Fate/guardian of zero 作:kozuzu
「こ、これが、神聖で、美しくそして強力な……」
呆然と呟くルイズ。
すると、すかさずキュルケが口を挟んだ。
「流石、大見得切っただけはあるわねー。まさか、平民の傭兵なんかを召喚しちゃうなんて」
ぷぷ、と嘲笑を漏らすキュルケ。
だが、その笑みも、一瞬で引っこむことになる。
男が、目を開いた。
瞬間、場が凍り付く。
(な、何なの? この重苦しい空気……!?)
男は跳ね上がり、鷹のような鋭い目つきで、周囲を見回し、最後に、ルイズにその視線を合わせた。
男に見詰められたルイズは、ガタガタと震え始める。
(な、なによこいつ…! 視線が、刃みたいに!)
身体を幾つもの刀剣で刺し貫かれる光景を、その感触までもをルイズは幻視し、幻覚する。
完全に恐怖に支配されていた。産まれてこの方、ぶつけられたことのない、本物の警戒の眼差し。
齢二十にも満たない少女が、耐えられるはずもなかった。
だが同時に、
(そうよ、私が、コイツを呼び出した。なら、コイツを私の使い魔にしてやる!!)
震える手足に無理矢理力を込め、急速に乾燥していく声帯に生唾を送り、詠唱を開始する。
「わ、我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
詠唱が終わると同時に、ルイズは駆け出した。赤い外套を纏い、周囲を警戒すように見回す男の唇へ向けて。
使い魔との契約。それを完遂するには、使い魔との口づけ、つまりはキスが必要なのである。
よって、ルイズは身長差の為か、爪先を精一杯伸ばしても届かないであろう男に飛びかかる。唇を目指して。
そして、飛び上がった瞬間、男の腕が閃き、いつの間にか手にしていた短剣が、ルイズの身体へ迫る。
周囲から短剣の出現により、悲鳴が沸くかと思ったが、
(なんで、みんな何も言わないの……? ううん、違う。何も言わないんじゃない。何も言えないんだ。早すぎて)
そう、これは、死を覚悟したルイズの視界が見せる、スーパースローの世界だったからだ。
しかし、この色が抜け落ち、世界が止まったかのような錯覚に陥る世界において、男の腕と、手に握られた黒い亀甲模様の片手剣の速度だけは、いつもと変わらぬ速度でルイズへ迫っていた。
(そっか、私、死ぬんだ)
そう覚悟し、目の前まで迫った黒い片手剣を前に、ルイズは今までの自分の人生を省みる。
ゼロのルイズ。出来損ない。不良品。公爵家の面汚し。
誰からも見下げられ、誰にも認められることはなかった。
でも、それでも、ルイズは努力を重ねたいつか、いつの日か、自分が認められる、その日まで。
だが、その望みはついぞ最後まで、叶うことはなかった。
そして、ルイズは瞬きする暇もなく、その生涯を―――閉じることはなかった。
(え……なん、で?)
と、思う暇もなく、ルイズは男の唇と、己の唇が接触し、殺しきれなかった衝撃で、前歯と前歯がぶつかり、ガチンと音が鳴る。
そして、契約が完了する。
魔法陣に身体が呑まれ、体中をまさぐられるような不快感の後、アーチャーは覚醒した。
自身が地面に伏していることを認めると、腹筋と背筋を伸縮させ、飛び起きる。
すると、
(何なんだ、ここは)
周囲を見渡すと、中世の砦にあるような石造りの塀に囲まれ、ふと視線を逸らすと、これまた中世の物語から抜き出したかのよう荘厳な雰囲気を醸し出す城、というより塔に近しい建造物が自身の目の前にそそり立っていた。
(少なくとも、日本ではないな)
聖杯戦争の後、座に呼び戻され、次の戦地へ向かうその途中に、体中に刺青を刺した珍妙な男に嵌められ、魔法陣に呑まれた。
そして、召喚された場所は、少なくとも日本ではない。
自身に与えられた情報を加味し、そして周りを観察する。
そこには、黒いスカートか黒いズボン。そして真っ白なワイシャツの上に黒い外套を羽織った、年端もいかない少年少女たちの姿が。
それだけならば、自身が過去に飛ばされ、この目の前の少年少女たちが霊長の種に対し、何か不都合な行動を起こそうとしており、世界が反応した、と簡単な構図が出来上がるのだが。
(どういう、ことだ。俺自身への世界の干渉が消えている……?)
そう、いつもならばある程度の自由は確立されているものの、最後の一線とばかりに、その場でやるべき指令が常に頭に刻まれ続ける。
それが守護者という己の存在の定義である。
しかし現状はどうだ。
いつもなら
そしてもっとも彼を驚かせたのは、
(何なんだ、あれらは……?)
目の前に広がる怪物たちのパレード。
かの聖杯戦争でも、ここまでのラインナップは存在しなかった。
目玉に羽の生えた何か。ピンク色で毛むくじゃらな何か。そして、口から火を噴く蜥蜴。
たまに見知った鳥類や、モグラなどのありふれた動物も見かけたが、それを従えるのは、いづれも年端もゆかぬ少年少女たち。
そう、目の前のピンク色の髪を持った、小柄な少女を除いて。
(攻撃を未だ仕掛けてこない、という事は、今は警戒されているだけなのか、それとも、私なぞ、いつでもどうとでもできるという自信の表れなのか……だめだ。情報が少なすぎる)
そうアーチャーが思考を巡らせていると、目の前の少女が、何やら小さな杖らしきものを頭上高くに掲げ、ぶつぶつと何かを唱えている。
(来るか―――
アーチャーが身構え、自身に解析を実行する。
―――魔術回路二十七本確認―――
―――動作可能回路二十七本正常―――
―――魔力量正常―――
―――身体に損傷個所なし―――
―――神経、内臓等も損傷個所なし―――
―――身体機能の異常なし―――
そして、気づく。
(受肉している、だと)
己の体が、受肉し、完全なる一個体として成り立っていることを。
世界からの干渉もなく、霊体でもなく、霊長の守護者でもない。
ただ、英雄の力を持った、人間として。
驚愕の事実を突き付けられていたせいか、反応が遅れ、目の前の少女がこちらに飛びかかってくる寸前に、
(
使い慣れた夫婦剣
振るったのだが、
(何故、そんな目をしている)
目の前の少女の瞳に、こちらへの害意などはなく、代わりにそこにあったのは、
(届かぬ理想を前に、それでも諦めなどしない……まるで)
そう、届かない理想を前に、必死にもがき、苦しみ、決して膝を折らなかった、あの少年に、あの時の自分に、そっくりな目をしていた。
(……凛、すまない。頑張ろうと思ったんだけど、もしかしたら、ここで終わりかもしれない)
少女の首を斬り飛ばすはずだった干将を消し、アーチャーは少女を受け入れた。
何故ならば、
(だけど、この少女を斬ることは、すなわち俺の新たな決意を斬るという事と、同義なんだ)
そして、少女と、自身が、接触した。
唇と唇で。
――――刹那。
「ッ! ぐ、ウグアアアアアア!!」
左手甲に熱が生じ、身体中を這いまわった。
そして、自身の固有結界「
拙い、と咄嗟に少女を突き飛ばし、剣の射程から外した。
だが、意識を保つことが出来たのは、そこまで。
変質した結界の内部から、刀剣が自身をグシャリと穿つ、嫌な音を最後に、アーチャーの意識は暗転した。