まどマギ旅行   作:ochimarupo

1 / 4
見切り発車


1.トリップ

周りを見回すと、おどろおどろしい異空間が広がっていた。突然の事態に反応できない。さっきまで部屋でアニメを見ていたはずなのに、一体何がどうなっているのか。

 

しばらく呆然としていたが、急にポケットの中で携帯電話が振動した。携帯電話を取り出しロックを外すと、メールを受信していたようだ。とりあえずメールを開いてみる。件名は「連絡事項」となっていた。

 

 

「無事そちらにたどりついたようですね。そちらは『魔法少女まどか☆マギカ』の世界です。あなたにはその世界で原作に関わっていただきます。といってもあなたは一般人。そのままでは何もできないでしょうから、トリップ特典として『想像実現』の能力を差し上げます。それでは良き旅を」

 

 

・・・まったくもって意味がわからない。説明不足にも程がある。あまりの状況に逆に冷静になった。人間理解を超えた自体に陥ると頭が冷えるもんだな、などと考える。まずは現状を整理することにした。

 

俺の名前は佐藤賢一。21歳の都内私立大生。一人暮らしのアパートで趣味のアニメ鑑賞をしていた。で、気がついたらこの異空間にいた。

 

メールの文面を確認する。

 

『魔法少女まどか☆マギカ』通称『まどマギ』

 

どうやら、数ある二次小説のオリ主の如く二次元世界へトリップしてしまったらしい。普通なら信じることができないだろうが、周囲に広がる異空間がそれを許さない。夢かと思ったが、夢にしては現実感がありすぎる。現実世界ではないのに現実感というのも皮肉が効いてて思わず笑ってしまう。

 

『まどマギ』といえば、さっきまで見ていたアニメも『まどマギ』だったことを思い出す。俺は『まどマギ』のBDを買って何周も見ている。それほど好きな作品である。ただのテンプレ魔法少女物とは一線を画すシリアスでダークな世界観とシナリオ。TV放送をリアルタイムで見ていた時は毎週待ち遠しくてたまらなかった。その世界にトリップしてしまった、あるいは“させられた”わけだ。

 

どうやら原作に関わらなくてはいけないらしい。メールの送り主、たぶんこの世界に俺を送り込んだ奴だろうが、そいつはよくある二次小説での神的なポジションの奴だと考えられる。だとすると、どれだけ原作に関わるまいと努力しても意味はないだろう。関わり方は自分の行動で変わってくるだろうが、関わらないという選択肢、もしくは『まどマギ』風に言うなら因果か、は存在しないだろう。何らかの形で原作に“関わらせられる”はずだ。外的な要因で予測のつかない関わり方をするぐらいなら、自分から原作に介入したほうがマシだろうと考える。この世界はシリアスとダークな成分で構成されているわけだから、下手を打つとあっという間に死んでしまう。それは避けたい。

 

メールにはトリップ特典のことも書かれている。とは言っても何の説明もないわけだが。だが、メールに能力の説明が書かれていない理由もすぐにわかった。使い方や性能などは既に俺の中に“刷り込まれて”いる。色々な意味で“都合が良い”能力のようだ。

 

『想像実現』

 

言葉の通り、俺の「想像」を現実に(この世界が現実なのかは置いておいて)「実現」する能力だ。はっきり言ってしまえば、ご都合主義のチート能力だ。ほぼ何でもできる。

 

例えば、銃を想像し実現するとする。前の世界では徹頭徹尾一般人だった俺は実物の銃を見たこともないし、外観はゲームなどで見たイメージを思い浮かべることができるが、内部構造などについては拙い想像をすることしかできない。が、実際に「実現」される銃はある意味で紛れもなくホンモノである。厳密に言えば「実現」される銃が本物かどうかは結局知識のない俺には判断することはできないわけだが、少なくとも外観はホンモノっぽく、引き金を引くと火薬が炸裂し銃弾が発射される物体であることは疑いようがない。俺の「想像」の中で、俺が必要とした事柄を“都合良く”補完してくれるらしい。

 

この能力は、何も想像した物体だけを「実現」できるわけではない。それこそ想像した“モノ”なら何でも「実現」できる。他創作物の魔法や超能力といったモノも「実現」できる。例として、1度『無限の剣製』を「想像」し「実現」したならば、俺の「想像」した“理”に依って、この場合は「魔術回路」を用いて能力を展開することができる。これについても、俺は魔術回路なんて実際のものは知らないし、前の世界の現実にあったとは思えないが、それも“都合良く”補完してくれる。また、実物の剣など1度たりとも見たことはないが、補完によってアーチャーと同じだけの剣の貯蔵をほこるようになり、正しく自分の能力として使用することができるようになる。さらに「『無限の剣製』をアーチャー並に使いこなせる自分」といったものを「想像」し「実現」することもできる。

 

ただ、『想像実現』で「実現」できないこともある。この“世界”に対する直接的、間接的な改変だ。「魔女もインキュべーターも初めから存在しない世界」を「想像」し「実現」するなんていうド直球な改変は完全にブロックされる。また、言葉遊びのからめ手を駆使した間接的な改変も、事前に察知されブロックされてしまう。原作を改変するには自分が直接介入しなければいけないらしい。まったく、これは作者にとってお話をもどかしく展開させるのに都合の良い制限としか思えない。

 

ここまで思考し、俺はある事柄について思い至った。

 

俺は俺として俺の現実を生きてきたし、少なくともそのつもりだった。このトリップにしたって、俺の中での俺の現実であるという感覚はある。だがしかし、あまりにも出来過ぎている印象を受ける。まるで設定を与えられた二次小説の登場人物のようではないか。二次小説というわかりやすい記号としての“創られた世界”のような状況を与えられ、果たしてこれが現実であると俺に断言できるだろうか?1度疑ってしまえば何もかもが疑わしく思えてならない。俺が認識している、してきた現実も、俺自身の人格ですら、まるで創られたもののように感じる。前から自身の冷静さには思うところがあったが、このような超展開を与えられて、一般人の俺がここまで冷静でいられるというのは普通のことではないと思う。「常に冷静な思考のできる自分」を「実現」したわけではない。「常に冷静な思考のできるオリ主」として設定された自分。

 

 

 

忌々しい。不愉快だ。

 

 

これ以上そのことについて考えるのは不毛だ。これが二次小説なのだとしても、俺にはそれをそうだと認識する手段はない。「これが二次小説なのかどうかを完全に認識している自分」を「実現」することは出来ない。予想通りブロックされた。ブロックしている時点でこれが二次小説であるという証明になるという風にも考えられるが、そうだとしても俺の認識している俺の現実が止まるわけではない。

 

せいぜい作者様の機嫌を損ねないよう、道化として駒として、この舞台で上手く踊るとしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。