魔法少女リリカルなのは~優しい嘘~   作:アマネ・リィラ

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第一章〝一期一会と再会と〟

 

 時空管理局というのは、法の守護者である。曰く、「警察と裁判所が一緒になったもの」とも表現される。

 その局員にはそれこそ様々な役職があり、それぞれがその職務を全うしているわけだが、その中でもエリートと呼ぶべき役職がある。

 ――本局執務官。

 単身で凶悪事件を追ったり、時には検察や弁護士の仕事をこなしたりする、狭き門である試験を突破した者のみが名乗ることを許される役職だ。

 かの『エース・オブ・エース』に並ぶ知名度と実力をもつ『雷光の死神』の肩書きとしても有名なこの執務官。ファイム・ララウェイはなりたての新人でこそあるが、その狭き門を突破した人物である。

 また、彼はまだ若い身でありながら積み上げた実績からして相当な実力者と思われることが多い。しかし、彼を目にした者は総じて同じ感想を漏らすことになる。即ち――

 

「こいつが『あの』ファイム・ララウェイ執務官なのか? 信じらんねーな」

「あはは、よく言われます」

 

 赤毛をお下げにしたつり目の少女――ヴィータのいきなりの言葉に、ファイムは苦笑しつつ頬を掻いた。その姿からは、確かに威厳は感じられない。

 

「こら、ヴィータ。失礼やろ」

「でもはやて」

「主はやての言う通りだ」

 

 そのヴィータを叱るはやてと、それに同意する桃色の長い髪をポニーテールにした女性――シグナム。彼ら四人は今、新たに立ち上げられた部隊――特務部隊機動六課の部隊長室にいた。今回、部隊長八神はやての保有戦力として召集されたシグナム、ヴィータの二人との顔合わせでここにいる。ちなみに、はやての補佐官であるリィンとシグナムの融合騎であるアギトはメンテナンスにより遅れている。

 まあ、顔合わせとはいってもファイムが顔を合わせたことがないのはヴィータだけなのだが。

 

「…………」

「ええと……」

 

 睨むようにヴィータに見られ、苦笑を深くするファイム。その様子を見て、シグナムは息を吐いた。

 

「ヴィータ、やめろ。それとララウェイもだ。もっと堂々としたらどうだ?」

「そう言われましても、やっぱり緊張してしまいます。ヴィータ教導官は有名ですし、シグナム一等空尉も尊敬する方ですから」

「む……」

 

 シグナムの眉が微かに動く。それを見て、はやては笑った。

 

「あはは、やっぱりファイムくんは大物やで。そんなこと素で言える子なんてそうおらんよ」

「そうですか?」

「自覚なしかよ……」

 

 呆れたようにヴィータは溜め息。とはいっても、ファイムにしてみれば心の底からの本心である。

 四年前のJS事件において単身で『聖王のゆりかご』の心臓部を破壊したヴィータに、騎士として名を馳せ、同じくJS事件において活躍を見せたシグナム。二人を尊敬するのは、むしろ当然だ。

 

「それがファイムくんのええとこや。ま、それはともかく本題に入ろか。……最近頻繁しとる爆破テロ。これの捜査をわたしらで行うことになった」

「元々は、僕が抱えていた案件だったんですが……すいません」

「気にするな。いかに『緑風事件』を一人で解決した執務官であっても、この案件は一人でどうにかできるようなものではない」

「全くだ。気にすんなよ」

「ヴィータの言う通りやね。元々地上本部にファイムくんが呼ばれたんもこれが理由なんやから、気にすることあらへんよ」

「……はい」

 

 みんなにフォローされ、苦笑しつつ頷くファイム。さっきからこればかりだ、とぼんやり考える。

 

「でまあ、話を戻すとや。これが未だに尻尾が掴み切れてないんよ。昨日ファイムくんが見たっていう人影も、定かやないし……」

「それは厄介ですね」

 

 シグナムが顎に手を当てつつ思案する。それに対し、全くや、とはやては言葉を紡ぐ。

 

「せやけど、だからといって何もせんわけにはいかん。相手の規模もわからん今は、とにかく情報を集めるのが第一や。それと平行してロストロギアの回収もせなあかんから、やることは山積みなんやけどな」

 

 はやては肩を竦める。が、ロストロギアの回収については今更のことだ。

 今回の特務部隊は爆破テロの対策のために設立された部隊である。そして最近わかったことだが、爆破テロにはロストロギアが関係しているのだ。

 失われた文明の遺産、ロストロギア。それはものによっては世界を壊す程の力を持つという。

 爆破テロを担当していたファイムが調べた結果、爆破テロが起こっていた場所ではロストロギアの取引が行われていたという共通点が見つかったのだ。

 合法的なオークションであったり、違法取引であったりと形式は異なるが、それは事実である。

 そして――ロストロギアが全て奪われているという事実もまた、存在する。

 ちなみにファイムがその事実を突き止めた人物であるということを、はやてはついさっき聞いた。こういうところで、情報伝達の杜撰さが伺える。

 

「まあ、考えてみれば楽だよな。ロストロギアと爆破テロが関係してるんなら、ロストロギアを守ってりゃいずれぶつかるってんだからよ」

「ヴィータの言う通りや。ロストロギアは使うものによっては次元規模で被害をもたらしてまう。どちらにせよ、確保しといて損はあらへん」

「そうですね。僕も、それが一番だと思います」

 

 頷きつつ、ファイム。調べたからわかる。それが一番の手だと。

 はやてはうん、と頷くと、場を締めくくるように言葉を紡いだ。

 

「できるだけ早く犯人を捕まえたい。頼んだで」

「はい!!」

 

 三人で応じる。こうして、特務部隊機動六課は動き出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「そういえば、機動六課ということは、四年前の奇跡の部隊が再集結することになるんですか?」

「ん? ああいや、今のところそれはあらへんよ」

 

 はやては前に出した手を左右に振りつつ、言う。

 

「今回は今のところ、前みたいな戦力は必要あらへんしな。できればそうならんうちに終わらせたいし」

「それに、各々も忙しい身だ。そう簡単には集まれん」

「あたしらははやての保有戦略だから集まれただけで、普通ならありえねーしな」

「やっぱりそうですか」

 

 わかっていたことであるため、特に落胆せずファイムは頷く。

 そもそも、あの時のように執務官と教導官が出向するような事態が『普通ではない』のだ。これ以上は確かに過剰戦力である。

 

「まあ、必要になったら集めるよ。……っと、着いたで」

 

 はやてが言い、辿り着いた部屋――技術室の扉をノックする。どうぞ、という返答が返ってくると、四人は部屋に入った。

 

「失礼するよ~」

「はい、どうぞ~」

 

 はやての言葉に対し、のんびりとした声が返ってくる。見ると、一人の女性が立っていた。

 どうやらこの部隊の技師らしい。女性が多いなぁ、などとファイムは思う。

 

「紹介するな。うちの部隊で技術主任をやってくれてる、エレン・ローグ技師や」

「よろしくお願いします」

 

 エレンが軽く頭を下げるため、ファイムも頭を下げた。そして、自己紹介をしようとした時。

 

「はやてちゃーん!!」

 

 見た目10歳くらいの小柄な薄い蒼の髪の少女――リィンフォースが走ってきた。それを見て、はやてが笑顔を浮かべる。

 

「リィン、迎えにきたよ。検査はどうやった?」

「異常なしです~」

「あたしもだ」

「アギト」

 

 リィンの後ろから現れた、見た目の年齢はリィンとそう変わらない赤い髪の少女、アギトをシグナムが呼ぶ。

 その二人を見たファイムは、微笑みつつ声をかける。

 

「リィン、アギト。久し振りだね。僕のこと、覚えててくれたかな?」

「もちろんですよ、ファイム。元気にしてたですか?」

「聞くまでもなさそうだけどな」

「うん、ご名答」

 

 ファイムは頷く。この二人とファイムは面識がある。少し前の事件でも、協力してもらった身だ。

 

「なんだ、二人はこいつと面識があんのか?」

「姉御はないのか?」

「名前ははやてから聞いてたけど、会ったことはねー」

「僕自身、教導隊の方とはあまり繋がりはありませんしね」

 

 執務官になる前にいたのは災害担当の救助隊だったので、教導隊の教導官から教導を受けたのも、ファイムは2度しかない。

 まあ、その2回で地獄を見たのは思い出である。

 

「まあ、今回の事件でファイムくんもうちの部隊で戦うことになったから、二人ともそのつもりでな」

「はいです」

「おう」

 

 二人が元気よく応じる。

 その後、エレンに挨拶し、部屋を出ると、さて、とシグナムが言葉を紡いだ。

 

「ララウェイ。今からトレーニングルームへ行くぞ。アギトもこい」

「おう!!」

「え、いや、なんでまた」

 

 だが、ファイムは困惑する。当然だ、いきなりこんなことを言われたら、誰だって困惑する。

 しかし、シグナムにはちゃんとした理由があるようで。

 

「なに、ただの模擬戦だ。背中を預け合うことになる以上、実力の把握は必要だ」

「バトルマニアめ」

「それに貴様とは、決着を着けねばならん」

「いや、あれは僕の負けじゃないですか」

 

 ヴィータの言葉をスルーしつつ言うシグナムに、ファイムは首を左右に振りつつそう返す。だが、シグナムも譲らない。

 

「いいから来い。どうせ訓練はするつもりだったのだろう?」

「なんや面白そうやなぁ。わたしも見学するわ」

「リィンもです~」

 

 逃げ場は、ないようだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「いたたたた……」

 

 模擬戦のダメージが微かに残る右腕をさすりつつ、ファイムは苦笑した。

 模擬戦は10分で終わりを迎えた。アギトとユニゾンした状態のシグナムの猛攻をなんとかギリギリで避けていたのだが、一瞬の判断ミスで隙を生んでしまい、負けた。

 

「うーん、やっぱり強いなぁ」

《マスター、悔しいとは思わないのですか?》

「相手は古代ベルカの騎士だよ? 元々、空戦A+程度の僕とは次元が違う」

 

 リンネの言葉に、苦笑しつつそう返す。正面からやり合って勝てる相手ではない。次元が違い過ぎる。

 

《しかしマスター》

「しかしもなにもないよ。それに、味方を全力で命懸けで倒しても意味がないでしょ? 昔みたいに殺さないと生きられないわけでもないしね」

 

 そう、あれはあくまで模擬戦なのだ。一か八かの命懸けをする意味はない。まあ、やっても勝てないだろうが。

 と、そんなやりとりをしていると、人の気配がした。ファイムがいるのは隊舎の屋上だ。誰が来てもおかしくはない、のだが――

 

「こんなとこにいたんやね」

「八神部隊長?」

 

 現れたのは、書類仕事に追われているはずのはやてだった。その顔には、いつもの笑みが張り付いている。

 仕事はいいんですか、と聞こうとしたが、その前に、はやての機嫌がなんとなく悪いことに気付いた。……さっきまでの笑顔と、微妙に表情が違う。

 

「えーと、部隊長?」

「……はやてさん」

「えっ?」

「はやてさん、って呼んでって言うたやろ」

「え、あ、はい。……はやてさん」

「ん、それでええ」

 

 はやてが満足そうに微笑む。その笑顔にドキリとしつつ、自分の腰掛けているベンチの隣に座ったはやてに、ファイムは問いかけた。

 

「あの、仕事は?」

「一段落ついたから、今は休憩や。そういうファイムくんも、仕事あったはずやろ?」

「僕はひとまず終わらせました」

「……相変わらず反則じみた仕事の速さやな」

 

 その言葉に、ファイムは苦笑。デスクワークは得意分野である。だからまあ、確かに仕事は早い。

 

「まあええわ。……昼間はごめんな? あの子、どうも不器用でなぁ」

 

 あの子、というのはシグナムのことだろう。確かに模擬戦はそれなりのダメージを残したが、だからといって謝られることでもない。

 

「いいですよ。勉強になりましたし」

「そう言われると、ありがたいわ。まあ、明日からはヴィータの訓練が待っとるけどな」

「う……あまり想像したくありませんね」

 

 昔受けた教導の記憶が蘇る。文字通りの地獄を見た。

 徹底的に打ちのめされて、そこから学ぶ――勉強になったが、受けたいとも思わない。

 

「四年前も、新人たちはボロボロやったしなぁ。ファイムくんは、なのはちゃんとも知り合いなんやんな?」

「知り合いと呼べるかどうか……。教導を受けたことと、事件解決に一度協力して頂いたくらいですし」

「そうなんや。でも、話したことぐらいはあるやろ?」

「はい。はやてさんの言うとおり、素晴らしい方ですね」

 

 管理局のエース・オブ・エース、高町なのは。その称号は、彼女の実力だけではなく、人格あってこそと思い知らされた。

 

「僕には真似できません。あれほど強い人を、知りませんから」

「ホンマやで。なのはちゃんには、随分助けられた。いつもいつも……」

「……ただその分、いつか壊れそうという気はしましたが」

「えっ?」

「なんでもありません」

 

 首を左右に振って、ファイムは言う。

 

「……この事件、早く終わらせられればいいですね」

「ホンマやな。それにはファイムくんの力も重要やし、期待してるで?」

「精一杯、努力します」

 

 ファイムは、そう返した。

 努力――自分には、そんなことしかできないから。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 夜も昼も定かではない場所に、それはある。

 時空管理局本局。多岐にわたる次元世界を一手に守る砦だ。

 その本局の廊下を、執務官の制服である黒の制服を着たファイムは歩いていた。

 

「…………ふぅ」

《お疲れさまです、マスター》

「うん、ありがとうリンネ。やっぱり、何度やっても慣れないなぁ」

 

 相棒に礼を言いつつ、ファイムは苦笑する。彼がやっていたのは、彼が担当していた事件の経過報告だ。

 執務官というのは優秀な魔導師である証だ。管理局は常に人手不足である。執務官ほどになると、一人で複数の事件を担当することもそう珍しくない。

 

《マスター、やはり補佐を誰かに頼むべきでは?》

「そうしたいけど……ほら、前に募集した人たち、みんな辞めちゃったし」

 

 苦笑を深くしつつ、ファイム。執務官には通常、その業務を補佐する補佐官がいる。しかしファイムは補佐を雇っても、すぐに辞められてしまうのだ。

 別にファイムの性格がどうとかいうわけではない。ただ純粋に、凶悪事件ばかり担当し、その中で不眠不休に近い働き方をする彼に、誰もついていけないだけだ。

 そしてそれを本人が自覚していないので、ズレが出る。

 そのせいで今回も一人でデータの処理をし、整理をし、合わせて五つの事件の経過報告を終えた。もっとも、連続爆破事件以外は解決に向かっているので、問題はない。

 

《しかしマスター、このままではまた倒れますよ?》

「大丈夫。これぐらいで倒れてたら、無限書庫のみんなに申し訳ないよ」

 

 無限書庫――管理局においてもっとも忙しいとされるその場所で、ファイムは一年程働いていた時期がある。あの時に比べれば、この程度は楽なものである。

 と、そこで、ファイムはあることを思い出した。

 

「そういえば資料を頼んでたんだった。リンネ、取りに行こう」

《わかりました。その旨を先方に伝えておきます》

「うん、お願い」

 

 リンネにそう頼むと、ファイムは歩き出した。ここから無限書庫へは少し遠い。急ぐべきだ。

 そんな風に考えながら曲がり角を曲がった時。

 

「いたっ!?」

 

 誰かとぶつかった。そして同時に怒鳴り声が飛んでくる。

 

「テメェ、どこに目ェつけてやがる――って、なんだ、ファイムか」

「いたた……あれ? リューイ?」

 

 目の前にいたのは、金髪碧眼の青年だった。ファイムにとっては数少ない同年代の友人である青年、リューイ・エンドブロムはファイムを引っ張りあげる。その後ろから、声が響いた。

 

「そそっかしいにも程がありますよ、マスター」

「うっせぇ」

 

 聞こえてきた声に、どこかバツが悪そうにリューイは応じる。見ると、そこには翡翠の髪と瞳を宿した女の子がいた。

 リィンやアギトとそう変わらない身長のその少女は、呆れたような目をリューイに向ける。

 

「自らの恩人を弾き飛ばすとは……嘆かわしい」

「あのな」

「あはは、いいよミリアム。怪我はないし」

 

 女の子――ミリアムに向かって笑顔でそう返す。ミリアムはしかし、と続けようとしたが、いいから、と首を左右に振るファイムを前に、口を閉ざした。

 

「二人とも、今日はどうしたの? デスクワークとか?」

「いんや、保護観察のおっさんに経過報告だよ。面倒くせぇがな」

「マスター、そのようなことは……」

「事実だろうが」

「あはは……」

 

 そのやり取りを見て、ファイムは苦笑。相変わらずだ、と内心思う。

 この二人は、とある事件で管理局に捕らえられた元犯罪者である。しかし事情が事情であったため、保護観察を受けながら局員として働いているのだが。

 管理局はこういう事例がとても多い。『雷光の死神』も『最後の夜天の主』も『N2R』も元々はそうであったとファイムは自身の調査の過程で知った。

 まあ、だからどうというわけでもないのだが。

 

「で、お前はどうして本局にいんだよ? 基本的に寄り付かねぇだろ?」

「寄り付く暇がないだけだけどね。えっと、任務の経過報告だよ。あと、これから無限書庫へ行く予定」

「なんだ、資料でも頼んでたのか?」

「うん。今担当してる事件に、ロストロギアが絡んでてね。ものがものだから、直接行こうかな、って」

「なるほどね。……おい、ミリアム」

「なんですかマスター?」

「お前、ファイムについてけ」

「えっ?」

 

 思わず疑問の声をあげる。すると、リューイは深い意味はねぇよ、と言葉を紡いだ。

 

「俺も調査依頼だ。今から用があるからあとで行こうと思ってたが、丁度いいだろ?」

「それもそうですね。了解しました、マスター」

「リューイの用事は一人でいいの?」

「あー、大丈夫大丈夫。デバイス取りに行くだけだから」

 

 軽い口調でそう言うと、んじゃ任せたと言葉を紡ぎ、リューイは行ってしまった。

 ファイムはんー、と一度唸ると、僕らも行こう、と歩き出す。

 

「二人とも、管理局の生活はどうかな?」

「特に問題はありません。ありがとうございます」

「そんなに畏まらなくてもいいよ? 僕なんか、そんなに偉いわけでもないし」

「そう言われましても、我らの恩人ですから」

「んー、そっか」

 

 大したことはしていないけど――その言葉は呑み込む。言えば、間違いなく真っ赤になって否定してくるだろう。

 

「そういえば、無限書庫に頼みたい資料って?」

「大したものでは。発見した遺跡にあると思われるロストロギアのデータが欲しいだけです」

「なるほど、重要だね」

 

 ロストロギアは総じて危険だ。見つけても、すぐに手を出すことはなく、こうして情報を集めてからが基本になる。

 そういう意味で、無限書庫は明らかに管理局内でも重要な場所だ。だというのに、扱いはあまりいいとは言えない。

 優秀な司書長がいるからどうにかなっているだけのあの場所――かつての職場を思い出し、ファイムは苦い思いになる。

 

(はやてさんが言ってたっけ。管理局がどうにか保ってるのは、無限書庫のおかげだって)

 

 四年前、レジアス・ゲイズ中将の死によって管理局地上本部はモラル低下と検挙率低下に苦しんだ。それでも保ったのは、無限書庫の頑張りが大きい。

 朝から晩まで、それこそ文字通り血を吐く思いをして。

 その時期にあの場所にいたからこそよくわかる。

 管理局は――どうしようもなく、歪んでしまっていると。

 

「着きましたね」

「――っと」

 

 思考に没頭していて気付かなかったらしい。いつの間にか、無限書庫に到着していた。

 

「失礼します」

 

 一声と共に扉を開け、ミリアムと共に中へ入る。無限書庫の無重力によって体が浮き、どことなく気持ちいい。

 その中を飛行しつつ、ファイムは目的の人物を探し――見つけた。

 他の司書が精々3、4冊を同時に展開するのが限界なのに対し、その人物は10冊以上を同時に開き、速読魔法を展開していた。

 相変わらず、凄い人だ――そんな風に思いつつ、ファイムはその人物へ声をかける

 

「ユーノさん」

「ん?」

 

 閉じていた目を開き、その人物――ユーノ・スクライアはこちらを見た。そしてファイムの姿を見ると、笑顔になる。

 

「ファイムくん。久し振りだね、元気にしてたかい?」

「はい。ユーノさんは――痩せましたか?」

「それ、なのはにも言われるよ……」

 

 ユーノは苦笑を浮かべる。ああ、やっぱりろくに食べてないんだな――と、ファイムは少し呆れる。

 

「ユーノさん、また漂いますよ?」

「最近はなのはとヴィヴィオのおかげで少しはマシなんだけど……」

「……まあ、いいです。今日は、例の資料を受け取りにきました。こちらのミリアムもです」

「ミリアム・エンドブロム一等陸士です。陸士108部隊より参りました」

「うん、そっちも聞いてる。資料を渡すから、二人ともついてきてくれるかな?」

「「はい」」

 

 二人で応じ、ユーノの後を追う。そうして司書長室に入ると、ユーノはデスクの上に山のように積まれた資料から、二つの束を取り出した。

 

「ご依頼のものだよ。二つとも閲覧規制がかかってるから、扱いには注意してね」

「了解です」

「了解しました。……では、私はこれで」

 

 ミリアムはそう言うと、敬礼した。ファイムもうん、と頷く。

 

「リューイによろしくね」

「了解しました」

 

 ミリアムは頷くと、ユーノには一度頭を下げ、立ち去った。

 それを見送ったユーノは、少し真剣な表情を宿しつつ言葉を紡ぐ。

 

「彼女が、『緑風事件』の?」

「はい。今は局員ですが」

「そっか。うん、なかなか真面目そうだね」

「……その時は、お世話になりました」

「好きでやったことだし、ファイムくんには助けられたからね。気にしないでいいよ」

 

 ユーノは微笑む。だが、ファイムはいえ、と首を左右に振った。

 助けたなどと、そんな高尚なことをした覚えはない。して当然のことをしただけだ。

 JS事件の傷痕残る管理局において、それを支えた無限書庫に進んで協力し、司書として一年働いた。

 それだけ――むしろ、その程度しかできなかった。

 

「僕がしたことなど、知れています」

「そんなことはないよ、ファイムくん。戦技披露会でフェイトと戦って、耐えて耐えて耐えて引き分けにして、そうまでして無限書庫の現状を訴えようとしてくれたのは、本当に嬉しかった」

「…………」

 

 押し黙る。三年前の戦技披露会で、かの『雷光の死神』フェイト・T・ハラオウン執務官と戦ったのは事実だ。

 ボロボロになりながらも引き分けに持ち込んで、そして、インタビューで訴えた。

 無限書庫が、どれほど悲惨な状況にあるか。

 それを、叫んだだけだ。

 結局――変わらなかったのだけれど。

 

「僕がしたことなど、自己満足です」

「そんなことはないよ。少なくとも僕たちは嬉しかったし、少しだけ、マシになった」

 

 だから、助けてもらったんだよ、と、ユーノは笑った。

 ファイムはそれ以上は何も言わず、そうですか、と呟くと、ユーノに一礼し、部屋を出た。

 そうしてから向かうのは、はやての所だ。

 資料を手に、転移ポートへ向かい、はやてが指揮する時空管理局LS級艦船『ヴォルフラム』に向かう。

 その途中、資料をペラペラと捲り、簡単に目を通す。

 

「……C級とかD級ばっかりだね。特定のものを狙ってるわけじゃないのかな?」

《あるいは、探しているのかもしれません。無差別にロストロギアがある場所を狙っているのかも》

 

 ファイムの相棒、リンネが言う。ファイムは、うーん、と唸った。

 

「そうだとすると、厄介だよね。行動の特定が難しくなる」

《しかし、見たところ共通点は古代ベルカのものというくらいですよ。一部不明なものが混じってこそいますので断言できませんが》

「『聖王のゆりかご』とかと同じ時代か……。あの時代のロストロギアは多いから、共通点としては弱いかな……?」

 

 考え込むファイム。そのファイムに、リンネはまあ、と言葉を紡いだ。

 

《詳しくは八神司令と共に考えたほうがよろしいかと思いますが》

「それもそうだね。よし、行こうか」

《Yes,master》

 

 二人は歩き出す。

 手探りの捜査が、始まった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 闇の中、声が響く。

 

「ジェイル・スカリエッティ。彼は優秀だったが、短絡過ぎた。時空管理局はもはや世界そのものといっていいほどの影響力を持っている落とすのは容易くない」

「『ゆりかご』でも?」

「ありゃあ、古代ベルカ時代の、最強の質量兵器やったんやろ?」

 

 響く、二つの新たな声。最初の声の人物は、ふふっ、と笑った。

 

「確かに『ゆりかご』は最強の兵器だ。しかし、それだけではダメだ。あれ一つでは、世界を消すには時間がかかってしまう。だからこそ、管理局に墜とされた」

「ならば、どないするんや?」

「単純だ。足りないものを補えばいい。そしてそのピースも揃いつつある」

 

 言って、そいつは笑い。

 そして、楽しむように、こう言った。

 

「――核兵器というものを、知っているかな?」

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