Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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第四話 誘惑と驚愕 その十二

ズシャア、と砂に覆われた地の感触を硬いブーツの底で感知し、アーチャーは周囲を知覚する。

腕に感じる存在を自身の中で確固たるものにしつつ、先ほどから展開していた感覚の触手を外界に向けて伸ばしてゆく。その最中、

 

 

「よお、完全に落ちたと思ったんだがなぁ」

 

 

正面から、声がした。

その方へ視線を向けなおせば、そこには大きく穿たれた穴の淵に足を掛け、獰猛に笑う男の姿があった。

クツクツと可笑しそうに笑いながら、男はアーチャーに問いかける。

 

 

「なあ騎士様。あんた、メイジか?」

 

「……さて、どうかな。メイジであるかもれんし、そうでないかもしれんな?」

 

「クハハッ! ぬかせよ、剣士殿。あの切羽詰った状況で杖じゃなく、剣を抜いた時点であんたはメイジじゃねぇよ。もし、魔法が使えたとしても、あんたはメイジじゃねぇさ」

 

「ほう、その根拠をお聞かせ願えないかな。メイジ殿?」

 

「だってよぉ……あんた、気づいてんだろう? 俺らに包囲されてんのをよ」

 

「……」

 

 

アーチャーはその問いに答えない。

それを肯定を受け取った男は、さらに粗野な笑いを深める。

そう、気づいている。アーチャーは、勘でしかなかった悪意の存在を、今や五感で捕らえきっていた。

森に切り開かれた一本道。左右から覆いかぶさるような木々の隙間から、時折耳が捉える呼吸音。何か液体が付着しているのか、ぬらりと光を曲げながら光る(やじり)の群れ。

囲まれている。

そう、知覚する。

以前の自分であれば、気配や心眼(真)による抽象的な知覚が精一杯だったであろう。

しかし、

 

 

(視界が明るい。風の一撫で、木々の擦れ合い、全てが鮮明だ)

 

 

熱を持つ左手甲を何よりも強く知覚しながらも、アーチャーは独白する。

ルーンによって(もたら)される、五感の強化。

それによって、今現在アーチャーの五感はかの騎士王クラスまで拡張されていた。

そして、それと同時に、

 

 

(……なるほど、意識すればするほど――――彼女を、護りたくなるというわけか)

 

 

ルーンによる精神汚染が、彼の思考を侵してゆく。

目の前の男が、伏兵たちがその戦意を滾らせれば滾らせるほど、感覚は鋭敏になり、同時にルイズ(契約者)護りたい(守護しなければ)という思考が頭を埋めていく。

理性は逃亡しろ、その方がリスクは低い、そう警告する。

だが、本能が、体は、目前の敵と周囲の敵意を殲滅しろと叫ぶ。

 

 

「そんなあんたに、ものは相談なんだがよ……その腕に抱えてるお嬢様を、置いてっちゃくれねぇか?」

 

「……出来ると思うか?」

 

 

それは、相手に向けられた言葉であり、彼自身の現状にも向けられたものでもある。

そして、それを相手が知る由もなく、言の意を否定と捉えた男は、後ろ手で頭をガリガリとやりながら、

 

 

「そうかい……まあ、分かりきっちゃいたんだがよ?一応訊いておいたのさ。じゃあ、まあ―――――トんでくれるか?」

 

 

刹那、無数の敵意が短い笛のような唸りを上げながら、アーチャーに迫る―――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々に隠れ潜んだ群れの数は、総勢二十。

地中を這う連絡要員とメイジを除けば、手勢の全てだ。その一人一人に麻痺毒を塗った矢と弓を装備させてある。

穴から上半身を出して矢を射るため、すぐに体を穴倉に引き戻せば、同士討ちの危険もない。

道は一本道。敵の足である馬は落とし穴に落ち、使い物にならない。逃げ場は、ない。

 

 

「そうかい……まあ、分かりきっちゃいたんだがよ?一応訊いておいたのさ。じゃあ、まあ―――――トんでくれるか?」

 

 

後ろ手で、ガロルドは頭を掻く。それが合図。周囲に隠れ潜んでいる群れへの合図。

意味は―――――「狩れ」。

 

 

(まさか落とし穴を回避するとはなぁ……落ちた拍子にフライで飛び上がる程度は予想しちゃいたが、まさか生身の身体能力で脱出とは……恐れ入ったぜ)

 

 

そう、ガロルドの魔法で製作した大落とし穴。それを、目標の護衛風の男は、なんと落ちる直前に馬から飛び退き、尚且つ背後から追走していた馬に飛びついた。

そして、落下する馬を足場に騎乗していた己が主人を救出して見せた。一瞬、フライの魔法を使ったかと疑ったが、彼が咄嗟に抜いたのは杖ではなく、腰に佩いたロングソード。なれば、彼はメイジではなく平民ということになる。

おおよそただの人間業とは思えぬ身体能力に、敵ながらガロルドは舌を巻いた。

 

 

(世界は広いってこったなぁ……まあ、あの数の矢を捌き切れるたぁ思えねぇ。で、忠誠心の低いやつなら自分の身可愛さに主人を投げる。が、さっきの問答でそれはねぇと証明された。……なら、こぼれた矢は、自身が盾になって主人を守るしかねぇよなぁ……)

 

 

そして、幸運なことに主人であるピンク髪のメイジは馬から飛び退いた時に頭を強く揺さぶられたのか、気を失っている。

で、あれば。

矢の毒で体が麻痺した男は無力化され、目標を奪取。それで任務完了だ。

そして、合図を呑み込み、木々の隙間から短い風切音が連続する。

これで、(つい)

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そう、誰もが思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオオンンンンンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、旋風が吹き荒れる。

 

 

「ガッ!?」

 

 

吹き荒れた旋風は木々を逆立て、木の葉を抉る。ビュワリビュワリと、大気が声を上げる。

あまりの突風に、ガロルドは意図せず爪先を地にねじ込み、両腕で眼球を庇う。

突風に巻き上げられた砂利が、彼の膨れ上がった前腕に叩き付けれらる。

 

 

(んだこりゃあ!! 突発的なハリケーンか!?)

 

 

前腕を砂利で叩かれる感触が止んだ。

数瞬の後、今度はピタリと風が吹き止む。

前腕を眼前から引き剥がし、ガロルドは視界を得る。そしてその目は、驚愕に染まる。

まるで、どこかの絵画から浮き出たかの様に散った木の葉が舞い、その中心に、彼は佇む。

左手に持った剣を、腰を落として振りぬいたその姿で。

その身体に傷は――――

 

 

 

 

――――ない。

 

 

 

 

その停止姿勢。矢を一矢たりともその身に受けてはいない、その奇状。これらから導き出される結論は、

 

 

(まさか、剣を振った風圧で矢を全て叩き落としたってのか!?)

 

 

そう、彼は叩き落としたのだ。

迫る矢を全て。

彼自身が生み出した剣風で。

 

 

(あり得ねぇッ!! んなこと出来んのは、かの烈風の騎士姫ぐれぇのはずだッッ!!)

 

 

そして、驚愕は連鎖する。

そこにいたはずの彼の姿が、一瞬で掻き消える。代わりに、

 

 

「グギャアアッ!!」

 

「うああぁあ!!」

 

「ああ、あぁァあアアあアア!!」

 

 

一人、また一人と、赤い外套が翻る度に、群れが一本道へと無造作に打ち捨てられてゆく。

そんな馬鹿な。あり得ない。不可能だ。こんなものは想定にはない。そんな、現実離れした現実を否定する言葉がガロルドの脳内に列挙される。

だがしかし、現実は、現状はどうだ。次々と眼前に転がされる己の部下たち。

耳に届く、獣達の悲鳴。

苦し紛れに打ち込まれる魔法の数々が、一瞬の煌きと共に消え去り、その直後に奔る赤線が行使したメイジを道へと打ち付ける。

嗚呼、嗚呼、嗚呼、何だ、何なんだ、これは。

 

 

(なん、何だよ……? 何だって、こんな、こんなことがッ!?)

 

 

無意味な自問が、自答されることはなく彼はただただ、呆然と眼前で繰り広げられる惨状を眺めている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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