Fate/Grand Order Emiya The Third   作:黒崎士道

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第3話 緊急事態発生

部屋の中は無機質な塗装だがベッドなど生活に必要なものは一応あるようだ。唯一問題があるとすれば、ベッドにいる正体不明の白衣を着た男性がいることだ。

 

「はーい、入ってまーーーーって、うぇえええええええええ⁉︎誰だ君は⁉︎ここは空き部屋だぞ、僕のサボり場だぞ⁉︎誰の断りがあって入ってくるんだい⁉︎」

 

「え?いや、ここが部屋だって案内されたんだけど?」

 

「え?君の部屋ってことは……あー、そっか、もう最後の適性者が来ちゃったのか」

 

男性ははぁ…と溜め息を一つ漏らすと、よいしょっ、と重い腰をベッドから持ち上げる。そしてこほん、と気を取り直すように咳払いをすると空に近づき手を差し出す。

 

「いやあ、初めまして。予期せぬ出会いだったけど改めて自己紹介するよ。僕は医療部門のトップ、ロマ二・アーキマン。なぜかみんなからはDr.ロマンと略されてね、君も遠慮なくロマンと呼んでくれ」

 

「俺は衛宮空。よろしくDr.ロマン」

 

空も身長差からにこやかな笑顔を浮かべるロマンを見上げる形で差し出された手を握り返す。すると、ロマンの視線が空からその肩に乗る小さな不思議動物、フォウに向けられる。

 

「あれ?君の方にいるのって噂の怪生物?うわぁ、初めて見た!マシュから聞いてたんだけど本当にいたんだなぁ」

 

ロマンは少し興奮したように言うと、空の肩に乗るフォウに視線を合わせるように屈むと、フォウに向かって片手を差し出す。

 

「はい、お手。うまくできたらお菓子あげるぞ」

 

ロマンは爽やかな笑顔を浮かべてもう片方の手に飴玉を持ちながらフォウに語りかける。それに対してフォウの反応はというとーー

 

「………フウ」

 

「………」

 

溜め息をついて空の肩から床に飛び降りた。いや、確かにマシュ以外の人間には懐いてないって聞いたけど、せめてもう少しマシな反応してあげてよ!もうDr.ロマンなんて目の前で涙目になってその場に固まってるよ!

 

「……と、とにかく!話は見えてきたよ。君は今日きたばかりの新人で所長のカミナリを受けたってところだろ?」

 

「は、はい。なんでわかったんですか?」

 

「やっぱそうか!なら僕と同類だ。何を隠そう、僕も所長に叱られて待機を命じられてたからね」

 

早速気を取り直したと思えばいきなりダメ発言をしだした。こちらが気まずくなって返答に困っているとロマンはああ、と言葉を付け加える。

 

「まあ実際はやることがなかったんだよね。もうすぐレイシフト実験が始まるのは知ってるだろ?スタッフは全員現場に駆り出されてる。僕の仕事はみんなの健康管理だけど、霊子筐体(コフィン)に入った魔術師たちのバイタルチェックは機械の方が確実だしね」

 

ああ、よかった。ちゃんとした理由があったんだな。と思うのも束の間、

 

「現場にいたら所長に『ロマ二が現場にいると空気が緩むのよ!』って追い出されて、仕方なくここで拗ねてたんだ」

 

あはは、と笑いながら答えるロマン。確かに少し話しただけだけどそれだけでもうこの人はゆるふわ系な人だってわかったよ。そりゃあの所長もこの人を追い出したくなる。だってこの人、なんていうか、緊張感ってものがまるでないし、そこにいるだけで場の空気を緩ませそうだし。

 

「所在ない同士、お酒でも飲みながらここで世間話でもして交友を深めようじゃないか。あ、いや君にはお酒はまだ早いよね。僕もアルコールは好きじゃないしね。あ、飴ちゃんいるかい?」

 

「欲しい!」

 

ロマンに片手に持った飴を差し出されてすかさす食らいつく空に対して、やっぱこういうところが子供だなぁとしみじみと思うDr.ロマンだった。

 

♦︎

 

「……なるほど、そんなことがあったのか」

 

「そうなんですよ!小さいからって役立たずみたいに言って!」

 

空は自分のベッドに座り込み、その目の前に部屋の椅子に座っているロマンに先ほど説明会であった出来事を話した。所長に子供扱いをされてファーストミッションに外されたことも含めて全部。それらを聞いたロマンは少し困ったように頭を掻くと言葉を続ける。

 

「でもね、所長にも複雑な事情があるんだ」

 

3年前にカルデアの前所長、つまりはオルガマリー所長のお父さんが亡くなり、まだ学生なのにカルデアを継ぐことになった。当時の彼女はカルデアの意地だけで精一杯だった。そんな時にカルデアスに異常が発見された。今まで保障されていた百年の未来が見えなくなって、協会やスポンサーから非難の声が山のように届いた。加えて、所長にはマスター適性がないことが判明された。時計塔12学部の一つを管理する名門貴族「アニムスフィア家」の当主がマスターになれないなんてスキャンダルもいいとこだ。そんな状況でも彼女は所長として最善を尽くしているため、心身ともに張り詰めている、とのことだ。

 

「だからね、所長が君に辛く当たったのは君のことを心配していることも兼ねているんだよ。まだ14歳の子供が危険な特異点に行くなんて彼女も耐えられないだろうからね」

 

そこまで言い終えると不意に部屋の中にピピピ、と何かの着信音のようなものが聞こえた。ロマンが白衣から端末を取り出すとそこに一人の男性の顔が映された。それは空も知っているレフ教授だ。

 

『ロマ二、あと少しで霊子転移開始だ。万が一のためにこちらに来てくれ。Aチームは万全だが、Bチーム以下の者たちに若干の変調が見られる』

 

「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと診に行こうか」

 

『ああ、急いでくれ。今医務室だろ?そこからなら二分で到着できるはずだ』

 

レフ教授はそう言って通信を切る。

 

「……えっと。医務室って、ここ俺の部屋ですよ」

 

「あー、うん。それは参ったなぁ。まあ、少しくらいの遅刻くらい許してくれるだろう。Aチームに問題ないみたいだし」

 

「でも、レフ教授は今すぐ来て欲しいって……」

 

「ん?もうレフと面識があるのかい?彼は擬似天体(カルデアス)を観るための望遠鏡ーーー近未来観測レンズ・シバを作った魔術師なんだ」

 

ロマンの説明に空は改めてレフ教授という人がどれほど凄い魔術師なのか知った気がした。シバというのは確か、あの地球儀に映されていた人類の明かりっていうのを見るための奴……だったかな?

 

「ちなみに、レイシフト中枢を担う召喚・喚起システムを構築したのは前所長。その理論を実現させるための擬似霊子演算器……ようはスパコンだね。これを提供してくれたのがアトラス院。このように多くの才能が集結して行われる。僕みたいな平凡な医者が立ち会ってもしょうがないけど、お呼びとあらば行かないとーーー」

 

ロマンがそこまで言いかけると不意に部屋の明かりが消え、視界が闇に包まれる。

 

「なんだ?明かりが消えるなんて、何かーー」

 

瞬間、地鳴りのような音が鳴ると同時に、部屋が地震のごとく激しく揺れた。

 

「……ッ⁉︎」

 

「うわぁッ⁉︎」

 

空は今まで体験したことのない衝撃と爆発音に思わず両手で頭を覆っていた。ロマンも一瞬頭が混乱する。そして突如として部屋中に緊急事態通告(エマージェンシーコール)がけたたましく鳴り響く。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに退避してください。繰り返しますーーー』

 

アラームに続いて機械越しの音声が響いてくると、ロマンが声を張り上げる。

 

「今のは爆発音か⁉︎一体何が起きている……⁉︎モニター、管制室を映してくれ!みんなは無事なのか⁉︎」

 

ロマンはそう言って端末を操作する。いや、ちょっと待て。今、Dr.ロマンは中央管制室って言ったのか?

 

『はい。ファーストミッション、Aチームです。ですのでもう戻らないと』

 

頭の中に先ほどのマシュとの会話が再生されていく。もし、マシュがファーストミッションに参加するのならあの地球儀、カルデアスのあるあの管制室に行くはずだ。

 

「管制室って……じゃあ、マシュは……⁉︎」

 

空はロマンに問いかけるが、彼は空の言葉に返答を返さない。いや、正確にはモニターに移されたものに対して絶句していたのだ。ロマンはモニターから目を離すと今度は空の肩を掴み真剣な目で語りかける。

 

「空君、すぐに避難してくれ。僕は地下の発電室へ向かう。カルデアの火を止める訳にはいかないからね。もうじき隔壁も閉鎖される。その前に君だけでも外に出るんだ!」

 

そう言い残し、ロマンは部屋から走り去る。部屋に一人残された空は無意識のうちに拳を握りしめていた。何もできない自分が悔しい。マシュを助けに行けれないなんて歯痒い。正義の味方になると決めたのに、目の前で助けられる人を助けないなんて嫌だ。だからこそ、空の答えは決まっている。

 

「……避難なんて、できるわけないだろッ!」

 

決心した空の肩からフォウがこちらを覗き込んでいる。まるで俺の決断を待っているかのようだった。

 

「わかってる。マシュを助けに行こう!」

 

「フォウ!」

 

俺の言葉にフォウが鳴くと、肩から降りて部屋を走り去っていき俺もその後を追う。アラームが鳴り響く通路を走り続ける。

 

♦︎

 

そして数分、走り続けるとついに目的の中央管制室に着いた。中から焦げ臭い煙の匂いが漏れているが、空は意を決して扉を開く。

 

扉を開けて辿り着いた先は、まさに地獄のようだった。周囲は見渡す限り紅蓮の炎に包まれ、多くの建造物が燃え盛り崩れ落ちている。見たこともないリアルな地獄。生存者は見当たらない。唯一無事なのは、あのカルデアスという地球儀だけだ。

 

『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標、西暦2004年、1月30日、日本ーー』

 

「アナウンスが…実験はまだ続いてるのか…?」

 

こんな状態だというのに、まだファーストミッションのアナウンスが続いているなんて、そう思いながら空は火災の中に足を踏み入れる。足を入れた瞬間に感じたのは、熱さだ。足のつま先から焼けるような熱さが伝わってくる。痛い。熱い。でも、この火災の中でまだ生き延びている人がいるかもしれない。そう思えばこんな痛み、耐えられる。そう思うと、カルデアスの方で何かが僅かに動いた。

 

「マシュ‼︎」

 

走っていくと、そこには年下の空を先輩と呼び色々と助けてくれた少女ーーマシュだった。マシュの頭からは血が流れていて体は床にうつ伏せになっている。

 

「よかった!今助けーー」

 

言いかけたところで、言葉が詰まった。今のマシュは下半身が瓦礫に潰されている状態だった。瓦礫の下からは血が出てきている。これでは助からない。そんなことはわかってる。でもーー

 

「………待ってろよ。すぐにこんな瓦礫、どけて、やる!」

 

それでも、マシュを見捨てることなんてできない。マシュを助けるために上に乗った瓦礫を退かそうと手を伸ばし掴み取ると、炎によって熱された瓦礫の熱さで手のひらが焼ける感覚がした。でも、その瓦礫の下敷きになっているマシュに比べれば、こんなもの大したことではない。

 

「ぐ…っ!うぅ……!」

 

「………もう、いいです。助かりません。それより、早く逃げてーー」

 

「嫌だ!見捨てることなんてできるか!」

 

目の前で、少しの間だけど友達になった大切な人を助けられないなんて嫌だ。だって、空は『大切な人を守れる』正義の味方を目指して魔術師になったのだ。だがそんな空の頑張りを嘲笑うかのように次は管制室中にアラームが鳴り響いた。

 

「今度はなんだよ!」

 

空は高熱の瓦礫を退かしていながら苛立ちの声を上げる。すると、目の前の地球儀、カルデアスに変化が起きた。

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。近未来百年までの地球において、人類の痕跡は、発見、できません。人類の生存は、確認、できません。人類の未来は、保障、できません』

 

アナウンスとともに、人類の明かりが青く輝いていた美しいカルデアスが一瞬にして紅蓮の炎を纏う太陽を思わせる色に変色したのだ。

 

「カルデアスが、真っ赤に……」

 

空がカルデアスの変貌に目を奪われても束の間、今度は背後から妙な機械音が鳴り響いた。慌てて振り返ると、先ほどまでそこにあった出入口は隔壁が降りてきてもうここから出られないようになってしまった。

 

「……隔壁、閉まっちゃい、ましたね。もう、外には……」

 

「……ごめん。助けるって言ったのに」

 

大切な人を守れる正義の味方を目指してたっていうのに、マシュを助けるどころか逆に自分も出られないなんて、情けなくて涙で視界が歪んでくる。もう、駄目なんだ。そう思うと空はその場に座り込む。目から涙が落ちるたびに周囲の炎で蒸発される。

 

『レイシフト、定員に、達していません。該当マスターを検索……発見しました。適応番号48番、ソラ・エミヤをマスターとして再設定します』

 

「…………あの…………先輩。手を、握ってもらっても、いいですか……」

 

「……うん、こんなことでいいなら」

 

せめて、助けられなかった詫びとして空はマシュの言葉に頷きマシュの手を握る。マシュの手は柔らかくて、こんな炎の中だというのに少し冷たかった。

 

『レイシフト開始まで、あと3、2、1、全工程、完了。ファーストオーダー、実証を、開始します』

 

瞬間、空は強い光と突然の浮遊感に襲われそのまま意識を手放してしまう。




カルデア大百科

オルガマリー「カルデア所長のオルガマリーよ。今回から始まる新コーナー『カルデア大百科』の司会を務めるわ」

空「なんでいきなりそんなコーナー始めたんですか?」

オルガマリー「それがね、昨日この作品の作者から『なにか新コーナー考えたら人気が上がるかもしれないから考えといてねー』って電話があったの」

空「うわ、毎度のことながらいい加減だな。そんなのだから途中中断の犠牲者が増えるんだ」

オルガマリー「せめて私たちもそうならないようにしましょう。えっと、このコーナーでは作品の中で登場した英霊やこの世界の知識をおさらいするわ」

空「そうなんですか。じゃあ、次回からは張り切って行きましょう!正義の味方に俺はなる!」

オルガマリー「え?私の出番もう終わり⁉︎」
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