魔法少女の騎士   作:アンリ

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第20話 とある邂逅

「あぁ、もうっ! とっとと親玉出しなさいよ!」

「さやかっ! 9時の方向から2体来るぞ!」

「はいはいっ! えっと…私から見て?」

「さやかから見て、だ!」

 

 そっかそっか、と何やら納得気に細長い銀のサーベルを、美樹さやかから見て左側に、2本飛ばす。

 飛ばす、といっても美樹さやか自身が作り出した剣を使い魔に投げる行為。

 ただあまりに剣の刀身がぶれず、真っ直ぐに飛んでいくのでこの場面しか見ていない者にはそう見えるだろう。

 2本の剣はそれぞれ使い魔の頭部と思われる箇所を貫き、使い魔の命をしっかりと絶つ。

 塵芥と化す使い魔に美樹さやかはふぅっ…と息をもらした。

 

「さやか! 次は後ろ! 数は1!」

「えっ!? ちょっとタンマ!」

「使い魔が待つ訳あるかっ!」

 

 剣先を慌てふためかせ美樹さやかは振り返った。

 ちょっとしたパニック状態で、後ろから迫り来る使い魔に休憩を求めてしまう。

 それを瀬津そうまが呆れた笑みを浮かべて叱責しつつ、ポケットに入っていた小銭だらけの折りたたみ財布を使い魔に投げ、動きを止めることで難を逃れた。

 

「まどか~。 辺りに注意しながら財布拾っといて~。」

「ふぇっ!? …う~っ、頑張ってみる~…」

「こんな時まで財布の心配か!」

「学生証無くしたら大変だろ?」

「呑気っ!?」

「んなことはどうでもいい。それ倒せば終わりだからとっとと終わらせようぜ。」

 

 背中越しに使い魔の群れ、といっても数匹、に指を向ける。

 美樹さやかもソウルジェムを使って気配を探ってみると、確かに瀬津そうまの言うように指差す使い魔数匹しか気配を感じない。

 使い魔も自分達だけ生き残っているのが分かるのか、黒い三日月のように笑う口を上下逆さまにすることで顔をゆがめた。

 かたかたかた…と笑い声のような泣き声も微かにだが蒼の世界に響き渡った。

 

 この使い魔はこの前廃工場で孵化した魔女の使い魔である。

 あの時は生みの親である魔女を取り逃したが、僅かに残っていた魔力の残渣を辿りようやく夕暮れ時に再度結界を発見した。

 …のだが、今度こそ、とリベンジを誓う美樹さやかの意気込みに反してすぐさま魔女は使い魔を残し逃げたため今回も徒労に終わっている。

 といっても使い魔も魔女へと進化を遂げ、人に害を為す悪魔だ。

 放っておくことは日常に危険を混ぜ込むことになり、それはそれぞれの想い人が危険に晒される可能性に変わる。

 勿論一般人にも、だが。

 だから使い魔を倒さなければいけない。

 故に魔力を消費しようとも、身体に傷を付けようとも戦い続ける。

 そしてこれが本日最後の攻撃。

 美樹さやかは鋭い切っ先の、サーベルというよりはランスのような剣を数本具現化し、使い魔へ矢継ぎ早にぶん投げていった。

 切っ先が風を切り真っすぐに、ぶれることなく使い魔目掛け意図を引くように飛んでいく。

 使い魔如きでは必殺の一撃を避けることは叶わない。

 1匹、2匹とその身に刃を貫かせては人形のようなその肉体を霧散させていく。

 ずぶりと沈んでいく刃に鹿目まどかはつい目をそらしてしまった。

 

「これで終わりね。終わったわよ~! まどか~!」

 

 藍の結界が夕暮れの街に早変わり、空には能天気に巣へと帰るカラスが二羽飛んでいた。

 遠くからカァーカァー、と空に響き渡るように聞こえる泣き声はもしかしたら巣で帰りを待つカラスの家族の声かもしれない。

 美樹さやかは一息吐きながらそんなことを考えていた。

 

「えっ…ほんとだ。あっ、瀬津君、これお財布。」

「おっ、さんきゅ。…抜いたりしてないよな?」

「? 何を?」

「あんたとまどかを一緒にすんな!」

 

 瀬津そうまの頭を叩くとパシッと小気味のいい音が夕焼けの路地裏に響いた。

 見滝原市の今日は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第20話 とある邂逅 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやかの乳首が向いてる方が正面だ。分かったな?」

「ぶっ!? ごほっ! …突然セクハラ発言かっ!」

「…」

 

 美樹さやかは魔女退治が始まる前に買っていたバニラシェイクを握りつぶさんとばかりに拳を固める。

 突然のセクハラ紛い…いや、セクハラに口に含んでいたバニラシェイクも少し吹き出してしまった。

 横で話しを聞いていた鹿目まどかもストロベリーシェイクのように顔を真っ赤にしながら、ズズッと自身のシェイクを飲み込んだ。

 ファーストフード店で突然光り出したソウルジェムに引かれるまま魔女退治を始めたが、今回も無事乗り切ることが出来た。

 

「…確かに乳首じゃ身体を捻れば向きが変わるな。そんなら臍が向いてる方向が…」

「そんな事問題視しちゃいないわよ!?」

「…」

 

 次第に美樹さやかの頬までも朱に染まっていく。

 自分自身理解できていない恥ずかしさに、つい全力でバニラシェイクを瀬津そうまに向けて投げてしまいたくなる。

 勿論魔法少女としての力を加えて、だ。

 そんな実は訪れかけているピンチに気づくそぶりを見せることなく、瀬津そうまは淡々と話しを続ける。

 

「とにかく俺とさやか、2人の感覚を合わせる必要がある。互いが互いの死角を意識し、戦場を理解することが出来れば大分楽な戦いが出来るはずだ。」

「別に私1人でも何とかなるし…」

「さやかちゃん…そんな事言わないで…」

「あぁっ! ごめんごめん! 私が悪かったから!」

 

 不安がる鹿目まどかの視線に屈し、美樹さやかは慌てて自分の非を認めた。

 巴マミがいなくなってから鹿目まどかはより心配性な性格になった、と美樹さやかは感じていた。

 安心させるように、謝りつつ鹿目まどかの頭にポンっと手を置いた。

 

「でもさやかの言ってることは正しいぞ?」

「…えっ?」

「元々魔法少女ってのは魔女を倒す力を得た女の子だ。そりゃ1人でも何とかなるだろ。」

「でもっ! それじゃあなんで…」

「でもな。1人よりも2人の方が良いことも沢山あるさ。例えばソウルジェムが濁ってきて魔法の使用に制限がかかった時、俺に魔力を編み込んだ剣を一本用意してくれれば使い魔くらいなら全滅させてやれる。さっきも言ったがピンチをいち早く知らせることが出来る。…そして何より、1人より2人の方が寂しくないだろ?」

 

 あっけらかんと笑う瀬津そうま。

 横幅6m程度の路地を照らす夕焼けが瀬津そうまの為だけのスポットライトのように当たっていた。

 自信と理屈、そして最後に小学生のような精神論。

 そんな最後に甘ったれた考えを伝えたのだが、鹿目まどかと美樹さやかはすっかりと関心してしまった。

 確かに1人は寂しいし、2人ならそれだけで余裕も生まれる。

 増してや今この場には3人もいるのだ。

 より支え合う事が出来る。

 2人は互いに頷き笑みを浮かべた。

 

「…まぁこれは俺が魔法少女じゃないから言えることかもしれないけどな。」

「えっ? どういうこと?」

 

 ビル風が美樹さやかのマントを棚引かせる。

 少し肌寒さを感じながらも、美樹さやかは瀬津そうまの意味深な台詞を掘り下げようとした。

 

「あぁ…それはだな。」

「協力して魔女を倒しても御褒美は1つ。魔法少女が2人いちゃ、それこそ争いの種になりかねないじゃないか。…あんたそんな事も分からないのかい?」

「っ!?」

「えっ?」

「…ったく。魔法少女だ、って名乗るんならもっと相応しい態度、ってもんをとれないのかい?」

 

 思わず美樹さやかは振り向く。

 ビルの隙間を縫うように伸びるこの細い路地の入り口の方へと。

 そこは沈みかけの夕日が遮蔽物に阻害されない為か、燃え上がるような真っ赤に染めあがっていた。

 逆光により目を見開くことも少しばかり抵抗を感じる。

 そこに少女は立っていた。

 銜えたポッキーをガリっと噛み砕き、続けて新たなポッキーを銜える。

 

「あんた…誰?」

「あんたの先輩だよ。弱虫(ルーキー)ちゃん。この街に新しい魔法少女が来たってんで見に来たんだ。」

 

 少女はコツコツとブーツを鳴らし、3人にゆっくりと近づいていく。

 逆光の所為ではっきりと視認できなかった姿も次第にはっきりとしていく。

 日本人離れした真っ赤な長髪に、纏めるための大きめの黒いリボン。

 整えた、というよりも邪魔だから纏めた、といった方が正しそうなほどに髪はぼさぼさしている。

 視線を下ろすと夕日に負けないほどに燃え上がるようなノースリーブのドレス服。

 臍の付近からドレスは左右に裂けていて、そこから少女の見た目に合った細い太ももが窺えた。

 また服に合わせた紅のブーツに黒の二―ソックス。

 どこからどう見ても一般人とはかけ離れた服装である。

 少女はその服装の意味を敢えて教えるかのように、少女の体躯よりも頭一つ分長い長槍をどこからともなく取り出した。

 

「魔法少女!?」

「まどか、下がって!」

「なっ!? 前に出過ぎんな、さやかっ!」

 

 鹿目まどかを瀬津そうまの方へと突き飛ばし、美樹さやかは少女に向かって剣を構える。

 攻勢、というよりは自衛手段という意味合いの強い構えがそこにはあった。

 この時にしっかりとバニラシェイクを鹿目まどかに渡したのは彼女たる所以だろう。

 少女は1つ舌打ちを鳴らし、長槍を横薙ぎに軽く振るう。

 

「なっ!?」

 

 驚きの声を上げたのは瀬津そうまだ。

 少々強引に避難させられた鹿目まどかをしっかりと受け止めてから美樹さやかの下へと近付こうとしたのだが、そこで出足を挫かれた。

 少々が槍を振るうと瀬津そうまの目の前に紅い鎖が、行く手を阻むように金網を形成していく。

 ビルとビルの間を繋ぐように隙間無く、高さ3m程の壁が突如現れたのだ。

 

「兄ちゃんは随分とベテランみたいだね。一般人なのにこっちの世界のことに詳しすぎる。何回かヤバい橋も渡ってきてそう…ん? 兄ちゃんの顔、どっかでみたような…」

「ちょっと! これ何なのよ!」

「あ~もう…そんくらい自分で考えられないのかねぇ、弱虫ちゃんは…まぁ先輩からサービスだ。これは単なる結界だよ。ちょっとあんたと2人でお話し合い、ってのをしたかったんでね。」

「話し…合い? …っ!?」

 

 キンッと金属がぶつかる音が路地に響きわたる。

 美樹さやかの顔の付近で鍔迫り合いするように槍と剣が火花を散らした。

 テレフォンパンチのように大きく振りかぶった少女の威嚇。

 それを咄嗟に美樹さやかは受け止めたのだが、単純な力不足のため受け止めた後も気を抜くことが出来ない。

 歯を食いしばり、なんとか長槍を押し返す。

 

「いきなり何すんのよ!」

「なぁ、1つ聞きたいんだけど。」

 

 罵倒するように抗議する美樹さやかを無視して、少女は首を傾げた。

 長槍を軽々と抱え、肩慣らしとばかりに振り回す。

 

「あんたの動きはさっき見せてもらった。まぁそれはどうでもいいんだけどさ。…あんた、どうして使い魔を倒したんだい?」

「…はっ? そりゃ倒すでしょ! 使い魔は人間に悪さするんだ! それに私は魔法少女なんだから!」

「あ~っ…そこからなのかい…。良いかい? 使い魔は魔女になるんだ。そしてグリーフシードは魔女からしか手に入らない。魔法少女が魔法を使うにはグリーフシードが不可欠だ。…ほらっ、どこに使い魔を倒す理由がある?」

 

 ニヤリと少女は笑う。

 特徴的な八重歯が美樹さやかからも窺えた。

 楽しそうに、当たり前だと言いたげに、少女は笑う。

 そして美樹さやかは1つの考えに行き当たった。

 

『こいつは敵だ』

 

 

 夕暮れの街、魔法少女が駆ける夜が近付いていく。

 

 




普段は複数話を同時投稿していますが、これって読みにくいですかね? 

お気に入りしてくださる方ほど、不便な気がするのでもしかしたら1話ずつの投稿に変えるかもしれないです。

よろしければこれからの投稿の仕方(複数話or一話ずつ)について意見をいただけると幸いです。
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