魔法少女リリカルなのは~優しい嘘~   作:アマネ・リィラ

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エピローグ

 

 

 

 

 

 ――なぁ、ファイムくん?

 あなたは、どこにいるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――◇ ◇ ◇――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……静かだった。

 同時に、温かい何かを感じる。

 

「…………」

 

 ゆっくりと、吐息を零すような声と共に目を開けた。

 

 ――眩しい。

 

 陽の光が、視界いっぱいに広がる。それに耐えながら、男はゆっくりと呟いた。

 

「……生きとる?」

 

 包帯塗れの体。軋む肉体。麻酔のせいか、体に痛みは感じないが……しかし。

 

 ……生きてる。

 

 それだけは、それだけが真実だった。そして、彼は視線を巡らせる。

 同時、彼の中を大切な人の面影が過ぎった。

 

「――――ッ、エリア――!?」

 

 声に上げ、彼女の名を呼ぶ。

 自分がここにいる以上、彼女も――そう思うのは至極当然のことだった。

 立ち上がろうとする。だが、その瞬間、見計らったようなタイミングで襖が開いた。

 その時、初めて自らが和風の部屋で眠っていたことに気付く。

 警戒。それと共に来客へと視線を送る。そこに立っていたのは、黒髪の鋭い目つきをした女性だった。豪奢な衣装に身を包んでいる。

 

「目を覚ましたか。三月もの間目を覚まさぬからいつ目覚めるか賭けておったのだがな。――カゲマサ、どうやら私の勝ちのようだぞ」

「……まだ、『氷姫』殿が目を覚まさずにおりますが」

 

 不意に聞こえてきた声。女性のすぐ側に、いつの間に現れたのか黒装束を纏う新たな女性がいた。口元を隠しているため、顔が窺いにくい。

 忍――男は彼の故郷である世界に存在する概念に該当するものとして、彼女の存在を理解した。

 従者の言葉。それを受け、豪奢な衣装に身を包んだ女性が笑った。楽しそうに笑い、女性は言う。

 

「確かにそうであったな。……ふむ、どちらが先に、というのも賭けに入れておくべきだったか?」

「いずれにせよ、家臣団との賭けの結果は先延ばしかと」

「そうだな。……さて、身内で話を進めてすまなかったな」

 

 女性の視線がこちらへ据えられる。口元は笑みを刻んでいたが、その目は笑っていなかった。

 

「状況もわからぬことだろう。それについては、わらわから説明できる分はしてやろう。何が聞きたい?」

「……エリアは、どこや?」

 

 最初の問いにその言葉を選んだことに対し、後悔はなかった。ほう、と女性が息を漏らす。

 

「どこか、や、どうして、ではないのだな?」

「ここがどこだろうとどういう理由でここにいようと、エリアと一緒ならわしは切り抜ける」

 

 即座の返答だった。女性は一瞬、目を丸くし、すぐさまどこか攻撃的な目つきになる。

 

「大した自信だな。流石、音に聞こえたエース・オブ・エースか?」

「昔の話や。今はただの大罪人に過ぎんよ」

「ほう。自覚があるのか」

「なければ精神異常者やろう? 管理局が勝ったんやから」

 

 言い放つ男――いや、ホムラ。女性はそんなホムラの態度にふっ、と小さな笑みを浮かべた。

 

「やはり面白い男だ。……心配するな、ホムラ・イルハート。エリア・カリアは別室で寝ている」

「信用しろと?」

「今ここでお前が生きているという事実は、証拠にはならないか?」

 

 問いかけ。ホムラは息を吐いた。

 

「……ま、ええやろ。何か企んどるようなら潰すだけや」

「…………貴様」

 

 肩を竦めたホムラ。瞬間、今まで黙っていた『影』が動いた。

 白刃の煌めき。一瞬にして刃がホムラへと到達する。

 

 ――だが。

 

 

「……無礼やなぁ、クソガキ」

 

 

 何が起こったのか、カゲマサ、と呼ばれた女性は理解できなかった。気が付けば彼女はうつ伏せで組み伏せられ、喉元に彼女が持っていたはずの刃を当てられていたのだ。

 

「見るからに、そこのお嬢ちゃんがお前さんの主人やろ? 主人が話し合いの席を設けとるのを、従者が勝手に潰すもんやない」

「…………ッ」

 

 カゲマサが息を呑む。女性がふう、とため息を吐いた。

 

「すまぬが、離してやってくれ。カゲマサは私の護衛でな。腕は立つが少々、気が逸る時がある」

「ああ、構わへんよ。ガキのじゃれつきにいちいちキレるほどわしもガキやないんでな」

 

 言うと、ホムラは手を離した。カゲマサは転がるようにホムラから離れると、彼を睨み付ける。ホムラはそれを一瞥すると、それで、と口を開いた。

 

「お嬢ちゃん、自分は何者や? わしとエリア……どう考えても爆弾でしかないわしらをこうして手当てしとるお前さんは?」

「……口振りではそうでないかと思っていたが。何だ、覚えてもらえていないというのも寂しいものだな」

 

 苦笑。そして、女性は凛とした佇まいで告げる。

 

「――第三管理世界『ジパング』六代目宗主、ユリミツ・レイン・アーデルハイト」

「……これはこれは。自治領の宗主さんかいな」

 

 ホムラは苦笑を零す。第三管理世界『ジパング』。そこは、第二管理世界と並んで少々特殊な立場にある。

初期の頃から管理局に協力してきたその世界は、その世界で取れる特殊な鉱物や、独自の文化により自治を認められている。独立しているというわけではないが、いずれにせよ、一つの世界として成り立っているのも事実だ。

 そこの宗主――本来なら理事会にも参加できるほどの人物は、笑みを浮かべた。

 

「そうは言っても、所詮は飾りだ。貴様たちの叛乱も我が国は見逃していたわけだしな」

「……ユリミツ様」

「ふっ、そう怒るなカゲマサ。どうせ行ったところで無用な責任を負わされただけに過ぎん。今回はこれで正解だ」

「えらいまあ、豪快な姫さんやね」

「――姫、か」

 

 茶化すように言ったホムラに対し、ユリミツは目を細めた。

 

「貴様にそう呼ばれるのは……悪くない」

「……さよか。で、そのお姫様は、わしらに何の利を見た?」

 

 ホムラの表情に笑みが灯る。ユリミツも笑みを浮かべた。

 

「ほう……わかるか?」

「思い出したわ。そういやおったなぁ、姫さんみたいなんが。随分、成長したやないか」

「先代の頃に比べればな」

「親父さんの葬式以来か」

「ああ。……まあ、思い出話は後でいい。私は、貴様らに『貸し』を作れればそれで良かった」

 

 貸し、とホムラが眉をひそめた。ユリミツは、なに、と言葉を紡ぐ。

 

「難しい話ではない。私は運がいい。次元世界最強の侍に、管理局のエース・オブ・エース、聖王教会騎士団最強の騎士……そして、管理局の英雄に、同時に恩を売れたのだからな」

 

 楽しそうにユリミツは言い、まあ、と口を開いた。

 

「英雄については……どうなのだろうな。管理局の三人娘に繋がるラインを確保できただけで良しとすることになるだろう。いずれにせよ、我が一族の神具を与えたことが無駄にならないことを祈るまでだ」

「よーわからんが、要するにわしは恩を着せられたわけやな。――恩を売ったわしに、姫さんは何を望む?」

「――我が軍の鍛錬と、来たるべき時に出陣を」

 

 答えはすぐさま帰ってきた。どういうことや、というホムラの問いに、ユリミツは更に言葉を続ける。

 

「次元世界は今、揺れている。百年、共和制の世界が続いた例は歴史上に存在しない。したとしてもそれは、王族や宗主など、議会とは別の王がいた場合だ。そして、今の管理局に王はいない。ならば、滅びてしまうのも宿命だ」

「戦争でもする気か?」

「必要とあらば、な」

 

 断言するユリミツ。ホムラは、息を吐いた。

 

「次から次へと……あの世で引退できると思うとった矢先に」

「それでこそ人生。違うか、ホムラ・イルハート」

「違わんね」

 

 ホムラは、笑う。そして。

 

 ――まだしばらく妹の下へは行けそうにないと、改めて苦笑した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……運命、ねぇ」

 

 目の前。説明を聞いたゲンヤ・ナカジマ二佐は、ギンガに入れてもらった茶を湯呑ですすりながら呟いた。彼の眼前、一人の少年ははい、と頷く。

 

「聖人、というのはそういう存在だったらしいですね。運命を覆すための存在……死ぬことも老いることもなく、故に孤独に生き続けてきた」

「それが何故、子供の姿に?」

「……繰り返し、だそうです」

 

 ゲンヤが抱いた当然の疑問に、ソラは頷いた。そうしてから、彼はモニターを展開し、説明する。

 

「史実にもほとんど記録されていない戦いで、聖人は聖王と覇王に敗れたそうです。その際、崩れていく楽園を見て、思ったのだとか。――どこで間違えたのだろう、と」

 

 そう――ウィルのデバイスには、そういう言葉で記録が残されていた。

 間違えた。間違えてしまった。運命さえも手にしたはずの女性は、間違えてしまったのだ。

 

「もしやり直せるならば――それが、間違った形で設定されてしまったようです。望んだものに到達できなければ、繰り返しを続ける。続けていく……そんな、未来へ」

「ふん。それで? 望んだものってのは?」

「――平穏です」

 

 声を発したのは、ずっと黙っていたフェイトだ。彼女は頷くと、言葉を続けていく。

 

「ただの平穏な日々。それだけを望んだと。……ですが」

「繰り返せば繰り返すほど、周囲とは差が生まれる……ってな。報われない話だ」

 

 ふう、とゲンヤは息を吐いた。そうしてから、もっとも、と言葉を続ける。

 

「おめぇがどうにかするんだろう、ソラ?」

「どうにも。運命操作の能力は失ったようですし、まあ、不死は残っているようですがそれがどうしたと」

「――その結論が、養子縁組?」

 

 黙って成り行きを見守っていたギンガが、ポツリと言った。ソラは、うー……と何やら唸ってから、頷く。

 

「いや、保護者が必要でしょ? ほら、色々と問題ありますし」

「後見人には私がつきます。……あまり言いたくありませんが、私たちの立場を利用できればと」

「平穏を望んだってんなら、守ってやりたいって、俺は思う」

 

 ソラは言った。嘘偽りのない言葉を。

 アリア・シュヒテンダーク・オリヴェント。

 彼女は、ソラの養子となる。そういう結論をソラは出し、彼女もまた、それを受け入れた。

 

 ……まあ、怖い怖い侍の監視が付くわけだが。いかがわしいことがないようにと。

 

 大丈夫、俺はロリコンじゃない……そう呟き、ソラはゲンヤを見た。ゲンヤは笑っている。

 そして、彼は言った。

 

「――いいじゃねぇか」

 

 ソラの選択を、肯定したのだ。

 

「苦労することも、キツい思いをすることも、全部納得してのことなんだろう? だったら、いいじゃねぇか。俺の協力が及ぶ範囲でなら、協力してやる」

「……ありがとうございます」

 

 ソラは深々と頭を下げた。ゲンヤは、いいやな、と手を振る。

 

「改めて部下になる奴の言葉だ。聞いてやるのも上官の務めだろうよ」

「まあ、部下といってもここで仕事できるのはほとんどないのですが……」

 

 ソラは苦笑する。今回の件が落ち着き、アリアを養子として迎えると決めたソラは、一つの選択をしていた。それは、地上本部へ戻るという選択だ。

 無論、ソラ程の人材を本局がみすみす見逃すわけがなかったが……それはそれ。ソラという少年を侮ってはいけない。辞職をちらつかせれば言うことを聞いてもらえた。流石に本局も英雄の一人をそんなことで手放す愚は侵さなかったようだ。

 ただ、その交換条件を出されたが。

 

「……確か、五年以内に魔導師連中の平均ランクを0.5以上上げろ、だったか?」

「要するに鍛えろということですね」

「無茶苦茶ね……」

「なのはでも無理じゃないかな、それ……」

 

 フェイトさんの基準はなのはさんらしく、あのなのはさんでもできないらしい。……いや、まあ、うん。出来るとは思ってない。それはそれでなんとかするつもりだ。ぶっちゃけそんな約束守る気ないし。

 肩を竦め、ソラは頷いた。

 

「いずれにせよ、俺の戦いはこっからです。すみません、お手数おかけします」

「構いやしねぇやな。八神も、大変らしい――」

 

 ――バタンッ!!

 

 言いかけた瞬間。凄まじい音と共にドアが開かれた。

 全員がそちらを見る。そこにいたのは、リューイ・エンドブロムだった。彼は息を切らしながら室内を見渡すと、慌てた調子で言葉を紡ぐ。

 

「すんませんけど匿ってください!!」

 

 物凄く腰が低かった。彼はそのまま、奥にある部隊長用の机の陰に隠れる。何だ一体、と、ゲンヤが呟いた瞬間。

 

 ――バタンッ!!

 

 本日二度目の乱入者が現れた。今度は三人。ティアナ・ランスター。ウェンディ・ナカジマ。ミリアム・エンドブロムだ。その三人はこちらに頭を下げてから、勢いよく口を開く。

 

「リューイを知りません(ッス)か!?」

 

 見事なハーモニーだった。おお、とゲンヤは少し気圧されながらも三人娘に問いかける。

 

「どうしたいきなり?」

「聞いて欲しいッスパパりん!!」

「マスターは真正の屑です」

「今回ばかりは同意するわ」

 

 ボロカスに言われるリューイ。ソラは、何だかなぁ、とリューイがいる場所を横目で見ながら呟いた。

 

「絶対、くだらないことだ」

「間違いなくね」

「え、ええと……?」

「で、どうしたんだ?」

 

 ゲンヤが聞く。答えたのはウェンディだった。

 

「リューイが皆の分のケーキを食べたんスよ――――ッ!!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 挨拶の一つでもしようと隊舎を目指して歩いていた女性――テンリュウ・シンドウは、突然の轟音に眉を寄せた。反射的に音のした方角を見ると、何やら金髪の青年が建物のガラスを突き破って吹っ飛んでいる。

 そして、それを追うのは見覚えのある魔導師たち。テンリュウは首を傾げた。

 

「一体、何事でしょうか?」

《何となくだけど、物凄くくだらないことの気がする。気にしなくていいと思うよ?》

 

 応じる桜花の言葉に、そうですか、と彼女は頷く。そうして、空を見上げた。

 蒼い空。美しいそれを見られる幸福を抱き。

 

「平和、なのでしょうか?」

《こことあたしたちは、って限定ならそうかもね》

「含みのある言い方ですね」

《事実でしょ?》

 

 問いかけ。テンリュウは、違いありません、と頷いた。

 

「平和とは平等に訪れることがないものであり、心の在り方。なればこそ人はそれを求め、それを壊す」

《くだらないとしかおもわないけどね、あたしとしちゃあさ。……で、どうなの?》

「どうなの、とは?」

 

 首を傾げるテンリュウ。桜花は、とぼけないでよ、と言葉を紡いだ。

 

《初めてじゃない? あんたが、そうまでして興味を持つ相手はさ》

「片手間ですよ。グリス・エリカランの代わりの体を破壊して回る、片手間です」

《ふーん》

 

 桜花は、気のない返事を送る。テンリュウは、ともあれ、と呟いた。

 

「やることは山積み。時を止めるロストロギアも見つけましたし、後はグリス・エリカランの隠れ家全ての破壊と、管理局への忠誠を示すためのロストロギア集めですか」

《時を止めるロストロギアについては、あんたの私情じゃん》

「人はエゴの塊ですよ」

 

 歩き出す。その最中、桜花が思いついたようにテンリュウへと問いかけた。

 

《あのさぁ、もしかして――惚れた?》

 

 対し、テンリュウは笑顔で応じる。

 

「――ええ。彼の在り方は、愛する相手に相応しい」

 

 まあ、報われぬ想いですがと、彼女は呟き。

 腰に差した、一本の刀の柄を――彼女のものではない血で染まったそれを、優しく撫でた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「じゃあ、はやてはいつもああして?」

「うん。お仕事の時は、そんな素振りは少しも見せないんだけど……」

 

 ユーノ・スクライアと、高町なのは。今、二人はヴォルケンリッターに頼まれ、八神はやての様子を見にきていた。彼女たち自身も戦いの収束後は多忙を極め、墓参りもできていなかったので丁度良かったのだが――……

 

「……近寄れないね」

 

 墓地にて、カグラ・ランバードと名の刻まれた墓と、その隣、彼が愛した女性が眠る墓へと手を合わせながらユーノは言った。なのはは二つの墓へと花を供え、うん、と頷く。

 

「休みがあると、いつもあそこでじっとしてるんだって。……休みの日は、一日中、ああしてるって聞いたよ」

「……彼の死を受け入れられていないのか、いや、そうじゃないね」

 

 ユーノは首を振った。そうじゃない。そんなことではない。

 

「はやては、きっと後悔してるんだ」

「後悔?」

「引き金を引いたのは、はやてだよ。なのは」

 

 ユーノの言葉になのはは息を詰める。ユーノは言葉を続けた。

 

「あの時、選択肢ははやての手の中にあった。引き金を引かない、っていう選択だって当然あったんだ」

「だけど、その選択肢は」

「うん。そうだよ、間違いだ。それは断言できる。だけどね、なのは。引き金を引いたこともまた――間違いなんだ」

 

 そう、間違い。

 あの時のはやては、選択肢を許されていなかった。その中で強制された選択肢は全てが過ち。

 故に、彼女は悩んでいる。

 

「きっと、はやては責めて欲しいんだと思う」

「責めて欲しい?」

「なのはも、そういうところがあるから……何となく、わかるんだ」

 

 苦笑し、ユーノは言葉を続けた。

 

「周囲ははやての選択を全面的に肯定する。彼の死さえも、必要な犠牲としてしまった。それがはやては受け入れられない。だからああして、考えてるんだと思う。

 答えなんて出ない。そんなことはわかってるんだろう。それでも、彼女は。

 進むことも、戻ることもできなくて、あそこにいる。否定して欲しいのに否定されない現実から逃げるように。だって、そうでしょ?

 みんなは、こう言うんだ。――〝ファイム・ララウェイを殺したことは正義だ〟って。

 勿論、そんな意味じゃない。彼の犠牲を呑み込んでまで世界を救ったことを称賛しているだけだ。それがはやてには届かない。そういうことだよ」

 

 厳しい表情で言うユーノ。そうしてから、彼はふと視線をはやての方に向けた。

 

 ――驚愕。

 

 隣で彼を見ていたなのはは、ユーノの表情がそれに変わったのがよくわかった。そして、視線の先にある彼の表情が柔らかくなる。

 

「行こう、なのは」

「えっ、でも――」

 

 視線をはやてに向けるなのは。彼女は、そこで理解した。

 目を伏せ、そうだね、と頷く。

 

「私たちよりも、はやてちゃんには――……」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ――どうしてなのだろう。

 

 その問いが、延々と繰り返されていた。どうして、と。何故、と。

 あの時、引き金を引いた自分。それが許せなくて。認められなくて。

 

 どうして、わたしは――……

 

「――――」

 

 涙の一つさえ、零れてこない。どうしてだ、とまた自身へ問いかける。

 彼を失った悲しみさえ、嘘だというのか。

 涙一つ零せない程度の想いしか、自分にはなかったというのか――……

 

 繰り返す疑問。その果てに。

 不意に、声を聞いた。

 

 

「――泣いておられるのですね?」

 

 

 優しい声だった。問いかけの対象は自分ではないのかもしれない。しかし、はやては反射的に答えていた。

 

「……泣いてません。泣くことが、できないんです」

「それなら、何故ここで俯いているのです?」

 

 問いかけは即座に返ってきた。はやては、何故やろう、と自問する。

 そうしてから、答えを見つけた。

 

「きっと、待ってるんです」

「待っている? 誰を?」

「――大切な人を」

 

 言って、はやては苦笑した。

 

「わたしは、間違えたんです。間違えてしまって、こないなことになってしもた。だから、わたしは待ってるんやと思います。大丈夫だよ、って、そう言って帰ってきてくれるのを」

 

 有り得ない話ですけれど、とはやては言った。

 そう。あり得ない。だってこの手で自分は、彼を――……

 

「ですが、その彼はもう余命幾何もない人物ですよ」

「……構いません」

 

 不意の言葉に対し、反射的に答えた。相手は更に言葉を重ねてくる。

 

「罪人です」

「構いません」

「弱者です」

「彼は強い」

「愚か者です」

「わたしもです」

「哀しみしかない未来。――それでも、共に?」

「共にあれた幸福を思い出せるなら、それは何より大切なものになる」

 

 ――涙。

 知らず、溢れ出していた。相手が苦笑したのがわかる。

 

「本当に、いいの? 僕なんかで」

「あなたやないと、アカン」

 

 絞り出した言葉。それと共に振り返ると。

 ――そこにいたのは、車椅子に乗った、最愛の人の姿。

 

 最愛の人は、ありがとう、と頷いて。

 

「ただいま、はやてさん」

 

 微笑みながら、そう言った。

 そして、わたしは。

 泣きながら、縋り付くように。

 

 彼の胸元へ、一直線に飛び込んだ。

 

 

「――おかえり」

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