とりあえず、今後の方針を決める。
まず何より先に今が原作の“いつ”なのかを確認する必要がある。『魔法少女まどか☆マギカ』では、暁美ほむらというヒロインが何度もループをしている。今ループが最終的に落ちのつく周なのか、はたまた失敗する周なのかを確認しなくてはならない。
『想像実現』で「今がどのループ中なのかを認識している自分」を実現する。・・・どうやらこのループは暁美ほむらにとって最後のループ、つまり鹿目まどかが神となる周のようだ。ついでに「今が原作のどの時点なのかを認識している自分」も実現する。・・・なるほど、ここは第1話で鹿目まどかと美樹さやかがインキュベーターと邂逅する場面の魔女の結界内らしい。
『想像実現』の使用方法が回りくどいと思うかもしれないが、手っ取り早く「全てを認識している自分」のようなものを「実現」することは出来ない。ブロックがかかるってことは、それをしてしまうと“都合が悪い”ってことだろう。この“都合”というものの線引きはひどく曖昧なものらしい。が、仮にこの世界を二次小説だと考えたときに、それを書いてる作者の視点に立ってみて、「これを実現してしまうと物語を展開させづらい」と思われるような「想像」は基本的に「実現」不可能のようだ。まったく、誰にとって“都合の良い”能力なんだか。『想像実現』の制限については、常に注意していかないといけないだろう。魔女に殺される寸前で『想像実現』に制限がかかったら目も当てられない。
とにかく、今がどの時点なのかは把握した。原作が始まって間もないようなので、介入を焦る必要はないことに少し安心する。
さて、どのように原作に関わっていくべきか。
『魔法少女まどか☆マギカ』は完成した物語だ。好き嫌いは別として、綺麗なオチがついた完結したお話なので、個人的には原作介入をして物語を歪めてしまうのは心苦しい。下手に介入して物語を変えても暁美ほむらは再度ループするだろうし、介入方針決定は非常に難しいと言わざるを得ない。そもそも「トリップした俺」にとってのゴールはどこになるのだろうか?この世界で天寿を全うすることがゴールだとは考えにくい。メールには「原作に関わってもらう」のようなことを書かれていたので、おそらくだが、主要登場人物5人、すなわち、鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミそれぞれの物語にオチをつけることが終了条件だと思われる。
そうすると、各キャラクターについて整理しておく必要がある。
・鹿目まどか
言わずと知れた主人公(ヒロイン)。普通の優しい女の子、だが因果の糸が集中したことによって莫大な魔力を保有することとなった最強の魔法少女にして最強の魔女の卵。彼女が契約により神になることで物語のオチがつくが、それは様々な要素により彼女自身の葛藤と成長、そして覚悟が促されたからこそ至った1つの答えであり、俺が僅かにでも介入することによってバランスは崩れてしまい、彼女は神へと至れないだろう。たぶんだが、本当に純粋な祈りだったからこそ神となることができたのであって、俺という不純物が僅かでも混じってしまうことによって彼女の祈りは穢されてしまい、神になることはできず、そもそも神になるための祈りを捧げるかどうかもわからない。結果暁美ほむらは再度ループすることを選択するはずだ。俺がこの世界に存在して介入すると決まった時点で、彼女の神化によるオチは少し難しいかもしれない。
・暁美ほむら
この物語の裏の主人公といえる存在。鹿目まどかのみを救うことに文字通り全てを賭した魔法少女。彼女の目的は一見鹿目まどかの魔法少女化の阻止に思えるが、実のところはちょっと違うように思える。物語には「鹿目まどかの魔法少女化以外で倒すことのできない魔女」であるワルプルギスの夜が半ば記号として存在し、また、世界に操作されているかの如く鹿目まどかはどのループでも魔法少女化している。暁美ほむら自身、何をもって鹿目まどかを救うことになるかを明確には決めておらず、「鹿目まどかの魔法少女化阻止」と「ワルプルギスの夜」の撃破を目的として動いている。俺の介入によっておそらくだがそれら2つの目的は達成することができる。が、もしその目的を達成したとして、果たして彼女の物語にオチがついたと言えるだろうか?これは暁美ほむらだけでなく全ての魔法少女に言えることだが、待っているのは避けられない魔女化の運命で、彼女自身はそれを覚悟している節があるが、心優しい鹿目まどかはそれにひどく心を痛ませるに違いない。それだけですめばいいが、インキュベーターが改変されずに健在であるという事実は変わらないので、鹿目まどかはいずれは魔法少女になり、魔女となってしまうだろう。
まだ2人目だというのに、詰んでるとしか思えない。世界が悲劇を望んでいるかのようだ。とりあえず他の3人についてもまとめる。
・美樹さやか
悲劇担当。物語の中で1番思春期少女を体現している。魔法にさえ関わらなければただの思春期の淡く苦い恋で済まされるのだが、お手軽に奇跡を起こせる環境が身近になってしまうことにより、彼女の魔法少女化も魔女化も避けられないように思える。こればかりは本当に世界が意志を持って彼女の運命を決定しているのだと言える。懇切丁寧に魔法少女化のリスクや代償を説明しても、抑えきれない感情で奇跡を願ってしまうだろう。彼女の魔法少女化阻止は現実的ではないと思う、そして魔女化も。それが鹿目まどかに与える影響は良くも悪くも非常に大きい。
・佐倉杏子
美樹さやかとセットで悲劇を彩るスパイス。物語の軸からは少し外れるので、彼女についてはあまり介入する必要はないと思っている。
・巴マミ
まどマギ世界の方針説明担当。彼女の存在、顛末が『まどマギ』世界観を説明している。彼女の悲劇は世界に求められているといった印象は受けない。ただ、単純に俺の介入によって彼女を救ったりしても、彼女自身の物語のオチには繋がらないだろう。結局魔女化のことを知り、絶望する未来しか残されていない。
ここまで考えて、ふと、彼女たちそれぞれのオチがハッピーエンドである必要はない、と考えた。悲劇だろうとオチはオチだ。しかし、どうせ介入するならハッピーエンドとは言わなくても、原作ぐらいには納得のいくオチをつけたいと思っている。俺はそこまで冷めた人間ではない、と思う。まぁ彼女達と直に接しても、物語の登場人物に接しているというフィルターを外すことは出来ないくらいには冷めているだろうが。彼女達の中でも彼女達自身の現実を認識しているのだろうが、それは俺には関係ない。
やはり、魔法少女→魔女の構図がネックとなりそうだ。この“理”がある限り、例え鹿目まどかの魔法少女化を阻止してワルプルギスの夜を下したとしてもオチはつかない。
それについての打開策は今後の課題として、とりあえずはワルプルギスの夜戦までに全てのヒロイン達の脱落を防ぎ、かつ全員の精神面の成長を手八丁口八丁で促していくことにする。そもそも思春期少女達の精神面が脆すぎる。その脆さに起因した悲劇が多いことから、彼女達の精神面の成長を促すのはマイナスにはならないだろう。プラスになるかはわからないが。
介入するのはいいが、大学生の俺がそのまま接しても違和感しかないし、思春期少女達には警戒されてしまうだろう。そこで、「鹿目まどかのクラスメイトとしてこれまで過ごしてきた自分、ただし過去の暁美ほむらのループには存在していない」という「想像」を「実現」する。自分の容姿が中学生時代のものに戻ったようだ。「実現」した手鏡で確認してみる。これからの生活で齟齬が起きないように、鹿目まどかのクラスメイトとしての創造された記憶も手に入れることができたようだ。“都合が良い”ことに、鹿目まどかや美樹さやか、そして上条恭介などのサブキャラクターとの接触はほとんどないようだ。「暁美ほむらの過去のループに存在していない」という設定は、彼女にイレギュラーであることをアピールして接触を容易にすることが目的である。これも原作世界の改変と思えるような能力の使用方法だが、どうやら物語を展開するのに“都合の良い”改変は限定的だが可能なようだ。
と、どうやら第1話が終わったようだ。鹿目まどかと美樹さやかが巴マミと共にいなくなった。たぶん巴マミのマンションに行ったのだろう。
まずは1人になった暁美ほむらと接触することにする。