恋雨~重装護衛艦『倭』~   作:CFA-44

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ハーメルンには初投稿ですが、何番煎じか分からない二次創作で宜しければ温かい目で見ていってくださいw


本編
~プロローグ〜


‐此処は何処だ?俺は死んだのか?‐

=全テ倒セ。己ニ刃向カウ者共ヲ。=

‐何故?俺は最早動けぬ身だ。そんな俺に何をせよと命ずるのか。‐

=我等ハ全テヲ破壊スル為ニ生マレシ者。コノ世ノ全テヲ我等ノ持ツソノ牙デ破壊シ蹂躙尽クシテヤロウデハナイカ。=

‐そうか……ならばその意思に俺は反対しよう。‐

=何ダト?我々兵器トハ全テヲ破壊スル為ニ在ルベキモノダロウ?……=

‐違う。それはお前だけの見方だ。俺は世界を決して見捨てはしない。そうあれば自ずと世界は変わって行く。その為に俺は全てを守る為の兵器で在り続けよう。‐

=……マア良イ………好キニ生キテ行ク事ノ厳シサヲジックリト味ワウト良イ。全テガオ前ノ思イ通リニナルト思ワヌ事ヲ肝ニ命ジテオク事ダ…………=

‐フン、それは此方の台詞だ。何度来ても沈めてやるよ究極超兵器■■■■■■■■■■■。‐

 

 

『時雨!しっかりしなさい!』

「僕はもう……動けない……だから僕を置いて先に行って……」

『何馬鹿な事言ってんのよ!!アンタ今までの事全部ふいにするつもり?!』

破壊された艦橋にまで侵入してきた海水。それは艦橋の残骸と共に僕の身体に重く圧し掛かって動く事を不可能と言う事を意味していた。

返事をする事も脱出する事も不可能になった今、僕はただ沈むに任せる以外、出来る事は無かった。艦首部分?そんなものル級の砲撃で吹き飛ばされて粉微塵さ。そのまま速度を落とせずに一気に機関室まで浸水して動けなくなった所へ僕の所属するトラック泊地最高指揮系統、詰まる所“提督”から何としてでも戻って来いと指示が飛んできていた。

 動く事も出来ない僕を助ける術を持たない西村艦隊の皆は止む無しといった雰囲気で艦隊針路を、当初目標のレイテに向けた。そう、それで良いんだよ。僕は此処でゆっくり休むとするよ。艦隊が見えなくなった後、燃え尽きた僕の船体には遠くから聞こえる砲音とただ静かに波がぶつかって消えていく。そして夜空は曇っていたけど切れ間から覗く満月。だけどそんな天候にも関わらず、霧が出て周囲が霞んでいく事に僕は少し不満を覚えていた。

‐折角の良い月明かりなのに霧で霞むなんてね。‐

 その時違和感が脳裏をよぎった。今日は霧が出るような天候じゃなかった。そもそもここはスリガオ海峡の手前だからそうそう霧が出るなんて事はなかったはず。そして僕達以外スリガオへ艦隊が来る予定はなかったと思わせる重厚な機関の音。それは霧の中から迫り、僕の近くへやって来た。

 霧を抜けて現れた巨大な艦首。その先に月明かりに照らされた菊の紋章がいやに映える。やがて全体が顕になった巨艦は僕の近くで停止。大和型にとても良く似ているけど武器がまったく違った事に驚いた。

見ただけで分かるのは主砲と副砲。異様なまでの圧力を放つ巨大な3連装の主砲。その巨大さは重厚な鎧を纏った水牛をも連想させた。副砲は重巡洋艦達が積んでいるのと同じ砲を3連装砲として前艦橋と後艦橋の前に各1基ずつ配置されていた。

『ソコノ駆逐艦。聞コエテイルナラバ返信セヨ。コレヨリ貴艦ノ救助作業ニ移ル。』

何かの幻だと思いたかった。絶望の深淵に飲み込まれていく所だった僕に光が、救いの糸が齎された。急いで手元を探すと、手持ち式発光信号機が転がっていたのでそれを手に取った直後、まるでもう放っておいてくれと言わんばかりに『時雨』の船体は急に沈降を早めた。

‐嫌だ、まだ、死にたくない!船体が無くても身体が無事ならまだ生きていられるんだ!あぁ、扶桑、山城、皆、ごめんよ。僕は、僕はまだ生きていたいんだ!‐

あっという間に艦橋が海水で埋め尽くされ、艦尾が急速に持ち上がっていく感覚に襲われ、嫌でも沈没していく事実を突きつけられる。完全に水没する直前に出来る限りの信号を送った。出来れば、いやきっと届いて欲しい。

 

 

「艦長、駆逐艦が沈没を始めました。」

「何か返信はあったか?」

「一度だけ。『我、駆逐艦時雨。死ニタクナイ。』とだけ。」

「……副長、夜の海は暗くて冷たいだろうか。」

他の妖精から艦長と呼ばれたそれらしき男は一瞬だけ考えると、奇妙な事を口走る。

「は?ええまぁそれは冷たいでしょうが。それが何か?」

「指揮を頼む。俺は少し頭を冷やすついでに引っ張りあげてくる。」

「言うと思いましたよ。ここは任されましたのでどうぞご無事で。」

「ああ。」

男は艦橋を出て甲板に移動すると、急いで海に飛び降りる。向かう先は既に後部煙突まで沈もうとしている駆逐艦『時雨』だ。海面に人らしき浮遊物が無い事に気付くや否や、即座に素潜り同然で海中に潜って潰れた艦橋へと向かう。

 辿り着いた艦橋は見るも無残に半分ほどが圧壊しており、その先にあるはずの艦首は消え失せていた。急いで出入り口と思われた扉を持ち前の腕力で強引に引き剥がして内部に進入すると、天井に近い位置で何かに引っ掛かったように宙吊り状態になった1人の少女を見つけた。

 少女を外へ出そうとするが、何かの引っ掛かりを覚えた。が、気にする余裕は無しとかなり強引に引っ張った時、これまた何かが破ける音が聞こえたような聞こえなかったような気がしたが兎に角引き出すことに成功し、急いで海面を目指す。既に船体は完全に海中に没していたのでかなり危ない状態だった事を改めて認識した。

「ぶはぁっ!」

「……………」

浮上した直後に手に抱えている少女は確か時雨とかいったなと思い出しつつ自艦に向かって泳ぎ出す。

『大丈夫ですか艦長。今ラッタルを降ろしますよ。』

舷側に近付いた途端、副長達が自動ラッタルを下ろして乗艦できるようにしてくれたので急いで登る。1、2番主砲の近くに搭載された防楯付40mm4連装高角機銃の傍で全体的に診て異常が無いか調べていく。

‐外傷は……特に無いな。それは良いとして意識が無い。大量の海水を飲み込んだようだが、どうやって吐き出させようか。人工呼吸は……目覚めた後で厄介事になりそうだからやるのは駄目だ……後は精々背中を叩いて海水を吐かせるだけだな。‐

やるしか無いのかと思いつつ男は時雨を自身の膝に伏せさせて起きてくれよと願いつつ掌底で背中を叩いた。

 3回、4回と数を重ねる内に本能で海水を吐き出そうとする動作が起き、9回目に達しようとした時にやっと海水を吐き出してくれた。が、腹一杯になるまで海水を飲んだのかと言わんばかりに吐き続ける。

「ゲホッゲホッ………生き、てるの、かな?」

「生きてなきゃ海水なんて吐かんだろうが。」

「君、は?」

‐なんて儚い姿なんだ。‐

それが、彼女、時雨という少女に抱いた第一印象だった。

 

 

 沈んだ直後からは何も覚えていないけど、何か背中を思いっきり叩かれている感じがして、次第に胸にこみ上げてくる吐き気に耐え切れなくなって海水を吐き出した所で混濁していた意識が覚醒した。

「ゲホッゲホッ………生き、てるの、かな?」

開かれた目が捉えたのは月明かりに照らされた海面と、眼下に広がる木製甲板。どうやらあの戦艦の上に居るみたいだ。そうして、生きている事が奇跡だと思っていた直後、上から声を掛けられた。

「生きてなきゃ海水なんて吐かんだろうが。」

顔を上げると、蒼い瞳の男性が僕を見ていた。

「君、は?(何て哀しい眼をしているんだろう…)」

「俺は、倭。倭型重装護衛艦倭だ。こっちの大和型とは何もかも違う化物ってところかな。」

そうして“彼”との出会いは僕の運命と恋の歯車を唐突に動かした。

 

 

‐トラック泊地‐

「司令……御気持ちは分かりますがそろそろお休みになられては……」

「霧島の言うとおりです。今司令が倒れられたら元も子も無いじゃないですか……」

「駄目よ。扶桑達が、あの子達が死に物狂いで戦っている時に寝られるもんですか。還ってくるまで絶対に寝ないわよ。」

「「はぁ……」」

「何よ比叡、霧島。その“駄目だコイツ早く何とかしないと”的な溜息は。」

「駄目な司令だからつい態度に出てしまいましたね。」メガネクイッ

「てーとくさんダメダメっぽい?」

「ぐぬぬ……言わせておけば……」

『提督!!』

「どうしたの榛名?」

『電探指揮所から距離8万に一瞬だけ電探に巨大な物が映ったとの報告です!』

「「「???」」」

この巨大環焦にあるトラック泊地に着任している笹川有紀子大佐の下へ奇妙な伝達が来た事を境に、世界は大きく動き出す。

「その後変化は?」

素早く意識と表情を切り替えると榛名に問い質す。

『は、はい。その後は距離6万に帰投して来る西村艦隊を確認して以降、何の変化もありません!あ、それと!』

「何か?」

『西村艦隊の被害報告を先程通信で受けました。読みます…大破:扶桑、満潮。中破:山城、朝雲、山雲。小破:最上。…以上です。』

少し言いよどんだ榛名ではあったが、笹川はその僅かな澱みを聞き取っていた。そして、不吉な予感を感じる。

「待って、報告に時雨の名が無いけどどうしたの?」

『その…実は……』

あまりにも言い辛そうにしている事は彼女とて理解していた。が、それでも報告はきっちりしてもらわねば困るのだ。

「言いなさい。どんな状態でもきっちり報告しろと厳命したはずよ?」

『時雨は……海峡突入直前に敵艦隊からの砲撃を受けて艦隊より落伍。それ以降の消息も掴めず、艦隊が帰りにその場所を通ってみても見当たらなかったそうです………』

「……………そう、時雨が……報告ありがと。」

駆逐艦1隻が行方不明。捜索をしたくとも夜間の索敵は不可能。そして今はレイテに居座るル級エリートフラグを叩かなくては周辺基地は危機的状況に置かれてしまうため、捜索に回す戦力も時間も、全てが圧倒的に足りない。

「てーとくさんどうしたの?時雨がどうかしたっぽい?」

「もしかして大破してるんですか?!」

「……MIA」

『え?』

自分達の最高指揮官が告げた言葉に理解が少々追いつかない艦娘達に分かり易く伝わるようにもう一度笹川の口は開かれた。

「戦闘中行方不明の事。報告では突入直前で敵艦から砲撃を受けて艦隊より落伍。帰還時にその近辺を通っても何も見つからなかったらしいわ。以降何処に居るのかも分からない状態よ。」

「じゃあ助けに行かないと!」

「残念だけどもう夜よ。今出て行ってむざむざ敵に喰われるような事は出来ないわ。」

「じゃあ時雨が死んでも良いって言うの?!」

「少しは話を聞きなさい夕立!誰が死んだと言ったの!司令はまだ分からないと言っただけよ!」

「ぅ………」

終わり無き論争になり掛けた所を霧島が何とか食い止め、執務室の椅子を立った笹川は真後ろの窓を開け放って持ち出していた双眼鏡で夜の海を、真正面に見える夜の海を見る事にした。

最初に受けた距離8万の位置に突如現れた巨大物体の存在が一番気に掛かっていた。距離8万であればこちらの射程外であるが、もし深海棲艦であるならば奇襲を受ける事になる。

「比叡、全艦娘に通達。『現時刻を持って緊急警戒態勢並びに即応攻撃準備に入れ。警戒態勢解除はこちらからの支持があるまで維持せよ』と。」

「はいっ!」タタタッ

この通達は滅多と出さない非常事態宣言の指示。要は鎮守府若しくは泊地、基地などが侵攻の危機に晒された場合の最終警告でもある。詰まる所、後が無いという事。

 窓から見える宿舎に一斉に明かりが灯り、慌ただしく艤装を付けた艦娘達や憲兵達が走り回る様子が伺えた。この日、西村艦隊は敗北したものの無事に戻って来た。しかしそこに時雨の姿は無く何処へ入ったのか探すのは明け方になってからと決定した。

 日が昇ってすぐに正規空母達から彩雲が続々と発艦して西村艦隊が通った航路を軸にして捜索網を展開した。それから2時間後、執務室に信じ難い情報が飛び込んできた。

「それは、本当なの?」

「はい。彩雲からの情報では時雨に間違いないと。」

「それは分かったけど、ーーその後ろに“大和型らしい戦艦が1隻くっ付いて航行している”というのが真実なのかどうかよ。」

「それも間違い無いそうです。どうやらこのまま此方へ来るつもりなのでしょう。全兵装の砲身が最大仰角を取っていると。」

「良いわ。此処へ来る事は許可しましょう。」

双眼鏡を覗くと、確かにレイテ方面からゆっくりやってくる巨大な鋼鉄の城。双眼鏡で見る限り大和型より少々大きい船体に46cm砲がどっしりと備えられて全ての砲身が空を見上げていた。そしてその斜め前には見慣れた駆逐艦時雨の姿がある。巨大戦艦とは別に時雨が戻ってきた事もあって港湾部に集まった皆が喜んでいた。

 時雨が環焦内部に入ったのに対して、巨艦はその外で艦首を此方に向けつつ停止。何事かといぶかしんでいる所へ、発光信号が送られてくる。

「『我、貴泊地ノ用事ガ済ムマデ外縁部ニテ待機ス。』か。中々慎重な艦ね。許可は時雨の話を聞いてからでも遅くは無いかしら。」

そうこう言っている間に、時雨が執務室に戻ってきた。

「白露型2番艦時雨、戻ったよ。皆、心配掛けてごめんね。」

「御帰り時雨。無事で居てくれて良かったわ。取り敢えず部屋に戻って、と言いたいけど……」

「ああ、倭の事だね?大丈夫だよ。あの人は僕を助けて此処までずっと守ってくれていたからね。別に此処を攻撃する意図は無いさ。それに、」

「信用するかしないかは私次第って事ね。オーケーオーケー時雨が言うなら問題は無いわ。」

アッサリと時雨の言う事を鵜呑みにした私に対して他から少なくない反対意見も飛んでくる。

「司令、幾ら時雨の言う事が本当だとしてもあっさりしすぎてませんか?(汗」

「そ、そうですよ!もしかしたら不意打ちで撃って来るかも「彼はそんな事しないよ比叡さん。」で、でも……」

時雨が此処まで巨艦に味方するのはただ助けられた事だけではないと笹川の判断力は確信していた。道中で何かがあって彼女の信頼を勝ち得たのだろうと。だが、それよりも気になる事があった。

「時雨、今……“彼”って言わなかった?艦娘じゃないの?」

そう、確かに時雨は“彼女”とは言わず、“彼”と言い切った。そこに違和感を覚えるのは当たり前であろう。

「うん。倭は男の人さ。自分で“艦息”なのかもって言ったからね。」

「それは触診して確かめましたか?!」ドア(バーン

「ドアが壊れるから止めなさい変態ピンク!!」

「ピンクは変態の証です!!」

「それはアンタだけ!全国のピンクに謝んなさい!!」

「明石……それ言ったら彼の61cm砲で消されるよ?」

またしても爆弾発言をする時雨。その真相を確認すべく上陸許可を出す発光信号を送ると、

『2番バースヘ接舷セヨ。接舷後、上陸ハ1人ノミ許可ス。』

『了解。2番バースヘ接舷ス。』

タグボートと周辺警護に当たっている警備艇と海防艦の群れに囲まれながらゆっくりと環焦内にやってくる巨艦。綾波が先導役を努め、2番バースへ接舷。

 改めて近くで見るとこの戦艦がどれだけの死線を潜り抜けてきたのか雰囲気で分かった。まるで“触れるな”とでも言われているようなオーラを放ち、その船体に見合う重厚かつ威圧感たっぷりの巨砲。船体についた無数の弾痕と細い傷達がこの戦艦が数多の戦場を駆け巡って来たのか想像を容易にしてくれる。

憲兵達までそう感じているのか何時もは冷静で居るはずの顔に冷や汗がドッと噴き出していた。それは既に降ろされたラッタルの上に立っている男が冷ややかな感情を湛えた蒼い瞳で見下ろしていた為だと思いたい。が、

「ん?」ガッ

『あ。(一同)』

盛大な音を立てつつラッタルを転げ落ちた。それも防波堤のコンクリートに顔を盛大にぶつけて。

「むぅ……」ムクリ

『あ、起きた。(艦娘’s)』

『痛くないのかな…(憲兵’s)』

落ちていた帽子を被り直して此方に歩いてくる男に対して憲兵隊が震えつつも銃剣付38式歩兵銃を構える。それを気にもせず、男が言った事は、

「倭型重装護衛艦倭。向こうの世界で対超兵器用に建造されたこの身が無用の長物で無い事を確約しよう。」

あまりにも突拍子も無い事だった。

 

 

‐執務室‐

場所を変えて話す事に(真夏の日差しが照り返す中で対話は危険なので)して聞きたい事を聞くことにした。

「初めまして。私はこのトラック泊地の最高指揮官笹川有紀子です階級は大佐を拝命しているわ。」

「此方こそ改めて自己紹介をさせてもらう。倭型重装護衛艦倭。二文字の大和じゃない事は分かってくれ。」

二文字じゃない、と言うのは本当の事らしい。書かれた文字は遥か昔の日本の国名『倭』。そんな古い国名を使った戦艦は男として目の前に居る。そして肩の印を見れば、将官クラスということも分かった。

「で、俺に聞きたい事があるから呼んだんじゃないのか?」

「ええ。幾つか質問しますが宜しいですか?」

「大丈夫だ。」

歴戦の戦士の威圧感を少々納めた倭に対して、私は質問を切り出していく。なるべく相手の気に触る事の無いようにしながら。

「まず1つ目です。貴方は我々の味方ですか?」

「愚問だ。向こうの世界で同じ旭日の旗を掲げてあの大海原を只管駆け巡ったのだ。世界が変わろうとも似て非なる者だとしても俺は同胞を決して裏切り、見捨てるような事はしない。」

「…では2つ目です。貴方は我々に協力していただけますか?」

「日本、その国がどんな状態になっているかは大方時雨から情報を得ている。それに日の本の国に生まれた事を誇りに思っているのでね。何より俺が提供できるのは武力とある情報のみだが喜んで帰順させてもらう。」

「……そうですか。では3つ目です。何故、見ず知らずの時雨を助けていただいたのでしょうか?」

「就役当初からこの世界に来る直前まで、最後の最期まで俺の相棒の任を全うして沈んで逝ったのが白露型防空駆逐艦2番艦時雨だからだ。それ以外の理由は無い。」

「……向こうの世界にも白露型が?」

「ま、この世界で言う所の秋月型対空駆逐艦と同じ扱いを向こうの世界で受けていた。特に俺の所属していた解放軍の白露型は別格でな。秋月型より小型のくせに本家よりも多大な戦果を上げて大活躍だった。尤も、その高性能さが帝国軍航空部隊に目の仇にされて最後は時雨を残して壊滅した。」

「では最後の質問です。貴方は何処から来ましたか?」

「それを説明しても信じてもらえるとは思わない。だが、俺は事実しか言うつもりは無い。俺が、別の世界から来た戦艦、という事だけは変わる事の無い事実だ。」

「何故此方の世界に来たのかしら?」

「此処へ来る直前まで俺は北極海で究極兵器2隻と交戦して2隻とも撃沈したが最終的に俺も北極海に沈んだ。恐らく戦闘の影響で何かが起きて此方へ来てしまったくらいしか思いつかんよ。」

どうやら彼の居た世界は帝国という強大な国家が世界を支配していたようで、自由と独立を求めて立ち向かったのが彼が所属していたと言う解放軍らしい。それに技術進歩も凄まじい勢いで進んでいたようだ。そして一番違和感を覚えた事を聞いてみる。

「ところで、貴方には高角砲が見当たらないのだけど?」

「ん?ああ高角砲ね。最初から積んで無い。」

「何故かしら?」

そう、彼の船体には対空戦闘の要とも言うべき高角砲が全く無かった。だが、彼から帰って来た言葉は私達の予想だにしなかった答えだった。

「ジェット戦闘機に対抗するならミサイル以外にそれなりに威力もあって連射の利く速射砲や機銃を搭載していた。それに搭載スペースを取るから邪魔なんだ。今は後付け代用品の15.5cm65口径連装砲12基で対応している。」

『ジェ、ジェット戦闘機?!』

あろう事か、彼はジェット機相手に重い高角砲は要らないと切り捨てたようだった。それにしてもジェット戦闘機が戦場の空を駆け巡っていたとは。

「半端じゃない数のジェット機が空を飛ぶんでな。その辺に機銃弾をばら撒けば何らかの損害を与える事が出来る。それ故高角砲の需要は俺が居た艦隊じゃ予備品としての補充以外無かった。それよりも火力も高くて対空対艦両方に対応できる15.5cm砲が俺には魅力的だった。」

最早高角砲嫌いなのかと疑いたくなり、高角砲達が可哀想に思えてしまった瞬間であった。

「で、貴官等の要求は何かな?技術開発のために俺を解体するのかな?」

『いやそこまで言ってないし(一同)』

「取り敢えず搭載している主砲の事を聞いてから艦内を拝見したいな~なんて。」

「何だその程度なら機密区画以外ならある程度案内しても良いだろう。主砲に関しては時雨がさっきチラッと言ったと思うが……冗談抜きだぞ?」

「明石は…どう思う?」

「工作艦として言わせてもらいますがあれはどう見たって46cm砲じゃないと断言します。あんな51cm砲より大型の艦砲なんて見た事ありませんし何より口径が気になります。見積もっても45口径、いや50口径以上かと……」

明石から見たあの巨砲の推測情報だけでも驚愕すべき事だが、搭載者本人が何でも無いかのように言った言葉が更なる波紋を呼ぶ事になる。

「ご名答。あれは61cm60口径3連装砲だ。最大射程60km。電探と連動した場合は100km以上の射程を叩き出せる正真正銘の怪物砲だ。」

「ろ、61cm?!」

「60口径だと?!」

同席していた大和や武蔵が唖然となるのも分からなくもない。つい最近試製51cm45口径連装砲が大和、武蔵用に納入されたばかりであり、鎮守府総数から見てもまだ極一部でしか運用されていない大型砲なのだ。そんな所へ61cm60口径3連装砲という超長砲身の怪物砲が出現した事で46cm砲や51cm砲の存在意義が揺らいでしまいそうだった。

「み、見たり触ったりしても?」

「別に余計な事さえしないなら構わんのだが……生憎“何故か弾薬庫が水浸し”でな。何処かドックで修復しないと撃つ事も出来んのだ。」

対する明石や夕張等の機械好きにとっては僥倖であったらしく、眼がしいたけ化していた。そのため、

「提督!是非入渠させるべきです!ついでに触診も!」

「待て、私としては前者に同意は出来ても後者は同意出来かねる!」

「触診も1つの確認の方法です!(キリッ」

妙に決まった感じの明石と武蔵の対話にも全く動じないままの倭に有紀子達は感心していた。結局入渠させる事になったのだが、肝心のドックに大破した扶桑が入っていたため、高速修復材を利用して戦線復帰させた。

「あ、そうそう。この泊地の主力は扶桑と山城よ。私の所に来た最初の戦艦だったから愛着が湧いたとでも言うべきね。」

「そうか。俺には、そういった事は良く分からん。ただ戦の為に生まれて死ぬだけのものだと思っていたからな。」

浸水している事を微塵たりとも感じさせない巨艦は、扶桑が出た後のドックにすっぽり収められた。ドックに居た誰もが倭の大きさにただただ圧倒されるばかりであった。

 始まった修理作業と平行して有紀子は大本営にこの艦の事をどう報告しようか悩んでいたが、先に修理してしまってから新型艦がトラックに漂着したとでも誤魔化しておこうと思いながら執務室に戻ったのであった。

 

 

 その頃、大本営ではーーー

「いかんな……この所海域が上手く攻略できておらん……」

「申し訳ありません総長。自分の艦隊が後一歩の所で力及ばず敗退した事、どうかお許しください……」

「気にするな参謀長。君も、君達の艦隊も良くやってくれた。ワシの艦隊であればスリガオに着く前にやられて居るだろう。それにしてもーーー」

「失礼します。総長、先程トラックの笹川大佐より入電!」

「何と?」

「ハッ!『当泊地ニ新型戦艦漂着ス。漂着艦ニ敵意ハ認メラレズ、我ガ方ノ戦力トシテコノ漂着艦ノ戦力ヲ欲ス。』以上です。」

「その漂着艦というのは?」

特に明言する事も無く倭の事が漂着艦と報告されたのは疲弊しているであろう軍首脳部に余計な負担を掛けたくなかった意味合いを笹川が込めていた事を誰も見抜く事は出来ず、寧ろ逆に混乱と波乱をトラックに招く事なる。

「いえ。特に書かれているわけでは……」

「それでは誰の事か分からんではないか!!」

「落ち着け東山中将。その漂着艦の事は後でワシが確認しに行けば良い事だ。ここ最近戦力が損耗し続けているトラックには丁度良いではないか。」

「甘いですぞ久遠総長!その漂着艦がもし深海棲艦側であった場合は危険なのは総長御自身である事を考えてください!」

確かに東山の言う事も尤もではあるが、この久遠総長は直接激戦区に赴いて提督や艦娘達を労う事が生き甲斐でもあった。

「のう、龍田はどう思うかね?」

「総長が言うなら大丈夫だと思いますわ~。」

付き人龍田の助言もあって東山中将は“俺ではこの人を止められん”と思いながら溜息をついて席に着く。だが、龍田が言った一言が倭に最初の試練を課す事になるとは誰も予想はしなかった。

「でも~。そんなに気になるなら本土に呼んで演習でもやってみたらどうかしら~?」

『何と!!!』

その手があったと相槌を打つ者も居れば、では誰が演習相手になるかと言う者も居た。

「で、演習の相手はどうするかね?」

「少々気に入りませんが福本中将に一任しては如何かと。」

「奴をか?!あんな品も無い下衆を演習相手に?!」

「それでは漂着したという新型戦艦があんまりではないか!!」

「あくまで彼の戦艦の性能を検証するだけの演習ですが、些か心配ではありますな。何せあの“捨て艦戦法”を平気で公言した輩です。良からぬ事を企むに違いありません。」

ボロボロに言われる福本中将はその渾名の通り艦娘をただの道具としか見ておらず、自分の鎮守府の艦娘達から愛想を尽かされている事に気付いていない。それは当然この会議室に集まっていた提督達にも被害が出ているからであった。

 その事はまた後で語るとして、倭に最初の試練が降りかかろうとしていた。

 




 はい初っ端から主人公は時雨のハートを射止めちゃいました。その理由は何時か語りましょうぞw 本来不明艦をあっさり受け入れてあっさり入渠させる事はありませんが此処では器の大きい笹川大佐の成せる事だと思ってくださいw
 そして大本営の方々が大分疲弊しておりますのはレイテ島攻略の為のスリガオ海峡突破が果たせていないからでありますw
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