龍奈side
倭から夜雨経由で渡された主砲の資料をスキャナ片手に読み進めている。凄く細かい部分まで書き込まれているのは良いが、紙媒体、しかも印刷なので印刷の潰れや掠れ、印刷時にトナーかインクと一緒にくっついたデブリなのでちょっと見づらい部分が多くなっている。それを修正しながら物理的な構造やシステムの構成を仮装3DCGシステムに対応させていく。
(三連装砲塔の割に、なかなか興味深い機械的構造で駐退機とスタビライザーの一軸を賄って省スペース化を測っている……絶対耐久的にこれは厳しいのになんでこれが成立するんだろう……この部分が剛体かつ金属疲労を無視するなら実用圏内だけど…………これを電極として使うのか……漏電が心配だな…………なんでこれはこのままなんだ……?…ここは……なんだろうこれ……現状ブラックボックス過ぎて私にもわからない…………これは……点検用のハッチ……違う、これ妖精用か……道理でやたらと小さい……妖精とかいう摩訶不思議システムが謎すぎてどうにも出来ない……うーん……妖精について色々調べる必要かあるかな…………)
「…………」
電子化するためのスキャナを机の上に置きふと、時間確認の為に時計を見る。
時計<日跨いだで
外が暗い。どうやらご飯も食べずに丸一日費やして主砲とそれに関する書類を眺めていたようだ。
ちなみに
(…この主砲誰の砲なんだろう…………倭のでも同型艦のでも無いし…………)
龍奈はそこまで知る由はなかった。メメタァ!
(……………………父の会社の部署でも似たような物を見てたけど、あれ結局ここの部分が資金不足で解決できずにお流れしたんだったかな……。まぁこっちは長砲身の液体気化式の特殊砲だったから別物、か。)
自分の元の所属部署の事。父がトップを務めていた会社で開発していた特殊新型砲の開発案件。社運をかけたかなり大規模な国家プロジェクトの1つだった。だが、ライバル企業の妨害や紛争解決のための資金援助により必要な金と時間が不足した。そのため、国の指導によりやむ無くライバル企業と弊社の計画を見直す事になった。
それに伴ってその部署に居た職員の多くは事実上のライバル企業との『合同会社』に転職という名前の配置換えが発生した。そのため結論から言うと元の部署は消滅してしまった。
……私もその配置換え対象のうちの一人だった。
……新会社の運営方式は2つの会社のトップがそれぞれ半々の指揮を執るというちょっと訳の分からない方式だったが、そこは問題では無いので話は流す。
私の所属した部署は液体火薬の気化式砲ではない『電気式新型光学砲』の開発部署。……夜雨に積まれてる『αレーザー』の開発に携わる事になった。
その部署は他にもパルスレーザーやレーザー測距システムなんかのソフトウェアがメインで、ハードウェア側『も』できる人は私含めた数人ぐらいしか出来ないため他の人が日の出の搭載に、私が夜雨に乗り込んでデータの収集・解析・修理・調整を担当することになった。……その試験中にこっちに飛ばされたせいで、父に『ありがとう』や『さようなら』ぐらいの挨拶すらできなかったのはちょっと悔しいけど、いい父だった……と、思う。母?気がついたら居なかった。
ちなみに夜雨のアレは試作型ではなく日の出型光学戦艦用の先行量産型の実地試験と初期不良の確認用だったりする。
『大艦巨砲主義』
親父が目標にしていた研究開発テーマである。だが、世の中は非情で『手数主義、不殺主義、鹵獲主義』の3つがまかり通っていた。しかも、それを裏付ける研究や論文が出まくっていて肩身が狭かった……らしい。
それを貫いて生きている倭を見ると、なんと言うか、むず痒いというか、羨ましいというか……
「……とりあえず、ご飯食べて風呂入って寝る。起きてそっから考える、よし。」
……そろそろ上がろうかな。ご飯も食べてないし。
……今ご飯が食べれる所は空いてないから購買……じゃなかった、酒保は……営業時間過ぎてる……となるとコンビニか艦に戻らなきゃ無さそうですね……とりあえず資料をまとめて量子領域にしまっちゃおうね。……よし、ご飯ご飯〜。
そう決めてドアを開けた瞬間、
「丸一日部屋に籠るのは君の勝手だが、飯を食わずに居るというのは無視できんな。」
カレーを持ってきた倭が居た。
「あ、うん、ありが………………」
「ではな。」
倭が扉を閉める。
……これ、どう見てもやばい気がするんですけど。
本能がこれは絶対に食うなと言う警鐘を鳴らす。光の角度とか光の明るさとかも考慮してもこのカレーのルーは赤かった。カレー色では無い。赤褐色色。そして明らかに鼻腔を刺激臭が占めている。
しかし、胃腸はこれを喰えと言うほどに食糧を欲していた。エネルギー的に乾き切った五臓六腑を満たせ!と。
私は大の甘党。カレーの中辛どころか甘口すら辛くて食べれない。どう見ても辛口以上のやばいカレーを食べ切れるどころか1口飲み込むことすら不可能ということは考えるまでもなくわかる。
しかし、ドックフードを目の前にマテをされた犬のごとく、私の身体は喰わせろと。無意識の中の本能と身体が意見を対立させ、私に行動を示すように訴えている。
文字通り後悔した。自分自身を恨んだ。飯テロかお預け状態か、と。
(……とりあえずよく観察しよう。何か食べられる方法が少なからずあるはず……これは……卵と……なんだろう。)
カレーライスの器の後ろに卵の入った小皿と謎のプラスチック製の小瓶が添えられていた。迷わずプラスチック製容器を掴み傾ける。その中には粘性のある黄色い流体状のナニカ。……パッケージがなくてもナニカがナニであるかがわかる。いつも珈琲の友として練乳と共に入れているアレ。
蓋を開けて少し指に垂らし、舐める。
(ペロッ……これは……蜂蜜!)
これならこの絶望的なカレーを食べ切ることが出来る……か。いや食べられる気が1ミリもしない……行儀は悪いけどそんなこと気にしてられる場合ではない。
迷わず卵を溶いて蜂蜜をこれでもかとぶち込む。それをカレーに垂らしさらに容器全部の蜂蜜をその上からぶっかける。そして、そのブツをよく混ぜて均一に馴らす。それでも激臭は収まらないが、何もかけないよりは遥かにマシであるということは分かる……
……覚悟を決めるしかない。ここまでやってしまった以上、食べる以外の選択肢がない。覚悟を決めろ私。
「い、いただきます……ッ!!!」
……覚悟を決めて、いざ。
パク…………………………ブブォォァッッ!!!!!!
口の中に走る激痛。辛いじゃなくて痛い。辛いじゃなくて痛い(大事な事なので2回言いました)。
痛い。スプーンを口に入れただけでこの激痛。
こんなゲテモノを普通に食べてる倭の味覚が完全に逝ってる……
道理で艦長が1発KOした訳…………死ぬ……
でも自分が作った物は責任をもって自分で食べるのが防空戦艦夜雨のルールだし……
(※勝手に龍奈が思い込んでるだけです。私の艦にそんなルールは無いです。はい。)
…………どう足掻いても食べ切れる気がしない。いや、普通に誰も食べれないレベルで痛いブツを食べれるのは倭ぐらい……
頑張って三口ほど口に入れた時点でギブアップした。
作ってくれた人と持ってきてくれた倭には申し訳ないが、どう足掻いても食べれないゲテモノなコレは残さざるを得ない……どうしよう……
倭side
龍鳳の改装は滞りなく進んでいる。大和も武蔵も問題無い……問題無いのだが、夜雨はαレーザーⅢ、35.6cm砲、280mmAGSを取り外しただけで作業が中断されていた。
一応、搭載予定の物はほぼ準備されており、56cm砲用の可変式ターレットリング等はドック内に搬入されているのだが、肝心の56cm砲がまだ改造・搬入されていない。
そこで、改造・搬入を待つ間、演習(という名の暇潰し)を何度か実施していた。まあ龍奈次第だからなんとも言えないが…………
「…………矢矧、回避行動の予備動作が丸分かりだ。そんなのは『どうぞ撃ってくれ』と言っているのと同じだ。簡易艤装時ならば尚更予備動作無しで出来るようにしろ。」
「っ!流石にそれは不味かったわね……頑張るわ……」
「…………比叡、榛名。お前等も動きが素直過ぎる。バカ正直に動くな。もっと霧島に教えて貰え。」
「き、気合い、入れて、頑張りますっ!」
「は、はいっ!」
「……熊野、撃つならあと仰角-5°にしないと俺には掠りもせんぞ。能代、お前もだ。」
「くぅぅぅ……」
「はいっ!」
熊野と能代の照準が俺を捉え、発砲されると同時にバックステップ。砲弾が巻き上げた水柱の飛沫を浴びつつそのまま比叡、榛名の砲撃に備える。
なんで俺が教官擬きをしなければならんのだろうか……そう思いながら彼女たちの攻撃をスルスル回避していく。と、背後から気配が。
「…………良く動きを読んだな。だが、まだまだ甘い。」スッ
「……っ……流石、です……」
背後から強襲を仕掛けて来た弥生の攻撃を左ステップで回避。流石に時雨達と一緒に強襲突撃戦法を覚えてきただけあって中々やるようになってきたな、弥生。
「……度胸は褒めてやる。だが……時間をかけ過ぎたな。」ピーッ
「あっ……」
演習終了の合図。肝心な所でミスをするのは相変わらずのようだ…………
演習の後片付けを済ませ、再び龍鳳のドックを確認しに行くと、龍鳳本人と笹川提督が話し込んでいた。恐らく艦載機の事だと思う。何しろ少数生産機体の上、本土でも極一部の鎮守府にしか配備されていない艦載機を本土以外で初めて運用する空母になるのだから念には念を入れて相談しているのだろうな。
正直艦載機に使えるならF-4EJを載せてやりたい。まだ開発で落ちていないからなんとも出来んが。
艦載機仕様に改造されたF-15NJなら、と思うがアレは滑走距離が長く、龍鳳の飛行甲板では短過ぎて搭載出来ても発艦不能になる。何より重い故にエレベーターが耐えられない。どうしようもないのだ。
龍鳳の隠し装備たる蒸気カタパルトで無理矢理打ち出す事も出来なくはないがカタパルトへの負荷を考えれば現実的ではなかった。
機体のサイズを考えても搭載可能数は少なくなるし、整備面でも狭苦しくなる問題点もある。
どうしたものやら…………
夜雨side
(…………あれ……いつの間に寝て……いや、寝た記憶はない……確か倭のカレーを食べ……たっけ?確か1口程々、口にして……まさか睡眠薬?!……ま、まさか…………違うようですね……ちょっと安心したような、ちょっとして不ま……欲し……いや、正直、そういう行為は寝ている間にして欲しくない。というか、そういうことはちょっと………初めては……その……夜景の綺麗な柔らかいベッドで……………倭は時雨と相思相愛だから私には関係無い……か……はぁ…………………せめて優しく頭なでなで……………流石に恥ずかし過ぎて無理……ご飯の同席ぐらいが限界………下方修正、今の私には遠巻きに眺めるぐらいしか無理かな…………なんでこんなことばっかり考えてるんだろ……はぁ……いろいろあって疲れがたまっているのかな…龍奈といい凪沙といい鈴奈といいなんでこんなにもめ事を起こすの…仲裁に入る私の身にもなって…って無理か。)
目を開けてぼんやりと天井を眺めていた。光を放つ丸い……LEDや蛍光壁では無い、物理的に暖かい光源…電気抵抗線灯……?なんだろう、これ。
(※夜雨は年代的に全てLEDや蛍光壁や電子灯等なので蛍光灯や電球を知らない)
……そんな物が1つ、部屋の天井に吊り下げられている。周りを見渡せば見た事のある…見慣れない部屋。倭の私室。
……本人曰く元、物置部屋らしい。
(……もう少し男臭いかと思ってた…。草原の香り…じゃない……なんだろう、茶の香り……?)
私の世界では「キュウス」と呼ばれる物で「茶葉」からお茶を入れる文化はもうとうの昔に古代の遺産化というか、長時間苦痛な拘束をされた上で壊れやすい伝統的工芸品を使う「サドゥ」と呼ばれる文化はもうほとんど残って無いに等しい物……のはず。
なので、お茶の匂いは分かるけど「茶葉そのもの」の匂いはわからない……
だから「茶葉」の香りを厳密な意味で嗅いだことは無いから分からないんだけど……これがそんな感じの香りなのかな?おばぁちゃんの、更にそのおばぁちゃんの家って感じかな?もうそんな家残ってないけど。
(…そういえば私の世界の皆はどうしてるのかな……)
思い出せない記憶を辿りながら顔と名前の出てこない同期や先輩、後輩のことを考える。結局何も思い出せないままなのだが……
……風のうわさ程度で聞いた話なのだが、どうも私は普通の艦娘とはちょっと違うイレギュラー的な存在らしい。倭もそうらしいが、それともまた別とのこと。
その話では、【艦娘】と呼ばれる存在はいくつかの生い立ちのパターンがある。倭はそのパターンのうちの一つ、艦の思念体と乗艦員の集合体?結晶体?……なんかそんな感じの物らしい。だから確率論で女の子の好きなタイプが混じってるから惚れる確率が高い?とか龍奈が真面目に研究していた……で、私はその中のどれひとつ当てはまっていないらしい。
(……考えても埒が明かないのでやめよう……)
辺りを見渡す。文字通り寝て着替えるだけ程度の物しか無い殺風景な八畳間。部屋の端に畳まれた布団が1つ、そして私が寝かされていた布団が置かれている。
それ以外は折りたたむことが出来る簡易机と同じく折りたためる簡易イス、
(…壁掛けのカレンダーの後ろの壁にヒビ……穴が空いてるのかな?……割と物を丁寧に扱う倭にしては珍しい。公共の場だと割とすぐに直してるのに。……もしかして就寝点呼後に時雨が入ってくる抜け穴……いや、同じ部屋のはず…この穴は一体……)
「あら?起きたのね。」
……この声は……うげ……春風……絶対顔かなんかに落書きされてるパターンだこれ……
「そんな幼稚なイタズラなんて倭にしかしないわ。それとここは倭の部屋。昨日は災難だったわね。倭のカレーは幾ら甘くしようとしても無駄よ。食べようと思う事が自殺行為そのものだから……」
……少なくとも人間が気絶するレベルだから【デスソース】や【タバスコ】が甘く感じるレベルのサムシング……多分最低でも【ハバネロ】、最高でも【キャロライ・ナリーパー】か【ドラゴン・ブレス・チリ】【 ブート・ジョロキア】辺りはほぼ確定。辛さの上だけで言うなら【Pepper-X】か、もしくは【カプサイシンの粉末】……その辺の濃縮エキスか粉末と【山葵】か【辛子】か【山椒肉】は当たり前に入ってるはず…カレーのスパイスが霞んで見えるレベルの
アレ、一応危険物質で直で食べると脳障害的な物が起きて死ぬとかいう話を聞いたのですけど…………
……少し前ぐらいに時雨から「制作時にタバスコ大量投入するんだよ」とかいう噂を聞いたけど、辛すぎて食べれない人がいるから意図的に薄めて味を整え、食べれる人を増やす(増えたとは微塵も言えないが)パターンの可能性が極めて大きい気が……
「……まさか口の中の物を吐き出すためにトイレに行こうとして頭をぶつけて気絶……いや、脳震盪を起こすとは思ってもなかったけどね。」
昨夜の私は倭の作ったカレーを食べて文字通り「一発KO」されたのか……
話を聞いていく内に分かったのだが、どうやら春風も倭の製作した激辛…のレベルではない殺人的な辛さのカレーの犠牲者らしい。なお、武蔵と陸奥は慣れたのか、ある程度薄められたモノであればガンガン食べているらしいが……
そんな事を言いつつ遠い目で虚空を見つめながら雑巾で畳を拭いていた。お茶の香りがほんのりとするのだからこぼしたのか、それともばらまいてしまったから掃き掃除した後だからなのだろうか……
そんな春風の後ろ姿は……なんていうんでしょう。一般的な魅力とはまた違う魅力があった。
海防艦の1枚ワンピースとか
私立小学校の学生服っぽい服とか
駆逐艦のノースリーブとか中高生の学生服っぽい服とか
スクール水着(旧)とか
スクール水着(新)とか
白スク水とか
水着とか
へそ出しルックとか
公式アニメでパンツパンツですよ!とか
全裸でポイポイやってる艦娘とか
パイスラがデフォルトな艦娘とか
言動がちょっと過激で男性提督や倭や1部憲兵やそのへんを刺激しまくってる艦娘とか
有明の嬢王とか
その辺の艦娘に比べたら春風の「服装は」まだ大人しい方であることは確かなのだが……何故か後ろ姿がとてもえちえち?だと思う。うん。女性かつまだ男性とお付き合いをしたことが無いのでその辺は……まぁ……うん。
でもえちえち?だった。……えちえち?ってなんですかね。私の頭の中で何かが……
私も軍属時代はそんなに周りのことを気にしてなかったから無自覚に刺激してた可能性はあるけど、そんな感じの空気は無かった……と信じたい。特に上官の胸ぺったんこ発言をした時を境に全くそんな感じのはなくなった気がする……
上官入院してたけど特に私に罰はなかったし………ちょっとスカートは短い気もするけど、見られないようにもう少し長くするべき……だと思うが、大本営指定っぽいので多少の差異はOKらしいが可能な限り統一というルールがあるので何も言わない方が良いのかな?ちょっとよくわからない、です。
……倭は短い方が好みなの……かな?……私の服装的に膝下というかふくらはぎぐらいまでのスカートだし、正直太ももに艤装着いてるけどほぼ死んでるから改装ついでに膝上ぐらいのスカートに新調するか、ちょっと巻いて膝ぐらいまでしてつまみ上げて…………/////…っ……さすがに破廉恥過ぎてドン引きされそう……でも、こんな事したら倭も私に………………………………いや、無いな。時雨服着なきゃアイツは絶対に反応し……いや、''あの''時雨にしか反応を示さなかった、からどこかそのへんを吹いてる風の如くスルーされそう……
……今思ったんですけど、春風も倭と男女のお付き合いしてるのかな…………正直
……正直、人と人とのお付き合いという意味で上手いことやっていける自信があんまりない……私だけならいいんだけど、他が……
……いっそ私が春風や時雨の寝巻きのような刺激的な服を着て寝込みを襲って無理やり中を取り持つって手も……………………
……なんでこんなやらしいことしか考えられないんだろう……はぁ……
倭side
「それで、56cm砲はある程度改造し終わったと。」
「ええ。」
「勝手に俺と雨月の方で細かい部分だけ進めたけどな。んで、これが夜雨側の要求だとさ。」っ紙
「んー?どれどれ…………
要求:
・重量過多にならない
・トップヘビーにならない
・仰角:90度程度
・俯角:最大15度程度
・電磁砲と火薬砲の複合型(プラズマ装薬は切ってもOK)
・薬莢砲弾/薬囊砲弾どちらでも撃てる(排莢システムは戦車砲と同じ砲閉鎖側から。薬莢砲弾は切ってOK)
・
・旋回速度はかなり速め(ぶっちゃけその辺はなんとでもなるからOKだよね〜ぐらいの要求)
・自分の砲撃で自分自身を壊さない程度に耐久を持たせ衝撃を抑える。
・物理的にスペースに収まるレベルに機能は追加しても良いが、上記の性能に影響を与えてはならない
次点要求:
砲身は液冷空冷両対応であればおk
……うっわ面倒くさ……」
「そういうな。HLG61設計システムにかかれば56cm砲を榴弾砲化するなど容易い事だ。まあ仰角90も何とかなるだろう。また手間をかけさせてしまう。スマンな明石。」
「いえいえ。引き受けた以上やらなきゃならないですから。勿論倭さんと雨月さんにもお手伝い願いますよ?」
「言い出しっぺは俺だ。付き合わねばならん。」
「ええ。お手伝いさせてもらいますよ。」
「ありがとうございますっ!!」
そう言いながら俺が懐から取り出したのは縦40cm、横60cmの長方形のノートパソコン。インターネットとやらには繋がっていないが、使えるので使っている。
何より、これはノートパソコンであってノートパソコンではない。艦船設計システムの為に開発された唯一無二の存在。
一一一それが『HLG61型設計システム』である一一一
その設計ユニットから伸びるコードを元からこの世界にある改装装置へぶっ刺す。そのまま設計システムを起動させ、データベースから夜雨改の設計図面を引っ張り出して改装装置に読み込ませる事で簡単に改装が出来てしまうのだ。
勿論、既存艦娘の改装もこのHLG61システムを使ったが簡易的な換装で済むと判断出来たため、図面を印刷して明石に手渡す程度で直接接続はせずに終わっていた。
夜雨の場合は大型艦かつ既存艦娘では無いので直接接続してやらないと読み込めなかったりして面倒な事が起こる可能性を考え、直接接続するに至ったのだ。
「おぉー……これが倭さん達の世界の設計システムですか……いいな〜……」
「唯一無二にして最高の設計システム。そして門外不出。」カタカタ
「てことは滅多にお目にかかれないって事ですよね。ラッキー、私!」
「…………(コイツやっぱバカじゃねぇのか?)」カタカタ
「あ、もう始まってたのね。」
そうこうしている内に春風がやって来た。夜雨の看病ついでに部屋の掃除をしてくれたらしい。
「夜雨は起きたか?」
「ええ。体調も問題無し。記憶は飛んでたけどね。」
「…………まあ大丈夫だろ。」
喋っている間も絶えずマウスカーソルを動かして兵装配置を動かしていく。なるべく原型を保ったまま、56cm砲を載せなければならないから。
ミサイルVLS等の配置こそそれなりに変わるものの、高角砲(高角速射砲なのだが倭がそういう認識をしている)やCIWSの位置はほとんど変わらないままである。
ミサイルVLSに関しては基数を減らさないという条件はあったが、位置を変更出来るのはありがたかった。
56cm砲を前部2基、後部1基とし、その左右に先程解析とついで程度の改造を済ませた35.6cm60口径3連装砲5基を副砲として280mmAGSの代わりに搭載する。
これならば後方への火力投射量の減少はそこまで気にせずに済む。
夜雨の図面へ搭載されていく56cm砲と35.6cm砲を合計8基分並べていく。もちろん、ミサイルVLSへ干渉しないように気を付けながら。
「これ機関系はどうするの?」
「彼女のは確か核融合原子炉、だったか。ちょっと俺が弄ってやっても良いんだが余計な手間になると思ってな。そのままだ。」
「えっと……つまり機関は据え置きって事です?」
「ああ。めんどくさくてな。」
「「アッハイ」」
めんどくさい。本当にこの一言に尽きた。放射性物質等の回収は俺が身体に取り込んでしまえばなんとでもなるが、新たに原子炉εを揃えるとなると俺の原子炉εを1基下ろして量産しなければならない上に、消し飛ぶ資材も馬鹿にならない。
(提督が燃え尽きる案件なだけにな……)
流石に今以上の無理難題を言ってしまうのは心苦しかった(大嘘だ)が。
夜雨side
倭から手渡された搭載予定の主砲の新規図面。一言で言うなら「でかい」そして「重い」
砲弾をのぞいた「砲そのもの」の重量だけでも改装前の船体なら確実に超過している。そもそも私が積載していた【35.6cm75口径電磁火薬誘導連装榴弾砲】よりも砲塔リング径が大きいから単純に比較はできないが…少なくとも総排水量…そもそも水に浮くかレベルから心配しなければならない程の大きさだった。
某所の私は「46cm45口径3連装砲(=大和砲)」を無理やり積んで沈んでますけど…大丈夫なんでしょうか…
そんな不安と期待のさなか、私の目にある数字が飛び込む。
【61 】
(61…61…あぁ、倭の主砲の内径ね…私には関係ないか。そこまで大きいのは龍奈が渋っているし。)
次のページをめくる。
61…
61…
61…
61。
61…?
61って何か特別な数字だっけ…
何かが引っかかる。
前のページに戻る。
確かにそこにはあった。61の文字が。
問題はそれが図面のタイトルであり、砲の内径、つまり攻撃時に撃つ砲弾のサイズだったこと。
つまり「倭」と同じということ。
…
(……あれ、これ私の主砲の図面ですよね…ページ数…でもない。なんで61…?
倭と…お揃い……
倭と…おんなじ……
初めて(のキスを事故とはいえ)あげちゃった倭と…お揃い……
え、「あの」倭と……?)
//脳内お花畑モードになったら周りが見えない
予想よりサイズが大きいとか重量がどうとか、砲身のサイズが倭のより短いとか、部品などの規格は一緒だけど厳密には倭のとは中身が少し違うとか、そんな些細な悩み【だった】ことが一瞬にして消えてなくなり、どうでもよくなった。
龍鳳、春風、弥生、夕立、そして時雨には積めない「61」が私の目の前に置かれたのである。
… 要求された通りの仕様に作り替えたらデカくなった。でかくなった…?倭と同じだから問題ないです。
・・・。
あれ、倭と同じだからって何か良い事ありましたっけ…
デカくて重くて扱いにくくて、上に向くかとかもあるし、発射速度とかも制約を受ける可能性もあるし、反動や故障、無限装填装置の対応やうんぬんかんぬん……
ぶっちゃけいい事ばかりでは……無くはないんだけど…………
……
……なんで私は倭が気になるのでしょう。確かに成り行きとはいえ……その……き、キス……しましたけど…………///
…落ち着け私…恥ずかしいこと考えて周りが見えてなかったけど…今から冷静になればセーフ…深呼吸深呼吸…
…もしかしてこの効果…? を狙って意図的にデカくした可能性…………いや、そんな事はあの朴念仁には無い……はず。
改めて図面を見ると凄く重そうに見える。
太くて長い砲身が真上を向いたり、-15°まで下げられている姿を想像…出来なかった。せいぜい55度ぐらいが限界な感じにしか見えない。
以前の【35.6cm75口径電磁火薬誘導連装榴弾砲】は3連装に変更し砲身を少し削って増えた重量を少し軽量化。それを5基15門搭載……
これ、後部砲塔の真ん中のヤツ、横向かない気が………
…………蛇腹構造……?せりあがる……?
……正直意味がわからない。というか、物理的に無理でしょ。これ。
……1度作らせてみて要求性能未満だったり、そもそも動作しなかったなら龍奈から「ほら見なさい。無理でしょ?自分の出来ること把握しときなさいよ(ry」とかお説教させてクレーム処理すれば良い……
後は……
AGSはGPSが使えないから撤去。
連装レーザーは「試作品か正規型の先行生産品知らないが、出力が足りなさ過ぎて赤色発光信号機」になるから撤去……VLSは配置変更と、中間航行がGPS誘導系のミサイルの部品交換で管制及び慣性、ビーコン等の誘導ができるようにする改修をする。
AGSは仕方ないとして、レーザーは航空機は軽く焼き切れるし、潜水艦は黒色だから割と簡単に穴あけが可能だからちょっともったいないかも…でもレンズや発光増幅器の掃除点検交換や空気の温度や湿度での微調整がめんどくさいし、その割に重たいなら…まぁ…うん…仕方ない、か。
…で、なぜ機関系が据え置きなのに30kt増えてるのか。
潤滑系のオイル交換……では無いし、変速機構に関してはモーター側で一括制御だし……電力変換器系統やインバータでも無い……抵抗軽減のマイクロバブルでも無い……バッテリー交換……と言っても熱電池とリチウムイオン系二次電池だから容量増加や個数増加ぐらい……となると何が……
図面を改めてよく見ると、艦の隙間という隙間を寄せ集めて各所に配置されていた弾薬庫(という名の多目的倉庫、重要装甲区画、龍奈の私室という名前の研究ラボ、工作区画、小型溶鉱炉もどきと圧延機となんかよくわからない機械類多数、ディーゼル発電機、なんかよくわからないパネル類、予備武装、陸戦隊の装備庫、ついでに輸送してた戦車とかが積まれていた多目的積載区画、客室、応接室、角材他多数)……が図面上から一部削除されている。その分重量が軽減されて速くなった…と見て良いだろう。
……流石に無断でこれは不味いのでは……?
(一部とはいえ倉庫が無くなった……これ、どう説明しよう……)
「…………弾薬庫に関してはヘリポート近くに適当に置かせてもらった。それと艦首や艦尾周辺の弾薬庫は防御重力場を張れない都合上撤去するべきだと思ってな。」
何故か超重力電磁防壁の動作のための空間圧縮系装置が動かない。
バラしても、揺すっても、温めても冷やしても、機材構成を変えても。
…だそうです。
私のものなのに、私はわかってないんですけどね。
龍奈が出した結論は、
・動作
→重力場の展開失敗。
原因:不明。仮説:干渉による重力壁の力場破綻により展開と展開不良による中断、もしくは力場生成のための空間圧縮プロセスの失敗による展開不可能による中断
※機械類の故障では無い
重力場の展開装置の修理調整…?はそもそも技術力的に倭も無理と言った。
・副次効果:重力場の防壁の展開不可能が原因のため、電磁波を外向きに撒き散らすジャミング・粒子兵器へ屈折拡散効果・光学兵器の拡散効果等が発揮不可能。
……つまり完全なお荷物になっている。なので電磁防壁を使う場合は重力場型の電磁防壁ではない電磁防壁を使用する必要がある。例えば倭の使っている散水噴霧式とか、帯電式とか。
……だそうです。
「……つい5分ほど前に龍奈から連絡があってな。主砲が完成したそうだ。これで搭載可能になる。見に来るか?」
「!…い、一応…見に行きます。」
「先にドックへ向かえ。俺は別で用事がある。」
「了解。」
明石side
予定日より5日ほど延長したものの、夜雨の一次改装が終わった。
延長した理由……?聞かないで欲しいですねぇ……え?私が原因じゃないのかって?冗談はよしてくださいよ。今回は私が原因じゃないです。大体龍奈ちゃんですので私に問われても困りますよ……
色々と揉め事(夜雨乗艦の妖精達とか)が起こったので延びたといえば延びましたから否定は出来ませんけどね。
改めて……改装を終えた夜雨【改】を見る。
長砲身の35.6cm連装榴弾砲と光学砲は取り外され、その場所には長砲身56cm砲2基が鎮座している。両脇に35.6cm60口径3連装砲を携えて……誘導弾の垂直発射機の位置もそこそこ変更された。
なるべく艦上構造物の位置は変わらないように兵装を置き換え、ついでに機関部を増設。
本来なら機関部の増設なんて今の技術とこの工廠の機械じゃ出来ない。で、それを成し遂げてしまったのが……倭さんが持ってきた『HLG61型設計システム』なわけでして……
本当に謎でしかなかった……機関部をコピーして性能も何もかもそのままPONと4基分増設出来るなんて……
しかもちゃんと艦内に増設されてちゃんと稼働したっぽいです……
ふと横を見るとボーッと
「どうです?改装した感想は。」
「…………凄く……大きいですね………」
「そりゃ56cm砲ですからね。」
私が見たって長砲身56cm砲はでかい。砲塔のガワと中身の一部が倭さんの61cm砲と同一規格だからそうなのかもしれない。
設計段階から61cm砲身への換装を想定されているらしく、砲身と砲塔の見た目に若干の違和感を感じる。
「明石。」
後ろから呼ばれたので振り返れば倭さんと若干青い顔をした笹川提督が……本当に大丈夫なんですかね?
「あー……夜雨ちゃん。」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「気に入ってもらえるかは別なんだけど、明後日から龍鳳ちゃんと一緒に試験航海と慣熟訓練に入ってもらうわ。付き添いは倭(時雨はセット)・春風か雨月・大井のどちらかが交互にやってもらうからよろしくね。」
「了解。」
こころなしか、夜雨さんの顔が紅く見えたのは気の所為、という事にしておきましょうか。さぁて、これから忙しくなりますねぇ!
夜雨、超大口径砲搭載型へ改装完了です。
↑コレに関してはリアルで賛否両論あったようですが……
さて、次回は試験航海と慣熟訓練です。が、初っ端から倭(時雨セット)と春風が来る……
次回:試験航海では必ずナニカが起こる