Fate/Grand Order Emiya The Third   作:黒崎士道

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第2話 カルデア

マシュとレフ教授に先導され、空は広い部屋へと出た。中には沢山の空より年上に見える少年少女たちが立っていて、遅れて部屋に入ったこちらを振り向く。全員からの視線に冷や汗をかきながら空はマシュに自分の立つ場所に案内される。レフ教授は集団から離れた部屋の隅に立っている。

 

「一番前の列の空いているところにどうぞ……先輩?顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 

「……ごめん。やっぱ、まだ頭がぼうっとする……」

 

「シュミレートの後遺症ですね。すぐに医務室へお連れしたいのですが……」

 

と、言いかけたところで、マシュは正面に視線を向けた。空もつられてそちらを向くと、そこには一人の女性がこちらを見ていた。いや、正確には突き刺さるような冷たい視線で睨みつけていた。

 

「……無駄口は避けた方がいいですね。所長の顔が怖いです」

 

「……ああ、心配してくれてありがとな」

 

マシュに礼を述べると空は正面に向き直る。すると女性はようやく口を開く。

 

「時間通りとはいきませんでしたが、全員揃ったようですね。特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。あなたたちは各国から選抜、あるいは発見された稀有な人間です」

 

正面に立った女性、オルガマリーが話し始めた途端、その場の空気が緊迫したものとなった。そうしている間にもオルガマリーの演説は続く。

 

「才能とは霊子ダイブを可能とする適性のこと。魔術回路をもち、マスターとなる資格を持つもの。想像すらできないでしょうが、これからその事実を胸に刻むように」

 

オルガマリーは全員を見渡し言葉を続ける。

 

「あなたたちは今まで前例のない、魔術と科学を融合させた最新の魔術師に生まれ変わるのです。とはいえ、それはあくまで特別な才能であって、あなたたち自身が特別な人間という事ではありません。あなたたちは全員が同じスタート地点に立つ、未熟な新人だと知りなさい」

 

そう言ったオルガマリーの言葉に部屋の中の空気が一瞬変わった。この中には魔術師の名門から呼び出された者たちが48分の38も居るのだ。そんな彼らに対してオルガマリーは目を細めて視線を向ける。

 

「ここカルデアは私の管轄です。外界での家柄、功績は重要視しません。まず覚える事は、私の指示は絶対という事。私とあなたたちでは立場も視座も違います。意見、反論は認めません。あなたたちは人類史を守るための、道具にすぎない事を自覚するように」

 

そう口にしたオルガマリーの言葉に、その場にいたレフ教授とマシュ以外の魔術師たちがざわめく。当然だ。魔術師の名門として呼ばれたというのにいきなり無茶苦茶なことを言われたんだ。要はプライドの高そうな名門出の魔術師はそりゃ騒ぐ。

 

「静粛に、私語は控えなさいッ‼︎」

 

オルガマリーはヒールを鳴らし、この場にいる魔術師たちを一瞥してから続けた。

 

「いいですか!今日というこの日、我々カルデアは人類史において偉大な功績を残します。学問の成り立ち、宗教という発明、航海技術の獲得、情報伝達技術への着目、宇宙開発への着手、そんな数多くある『星の開拓』に引けを取らない。いえ、全ての偉業を上回る偉業」

 

彼女はゆっくりとかぶりを振って厳かな声音で続けた。

 

「文明を発展させる一歩ではなく、文明そのものを守る神の一手。不安定な人類の歴史を安定させ、未来を頑固たる決定事項に変革させる。霊長類である人の理ーーー即ち、人理を継続させ、保障すること。それが私たちカルデアの、そしてあなたたちの唯一にして絶対の目的です」

 

そこで一旦言葉を切り、彼女は壁の方まで行くとそこに取り付けられたモニターを操作すると、何かが動く音がする。

 

「カルデアはこれまでこの方法で百年先までの人類史を観測してきました。頭上を見なさい。これが、カルデアが誇る最大の功績ーー高度な魔術理論をもとに作られた地球環境モデル、『私の』カルデアスです」

 

オルガマリーの言葉に全員の視線が上に向いた。なんだ、あれは。直径は約6メートルだろうか、大きな地球儀に見える。いや、それにしては、なんというか、リアルすぎる。

 

「これは惑星に魂があると定義し、その魂を複写して作られた極小の地球です。我々とは異なる位相にあるため、人間の知覚・知識では細かな状況は読み取れません。ですが、表層にあるもの、大陸に見られる都市の光だけは専用の観測レンズ、シバによって読み取れます。このカルデアスは未来の地球と同義なのです」

 

未来の地球、つまりこれから先の地球の様子をこのデカイ地球儀で見ることができるってことなのか。

 

「ですがーーレフ、観測レンズの偏光角度を正常に戻して」

 

オルガマリーが部屋の隅にいたレフ教授に合図を送ると、教授は壁に取り付けられたモニターを少し操作する。すると、なんと先ほどまで青く美しい地球儀は突然灰色に染まった。

 

「現状は見ての通りです。半年前からカルデアスは変色し、未来の観測は困難になりました。今まで観測の寄る辺になっていた文明の明かり。その大部分が不可視状態となってしまったのです。観測の結果、地球に人類の明かりが確認できるのは今から1年後まで、つまり人類は1年後をもって絶滅することが観測、いえ、証明されてしまったのよ」

 

「な……」

 

驚愕のあまり、空は喉を詰まらせた。今、所長はなんと言った?いや、言葉の意味はわかる。でもその言葉はとても信じられない。人類が、あと1年で絶滅するというのだ。そんな面影はどこにもないのに。

 

「言うまでもなく、ある日突然人類史が途絶えるなんてありえません。私たちはこの半年間、この異常現象ーー未来消失の原因を究明しました。現在に理由がないのなら、その原因は過去にある。過去2000年までの情報を洗い出し、今までの歴史になかったもの。今までの地球に存在しなかった異物を発見する試みです。その結果、ついに我々は新たな異変を観測しました」

 

オルガマリーは背後に投影された映像に向き直ると、拡大された世界地図を指す。その場所はーーー

 

「それがここーー空間特異点F。西暦2004年、日本のある地方都市です」

 

日本出身である空は更に驚愕する。でも、それ以前に引っかかるワードがあった。2004年、その年代はかつて父と母が冬木においてある儀式に巻き込まれた時代だ。

 

「ここに、2020年までの歴史には存在しなかった、“観測できない領域”が発見されたのです。カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定し、霊子転移(レイシフト)実験を国連に提案、承認されました。霊子転移(レイシフト)とは人間を霊子化させて過去に送り込み、事象に介入する行為です。端的に言えば過去への時間旅行ですが、これは誰にでも可能な事ではありません。優れた魔術回路を持ち、マスター適性のある人間にしかできない旅路です」

 

……えーとつまり、歴史に“観測できない領域”ってやつが発見されて、人間を霊子化ってやつにして過去にタイムスリップする、でいいのかな?空は頭の中が混乱してきた。

 

「これより1時間後、初の霊子転移(レイシフト)実験を行います。第一段階として成績上位者8名をAチームとし、特異点Fに送り込みます。Bチーム以下は彼らの状況をモニターし、第二実験以降の出番に備えなさいーーー何をしているの?やるべきことは説明したでしょう。それとも、まだ質問があるの?」

 

未だざわめく会場にオルガマリーは溜息をつきながら腰に手を当てると、右手の人差し指を空に突きつける。

 

「ほら、そこの君。君よ、遅刻した君。特別に質問を許してあげます。首を傾げてるけど、何か不満があるのかしら?」

 

「え?えっと、いや、その……」

 

突然指名されて空は戸惑うが、観念して席から立ち上がると口を開く。

 

「そもそも、タイムスリップなんて可能なんですか?それに過去を改変させたりして問題はないんですか?」

 

「…………君ね、特異点と聞いてわからないの?」

 

「………すいません。全然わかんないです。そもそも特異点ってなんですか?」

 

「呆れた。こんな初歩の時空論を知らない小さい子供を送り込むなんて、協会は何を考えているのかしら。まあいいわ」

 

オルガマリーは呆れながら特異点について語った。

 

特異点はこれまでの観測になかったもの、要は突然現れた穴と同じだ。穴自体が時間軸から切り離されたものだから2004年の特異点は過去と未来から独立している。前後の辻褄を合わせる必要はなく、どのように改変しても時間の復元力で影響はない。そうすることで人類史は本来の形に戻るのだ。

 

「ところで…君は子供みたいだけど、どこのチーム?ちょっとIDを見せてくれる?」

 

オルガマリーは空を完全に子供扱いしながら聞いてきた。少々腹が立ったがここは我慢してポケットに入ったIDカードをオルガマリーに渡す。すると、IDカードを見た彼女の顔が強張っていく。

 

「………なにこれ、配属が違うじゃない!一般協力の、しかも実戦経験も仮装訓練もなし⁉︎私のカルデアを馬鹿にしないで!レフ!レフ・ライノール!」

 

「ここにいますよ所長。どうしました、何か問題でも?」

 

彼女に呼ばれてやって来たレフ教授は落ち着いた物腰で尋ねるが、オルガマリーはご立腹のようだ。

 

「問題だらけよ、いつも!いいからこの子早くここからたたき出して!」

 

「でも、俺父さんと母さんに魔術を教わって使えます!」

 

追い出されそうになってそこで空も反論する。確かにまだ小さいけど、これでも父さんに剣術や魔術を教えてもらった。母さんに魔力のコントロールや性質についても教えもらった。二人とも認めてくれたのだ。それなのに所長の言葉はあんまりだ。

 

「魔術が使えるかの問題じゃないの!君みたいな子供を特異点に投入して何かあったらどうするの⁉︎」

 

「ですが所長、彼も選ばれたマスター候補です。それに彼はまだ14歳の子供です。そこまで厳しくしなくても……」

 

「魔術を使えようが、こんな訓練も受けてない子供を投入すること自体が問題よ!他の足を引っ張るだけよ!いいからロマ二にでも預けてきて!せめて最低限の訓練を済ませてきなさい!」

 

♦︎

 

「先輩、着任早々災難でしたね」

 

「本当だよ!小さいからって役立たずみたいに言って!俺だって戦えるのに!」

 

空はカルデアのファーストミッションから外されるハメになってしまった。だから別任務を言い渡されるまでの間、空は用意された部屋で待機せよとのことだ。マシュは空を部屋を案内するために同行してくれている。

 

「ところで先輩、そのペンダントは……」

 

マシュにそう言われて胸元を見ると、そこには赤い宝石が取り付けられたペンダントが服の中から出ていた。ペンダントを掴むとそれをマシュに見せるように掲げる。

 

「え?ああ、これか。これは母さんにもらったお守りなんだ。確か遠坂家の魔術師が代々魔力を込めたものだったらしいんだけど、今じゃ魔力が空っぽのただのペンダントだよ」

 

このペンダントは父さんと母さんにとって思い出の品だ。今から16年前の2004年、当時高校生だった父さんと母さんは冬木の地でとある儀式に巻き込まれた。

 

ーーー聖杯戦争。7人の選ばれたマスターが7騎の英霊を呼び出し、召喚した英霊を用いて互いを殺し合う儀式。最後のマスターとなったものは願いをなんでも叶えるという万能の願望器を手に入れることができる。

 

かつてマスターとなった母さんの呼び出したサーヴァントと他のサーヴァントの戦闘中に父さんが運悪く遭遇し、魔術を秘匿するためにそのサーヴァントによって一度父さんは殺された。そこで父さんを救ったのは母さんだった。母さんはお爺ちゃんから譲られた最上の魔力が込められたこのペンダントを用いて父さんを蘇生させたのだ。その後父さんもマスターとなり聖杯戦争に巻き込まれたのだが、要するに昔母さんが父さんを蘇生させたことによってこのペンダントに込められた魔力はすっからかんになってしまったのだ。と、ここまで話すとマシュは興味深そうにこちらを見上げていた。

 

「……なるほど、そんなに大切なものだったんですか。見せてくださってありがとうございます」

 

「ああ、このくらいーーーうわぁ⁉︎」

 

「フォウ!」

 

「せ、先輩⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 

ペンダントを服の中にしまおうとした瞬間、突然顔面に何かがひっついて目の前が真っ暗になる。俺は顔に引っ付いたものを引き剥がすと、手の中にはあの不思議動物のフォウがいた。

 

「フォウさんはよく私の顔に奇襲をかけ、そのまま背中に回り込み、最終的には肩に落ち着きたいらしいです」

 

「び、びっくりした…」

 

「フォウ。クー、フォーウ!フォーウ!」

 

フォウは俺の手から抜け出すと、頭の上に着地、そのまま肩の上に居座った。

 

「……ふむふむ。どうやらフォウさんは先輩を同類として迎え入れたようですね」

 

「えっ⁉︎言葉わかるの⁉︎」

 

「直感です。ですが、人間をライバル視するリスのような生き物はアリなのでしょうか?」

 

「……ライバル視?」

 

「……フォッ、フォウ!」

 

……なに、この『マシュは渡さない!』的な視線は。もしかしてフォウにマシュのこと狙ってるって思われてるのか?肩からじっと見つめてくる小さな瞳と睨み合っていると、マシュから声がかかる。

 

「……ところで、もう目的地に着いてます。ここが先輩用の個室となります」

 

そう言われて前を見ると、目の前には無機質な扉があった。扉の横には衛宮空とプレートまで貼り付けてある。

 

「送ってくれてありがとう。ところでマシュは何チームなんだ?」

 

「はい。ファーストミッション、Aチームです。ですのでもう戻らないと」

 

「……そっか。じゃあなマシュ」

 

「……はい!」

 

マシュは嬉しそうな笑顔で答えると、そのまま通路を走っていった。俺と肩に乗ったフォウはそれを見送ると目の前の扉を開く。

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