魔法少女リリカルなのは~優しい嘘~   作:アマネ・リィラ

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第二章〝賭け金は命しかない〟

 

 第47観測指定世界『ワグリア』。

 かつては古代ベルカに並ぶ、あるいはそれを超える文明を誇った世界だが、紛争により滅び、人は消え、世界を覆う大自然のみになった世界。

 管理局から定期的に観測の部隊が派遣されるが、基本的には管理局も特に手を加えていないその世界に、三つの人影が出現した。

 

「自然ばっかだな」

「珍しい? アギト?」

 

 広がる自然を前にそんな感想を漏らすアギトに、ファイムは微笑みながら問いかける。アギトは、いや、と首を振った。

 

「そーじゃねぇんだけど、ここまでのは流石に圧倒されるっていうか……」

「自然というものは、人を惹き付け圧倒する。お前の感想は正しいぞ、アギト」

 

 もう一つの人影であるシグナムが、微笑みながら言う。そうですね、とファイムも頷いた。

 

「古代ベルカの戦乱も、ここ『ワグリア』で起こった戦いも、この大地を奪い合うものだったそうです。……愚かですよね。自然は、大地は、奪い合えるものではないのに。現にこうしてこの世界は、人がいなくなってもここにある」

「はぁ……凄ぇな」

「詩人だな、ララウェイ」

「照れますね」

 

 ファイムは苦笑し、恥ずかしそうに頬を掻く。だが、自然とはそういうものだ。

 なにせ人は、抗えない自然という脅威こそを『神』と呼んだのだから。

 

「さて、こうして話していても仕方がない。先行している部隊に追いつくぞ」

「そうですね」

「おう」

 

 二人が頷き、ファイムとシグナムはバリアジャケットを纏うと、飛行を始めた。アギトもしっかり付いてきている。

 今回、この三人がワグリアに派遣されたのは、ロストロギアの反応があったからだ。

 今回の事件にはロストロギアが関わっている。故に、先見隊の護衛とロストロギアの護送のために二人が派遣された。

 

「でさー、ファイム。今回、事件の首謀者って出てくんのか?」

「……正直、微妙だね。今までの事件はみんな都会、もしくは人がいる場所で行われてるんだ。ここは人がいないから……」

 

 ファイムは苦笑しつつそう言う。すると、シグナムが言葉を紡いだ。

 

「確かにそれも一理あるが、警戒しておいて損はない。そもそも、情報が少ないのだからな」

「確かにそうですね。……っと、着きましたね」

 

 ファイムたちの下に、キャンプが見えた。そこには調査員の服を着た局員が何人もいる。

 三人はそこへ降り立つと、敬礼しつつ挨拶した。

 

「お疲れ様です。応援に参りました」

「お疲れ様です」

 

 ファイムが言うと、ここの責任者らしき人物が敬礼しつつ歩いてきた。

 ファイムもシグナムもアギトも知っている顔だったため――というか、部隊の隊員だったため、一々自己紹介などせず、本題に入る。

 

「状況はどうなっていますか?」

「はい。この近辺にロストロギアの反応があるのは間違いないのですが……この世界は鉱物の含有率が高く、細かい場所が特定できないのです。そこで現在、三つのチームに分けて捜索していますが、まだ終わりそうになく」

「なるほど、了解しました。自分たちも手伝います」

 

 ファイムは頷きつつそう言うと、シグナムの方へと視線を向ける。彼女は、アギトと共に通信士のところにいた。

 

「どうしました?」

「いや、何やらモニターの様子がおかしいようでな」

「一つだけ正常に作動してないんだよ」

「そうなんですか?」

 

 それを聞き、ファイムは通信士の男性に問いかける。男性ははい、と頷いた。

 

「他の二つは問題ないのですが、一つだけ、通じないんです」

「問題が発生したんでしょうか?」

「いえ、この世界は地層の鉱物含有率が高いので、そのせいで電波が阻害されているのだと。通じないチームは、ここから一番距離がありますし」

「そうなんですか。……ですが、一応確認に出向きますね。シグナムさん、アギト」

「なんだ?」

「どうしたよ?」

 

 ファイムが呼ぶと、二人が返事をした。一応、この三人ではファイムが一番階級が高かったりするのだが……ファイム自身がそんな雰囲気を感じさせないため、二人の態度は普段と変わらない。まあ、ファイムとしてはその方がありがたいのだが。

 

「僕は連絡がつかないチームのところへ向かいますので、お二人は護衛も兼ねてここに残っていただけますか?」

「了解した」

「おう!」

 

 二人の返事を聞き、では、とファイムは飛翔する。座標は頭に入っているので、問題ない。

 そうして飛行を始めたファイムに、リンネが声をかけてきた。

 

《マスター、厄介です。ジャミングのようなもののせいで、エリアサーチが上手く機能しません》

「そっか……中々厄介な世界だね」

《気をつけてください》

「もちろんだよ」

 

 ファイムは微笑み、頷く。

 チリッ、と違和感のようなものを感じた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 生物の音が、しなくなっていた。

 密林と呼ぶに相応しい森が広がる一角でしかし、そこからは少しも生物の気配がしなかった。

 鳥の声も。

 虫の羽音も。

 木々のざわめきも。

 そこからは――消えていた。

 

 ――カチン。

 

 不意に音が響いた。音が消えたその場所には、あまりにも大きくその音は響き渡る。

 その直後、紫煙が立ち上る。それは煙草の煙だった。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐く音が響いた。音がない世界に、音が生まれる。

 

「つまらねぇ仕事だ。ロストロギアもありゃしねぇし」

 

 声の主は、まだ若い男だった。黒いコートとを羽織り、巨大なライフルを自身が座るもの――死体の山に立てかけている。

 男は自身の髪を掻き揚げ、懐から小型の通信機を取り出すと、それを操作し、通信を開いた。

 

「ギレンだ。ロストロギアを回収した」

『さっすが。仕事が早いねぇ。帰ってこれる?』

 

 返ってきたのは、妙に明るい少年の声だった。ギレンと名乗った男は、はっ、と吐き捨てる。

 

「ガキじゃねぇんだ。迷いやしね――」

 

 ギレンが言い切る前に、突如ギレンの周囲に轟音と共に無数の魔法弾が着弾した。ギレンが上を見ると、そこにはバリアジャケットを着た魔導師が一人、こちらを見下ろす形で中空に佇んでいる。

 

「ああ、すまねぇ。少し遅れる。お客さんだ」

 

 言い捨てるとギレンは返事を待たずに通信を切り、管理局の魔導師らしき人物を見上げた。

 その人物は鋭い視線をこちらに向けながら、言葉を紡ぐ。

 

「時空管理局です。危険物所持及び殺人の容疑で、あなたを逮捕します」

「そいつぁ違ぇなぁ」

 

 ギレンはその物言いに、楽しそうに言葉を紡いだ。

 

「容疑じゃねぇ。俺はこいつらを殺したんだよ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 目に入ったのは、惨劇の現場だった。

 周囲の色を塗り替えるほどにぶちまけられた血と、積み上げられた死体の山。

 その中心にいる男に、ただ――不快感が湧いた。

 

「武器を捨て、降伏してください。従わないならば、容赦はしません」

「公僕とは思えねぇことを言う」

 

 男は、くくっ、と笑いながらライフルを手に取った。降伏の意志はないらしい。

 ファイムはそれを見て取ると、リンネに念話を飛ばした。

 

(リンネ、シグナムさんたちに連絡お願い)

(……すみませんマスター。磁気が酷く、周囲にジャミング電波のようなものがまき散らされています。そのせいで連絡は……)

(そっか……)

(すみません……)

(リンネのせいじゃないよ。じゃあ代わりにリンネ、相手のランクわかる?)

(――オーバーSランクかと)

 

 告げられた言葉に、内心でファイムは舌打ちをする。オーバーSとはつまり、自分よりも3つもランクが上ということだ。

 魔導師ランクは一つ変われば明確な差が出る。三つも違えば、まず勝てない。

 どうするか――そんな風にファイムが考えた時。

 

「向かってこねぇなら、こっちから行くぜ!?」

《silver bullet》

 

 男がファイムに銃口を向け、引き金を引いた。数にして十の魔法弾が、ファイムを襲う。

 

「くっ……!」

 

 ファイムは身構え、それを受ける体勢に入る。

 ――着弾。ファイムがいた場所が、煙で覆われた。

 男はライフルを回転させ、はっ、と吐き捨てる。大したことない――そう言おうとした瞬間。

 

「あぁ?」

 

 男は怪訝な表情を作った。煙が晴れた先に、ファイムが無傷で立っていたのだ。

 

「……なんとか、上手くいったけど。次も上手くいく保証はない。強いなら、最初から全開でいくしかないね、リンネ」

《同感です、我が主》

「いくよリンネ」

 

 今の魔法は手加減されていた。だから、この状態でも捌けた。しかし、全力を出されれば、それは不可能になる。

 だから――

 

「フルドライブ!! モード・フェザーナイツ!!」

《Full drive, mode feather knight》

 

 バサッ、という羽音と共に、ファイムの背に魔力で形作られた純白の翼が生まれた。

 それを見た男は、ヒュウ、と口笛を鳴らす。

 

「面白ぇ! かかってこい!」

「言われずとも」

《wind bullet》

 

 ファイムの周囲に風に変換された魔力スフィアが浮かびあがる。それと同時に、ファイムは男に突撃を敢行した。

 

「シュート!!」

 

 ファイムの言葉に応じ、風の弾丸が男を襲う。だが、男は障壁を張ると、あっさりと受け止めた。

 

「変換資質か? いや違ぇな。ただの変換か」

 

 男は冷静にファイムの弾丸を分析する。そう、ファイムには変換資質などという才能はない。

 だが、ファイムは風の魔法を得意としており、他の属性より僅かに早く魔力を変換できる。

 もっとも、変換資質持ちの人たちに比べれば随分遅いのだが。

 それに――フルドライブ中なら風の魔法は威力を底上げできる。

 

「フェザーショット!!」

《feather shoot》

「シュート!!」

 

 畳み掛ける――そのつもりで、ファイムは自身の背に宿る翼の羽を弾丸とし、放った。それらは直撃し、爆発を起こす。

 やったか――そう思った瞬間、風の流れを感じた。最早反射だけで、手をかざす。

 

「面白ぇぞ公僕!!」

 

 ミシミシ、という音を立て、男の蹴りを受け止めたファイムの腕が軋んだ。ファイムはそのまま弾き飛ばされ、叩き付けられた木を数本へし折ってようやく止まる。

 

「かはっ……!」

「休んでんじゃねぇぞ!!」

 

 内臓が悲鳴を上げ、思わず苦悶の声を漏らすファイムに、男は更に追撃をしかける。銃口を向け、一瞬の迷いもなく引き金を引いた。

 砲撃魔法のそれである一撃が放たれ、ファイムはそれに飲み込まれた――かのように見えた。

 だがファイムは、左腕こそバリアジャケットが破けているが、直撃は受けていないようで、そこに立っていた。

 

「あぁ? どうなってやがる? 直撃しただろ?」

「説明する義理はない」

「違ぇねぇ」

 

 男は再び、今度は複数の魔力スフィアを形成し、それをファイムに向けて放った。砲撃は紙一重で避けられただけと判断したのだ。

 だが男はそこで、信じられないものを見ることになる。

 

「…………」

 

 ファイムが、破壊するでも避けるでもなく、襲い来る魔力スフィアを全て受け流しているのだ。僅かな動きで、文字通り流している。

 

「あぁ!?」

「ふっ」

 

 驚く男に、地面を蹴って一瞬で到達。そのまま、掌底を打ち込んだ。

 男はとっさにライフルで防ぐが、体が浮き、弾かれる。

 再び距離が開いたその隙に、ファイムは右拳を握り締め、リンネに命じる。

 

「右腕のジャケットパージ」

《……yes,sir》

 

 リンネが応じ、ファイムの右腕が露わになる。そこにあったのは、肉体ではなく、黒く冷たい鉄の腕だった。

 その腕がスライドし、カートリッジをロード。空の薬莢を吐き出す。

 肉体に直接備え付けられたカートリッジは体に重い負担をかけるため、使用数を制限されているのだが……そんなことを言っていられる場合ではない。

 

「一点集中!! ウインド――」

《wind buster》

「バスターッ!!」

 

 放たれたのは、暴風の砲撃。それは木々を薙ぎ倒し、景色を変える。

 

「……はっ……はっ……」

 

 右腕から排気を行い、ジャケットを戻すよう指示しながら、ファイムは粗い息を吐く。

 相手が強いのはわかっていた。フルドライブ状態でさえ、互角には戦えないと。

 だからこそ、本領を発揮される前に最初から全力かつ全開で挑んだのだが……

 

「そう、上手くはいかないみたいだね……」

 

 ファイムの視線の先には、バリアジャケットを所々損傷しつつも立っている男の姿があった。

 ファイムが身構えると、男は呟くように言った。

 

「――殺す」

 

 先程までとは違う、明確な殺意が込められた言葉だった。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる!!」

 

 叫び、男は銃口を向けてくる。ファイムは身構えたが、男は笑った。

 

「甘ぇよクソが」

《sonic move》

「なっ!?」

 

 一瞬で背後に回られ、銃口を向けられる。これだけ近ければ、受け流す余裕はない。

 

《flame buster》

 

 ゴウッ、という音と共に、炎の砲撃が駆け抜けた。ファイムは障壁を張ったが、それを砕かれ、一撃をもらってしまう。

 

「か……ッ」

「どうしたオラァ!?」

 

 ドスッ、という鈍い音。地面を転がったファイムの腹を、男が蹴り飛ばした音だ。

 たまらず、ファイムは吹き飛ぶ。

 圧倒的な力の差が――そこにはあった。

 

《マスター!!》

「…………ッ!!」

 

 リンネの言葉を受け、顔を上げる。頭部から流れ出る血で前がはっきりとは見えないが、砲撃魔法が展開されているのだけはわかった。

 

《wind move》

 

 リンネが魔法を起動し、ファイムは大きく移動する。

 だが――

 

「だから、遅ぇってんだよ!!」

「――――ッ!」

 

 移動した先には、男の姿。ファイムは、至近距離で砲撃を浴びる。

 地面に叩きつけられ、口から血を零すファイム。そのファイムの耳に、笑い声が届いた。

 

「ハハッ! でけぇ口叩いた割には大したことねぇなぁオイ!? 起きあがってみろよそらァ!!」

 

 銃口が三度、こちらを向く。ファイムは地に這い蹲るようにしながら、それでも、立ち上がった。

 両手を前に出し、構える。

 そこへ――砲撃。

 

「…………ッ」

 

 何が起こったか、説明に多言は必要なかった。

 放たれた砲撃が文字通り反射され、男を撃った。

 直撃。そして爆炎が巻き起こる。ファイムは粗い息を吐きながら、木によりかかった。

 魔力と魔力が干渉し合うのは、最早周知の事実である。でなければ、純魔力砲撃同士が激突するなどありえない。

 ファイムが行ったのは、それを利用した体術だ。弾くでもなく受け止めるでもなく、受け流し、その方向を誘導。跳ね返したのだ。

 無論、言うほど容易くはない。というか、理論上で可能というだけで、実戦でそれを行える者など絶無だろう。

 だがファイムは、風の魔法で干渉し、己の手で受け流すという方法で、それを実践した。

 とんでもない魔法コントロール技術と精神力である。

 だが無論、その代償も大きい。

 

「……ッ、はっ……はっ……」

 

 出血によってふらつく体と、今の行為の反動によって激しく疲労し、荒い息が漏れる。

 今のでノックアウトできなければ、限界だ。だが――

 

「…………!」

 

 ファイムは、今度こそ絶望の底へ突き落とされた。

 空には、こちらを見下ろす男の姿。

 

(万事、休す、かな?)

 

 一部が赤く染まった視界で男を見上げながら、ファイムはぼんやりと思う。

 打てる手は、もう尽きた。

 

「……時間か」

「えっ?」

 

 ファイムが声を漏らす。それとほぼ同時に、耳を切り裂くような音が響き渡った。

 

「…………!」

 

 その音に顔をしかめながら空を見上げるファイム。そしてそのまま、固まった。

 空にあったのは、巨大な戦艦。八神はやての指揮する『ヴォルフラム』と同レベルの艦が、空を飛んでいた。

 ちっ、という舌打ち。ファイムと同じようにそれを眺めていた男が発していたものだ。

 更に男は何事かを苛立たしげな様子で呟くと、ファイムの方を見る。

 

「いいか? テメェは絶対に俺が殺す。いいな、絶対、必ずだ」

「ッ、待て!」

「死に損ないがほざいてんじゃねぇよ。ボケが」

 

 ファイムの静止に対してそう言い切ると、男は立ち去っていった。転移魔法を展開し、男の姿が消えていく。

 ファイムはそれを追おうとするが、それは阻まれる。

 空に浮かぶ艦より降り注ぎ始めた、爆弾という名の暴力の嵐によって。

 

 ――――!!

 

 腹に響く轟音が響き渡り、森が燃え盛る。

 ファイムの後方に広がる森が吹き飛び、紅く輝いていた。

 ファイムは、思わず叫ぶ。

 

「なっ!? いくら人がいない世界でも、ここには生命が大勢いるのに!」

《マスター! 退避を!》

「……ッ、でも!」

 

 その言葉に対し、ファイムは躊躇を見せる。ファイムの視線の先にいるのは、積み上げられた死体の山だ。

 あの男に殺された、ファイムと同じで管理局に所属する者たち。

 おそらく彼らには、帰りを待つ人たちがいるはずだ。だからせめて、死体だけでも連れ帰らなければ。

 

「リンネ、彼らを転送!! できる!?」

《……無理ですマスター。天然の磁力が、転移魔法を阻害しています。この世界内でさえ、時間がかかります。次元転送など、不可能です》

「……この世界の転移ポートに移動させるのに、どれくらいかかるの?」

《……これほどの質量となると、30分は……》

「…………ッ!!」

 

 ファイムは唇を噛み締める。そんなに時間がかかっては、転送する前に爆撃される。

 それは、つまり。

 彼らを、見捨てて去るしかないということだ。

 

《すみません、マスター……》

 

 拳を硬く握り締めるファイムに、リンネが沈んだ口調で声をかける。ファイムは、ううん、と首を横に振った。

 

「リンネのせいじゃないよ。至らないのは、僕だ。僕の弱さが、この状況を作り出した」

《マスター……》

「………………行こう、リンネ」

 

 呟くようにそう言うと、ファイムは死体の山に向き直り、膝をついた。そして両手をつき、頭を下げる。

 

「申し訳、ありません」

 

 たった一言、そう呟くように言って。

 ファイムは、空へと駆け上がった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ララウェイ!!」

『ファイム!!』

 

 空に上がって数秒後、ファイムはアギトとユニゾンした状態のシグナムと遭遇した。そのまま彼女たちと並んで飛行しつつ、転移ポートを目指す。

 

「あの艦の出現により、主はやてから撤退命令が出た。残っているのはお前たちだけだ。……お前が見に行った調査員たちについては、聞かぬほうがいいのだろうが……」

「……すみません。力、及ばず。僕は……」

「そうか……」

『ファイム……』

 

 シグナムは多くを聞かず、悟ってくれた。彼らがどうなったかを。

 ファイムは、後ろを振り返る。

 そこにあるのは、こちらに船首を向けながら暴力を撒き散らす、巨大な戦艦。

 拳を、握り締める。

 そんなことしか――できなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ギレンの魔力、補足完了~♪ 転送開始っと♪」

「待てグリス。本人の許可なしに転移をすれば、転送事故が起こるのではないか?」

 

 突如『ワグリア』に現れた戦艦、名を『シュツルム』とするそれの内部。ブリッジにおいて、そんな会話が行われた。

 グリス、と呼ばれたのは白衣を纏った小柄な少年だ。ブリッジのコントロールパネルを叩きながら、楽しそうに笑っている。そのグリスは、ふっふ~、と投げかけられた疑問に胸を張って応じた。

 

「もしそうなっても、生きていればなんとかなるなる♪ 頭が吹っ飛んでない限りはね~♪」

「私は冗談を聞いているのではない」

「じょ~だん?」

 

 凛々しい口調の女性のその言葉に対し、グリスは一瞬、呆け。

 そして、壮絶な笑みを浮かべた。

 

「実現できる冗談ほど、つまらないものはこの世にないよ? ボクは冗談には拘る方でね」

「…………」

 

 女性は押し黙る。グリスはキーボードを変わらず叩きながら、心の底からの笑みを浮かべる。

 

「リクエストがあるなら、脳さえあれば心臓が止まってても治すよ?」

 

 グリスの手が、止まる。

 

「ドクターの下で学んだのは、そういう技術だからね~。余裕余裕♪」

 

 グリスが振り返り、女性もまた、振り返る。

 二人の視線の先には、一人の男がいた。

 口元に笑みを頌えたその男に、楽しそうにグリスは言う。

 

「宗主~♪ ご命令通り、準備万端いつでもどこでもオールオッケーだよん♪ ギレンも回収完了~、五体満足かはわかんないけどねん?」

 

 キャハハハハ、と笑いながら、グリスは言う。女性は不快そうに眉をひそめたが、男は気分を害した風もなく鷹揚に頷いた。

 

「五体満足でなかったとしても、お前が元に戻すのだろう? ならば何一つ問題はない」

「ありゃりゃ、聞いてたの宗主~? 人が悪いな~? キャハハハハ♪」

「……フッ。世界的に私が悪ということは今更だ。一つ二つ増えたところで変わりはない」

「かぁっこい~!! キャハハハハ♪ でもでもボス、一つだけ訂正い~い?」

「なんだ?」

 

 男が聞き返す。グリスは、いやいや大したことじゃないんだけどねん? と、前置きしつつ、言葉を紡いだ。

 

「元通りはありえないよ? ボクにとっての『治す』はイコールで『改造』だからね~。そこんとこは訂正しといてね? キャハハハハ♪」

「わかった。心に留めておこう」

「さっすが、話がわかるぅ♪」

 

 笑うグリス。彼がそうして一頻り笑ったあと、男はグリスに問いかけた。

 

「――準備はいいな?」

「いつでも」

 

 グリスは、即座に応じた。男は頷き、指示を出す。

 

「ならば撃て。……管理局への、宣戦布告だ」

「待ってましたっ♪」

 

 グリスがキーボードを叩き始める。その光景を見ながら、男は呟いた。

 

「さて、後の歴史はこれを何と呼ぶのかな?」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 同日、時空管理局に一つの緊急連絡が入った。

 ――ワグリアが、消滅した。

 

 そんな、あまりにも短い――惨劇の報告が。

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