Fate/guardian of zero   作:kozuzu

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幕間  ガンダールヴ

「ちょっとアンタ、やるじゃない! まさかあのギーシュをあんなにコテンパンにしちゃうなんて!」

 

 

 決闘が終わり、観客の波をかき分けるように部屋に戻ったアーチャーとルイズ。昨夜と同じで、互いに向き合う形でカフェテーブルに座った二人。

 興奮した様子のルイズとは正反対に、アーチャーは酷く冷静に、ルイズの言葉に応えた。

 

 

「一つ訊きたいのだが、ルイズ。あのギーシュとかいう貴族……あれは、どの程度のレベルのメイジなのかね?」

 

「え?……えっと、そうね。多分、二年生では平均的なレベル、だと思う。それにあんなに簡単に勝っちゃうんだもの、心配して損したわ!」

 

「……因みに、この学院で一番上等な奴は、私を圧倒できると思うか?」

 

「それは、ちょっとわからないけど……でも、今日みたいなあれ。なんか剣を持ったら、一瞬アンタの姿が霞んで、気づいたらギーシュのゴーレムが全滅! あれがいつでも出来るんだったら、上級生も目じゃないわ!」

 

「そうか……」

 

 

 本当に嬉しそうに、まるで自分の事のように語るルイズだが、アーチャーは全く表情を動かさない。

 ルイズが言っていた、剣を握った瞬間の、魔法の発動。そこからのあり得ないほどの五感と膂力の強化。いや、もはやあれは飛躍と呼んでも差し付けないだろう。

 あれは何だったのか?自分は一体、どうしてしまったのだろうか?やはり、固有結界の変質と何か関係があるのだろうか?

 幾つもの解決の糸口が掴めない疑問を前に、少し前に倒したメイジのことなど、戦闘経験以外は既に切り取られ、頭の片隅に追いやられていた。

 そして、流石私の呼び出した使い魔だわ!とか何とか、昨夜のしおらしい姿など見る欠片もないほど自画自賛を行っていたルイズに、アーチャーは水を指すように言った。

 

 

「ルイズ、私に文字を教えてくれないか?」

 

 

「へ……?」

 

 

 召喚された矢先、そして先の戦闘(?)でも感じていた、情報不足を解消するために、ルイズとのコミュニケーションも重要だが、言語の習得も極めて優先度の高い事案である。

 今まで、何の違和感もなく会話が成立していたが、それは本来ならば、絶対にあり得ない。

 言語とは、生まれた地の文化、環境に大きく影響を受ける。

 ならばこそ、魔法が生活の基盤となっているこの世界が、アーチャーが元いた世界の言語が通じるはずもない。

 だが、現状はどうだ?

 名前を理解し、会話の裏を取り、論争が出来るまでにコミュニケーションが成立している。

 あり得ない。だが、それが起こっているのだから仕方ない。受けいれる。

 だが、このことについてアーチャーは、

 

 

(十中八九、コレも、例の刻印の恩恵なのだろうな……)

 

 

 左手甲に刻まれたルーンを、また見やる。

 今のところ、最初の暴走から、アーチャーに害を成すような作用はなく、それどころか恩恵、恩恵、リターン、リターンと、良いことずくめしかない。

だが、

 

 

(短期的にみれば有益でも、長期に渡ってそれが続くとは限らない)

 

 

で、あれば。

 

 

「私は、ここについて何も知らない。昨日話した通りだ。……そして、言っていなかったが、私は臆病者でね。不安要素は即刻取り除きたくなってしまう性格でね」

 

 

 虚を突かれ、しばし硬直するルイズ。だが、言葉を理解したその時から、瞼が半分下がり、じとーとこちらを見つめる。

 その瞳は、あれだけの事をしておいて、何を言っているんだ、と悠然と物語っていた。

 アーチャーは視線を柳に風とばかりに受け流し、言葉を続ける。

 

 

「それに、今日は使い魔と主人がコミュニケーションを取る日なのだろう?であれば、浅学な使い魔が、博学な主人に教えを乞う。至って自然。ともすれば、人間同士だからこそ可能な理知的なコミュニケーションであると、そうは思わないかね?マスター?」

 

 

 博学な、の部分を強調し、アーチャーはルイズへ提案を猛プッシュした。

 

 

「確かに、そうね……。よし、決めた! アンタは今日一日、私がみっちりと言葉を教えてあげるわ! もう許してって言っても、聞かないわよ?」

 

「お手柔らかに頼む」

 

 

 そう言って、ルイズは機嫌よさそうにむふー。と息を吐く。

 アーチャーは、かの「あかいあくま」と同様に、これからも取扱いには多大な注意が必須だが。

 それでも、アーチャーにはルイズの運転の感覚が、少しずつ掴めてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、アーチャーがギーシュと遊んでいた少し前まで遡る。

 王立トリステイン魔法学院は、魔法の系統になぞられ、火、水、土、風の四つの分棟と、始祖ブリミルが使用したとされる第五の系統虚無を表した一番背の高い本棟のいつつで構成されている。

 その本棟の最上階。

 そこに、学院長室がある。

 そして今そこには、二人の人物がいた。

 内一人は、真っ白な長髪と、それとお揃いの長い口髭を持った老人。学院長、オールド・オスマンは、高級そうなセコイアの机に、頬杖をつき、鼻毛をぶちぶちと抜いていた。

 学院長という大層な肩書をもつオスマンだが、何もない日々は、彼にとって退屈であった。まあ、その退屈が平和の証でもあるのだが。

 そんなオスマンだったが、おもむろに机の引き出しに入った水煙管を取り出し、至福の時はきたれり、とばかりに口に運ぼうとしたところで、その水煙管は宙へふわふわと逃げてゆき、もう一人の人物――――緑の腰まで届くロングヘアーと、理知的な顔立ちの女性。オスマンの秘書、ミス・ロングビルの手へ収まった。

 それを見たオスマンはつまらなそうにつぶやいた。

 

 

「年寄りの楽しみを奪うのが、そんなに楽しいのかね?」

 

 

 重要書類である羊皮紙から目を上げずに、ロングビルは応えた。

 

 

「お言葉を返すようですが、あなたの健康管理も私の仕事の内なのですわ」

 

 

 表情をピクリとも動かさず、言い切った。

 そこで、いつの間にか彼女の後ろに回っていたオスマンは重々しく瞼を閉じ、

 

 

「こうして平和な日々が続くとな、いかに退屈を攻略するかが人生の価値をきめるんじゃよ」

 

 

 深く刻まれた皺は、彼の生きた年数の証であるが、正確な年齢は、誰も知らない。

 百年、いや二百年は生きているのではないかとまことしやかに語られている。

 

 

「オールド・オスマン。退屈だからと言って、私のお尻を撫でまわすのはやめてください」

 

 

 冷静な声でロングビルは非難する。

 なお、目は羊皮紙から外さない。

 

 

「真実とは、一体どこにあるのだろうか……? 考えたことはあるかね、ミス―」

 

「少なくとも、私のスカートの中にはありませんので、机の下にネズミを潜り込ませるのもやめてください」

 

 

 またも非難。するとオスマンは、口を半開きにし、ほげーほげーと意味不明な呻きをあげ、部屋の中を徘徊する。

 

 

「都合が悪くなるとボケたフリをするのもやめてください」

 

 

 今度は目を上げ、鋭い目つきでオスマンを睨む。

 すると、オスマンは気圧されたように一歩後ろに下がると、足元に来ていた小さなハツカネズミはオスマンの足から肩へと上り、首を傾げた。

 それを確認したオスマンは、元の席へと戻る。

 

 

「気を許せる友は、今やお前だけじゃ……モートソグニル」

 

 

 哀愁をにじませた声でネズミ、モートソグニルに話しかける。そしてポケットからナッツを取り出すと、モートソグニルに与える。ちゅうちゅうと、嬉しそうになくモートソグニル。

 

 

「そうかそうか。もっと欲しいか。よかろう……じゃが、その前に報告じゃ」

 

 

ちゅうちゅう。

 

 

「おお、そうか。白か。純白とな……じゃが、ミス・ロングビルには黒が似合う。そうは思わんかね? モートソグニル」

 

「オールド・オスマン」

 

「なんじゃねミス・ロングビル?」

 

「今度やったら王室に報告します」

 

「カーッ! 王室が怖くて、魔法学院学院長が務まるかーッ!」

 

 

 目を剥き怒鳴るその迫力はよぼよぼの老人とは思えなかった。

 

 

「下着を覗かれたぐらいで、カッカしなさんな! そんな風だから婚期を逃すのじゃ、は~生き返るの~」

 

 

 そういったオスマンは今度は堂々と尻を撫でまわす。

 すると、立ち上がったロングビルは、そのまま上司を足蹴にする。

 

 

「痛い。やめて。もうしない。ほんとに」

 

 

ここまでは、日常の一コマである。

だが、

 

 

――――ガァアン!

 

 

「たた、大変です! 学院長!」

 

 

 それは大きなドアの開音と共に現れた闖入者。眼鏡をかけた壮年の魔術講師コルベールによって破られた。

 因みにこのとき、既に二人は示し合せたかのように元の位置へ戻っていた。

 

 

「大変などはない。すべては小事じゃ」

 

 

 無駄に威厳たっぷりな態度で応えるオスマン。

 因みに、先程の人物と同一人物である。

 

 

「これです!」

 

 

 そう言ってコルベールが見せてきたのは、

 

 

「なんじゃ、『始祖ブリミルと使い魔』ではないか。こんな古い本を引っ張り出していないで、たるんだ貴族からもっと学費を徴収するすべを考えたまえ、ミスタ……?」

 

 

 首をかしげる。

 

 

「コルベールです! ですが、今はそんなことは……よくはないですが、とにかくこれらを見てください!」

 

 

 まくし立てるように言って、オスマンは右手には本の記述を見た。

 それだけならば、だからどうした?と訊き返すのだが。

 左手に持った、とあるスケッチを見た瞬間、目の色が変わり、雰囲気が一変する。

 

 

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

 

 

 雰囲気が変わったことを察した彼女は、黙って部屋を出る。

 それを見送ったオスマンは、再び口を開いた。

 

 

「詳しく、説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」

 

「はい。オールド・オスマン。こちらは、昨日の『サモンサーヴァント』で呼び出された一人の男の手に刻まれたものです」

 

 

「呼び出された男……あの、契約が完了した途端、全身から刀剣を生やして気を失ったという、アレかの?」

 

「はい。……剣を抜こうにも、抜けず。壊そうとしても一切魔法が効かない。……ミス・ヴァリエールの爆発以外は……。ですが、取り除いても取り除いても生えてくる刀剣。我々は諦めかけましたが、ミス・ヴァリエールが必死に治療を行い、何とか回復いたしました。……その事にも勿論疑問を持ちました。ですが、時間が足りず、調べ、考えても、答えは出ませんでした。ですが……次の疑問……こちらのスケッチ。この謎だけは、何とか」

 

 

 神妙な顔で語るコルベール。

 そして、次の言葉を口にしようとした、その時だった。

 

 

――――ワアアアア!

 

 

 

「……なんじゃ?」

 

 

 オスマンは、普段の学院ではあまり聞き慣れない歓声を庭から聞き取り、『遠見の鏡』と呼ばれるマジックアイテムを使用し、その原因を突き止めた。

そこには、

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 コルベールが声を上げた。

 それも仕方のないことだ。何故なら、今さっき話していた人物が、そこでメイジの少年と対峙していたからだ。

 そして、声も聞こえてくる。

 

 

『あの『青銅』のギーシュが、ルイズの呼び出したハリネズミ男と決闘だってよ!』

 

 

 それに追随する他の少年少女たち。

 そして、その声を聞いたコルベールは、血相を変えて叫ぶ。

 

 

「決闘など、今すぐ止めさせましょう!」

 

「いや、待つのじゃ。……少し、様子を見ようではないか」

 

「何を悠長なことを! このままでは、彼が死んでしまう!」

 

「……その記述と、君のスケッチが正しいのならば、そんなことは起こり得まい……じゃろう?」

 

「し、しかし……」

 

 

 なおも言いつのろうとするコルベールだったが、無慈悲にも決闘の火蓋は落とされ――――そして、目を疑った。

 白髪に黒色の肌を持つ平民が、素手でゴーレムを圧倒していたのである。

 そして、決闘は終盤にさしかかる。

 そこで、その平民が、瓦礫の中から剣を拾う。

 

刹那。

 

 

――――ズゥウン‼

 

 

 轟音が鳴り響き、一瞬棟全体が震動する。

 コルベールは机に寄りかかり、オスマンは鏡を倒さぬように支えた。そして、目を開けると、そこには『固定化』によって強化されたはずの壁に、大穴が空き、庭にはクレーターが出来ていた。すわ敵襲か、と身構えたが、そこに外敵の姿はなく、代わりに、優雅に貴族の下へ歩み寄る平民の姿があった。そして彼は、貴族の少年の頭を掴み、片手で持ち上げる。その数瞬後、貴族の少年は負けを認め、地に落ちた。

 それを観ていた二人は、憔悴しきった表情で、顔を見合わせる。

 

 

「オールド・オスマン……伝説の使い魔『ガンダールヴ』は、どんな武器でも使いこなし、千の敵を退かせたと言われています。相手が、最下級のドットのメイジであったとはいえ、これは……」

 

「始祖ブリミルは、呪文の詠唱が長かった。その魔法の強力さゆえにな。であるから、その無力な時間を補うため、ガンダールヴという使い魔を用いた。ああ。その通りじゃが……これでは……」

 

 

 

 

 

 

 

――――――時間を補うどころか、一人で軍隊と張り合えるではないか。

 

 

 

 

二人は、全く同じ感想を抱き、そして同時に戦慄した。

 

 

「この件、私が預かる……よもや異論はないな?」

 

「ええ、勿論ですとも……」

 

 

ここまでの大事、王室に報告し、指示を仰ぐのが筋だ。

だがしかし、単体で軍隊と張り合えるような使い魔を、軍に渡せばどうなるかは、明白だった。

 

 

「彼は、ただの平民だったのかね……?」

 

 

まるで、祈るようにオスマンはコルベールに問いかける。

だが、

 

 

「残念ながら、彼は平民です」

 

「その身から、剣を生やしたというのにか?」

 

「ええ、念のため、というか最初に『ディテクト・マジック』でメイジではないことを確認しました」

 

「……彼を『ガンダールヴ』にした生徒……ミス・ヴァリエールと言ったかの? 彼女は、優秀なメイジなのかね?」

 

「いえ、むしろ無能と言って差し支えないかと」

 

 

そこまで聞いたオスマンは、杖を持って窓際に立ち、遠くを見据えながら、大きな溜息を吐いた。

謎が謎を呼ぶ、とはこの事なのだろう。と、長い人生を省みながら、初めての経験をオスマンは噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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