早速暁美ほむらと接触といきたいところだが、少し接し方を考える必要がある。
暁美ほむらは頑なな少女だ。一途に鹿目まどかのことを思い、他を切り捨てている、必死に切り捨てようとしている。本来は心根の優しい少女であるはずだ。幾多のループで他の魔法少女達を切り捨て、魔女化した、あるいは魔女化しようとしている鹿目まどかすらも切り捨ててきた彼女の精神は疲弊しきっていることだろう。世界に裏切られ、嘲笑われ続けてきた彼女は、自分のみを信じるしかない状況に貶められている。それでも鹿目まどかを救うことをのみを道しるべに、それに縋っている。
彼女にとっての、そして世界にとってのイレギュラーである俺について、その存在に既に気がついているだろうか?まだループが浅かった頃なら気づいていない可能性が高い。その頃は、魔法少女の運命に翻弄されて周囲、それも関係のない事柄についていちいち確認をする余裕なんてなかったことだろう。クラスメイト全員の名前や存在を全て認識していたとは思えない。だが、数え切れないループを経た今なら、逆に悪い意味での「余裕」ができている可能性がある。特に鹿目まどか周辺の事柄については周到に確認をとっていることだろう。当然俺のことについては気づいているだろうが、鹿目まどかや美樹さやかに接触していないことからとりあえず様子見をしているといったところか。
もしかしたら彼女は俺に対して僅かにでも希望を見出しているかもしれない。起こるはずのないイレギュラーとしての、過去のループには存在しなかったクラスメイト。それが何を意味するのかわからないで疑心暗鬼に陥りつつも、これまでのループと違うイレギュラー要素に期待しない方がおかしい。彼女の精神としては、期待して裏切られることが一番堪えることだろう。彼女自身もそれを認識していて、冷静な思考をもって期待するなと自分に言い聞かせているだろうが、藁にも縋りたいという本音はどう取り繕っても無視できないはずだ。
そんなときに俺から彼女に接触し、彼女の理解を超えた力でもって彼女に協力したとしたらどうなるか。人間は“都合の良い”展開を与えられた時に、そのことについて疑問に思わない。疑問に思っても、それを自分にとって“都合の良い”願望でもってして無意識で無理矢理納得し、思考停止してしまう。人間とはそれほど「強い」ものではない。だが彼女は魔法少女だ。わかりやすい「希望」を提示されたところで、そこで思考停止してしまうには、あまりに世界に裏切られすぎている。たとえ彼女が人生経験の少ない思春期の少女だとしても。
彼女がどう対応してくるかは、ある程度確率に委ねることになる。俺に希望を見出すのか、信用ならないイレギュラーとして切り捨てようとしてくるか、そのどちらでもないか。
とりあえず俺は彼女に「希望」を持たせようと思う。それでも俺に縋る程の大きな希望を持たれるのは宜しくない。それでは彼女自身の変化を阻害してしまう。彼女が僅かながら「期待」するぐらい、それで裏切られても次のループを諦めるほどではないといった絶妙な匙加減が要求される。そうすることで彼女の変化を促す点で、俺の彼女に対する影響力を大きすぎず小さすぎずにすることができる。
現在、人通りの少ない路地裏にて暁美ほむらを尾行中だ。隠密系の能力などは「実現」していないので、とっくに俺の尾行には気がついていることだろう。彼女は俺に接触を図ってくるはずだ。今現在の彼女の中での俺の評価を予想すると、「過去のループにはいなかったイレギュラー。私が魔法少女だということについて知っているかはわからないけれど、尾行してきているということは私が特殊な存在であることは認識しているはず。彼自身が特殊な“何か”であるからこそ私の特異性に気がついたの?でも、尾行のレベルは大したことはない一般人みたいね。すぐさま驚異になるとは思えないけれど、警戒しておいたほうが懸命ね。」といったところか。はずれているかもしれないが。俺に思春期少女の思考を正確にトレースする能力はないからこんなものだろう。
少なくとも俺に興味を抱いているのは間違いない。このまま尾行を続けたら必ず接触してくるはずだ。
しばらく尾行していたが、彼女が急に路地を曲がった。おそらくアドバンテージを持てるように意表をついた形で接触してくるつもりだろう。さて、どんなキャラで彼女に接するべきか・・・。
彼女の姿を見失わないように早足になって俺も路地を曲がる、といった演出も忘れない。
路地を曲がったら、そこで暁美ほむらが正面を向いて俺に対峙していた。俺はわずかに動揺している素振りを見せる。ここでは彼女の意図通り、彼女にアドバンテージを持たせたほうが今後接しやすくなると判断した。
「あなた・・・どういうつもりで私に着いて来てるのかしら?佐藤賢一君、だったわよね?」
予想通り、俺のことは既に知っているようだ。
「暁美さんこそ、こんなところで何をしていた?暁美さんの家はこっちの方なのか?」
彼女の目には俺が精一杯の虚勢を張って会話しているように写っているだろう。さっきの動揺した素振りが効いているようだ。彼女に瞳に余裕の光が見える。これでこの場のアドバンテージは暁美ほむらの物となった。
「私は回りくどいのは嫌いなの。単刀直入に言うわ。あなた、何者?どこまで知っているの?」
と思ったら、あっさりとアドバンテージを放棄してきた。これは予想外だ。彼女は交渉事とか上手そうだという勝手なイメージを抱いてしまっていたことに気づかされた。そういえば彼女はもともとは黒髪メガネ三つ編みの引っ込み思案系少女だったな。まどかへの説得も遠まわし過ぎて効果がなかったようだし。そのへんのバランス感覚を持っていないのだろう。考えてみれば、こういった対人間の駆け引きなど彼女は経験したことがほとんどないはずだったことを思い出す。方針を修正することにする。俺は動揺の素振りを消して、努めて冷静で底の知れないキャラとして立ち回っていくことにした。
「おいおい、ご挨拶だな。まぁ回りくどいのが嫌いだってことには同意するよ。でもそれじゃあ物事は上手くいかない。急いては事を仕損じる、って言うじゃないか。何事にも余裕を持って挑まないと、冷静な判断はできないだろう?ちょっとぐらい回りくどいぐらいで丁度いい。」
「・・・そう。さっきまでの仕草は演技だった、というわけね。」
「そんなに警戒するなよ。ちゃんと話せることは話すから、睨むなよ。それじゃあ可愛い顔が台無しだ。」
「私は冗談も嫌いなの。おちょくらないで。」
「はいはい、わかりましたよっと。それで俺が何者で、どこまで知ってるかだっけか。ああ、なるほど。そうだな。その質問は実に的を射ている。君の想像通り、俺が何者かというと、ただの只者ではないよ。だから、だからこそ君に接触したわけだしな。『魔法少女』の暁美ほむらさん?」
「・・・魔法少女については知っているのね。それでどうして私を尾行していたのかしら?只者ではないと言ってもあなたの尾行はお世辞にも上手いとは言えなかった。そんな有様で“こちら側”に首を突っ込んでも、痛い目を見るだけよ。悪いことは言わないわ、今すぐ魔法少女のことは忘れてあなたの日常へ帰りなさい。」
「ところがどっこい、そういうわけにもいかない事情があってね。まぁ、この事情については今ここで詳しく話すわけにはいかないけど。それ以外だったらある程度は話してもいい。もっとも、君に話を聞く気があれば、だけどな。」
「いいわ。話してみなさい。」
「お、興味を持ってくれたみたいでなによりだ。もしかすると聞く耳持たずにいきなり攻撃してくるかもと少し思っていたからな。」
「あなたがそれを望むなら、そうしても私は構わないと言っておくわ。」
「御免こうむる。まず、大前提として言っておくけど、俺は少なくとも君と敵対しようっていうつもりは一切ない。むしろ、友好関係を築きたいと思っているってことを伝えておくよ。」
「それを信じろと言うの?無理ね。」
「それを判断するのは俺の話を最後まで聞いてからでも遅くないだろ?話せないことも多いから、君の信頼を得るには多少不足かもしれないけどな。」
「・・・。」
「まずは俺のことか。ある程度手の内を晒すのも、信頼を得るには必要なことだろうな。さっきも言った通り、俺はただの一般人じゃない。魔法少女とは違う“理”の力を行使する、特殊な人間だ。どんな力かは説明が難しいし理解も出来ないだろうけど、並の魔女に遅れをとることはない、と言っておくよ。魔女とは戦ったことがないから予想だけどな。」
「魔法少女とは違うコトワリ?」
「そう。君は疑問に思ったことはないか?魔法少女という一般的に非現実だと思える力に携わって、非日常の世界があることを知った。でも、この世界にある非日常の超常の力は、果たして魔法少女だけなのだろうか、と。そんなはずがないだろう。自分が、自分達が、自分達だけが関わっている現実、この場合は非現実か、のみをただ一つの絶対の非日常だとする思い込みは、単なる選民思想にほかならない。君の超常の力をもって探してみれば、きっと見つけられたはずだ、この世界に散らばる数々の“理”を。今回の君と俺の邂逅は、痺れを切らした他の“理”が、満を持して君に会いにやってきたということに過ぎない。そしてそれは必然だったと断言できる。」
「必然?」
「そう、必然だ。力は力を引き寄せる。まるで世界が意志を持ってそうなるようにしているかのようにね。」
「ッ!」
「だからといって、“理”同士が争う運命にあるとは言っていない。俺は君を知った。だから君に会いに来た。それだけだ。」
「・・・あなたの話には根拠がないわ。あなたの妄想に付き合っていられるほど私は暇じゃないの。」
「そうだな。まずはこの力の端緒でも見せて、信じてもらうことにしよう。」
さて、何を見せるか。わかりやすい、魔法少女とは異なる力。やはりここは『無限の剣製』にしておくか。と言っても魔力で編まれた剣を投影するだけだが。魔術回路を起動する。俺の手にはひと振りの剣が握られていた。
「君にならわかるだろう?違う“理”とは言っても、力の媒介には同じ「魔力」という名前がつけられているからな。君の「魔力」と似たようなものでこの剣は生成されている。この剣に内包されている魔力、君の「魔力」とは少し違う魔力を感じるはずだ。」
「これが、魔法少女以外のコトワリ・・・。」
暁美ほむらは半ば呆然としているようだ。初めて見る自分とは違う“理”の力。それを行使する俺は、彼女に対しある程度友好的に接している。この時点で既に彼女は俺に対して、彼女の運命を打破する「可能性」を感じているかもしれない。
俺は投影した剣を破棄した。剣が魔力となって空間に霧散していく。
「これで信じてもらえたかな?」
「ええ、信じるしかないようね。それで、あなたの目的は何?」
「さっきも言ったけど、そんなに焦るなって。まだ話は終わってないんだから。これで俺自身の力についてはある程度理解してもらえたと思う。次は、俺がどこまで知っているかだな。そうだな・・・言ってしまえば俺は「ほぼ全て」を知っている。インキュベーターの秘密も、魔法少女の秘密も、魔女の秘密も、そして君の秘密も」
「ッ!!・・・私の、秘密?」
「君がどんな存在であるかもね。何故それを知っているかは言えない。けど、俺は知っている。ああ、心配しないで。このことは誰にも、君の大切な鹿目まどかさんにも、言うつもりはない。」
「あなたは・・・!」
「そんなに敵意を向けられても困る。本当に信じてもらうしかない。むしろ、俺は君に協力したいと思っているぐらいだよ。」
「協力ですって?それをどう信用しろっていうの!?」
「こればかりは今後の行動をもって信頼を得るしかないと思ってる。でも今すぐ君と敵対するのは俺にとって本意ではないことは理解して欲しい。俺は君に協力する。君は君にとって都合が悪くならない限り、俺を駒として扱えばいい。俺が戦力になることはわかっただろ?君には少しでも戦力が必要なはずだ。都合が悪くなったら君自身の力で俺を退場させればいい。君にはそれが出来るし、それ以外の方法もあるだろう?ここは仮初でも協力関係を結んでおくのが、君にとっても俺にとっても最良の選択だと思うけどな。」
「・・・そうね。それが賢い選択のようね。あなたに丸め込まれる形なのが気に入らないけれど。」
「それは重畳。さて、君の目的を確認するけど、「鹿目まどかの魔法少女化阻止」と「ワルプルギスの夜の撃破」、で合ってるかな?大きく言ってしまえば「鹿目まどかを救う」ということなんだろうけど。」
「どうしてそれを知っているのかを聞いても無駄なのでしょう?その通りよ。私はまどかを救いたい。それだけよ。」
「だが、もう既に鹿目まどかはインキュベーターに接触してしまっている。君が鹿目まどかに警告するだけじゃ、心優しい彼女はいずれ誰かの為に魔法少女となってしまうだろう。」
「・・・ええ、その通りね。」
「彼女は魔法について知ってしまった。変化を望む彼女は魔法に関わるのを止めはしないだろう。そこで、俺は彼女に接触して彼女を守ろうと思う。君は彼女と必要以上に接触するすもりはないのだろう?それでは不測の事態に対応できない。」
「必要ないわ。まどかは私が守る。」
「君は強情だな。まぁ確かに、信用ならない俺が鹿目まどかと接触するのを君は嫌うだろう。だが、こう考えてはどうだ?彼女は今、魔法というものに自身の変革を望んでしまっている。そんなときに、魔法とは違う力を行使する者、それも今日までただのクラスメイトだったある意味身近な者が現れたとしたらどうだ?彼女は必要以上に魔法に傾倒しなくなるんじゃないか?」
「その逆もありえるわ。」
「確かに、自身の無力さに焦ってしまう可能性はあるな。それでも、インキュベーターとの契約をすぐさま結んでしまうほどに追い詰められることはないだろう。ある意味で、俺の存在は彼女に「選択肢」を与えることになる。非日常に関わる方法はなにも魔法少女になることだけではない、とな。」
「・・・まどかに変なことをしたら承知しないわ。」
「それは心得ている。後ろから撃たれるのは怖いからな。」
「本当にわかっているのかしら・・・。」
「わかってるって。ひとまず協力関係を結ぶってことでこれからよろしく。暁美さん。」
俺は右手を差し出す。しばらく彼女は俺の手を見つめていたが、意を決したように俺の手を握る。
「ほむらでいいわ。佐藤君。」
「ああ、じゃあほむら、親しみを込めて俺のことも賢一って呼んでくれ。」
「遠慮しておくわ、佐藤君。」
彼女はなかなか辛辣なようだ。だが、その手は小さくて、柔らかくて、少し冷たい、女の子の手だった。
主人公の口調が安定しない。
恋愛要素については未定。たぶん入れない。