Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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第四話 誘惑と驚愕 その十

それは、丁度人々が午前の仕事を終え、午後への活力を得るために思い思いの昼食を取り始めた頃の話だった。

使い魔(アーチャー)の思いもよらぬ暴走(?)の末に、精神的に疲労し始めた主人(ルイズ)

それを見抜いていた使い魔(アーチャー)は、ご機嫌を損ねぬよう一足早い昼食を提案した。

 

 

「まあまあのお店だったわね。ま、まあ、平民のお店にしては、良かったんじゃない?」

 

「……そうだな。平民のお店にしては、な」

 

 

口元をほころばせ、上機嫌に語るルイズの表情と声音が、彼女自身の言葉を真っ向から否定していた。

結論から言えば、アーチャーとルイズの入った食堂は、所謂(いわゆる)隠れた名店という奴だったらしい。

ルイズが平民用、平民用と連呼するので、アーチャーは逆に平民の食堂がどれほどのものであるのか、と疑心に駆られていたが、それは全くの杞憂とものだった。

口では認めようとしないものの、ルイズは食事の間と後は終始ご機嫌である。

今も軽い鼻歌交じりで、馬が預けてる厩舎へと足を弾ませている。

さて、何故このような上等な店を、平民事情に疎いルイズが知っていたのか、と訊かれればそれは、

 

 

(やはり、あの香料の使い方といい、焼き加減と言い、あの店主ただ者ではないな)

 

 

弓兵の優れた五感によるものだった。

どこが優れた店であるかを、この弓兵はその店が排出する店の煙からかぎ分けたのである。

一体、どこの世界に嗅覚だけで隠れた名店を嗅ぎ分ける弓兵がいるだろうか。いや、いまい。このハルケギニアの赤マント以外には。

さて、そんなこんなで昼食を終え、アーチャー自身はまだまだ情報収集を続けたいところであったが、せっかく上げた主人のご機嫌メーターを再び降下させるのは拙い。

何が、と問われればそれは、弓兵の今後の動き的に。もっと具体的に言えば、弓兵の食事事情が。

 

 

(戦時でもないのに、兵糧攻め。しかも味方から……全く笑えんな)

 

 

そう思い、断腸の思いで情報収集を断念した。

だが、アーチャーは今の主人から独立した事を想定し、この町の求人情報を横目で確認し、更に主要な公共施設やらの立地は既に頭に叩き込んだ。

故に、これ以上の戦果は高望みになるだろうと、学院の馬が預けてある厩舎へと向かう道中、己に言い聞かせた。

が、敵は自分自身の中にいるとはよく言ったもので、主人から独立、という思考に反応してか、

 

 

――ズキン

 

 

(―――っ)

 

 

痛みに顔を(しか)め、思わずアーチャーは動きを止めた。

斜め後方の従者が立ち止まったことを悟ったのか、ルイズも弾ませていた足を止め、後方を振り返った。

 

 

「どうかしたの?」

 

「……いやなに、大方昼食を終え胃が消化活動を開始したのだろうさ。少々立ちくらみがしただけだ」

 

 

額に手を当て、精神の解析と修復をこなすアーチャーは、苦し紛れに皮肉にも似た言い訳を吐いた。

そんなアーチャーの胡散臭い言い訳に、ルイズは怪訝な表情を浮かべたものの、

 

 

「そう。まあ、何かあったら言いなさいよ? 使い魔の管理も、主人の立派な役目なんだから」

 

「そこまでのものではないさ。……そうさな、本当に拙いと思った時には、警告を飛ばそう」

 

「分かったわ。その時になったら、早めに言うのよ?」

 

 

いい?と念を押すルイズ。

契約に不都合な思考の部分を精神の奥底に隔離し、ある程度頭痛の収まったアーチャーは、素直に主人の気遣いに感謝した。

どこぞの「あかいあくま」とは違い、打算と計略のない純粋な心遣いに。

 

 

「ああ、すまないな、ルイズ。……存外、君は心優しい性格なのだな。いつの日か家庭を持ったなら、それはとても良い環境になりそうだな」

 

「な!? そ、そんなことわかってるわよ!! 当たり前でしょう!」

 

 

遠回しに「お前はいい嫁さんになれる」と告げられ、ルイズは自身のプライドに反して、赤面しながら口早にまくし立てた。

周囲には「このじゃじゃ馬が!」やら、「お前を欲しいなんて輩は相当なもの好きだな」といった悪口ばかり。

そんな中、使い魔とはいえ人語を理解し、それなりの容姿を持った異性にそんな高評価を受けるのは、かなり新鮮であり、気恥ずかしいものであった。

だがそんなことは露知らぬアーチャーは、何故ルイズが赤面しているのかさっぱりだ、と言いたげな表情を浮かべ、そのせいで厩舎までの道中、主人の照れ隠しに遭い、会話のキャッチボールを全て見送りされてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

その頃、赤と青の凸凹メイジコンビはと言えば、

 

 

「……6、1、4」

 

「目は……6、1、4!!」

 

「タバサ、見て! また当たったわ!!」

 

「くそっ!! また負けた! おい、嬢ちゃんイカサマしてんじゃねえだろうな!?」

 

 

賭場で荒稼ぎしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、首尾はどうだ?」

 

「へえ、お頭。……狙いは、こいつらです」

 

 

緑の平原と並走する二頭の馬を映した水晶に杖を(かざ)し、それを操作していた男に、皮の鎧とズボンを纏い、まるで野獣のような様相を呈した男が、近状を問うた。

薄暗い洞窟の中。そこには、二、三十人程度の屈強な体つきをした男たちが押し合い圧し合い、息をひそめていた。

薄暗い洞窟、といってもそれは、土のトライアングルメイジであるこの集団の長、ガロルド・ル・グザーレにより制作された竪穴式の隠れ家である。

彼らは、「獣」だ。

それも、手負いの。

人智を超えた何者かに襲撃された彼らは、三桁にも上る構成員の半分以上を失い、更には五人いたメイジの内、二人を失った。

あの夜以来、彼らは静かにその牙を研いでいた。来るべき、あの日の何者かへの報復に備えて。

構成員の大部分を失いながらも、彼らは何とかヤツから逃亡することに成功した。

そして、その後日、拠点にしていたあの洞窟から奴がいないことを確認すると、いくつかのマジックアイテムを回収し、今に至る。

 

 

(いや、あれはこちらが逃亡に成功したわけじゃねぇ。奴が、俺らを追う事を止めた。見逃してもらえただけだ……‼)

 

 

ガロルドの目に、復讐の炎が宿る。

薪に、ガソリンを注いだかのような、狂おしいほどに熱く、憤怒が圧縮されたようなその瞳に、周囲の男達数人が「ひっ」という短い悲鳴を上げた。

だが、ガロルドはその炎を心の奥底に押し込め、現状を分析し、溜息を吐く。

 

 

(まだだ。まだ足りん。こんな戦力では、奴の尾に噛みつくことさえままならん)

 

 

だから、彼らは魔法学院に狙いをつけた。

正確には、そこに通う貴族の令嬢、子息に、だ。

彼らを誘拐し、身代金を要求し、牙を研ぐ。

その計画の為、彼らはこの竪穴に隠れ、学院から外出する子供たちの中、護衛と警備が手薄な者たちをじっと待った。

勿論、学院側に悟られぬよう、町への街道の一つに狙いを絞って、だ。

そして、見つけた。標的は、ピンクブロンドの髪をなびかせる小柄な貴族の少女。

護衛らしき人員は、赤い外套の男一人。決まりだ。

 

 

「悪いな、嬢ちゃん、そして男。……俺の復讐のために、その体と血肉、貰い受ける。―――――さあ、野郎ども、狩の時間だ。存分に、敵を食らえ」

 

 

隠密の為、(とき)の声を挙げることは出来ない。

だが、男たちの身体からは、獲物を狙い、牙を研ぎ澄した獣の雄叫びの如き戦意が、滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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