Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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第四話 誘惑と驚愕 その十四

 傾いた陽の光を掻き消すように、二つの宝具が空に火花を咲かせる。

 七枚の花弁を象った紫色の大楯は死の因果を孕む朱槍を受け止め、鮮血のような花を散らした。

 

 

「───はあぁぁぁぁッ!!」

 

「Guyyyyaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

 裂帛の声が重なり、火花の散りが加速していく。やがて、徐々にではあるが朱槍が紫の大楯にその穂先を埋め始める。じりじり、じりじりとその凶刃が、その苛烈さとは裏腹に獲物(アーチャー)心臓(死の因果)へゆっくりと距離を詰めていく。

 一枚、二枚、そして今三枚。七枚あった大楯の花弁は、残り四枚。さらにその四枚目も今まさに刺し穿たれようとしていた。

 

 

 

(このままでは、押し込まれるッ……!!)

 

 

 右腕に感じる温もり。それを意識し、宝具発動の起点とした左手の五指一掌に更に力を込める。絶対にやらせはしない。その思いを乗せて。

 すると、それに呼応したかのように左手甲に刻まれた刻印が、宿主の腕を焼き尽くさんばかりに光を強める。

 

 

 

 熱い──熱い──熱い──熱い──。

 

 

 熱は左手甲を伝い、左手、肘、上腕と、やがて左腕そのものを焼いていく。

 その熱は、かつて自身が未熟であるが故に味わった、修練の熱に似ていた。そう、炉に晒された鋼の熱。やがて剣へと姿を変える荒々しい業熱だ。

 

 

(理性もなく、首輪の取れた駄犬風情に──!!)

 

 

 まるで熱に浮かされた(、、、、、、、)かのように、アーチャーは目を見開いた。

 その瞬間、

 

 

──キュイイインンンッ!!!!

 

 

 大楯が、花開いた。

まるで、先ほどまでの大楯が蕾か何かだったかのように、大楯が放つ光が強まる。

暮れかけた空と対照に光が森の木々照らし、光源から放射状に紫色の影が延びた。

 そうして、

 

 

──ガギンッ!!

 

 

 高周波な音が森に一瞬で伝播し、また一瞬で消える。

 

 

 弾いた。

 

 

 かの魔槍を、死の呪いを、先の聖杯戦争では片手と魔力の大半を犠牲にほぼ死に体状態で受け止めたあの魔槍「ゲイ・ボルク」を殆ど完全に、弾き返した。

大盾は半壊したが全壊には至らなかった故に、魔力の損耗も以前に受け止めた時とは比べ物にならないほどに抑えられていた。

 そうして、主人の危機を一時的に脱した為か、身体を浮かしていた熱が手甲まで引いていく。

 熱が収まり、冷静な思考がアーチャーに返還された。

 

 

(一刺一殺の呪いの槍を、こうも簡単に……。原因は、十中八九先程の奇妙な感覚か。であれば、これは固有結界の変質に付随する何らかの現象であると見て間違いなかろう。トリガーは、主人の危機といったところか……しかし、冷静な思考を犠牲に強大な力を得る、か。……まるで、狂化の呪いだな)

 

 

 空から再び地に足を付き、ソレは無造作に右手を掲げた。

 そこに弾かれた朱槍が直線を不器用に繋ぎ合わせたかのような複雑な赤の軌道を描き、掲げた右手にストン、と収まった。

 それを確認するより以前、アーチャーは地に突き立てたままのデルフリンガーを無視し、左手に陰剣莫耶を投影。

 通常、夫婦剣・干将莫耶はその手に一組をそろえてこその宝具だ。

 だが、現在右腕はルイズを抱えるのに埋まっており、夫婦剣をその手に備えるのは人体構造的に不可能。そして、いくら前回よりも効率的に運用できたとはいえ、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)はその七枚の花弁を揃えるのに、決して軽くはない魔力を消費する。

 だが、下手に神秘の内包が少ない剣を構えれば、剣ごと身体を槍に貫かれるだろう。

 故に、最も使い慣れた夫婦剣、その片割れを召喚するに至った。

 そうして投影し終えた莫耶を、右腕に抱えたルイズを庇う様に右足を引き、半身に構える。そして、

 

 

「Guaaaaaaッッ!!」

 

「はああッ!!」

 

 

 両者の距離が一瞬にして無に帰した。

 突き込まれる朱槍、鳩尾、肝臓、咽仏の順に三刺がほぼ同時突きこまれる。

 一突きたりともその身に受ければ、必死の呪いが自身を苛む。

 しかして、アーチャーはその全てをことごとく陰剣莫耶で弾き飛ばす。響く、限りなく間隙の無い三度の金属音。その音を合図に、剣戟は加速の一途を辿る。

 その身に迫る多彩な朱槍の刺突に加え、槍の尻に作られた石附によって繰り出される打撃、信じられぬほどの加速を生む両足からの蹴り。

 それらを刻印によって強化された五感と、膂力を用いて無理矢理に捌き、いなし、振り払う。

 両者、一進一退、いや、アーチャーは右腕にルイズを抱えているため、無茶な挙動は制限される。それこそ、音速域での戦闘などもっての外だ。そんな事をすれば、気を失っているルイズの首の骨が負荷に耐え切れず、ボキリといってしまうだろう。

 故に、アーチャーは今一歩踏み込むことが出来ず、相手の懐には未だに飛び込めない。

 現に今も、相手の槍撃を弾き落とし、その衝撃で相手が仰け反り追撃の機が巡っては来ていた。しかし、リーチで負け、あまつさえ手に護衛対象を抱えたこちらは自身から攻め入ることはリスクが大きすぎる。

 よって、防戦一方とまではいかないが、

 

 

(このままでは、ジリ貧か。……ルイズをどこか安全な場所に退避させることが出来れば、形勢は一気に逆転し得る。だが、奴の目を盗みルイズを退避させることは不可能に近い。

──一か八か、やるか?)

 

 

 この場を覆し得る、起死回生のの一手。

 が、脳内に浮上したその一手をアーチャーは即座に却下する。

 

 

(いや、この場での固有結界の展開はリスクが大きすぎる。変質も未だ不鮮明、魔力も心もとない。賭けは賭けでも、自殺行為にも似た蛮勇か)

 

 

 なれば、この場をどう切り抜ける。

 模索、検索、思索。

 考えろ、考えろ、未来を探せ、確実な未来に手を掛け、足で踏み固めろ。

 無限に続くような剣戟の嵐の中、アーチャーは思考を澄み渡らせる。

そして、その思考の最中、アーチャーは視界の隅──空からこちらを見つめる、二対の瞳を視認し、その存在が瞬時に彼の思考に組み込まれる。

 

 

(賭けであっても、そちらの方が幾分か利があるか。……ならば、)

 

 

 決めた後は、行動あるのみ。

 その言葉を忠実に実行に移す。機は、突進の後に生まれる隙。

 

 

「Gyyyaaaaa!!」

 

 

 迫る、理性なき獣の刺突。踏み出した瞬間に足場は陥没し、その勢いの強さを物語る。そして、それに合わせるように、アーチャーも地を蹴る。

 

 

「ふっ!」

 

 

 そうして、両者の獲物が交差する。

 ガキン、とルイズごとアーチャーを射線に捉えた刺突を力任せに叩き落とす。

 しかし、叩き落としのその反動を利用され、円の軌道を描き槍の石附がアーチャーの側頭部を狙う。

 その反撃を膝をかがめて回避。

 回避と同時、その勢いで地に槍が突き立てられ、相手の膝が折り畳まれる。

そしてその次の瞬間には突き立てられた槍を支柱に、アーチャーの中心線を狙った両足蹴りが飛ぶ。

 

 

「っ!」

 

 

その蹴撃をしゃがんだまま体の中心線を軸にターンすることで躱す。そしてその間、蹴撃の勢いのまま槍を地から引き抜き、相手は数メートル先に両足から着地する。

そうして、

 

 

(……来たッ)

 

 

遂に、機が訪れた。

着地時に折り曲げた両膝をバネに、またしても突進を繰り出す。

 その突進を、待っていた。

 突進の兆候を察知した瞬間、アーチャーは逆に相手方に吶喊(とっかん)する。全力を発揮する訳にはいかないが、彼が今発揮し得る最高速度に一秒とかからずに到達。両者は距離を一瞬にして縮める。

 そして、両者の得物が火花を散らすその寸前、

 

 

「“――――投影、開始(トレース・オン)”」

 

 

アーチャーは目前に無銘の大剣を一振り相手の足元に剣先が向くように投影。その投影が実像を結んだその刹那、

 

 

「ふっ!」

 

 

 大剣の柄頭を靴底で蹴り飛ばす。

 これにより、座標を固定され何の運動力もなかった大剣に、突如として前方への運動能力が与えられる。そして、銘も無き大剣はその場で英雄を殺し得る弾丸へと変貌を遂げた。

 音を置き去りにする速度で迫る大剣。大剣は地に着弾した瞬間その地を穿ち、暴風を晒す。それら一つたりとてその身に受ければ、例えサーヴァントであろうとも無傷では済まされない。

 だが、それは攻撃が当たればの話だ。

 まるで狂ったかのように疾走する槍兵は、大剣の襲撃をいとも容易く掻い潜る。必殺の爆風などまるで元からこの世に存在しなかったかのように。

 突進の速度は緩まない。

 しかし、アーチャーは馬鹿の一つ覚えのように空中への投影を繰り返し、大剣を宙に浮かべては蹴り、浮かべては蹴る。 

 いくら攻撃に威力があろうとも、当たらなければ意味がない。その戦場での真理を体現するかのように、槍兵はアーチャーへと距離を詰めた──

 

 

 

 

 

──はずだった。

 

 

 

 

 

 そう、本来ならば距離は縮まりアーチャーと槍兵は再び剣戟の最中へ戻っていくはずだった。しかし、そうはならない。なり得ない。

 何故ならば、アーチャーと槍兵の距離は縮まるどころか、徐々に距離を離していく。

 横軸ではなく、縦軸に。

 

 

「Gyyyaaaaa!!」

 

 

 縮まぬ彼我の距離に激昂したのか、槍兵は吼える。そして、ようやく横軸ではなく縦軸に距離を離されているという事象を解したのか、自身も縦軸に距離を詰めるべく膝を曲げ、跳躍の前動作を始める。

 そこへ、アーチャーの大剣射撃。

 獣の勘で危険を察知した槍兵は、縦軸への跳躍に用いるはずだった膝のバネを、横軸へ無理矢理に傾ける。間髪入れず、そこへ大剣が着弾。土煙を巻き上げる。

 槍兵は横方向へ跳躍し、槍を樹木に突き刺して足場を確保。

槍兵は否が応にも理解させられた。これは、千日手だ。アーチャーを空へ逃がしたその時点で、所謂「詰み」という状態に移行したのだ。

 そうして、自身の苛立ちを隠せぬ槍兵に、アーチャーは更に距離を稼ぐ。稼ぎつつ、その跳躍などの動作を大剣で牽制。

 

 

「Gaaaッ!!」

 

 

 吠え立てる槍兵。しかし、その声は負け犬のソレに等しい。

 そうして、その状態が何手か続き、終わりは唐突に訪れる。

 槍兵を正面から見下ろした状態で大剣の射撃を行っていたアーチャー。それが、次の大剣の射撃の瞬間に、クルリと身体を反転させる。

 反転したその正面に見据えるのは、

 

 

「……え?」

 

 

 二対の瞳──タバサとシルフィードだった。

 

「……すまない、少々預かっていては貰えないか?」

 

 

返答を待たず、ルイズをタバサへ放る。

 あまりの暴挙に、タバサの思考が一瞬止まる。停止した思考の中、いつの間にか雲の切れ間から除いていた双子月の光が、宙に踊るルイズの桃色の髪を濡らした。

 一瞬、不覚にも綺麗だ、などと場にそぐわぬ感情を切り捨て、理性で以て自身の使い魔に命じる。

 

 

「……シルフィード!」

 

「きゅいい!!」

 

 

 タバサと同じように呆けていたシルフィードだったが、タバサの一喝で目を覚まし、主人の命令を言わずとも実行する。

 放物線を描くルイズの軌道を予想し、その道中にシルフィードという着地点が滑り込む。ぽす、という間の抜けた音を発し、ルイズの身柄はタバサの手中に入った。

 それを見計らっていたかの様に、アーチャーが重力に引かれ始める。

 

 

「恩に着る」

 

 

 その一言を残し、アーチャーは戦場へと落ちていった。

 

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