほう、と息を吐いた。

 

「抜け目がないな。私を遠ざける間に、あの二人を救出するか」

「……私たちの目的は、あなたたちの逮捕と、108部隊の救援。一人でも多く、救ってみせる」

 

 なのはは言い切る。エリアの視界の端に映るのは、金髪の青年。

 確か要注意人物の一人、ユーノ・スクライアだ。おそらく、二人の応急手当をするつもりだろう。

 一瞬、それを阻むかどうか迷ったが……エリアはすぐさま諦めた。

 高町なのは――全力で当たらねば、こちらが墜ちかねない。

 それに、あの二人は重傷だ。ゲンヤ・ナカジマをしばらく動けなくする――最低限の目的自体は果たしている。

 頭の中でそれらのことを整理し、エリアはそちらを一瞥すると、なのはに剣の切っ先を向けた。

 

「救えるのか、管理局。偽善を振りかざすお前たちに。『管理』という名の『支配』を押し付けるお前たちに。犠牲ばかりを生み出す、偽善者に」

「……偽善じゃない」

 

 なのはは強くレイジングハートを握り締め、言葉を紡ぐ。

 

「偽善なんかじゃない。私たちは、心から願ってる。平和を。平穏を!」

「願うだけで叶うならば、世界はもっと優しいものだ。私は知っている。誰よりも平和を願い、理不尽に挑み、不条理と戦い……そして、屈してしまった男を」

 

 彼は、正しかった。

 だから、許せなかった。

 自分の大切な人が殺されたことを。

 幸せになるはずだった者を、地獄へ叩き落とした管理局を。

 

「しかし、主は立ち上がった。何を信じれば良いかもわからぬ中、必死にもがき苦しんで。いっそ諦めれば早かった中で、それでも主は抗った。屈してしまいながら、涙を流しながら、それでも立ち上がった」

 

 誰にも頼らず。

 たった一人で、その答えに。

 絶望を叩きつけられながら、しかし、それでも諦めなかった。

 ……寂しくなかったわけではない。

 あの人が苦しんでいる時、何の支えにもなれない自身を恥じなかった日はない。

 しかし、それでも。

 あの人が立ち上がったならば、エリア・カリアという騎士は例え行く道が茨であろうと供をする。

 それが、矜持。

 そして、立ち上がる強さに憧れ、それを追い求める自分ができること。

 

「ならば私は戦うだけだ。理解などされなくても構わない。私たちは、ただただ願うだけだ」

 

 優しいあの人が、願ったことを。

 私も、共に。

 

 

「――世界がもう少し、優しくあるように」

 

 

 理不尽を。

 不条理を。

 惨劇を。

 残酷を。

 ほんの僅かでいい。

 それらで泣く者が、少なくなるようにと。

 だから。

 だから――

 

「私たちは『今』の管理局を認めない。世界を救い、悲しみを打ち払うべき存在でありながら、自ら悲しみを生み出し続ける場所を、許すわけにはいかない」

 

 それが、エリア・カリアが抱く願いであり、ホムラ・イルハートが掲げた理由。

 優しい、世界を。

 そのために、残酷にして不条理な管理局という組織を、叩き壊す。

 かつて信じたからこそ。

 これ以上、悲しみを生み出さないために。

 

「私たちは私たちの行いが正義であるなどと信じているわけではない。必要ならば謡い上げもしよう。だが、犠牲を生み出すこの行いが正義などと血迷ったことを口にする気はない」

 

 しかし。

 それでも。

 私たちの、行いは。

 

「もう、悪を倒すには悪しかない。私たちを巨悪と呼ぶなら好きにしろ、『エース・オブ・エース』。だが、私たちがやらなければ何が変える? 誰が変えるという? もう、戻ることも止まることもできんのだ」

 

 エリアは言い切る。

 悪だと、最善には程遠いと理解していても――それでも、やるのだと。

 

 

「……違う。間違ってる」

 

 

 叩きつけられた、エリア・カリアの理由。それを、なのはは真っ向から否定した。

 エリアは、だろうな、と呟く。

 

「しかし、それでも――」

「しかしも何もない! あなたたちは、根本的に間違ってる!」

 

 数多の想いを受け止め、そして、届けてきた彼女だからこそ。

 受け止め、尚、立ち向かえる。

 

「確かに世界は理不尽かもしれない。不条理かもしれない。……だけど! それをなくすために管理局はあるんだ!」

「通じていないのか? それを生み出しているのが管理局だと言っている」

「違う! 私たちはいつだって戦ってる! 悲しい今を撃ち抜くために!」

 

 なのはは、叫ぶ。

 

「あなたたちの言ってることは間違ってない。だけど、だったらどうして自分を『悪』だなんて言うの?……それは、わかってるから。自分たちが間違っているって、あなたたち自身がわかっているから!」

「矛盾しているぞ、『エース・オブ・エース』。私たちは間違っていないと言ったかと思えば、間違っているだと? 論理が破綻している」

「あなたたちは、方法を間違えてるんだ」

 

 不屈の心と共にある、高町なのはだからこそ。

 その矛盾に、気付くことができた。

 それは、奇しくも。

 自らが過っているがために気付けたファイム・ララウェイと同じ結論。

 エリアたちが抱える矛盾を、高町なのはは糾弾する。

 

「あなたたちは理想を追った。悲しい世界をなくそうと思った。なら、どうして? どうして……その過程で悲しみを生み出すの?」

 

 エリアの表情が、僅かに変わる。

 それは、気付いていた矛盾。

 

「管理局を力で壊したら、それで悲しむ人はたくさんいる。理解されなくていい、って言ったよね? それじゃあ、あなたたちまで救われない」

 

 だから、おかしいとなのはは言った。

 

「悲しみがない世界にするために悲しみを生み出して、そんなのじゃ誰も救われない!」

「……そうだな。その通りだ」

 

 微笑。エリアは、笑っていた。

 それは、覚悟の笑み。

 

「だが、もう戻れはしない。このままではいれないのだ。私たちも、お前たちも。主は『今』の管理局を許せなくなった。私とてそうだ。……結局のところ、いくら御託を並べようと結論は変わらない」

 

 互いの想いが相容れぬ時、古今東西、『それ』が行われてきた。

 

「勝者こそが絶対。それが真理だ。参るがいい、『エース・オブ・エース』。主の名を受け継いだ貴様の力、見せてみよ」

 

 なのはは、それでも躊躇する。

 優しさが、彼女の邪魔をする。

 しかし。

 誇り高き騎士は、それを認めない。

 

「参れ!!」

 

 轟く怒声。なのはは、レイジングハートをエリアに向ける。

 そして……激突。

 その最中、なのはが放つシューターの嵐を軽々と避けながら、エリアは呟いた。

 

「……いずれ、お前にもわかる時がくる」

 

 管理局を敵に回した自分たちの気持ちがと、エリアは言った。

 エリアは、チラリと視線を足下――地上へと向ける。

 そこでは、ユーノ・スクライアがゲンヤとギンガに応急処置を施していた。

 エリアは、悲しみさえ宿した目でなのはを見据えた。

 

「管理局に大切な者の命が削られていると知った時……お前は平静でいられるか?」

 

 それは。

 答えのわかっている、問いだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 降り注ぐ砲撃の嵐を避けながら、カグラは引き金を引く。だが、元々カグラのデバイス『ヘルダスト』の『ガンズモード』は近接用の二丁ライフルだ。距離が遠くなればなるほど、威力が落ちてしまう。

 対し、ギレン・リーのデバイス『フラムジェイス』はむしろ、中・長距離用の大型ライフルだ。距離があれば必然、ギレンが有利になる。

 

「ははっ! さっきまでの威勢はどうしたんだよ『英雄』!?」

「さてな」

 

 凄まじい威力の砲撃は、森林地帯を薙ぎ払っていく。

 しかし、カグラには当たらず、また、ギレンにもカグラの攻撃は当たらない。

 わかりやすい、膠着状態だった。

 

「チョロチョロと逃げてんじゃねぇ!」

「避ける、ってんだよタコ」

「はっ! ろくに反撃もしねぇでほざいてんじゃねぇぞ!」

 

 砲撃の嵐が激しくなる。カグラは、視線だけで周囲を見回した。

 ミリアムはすでに移動している。一人で足止めをしているというリューイのところへだ。

 

(あの馬鹿が相手となると、がきんちょ共じゃ荷が重い)

 

 ホムラ・イルハート。

 ランクこそリューイの一つ上だが、経験が違う。年期が違う。

 勝てる道理は、欠片もない。

 

(エリアとかリヴァイアスも来てんなら、本気でヤベェ。……だが、あまりここで全力出し過ぎると結局意味ねーしな……)

 

 相手が相手。ギレンにしたって、挑発しまくったおかげで冷静さを失っているが本来なら今のカグラよりも格上である。

 

「……ま、迷ったところで、だな」

 

 呟き、ふう、とカグラは息を吐く。

 ――空気が、変わる。

 ギレンも砲撃を一度止め、訝しげにカグラを見る。カグラは、若造、と言葉を紡いだ。

 

「確認だ。テメェがおやっさんの部下たちを殺したんだな?」

「あぁ?」

「テメェ程の力があったら、殺さない選択肢もあったはずだが?」

「はっ、殺さねぇ? ありえねぇよ」

 

 ギレンは肩を竦めた。カグラは、そうか、とだけ頷いた。

 

「なら……容赦の必要もねぇな」

 

 カグラの体が、揺らめく。あぁ? とギレンは眉をひそめた。

 

「もう俺もそれなりに歳でな。最近は専ら、ガキ共の教育だの養護だのが楽しみだ。……だからな」

 

 カグラの姿が……消える。

 まるで、蜃気楼のように。

 

「…………ッ!」

 

 ギレンは慌てて彼のデバイスを構える。だが、カグラの姿は見えない。

 

「後輩共を傷つけられて、こちとらブチギレてんだよボケが!」

 

 ギレンの後頭部に、振り抜かれたカグラの回し蹴りが叩き込まれる。

 その一撃を喰らったギレンは地面を滑りながら、後方へとライフルを向けた。

 ――瞬間。

 

「なっ!?」

 

 その視界いっぱいに、白い布が広がった。カグラのバリアジャケットのコートだ。

 

「ぐっ!?」

 

 ギレンの視界が奪われる。

 手を伸ばせば触れる距離にいたカグラは、二丁のライフル、その銃口をギレンの頭部に押し付けた。

 

「戦場では常にクールで……常識だ若造」

 

 連射。ギレンの体が仰け反り、しかし、踏みとどまろうとする。

 だが……。

 

「生憎と、反撃を許す気はねーんだこれが」

 

 キィン、という音と共に『ヘルダスト』を包むように小型の魔法陣が展開される。

 ミッド式に似ていながら僅かに形式を異にするその術式の名は、『オリヴェント式』。

 命を使う、禁断の秘術。

 

「……よい夢を」

 

 ――――!!

 

 先程とは威力の次元が違う魔力の弾丸が――叩き込まれる。

 設定は……殺傷設定。

 ジワリと、倒れたギレンに被せられたコートが朱に染まっていく。

 そのコートを手に持った瞬間、カグラの視界が歪んだ。

 

「……キツいな」

 

 立ち眩み……いや、違う。これは、代償か。

 ギレン・リーは確かな強さを有した魔導師だった。半分以上の魔力を失った自分では勝てない程の。

 故に、使った。

 先手で挑発し、冷静さを失わせ、その上で『エース・オブ・エース』と呼ばれていた頃は使いもしなかったスキルを使用して、不意を狙った。

 ――情けない。

 これが、今の『英雄』だ。

『英雄』だった男の成れの果ては、こんなにも弱く、情けない。

 ……だが。

 

「これでいい……ファイムは、ずっとこれに耐えてきたんだ。トモエも……お前も、耐えてあの奇跡を起こしたんだろ?」

 

 ならば、耐えねばならない。

 ようやく、届くのだから。

 

「テメェの理由なんざ知らねぇし、知るつもりもねぇがな」

 

 血に染まったコートを纏い、カグラは歩き出す。

 かつて、友だと。

 無二の親友だと信じた男のところを目指して。

 違えてしまった。

 分かたれてしまった。

 だから。

 だからこそ――……

 

「もう、戻れやしねぇ。友よ。だから俺は、テメェを潰す」

 

 何とかすると。

 約束、したから。

 

 ――十数年の時を超え、二人の『英雄』が激突する。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ……静かだった。

 劇的なものは何もなく、静かに、二人は再会する。

 かつて、『二人のエース・オブ・エース』と呼ばれた二人。

 数多の魔導師たちの頂点に立ち、数々の伝説や奇跡を引き起こしてきた二人は、最早相容れぬ仲。

 片や、約束がために身を切り裂くことを選んだ男。

 片や、憎悪と憤怒がために世界を敵に回すことを選んだ男。

 どちらもきっと、間違えてはいないのだろう。

 しかし、対立したからこそ、二人はこうして向き合っている。

 

「…………」

 

 チラリと、カグラはホムラとリヴァイアスの足下に倒れている二人を見る。

 リューイとミリアム。二人とも、重傷だ。

 しかし、カグラはそんな二人を見ても表情を変えない。そんなカグラに、ホムラが言葉を紡いだ。

 

「何しに来たんや? 力を損ねたそんな体で」

「決まってんだろ」

 

 カグラの足下に、魔法陣が展開される。

 それはすぐさまリューイとミリアムの場所にも展開され、二人を転移させる。ホムラや、少し離れた場所に立つリヴァイアスも二人には興味がないらしく、何もしてこなかった。

 二人をこの場から遠ざけ、カグラはホムラを見据える。

 

「テメェを潰しに、地獄から這い出てきたんだよ」

 

 カグラの体が揺らめく。蜃気楼の如く。

 そして、その姿がかき消える。

 ソルジャーモード。手足を覆う具足の形となっていた『ヘルダスト』を振るったカグラの一撃を、ホムラが受け止めた。背後をとったのだが、わかっていたかのように障壁が展開されたのだ。

 

「ちっ!」

 

 カグラは飛び退き、手を横薙ぎに振るう。何も見えないが、そこには確かに魔力が渦巻いている。

 

「ぶち抜け!」

《OK,Boss. Plasma Shooter》

 

 不可視の魔力弾がホムラに叩き込まれる。

 それをホムラは難なく防ぎながら、相変わらずやな、と呟いた。

 

「レアスキル『虹色吐息』。虹色の魔力光は、全力展開すればただそれだけで幻術を纏う……やったか? わしでも見るのは珍しいわ」

 

 カグラは応じず、一度距離をとる。内心では、舌打ちをしていた。

『虹色吐息』――それは、カグラが有するレアスキルだ。

 かつてトモエが有していた『未来視』のレアスキルに比べれば派手さはないが、実戦においてかなり役に立つレアスキルである。

 魔力光というものは、個人によって決まっている。それは不変のものであり、個性だ。

 それが、カグラには『無い』のである。

 固有の色を有さず、本人の意思で魔力光を思うがままに変えられるレアスキル『虹色吐息』。それだけならただの色物だが、『虹』というところにポイントがある。

『虹』というのは、光の屈折などによって生まれる現象だ。それを支配するということは、自分に降りかかる光を制御できるということである。

 それより生み出されたのが、『常時幻術展開』という、カグラの切り札だ。

『エース・オブ・エース』と呼ばれていた頃は全くと言っていいほど使わなかったスキルだが、敢えてこの場面でカグラは使った。

 そうしなければ届かない程に、二人には隔たりが生まれてしまったから。

 

「光の屈折で姿を消したり、果てには魔力弾は『無色』ときた。そら初見じゃ攻略なんざ不可能。物凄い初見殺しやね」

 

 カグラの姿がぶれ、そして、異様な光景が展開される。

 一人、二人、三人、四人……無数のカグラ・ランバードが出現する。

 光の屈折により生み出した、分身たちだ。

 ホムラは、笑みを浮かべる。

 

「さーて、願いましては。運任せの当てっこゲーム。本物は?」

 

 一斉に、全てのカグラが特攻を仕掛ける。ホムラは、彼のデバイス『ライジングサン』を回転させると、魔法を起動した。

 

《Blust Shooter》

 

 ホムラを取り囲むように展開される、無数のシューター。

 それが、一斉に放たれる。

 

「コール……勝負や、カグラ。全員撃ち抜いたさかい、わしの勝ちかな?」

「ざけんな馬鹿が」

 

 足下より、声。

 身を屈めたカグラが、体を捻り、拳を突き出そうとしていた。

 惜しいなぁ、とホムラは呟く。

 

「かっ……!?」

 

 空より降り注いだ弾丸が、カグラを撃ち抜いた。

 カグラの体が傾き、ホムラは笑う。

 

「昔やったら勝率は五分やったけど、今はどないかな? 万に一つか、億に一つか」

「……米粒一粒以下の可能性でも、俺には十分だ」

 

 カグラは踏みとどまり、拳を放つ。それは下からすくい上げるようにホムラの脇腹を捉え、吹き飛ばす。

 ホムラは空中で体勢を整え、距離を取る。初めて喰らったまともな一撃だった。

 

「銀月よ。俺様の加勢は必要か?」

 

 壮絶な笑みを浮かべつつ、見守っていたリヴァイアスが問う。ホムラは、いらんいらん、と手を振った。

 

「一撃入れるためにその十倍喰らうような阿呆や。二人がかりでやる意味もない」

 

 それに、とホムラは言う。

 

「予定まではまだ時間もある。それまで遊ぼか」

 

 カグラは、はっ、と吐き捨てるように息を吐いた。

 

「いい加減、決着着けようぜホムラ」

「……そうやな。随分、長くかかってしもた」

 

 二人は、互いに視線を交わす。

 瞬間。

 ――カグラの全力の踏み込みによって放たれた拳が、ホムラの障壁を軋ませた。だが、それはホムラの罠。

 

《Bind》

 

 カグラの拳が絡め取られ、動きが奪われる。そこに、ホムラは追撃の砲撃を叩き込んだ。

 

「ライジングサン!」

《Yes, Inocent Buster》

 

 カグラは砲撃の光に飲み込まれる。

 ――爆発。

 問答無用の一撃だった。しかし。

 

「おおっ!!」

 

 黒煙をその身で引き裂きながら、カグラはホムラに迫った。

 その拳が、ホムラに届く瞬間。

 

《Bloody Chain》

 

 カグラの体が、カグラを取り囲むいくつもの魔法陣から放たれた紅の鎖で拘束される。

 かつてならば引き千切れたそれをら、しかし、今のカグラはどうにもできない。

 

「チェックメイト」

《Moon Light Breaker》

 

 ホムラが、彼の奥義とも呼べる魔法を紡ぐ。

 収束する力。それを見て、くそっ、とカグラは呟く。

 

「弱くなったな、俺」

 

 それは、諦めの言葉だった。ホムラは、ふん、と鼻を鳴らす。

 

「見るに耐えん程や」

「そうかよ」

 

 カグラは、苦笑。

 そして、銀色の光を見る。

 ……約束。

 トモエと、約束したのに。

 こいつを、何とかすると。

 

「随分と……まあ、なんだ。回り道……しちまった」

 

 慣れないことは、するものではない。

 ホムラとの戦いで、カグラは『オリヴェント式』を発動できなかった。反動に、耐えきれなかった。

 そして。

 今のカグラ・ランバードは、ホムラ・イルハートには届かない。

 それが、事実。

 故に。

 ここで散るのが、運命なのだろう。

 

「……すまん、トモエ」

 

 誰にも聞こえない声で、カグラは呟いた。

 

「お前との約束……果たせそうにない」

 

 世界が、染まる。

 カグラは、ちくしょう、と息を漏らし。

 それでも。

 ――微笑んでいた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 それは、歴史に刻まれる日。

 時空管理局。

 世界の守護者たるべきその組織が、敗北と宣戦布告を受けた日として。

 

『管理世界の諸君。突然ですまない。私の名はクライム。世界を憂う、革命者だ』

 

 あらゆる次元世界に、同時にその姿は映し出された。

 あらゆる世界のテレビに、その男はいた。

 

『私は、この世界を憂う。時空管理局……世界の平穏を保つという組織は、本当に世界を守っているのか?』

 

 クライム……罪の名を名乗ったその男は、世界に問いかける。

 

『時空管理局が謳う『管理』とは、『支配』ではないのか? 我々は、人類は、本当に管理局に頼らねば平穏を保てないのか? 管理されなければ、何もできないのか?』

 

 クライムは、問い続ける。

 語りかけるように。

 

『かつて、こんな世界があった。戦争を繰り返し、毎日のように人がその命を散らしていく世界だ。管理局はそんな世界を放っておけぬと干渉した。『戦争を止め、質量兵器を封印せよ』と。しかし、その世界にはその世界なりの理由があって戦いを繰り返していた。支配者と、支配される側の戦いだ。奴隷には叛乱という権利がある。それを、管理局は否定したのだ。

 無論、奴隷側がそれを受け入れるわけがなく、追い詰められていた彼らは管理局にまで牙を剥くしかなかった。そして、支配者側もまた、干渉を拒み、管理局へと牙を剥いた。

 ……わかるかね? 管理局が関わったことにより、むしろ状況が悪化してしまったのだ。敵の敵は味方、という理由の下、彼らは世界として管理局と戦い、最後には自ら世界を滅ぼした。

 諸君らに聞きだい。この話を、どれだけの者が知っている?』

 

 知っているはずがない。

 それは、秘された事実が故に。

 

『知らぬ、という事実が管理局の傲慢であり、闇だ。管理局は本当に『正義』なのか? 耳障りの良いことを口にするだけの、『偽善』ではないのか? 管理局は……我々の、人類の可能性を破壊してはいないか?』

 

 画面が切り替わり、とある映像が映し出される。

 それは、銀色の鎖で宙に磔にされているカグラの姿であり、テンリュウ一人に足止めされている六課の姿であり、そして。

 壊滅した、陸士108部隊の姿であった。

 

『彼らは、我が同志によって敗北した。管理局は魔法を比較的安全などと語っているようだが……その現実がこれだ。魔法は人を殺さない? 力は所詮、力に過ぎない。どのように飾ろうと、魔法とて力だ』

 

 それもまた、管理局の欺瞞である。

 クライムは、そう言った。

 

『管理局は質量兵器を否定しているが……私は質量兵器を肯定する。質量兵器による犯罪は年々増え続け、犠牲者もまた増え続けている。だというのに、一般市民に対し、管理局は護身の刃を持つことさえ許さない。それが私には理解できない。私には、管理局が私たちに『大人しく死ね』と言っているようにしか聞こえない』

 

 例え、抗議の声が上がろうと。

 この男には、届かない。

 

『進歩、進化、進展。呼び方など何でも構わないが、人類に限らず生物というものは進み続けなければ滅びてしまう。危険と断じるなら、そうならないようにすればいい。最初からは不可能でも、いずれは可能になるだろう。始めから何もするなと断じるのは、人の可能性を閉じるのと同義であると私は考える』

 

 男は……クライムは、両手を広げる。

 

『私は管理局を否定し、管理局が否定するものを肯定する。何故なら。私には管理局が『滅べ』と私たちに言っているようにしか聞こえんからだ。……何より、我らの『正義』が管理局を許せん』

 

 男は、言う。

 

『人を殺せと管理局に命じられた青年がいた。彼はそれに逆らい人を救った結果、管理局に地位を奪われ、居場所から追われた。

 敵を倒せと命じられた『英雄』たちがいた。管理局は彼らを消すために虚偽の情報を渡した結果、英雄たちにとって大切な者が命を落とした。

 管理局のために死ねと命じられた青年がいた。彼は命を削り続け、そんな彼を管理局は終ぞ『無駄』と言葉を投げかけた。

 何という、不条理か。

 最早、管理局に『正義』という名も『管理者』という名も名乗る資格はない』

 

 だから、と男は言った。

 だから私たちは立ち上がったのだ、と。

 

『私を詐欺師と糾弾するならすればいい。犯罪者と呼ぶなら呼ぶがいい。だが、覚えておけ。この理不尽で不条理な世界でも、『仁義』という名の『正義』はあるのだ』

 

 男は、高々と宣言する。

 

『たとえ我らが倒れようと、必ずお前たちを討つ者は現れる。必ずだ。

 世界に散らばる、同志たちよ。

 遂にこの時がきた。

 志を同じくするならば、立ち上がれ。武器を取れ。最早流血なくして革命はならない。

 未来がために。

 正義がために。

 我らの想いを――届けるのだ』

 

 男は、謡うように口にする。

 

 

『――開戦だ』

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 世界に向けての大演説を終えたクライム――ホムラたちの宗主に、声がかけられた。

 

「さっすが宗主♪ 名演説♪」

「なに、大したことではない」

 

 微笑を浮かべながら、クライムは言った。

 グリスは、でもさ、と首を傾げる。

 

「動くかな?」

「動くさ。情報のリークも済んでいる。誰も彼も、『正義』というものが大好きだ。必ず動く」

「キャハハ♪ 確かに♪」

 

 グリスは笑う。クライムは、それで、とグリスに問いかけた。

 

「帰還は?」

「ばっちり♪ ギレンがちょーっとやられちゃったけど……ちょうどいいや♪ 試したいこともあったしねぇ?」

「それについては好きにするといい。あの部隊は全滅かね?」

「ま、概ね? あの場にいたので生き残ったのは数えるくらいかな? あと、特務部隊は言いつけ通り殺さなかったけど?」

「それでいい。彼女たちには、私たちと戦ってもらわねばならない。迷いながら、迷いなき我々と戦う姿はきっといい絵になる」

 

 クライムは、笑う。

 ――計画は順調。今のところ、特に問題はない。

 

「さあ、行こうか。世界を変えよう」

 

 物語が、加速していく。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ――報告。

 陸士108部隊及び、特務部隊機動六課の被害状況。

 陸士108部隊被害状況。

 死者65名。

 うち、魔導師49名。

 非戦闘員16名。

 重傷者8名(この中には、ゲンヤ・ナカジマ二等陸佐が含まれる)。

 ……尚、重傷者のうち、ミリアム・エンドブロム一等陸士は目を覚ましたが、強いショックを受けており、事情聴取は困難。

 また、今回の襲撃を受けたのは現場にいた者たちのみであるが、結果として八割以上の人員と部隊長を失った陸士108部隊は、事実上機能停止。

 特務部隊機動六課被害状況。

 死者0名。

 重傷者7名。

 軽傷者4名。

 ……尚、重傷者のうちカグラ・ランバード一等空佐とフェイト・T・ハラオウン執務官は予断を許さない状況。

 また、こちらも実質的に活動停止に等しい被害を受けている。

 

 

 報告者……高町なのは一等空尉。

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