魔法少女の騎士   作:アンリ

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第2話 祈り

「不思議な雰囲気の人ですよね、暁美さん。」

「俺にしてみたら仁美も十分不思議な雰囲気を持ってると思うけどな。」

 

 志筑仁美と瀬津そうまの視線の先には、今日転校してきたばかりの暁美ほむらがクラスメイトの女子から質問攻めを受けている光景が広がっていた。

 志筑仁美が語ったように暁美ほむらはどことなく不思議な雰囲気を纏っていて、それでいて大人びた雰囲気を持っているため、転校生ということもあってかクラス中から注目を集めていた。

 

「それにしてもこの時期に美男美女の転校生…なんかドラマが始まりそうだな!」

「自分で美男、なんて言ってんじゃないわよ。その美男のせいで私まで先生に怒られなきゃいけなくなったじゃない…」

「あははっ…告げ口は良くないよ~瀬津君。」

「ついぽろっと…な。まぁ今回は素直に叱られにいくさ。ちょっとかずちゃんをいじめすぎたし。」

 

 後にねちねちと説教されることに少し嫌気が差しているのか、はぁ…と深いため息を吐く。

 鹿目まどかと志筑仁美はため息を吐く親友二人の様子に軽く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

第2話 祈り

 

 

 

 

 鹿目まどかと美樹さやか、志筑仁美は仲良し三人組といえるほど仲が良く、常日頃から登下校を共にする仲である。

 そのため休み時間になると自然と三人が集まり、自然と輪を作って話し始める、といったことも日常茶飯事なのだが、つい先日からその様相が変わってきていた。

 三人の輪の中に新たに加わったのは転校生、瀬津そうま。

 いや、正確には加わることが増えた、といった方が正しいだろう。

 瀬津そうまが転校してきた初日、大学生にも見間違えられるほどの整った顔立ちと高身長で引き締まった体躯の持ち主である瀬津そうまは、暁美ほむらと同様にクラスメイトから質問攻めにあっていた。

 そんな光景を遠くから眺めては、転校生である瀬津そうまの話を繰り広げる鹿目まどか達3人。

 初対面で話したこともない転校生に、自分達が想像する性格を塗りたくっていくと、自然と話は弾んだ。

 そんな距離を少し置いていた3人だったが…

『あれは将来ホストにでもなって、女を誑かすタイプだね…』と美樹さやかが品定めをしていた時。

 瀬津そうまの将来を勝手に考えていた輪に、その本人が無理やり入ってきた。

 

『えっと…名前分からないけどちょっと話ししようぜ? なんだか楽しそうに話してるから気になっちまった。』

 

 初めは三人ともいきなり現れた瀬津そうまにいぶかしげな視線を送っていた。

 勝手にだがホストに就職する、と言われた転校生に話しかけられたのだ。

 警戒するのも仕方のないことだろう。

 

 しかしその視線はほんの数分で楽しげなものに変わり、いつの間にか三人だけの輪がクラス全体に広がりを見せていた。

 もちろん鹿目まどか達が進んで三人だけの輪を作ろうとしていたわけではないし、他のクラスの子とも仲が良い。

 それでも自然と集まるのは三人だけだった。

 それが瀬津そうまによって簡単にクラス全体に広がる。

 まるで瀬津そうまはクラスの潤滑油のような働きを見せ、転校してきてからものの3日でクラスのグループを一つにまとめる中心的な存在となり、クラスメイト全員を名前で呼ぶようになっていた。

 そして瀬津そうまは休み時間になるといろいろなグループに顔を出し話をするのだが、今日に限っては鹿目まどか達のグループに入り込んでいたらしい。

 

「まぁ転校生は嫌でも注目の的になるからなぁ。ほむりゃも真面目そうだし今日一日は質問の受け答えで終わっちまうかもなぁ。」

「それですぐクラスに馴染めるのでしたらよろしいんですけど。」

「…うん、そうだね。」

「? まどか? 暗い顔してどうしたの? …あとほむりゃ、って何よ?」

 

 鹿目まどかは話を合わせるように返事をするだけで、それはすぐさま美樹さやかに心配されるようなひどくわかりやすいものだった。

 美樹さやかが尋ねると少し逡巡し、何か決心したような面持ちになり一呼吸置いて口を開いた。

 

「鹿目まどかさん。」

「うぇっ!? はいっ!?」

 

 その時だった。

 急に輪の外から声をかけられたことに驚き、話そうとしていたこととはまるで違う、奇妙な返事をしてしまった。

 鹿目まどかに声をかけた相手、それは噂をしていた暁美ほむらであり、四人で作られた輪の中心に君臨するように歩いてくると、鹿目まどかの目の前で立ち止まりまるで有無を言わさせないといわんばかりの視線を伴いながら、集中する周りの興味を気に留めず話を続ける。

 

「あなたがこのクラスの保健係よね? 連れてってもらえる、保健室?」

「えっ…えっ…?」

 

 突然の申し出に混乱する鹿目まどか。

 それもその筈、その場にいた美樹さやかや志筑仁美ですら突然の転校生の割り込みに何を話していいかわからない状態に陥り、ただただ暁美ほむらを見上げるしかないというのに、当事者であり自身を臆病な性格であると認識している鹿目まどかが冷静な対応が出来る筈がなかった。

 鹿目まどかはかろうじて頷き立ち上がる。

 そして先に廊下へと出ていこうと歩みを始める暁美ほむらに付いて行くように、鹿目まどかも廊下へと足を進めていった。

 

「あっと、じゃあついでに俺も保健室の場所教えてもらってもいい?」

 

 先ほどまで暁美ほむらに質問攻めをしていた女子も、鹿目まどかと話しをしていた美樹さやかと志筑仁美も誰1人何もアクションを起こすことなく、まるで時が止まったかのような雰囲気を漂わせた中、瀬津そうまは時の流れを元に戻すように廊下へと一緒に向かう。

 瀬津そうまの同伴に安どの表情を浮かべる鹿目まどかと、少しいらだたしげな表情の暁美ほむら。

 そんな暁美ほむらの様子を気にするそぶりを見せず、鹿目まどかの横に並び暁美ほむらの後に付いていくように歩き始めた。

 

 もうすぐ授業が始まる時間であるためか、生徒たちは渋々といった表情を見せクラスへと1人また1人と戻る。

 やがて廊下には3人の姿しか見えなくなった。

 

「ほむりゃ大丈夫? 顔色は悪くなさそうだけど、どっか痛いとか? おぶってこうか?」

「…」

 

 保健室のある別棟への渡り廊下。

 その中央に差し掛かった所で、瀬津そうまは俯く暁美ほむらの顔を覗き込む。

 その表情は真剣そのもので、それがまた暁美ほむらを苛つかせる。

 

「ほむりゃ~、無視しないでくれよ~。」

「えっと…もしかしなくても『ほむりゃ』って暁美さんのこと?」

「…ほむら、でいいわ。」

「えっ!?」

 

 どこか困ったような声で確認する鹿目まどか。

 そして瀬津そうまのことを完全に無視しながら、くるりと振り返り鹿目まどかをじっと見据える。

 

「あっ…えっと、ほむらちゃんのこと?」

「え~っ!? ほむりゃ、って可愛いじゃん!?」

「…」

 

 鹿目まどかの考える通り、『ほむりゃ』とは暁美ほむらのことらしい。

 しかし暁美ほむらは瀬津そうまを視界から外して、鹿目まどかにしか視線を向けていない。

 その暁美ほむらの態度に一人は肩を落とし、一人は身体を震わせる。

 別棟へと繋がる渡り廊下。

 向かい合う鹿目まどかと暁美ほむら。

 そして暁美ほむらの後ろでため息を吐く瀬津そうま。

 

「鹿目まどか。」

 

 長い髪を掻き分け、神妙な面持ちである暁美ほむらが口を開いた。

 暁美ほむらの冷たく凛とした声が、静まり返った渡り廊下に響く。

 

「あなたは自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」

 

 何か探るような質問。

 そんな何かを含んでいそうな問に、鹿目まどかは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。

 

「えっ…えっと…わ…私は…大切…だよ。家族も、友達のみんなも。大好きで、とっても大事な人たちだよ。」

「本当に?」

「本当だよ! 嘘なわけないよ!」

 

 そしていつの間にか本音を引きずり出されていた鹿目まどか。

 そんな事を気にする様子もないところが、鹿目まどかの美徳とも言えた。

 鹿目まどかの返答に暁美ほむらの頬が少しゆるんだ。

 しかしそれはすぐさま引き締まったものに戻る

 

「そう…もしそれが本当なら…今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね。…さもなければ全てを失うことになる。」

「えっ…」

「あなたは鹿目まどかのままいればいい。今まで通り…これからも。」

 

 鹿目まどかの答えを待たず、暁美ほむらは振り返り別棟へと再び歩き出した。

 すれ違う暁美ほむらと瀬津そうま。

 通り過ぎる丁度その瞬間、暁美ほむらが鹿目まどかには聞こえないような声で呟く。

 

「瀬津そうま…邪魔するなら容赦しない。」

「はっ?? ちょっ、ほむりゃ?」

「…あとその呼び方はやめて。苛々する。」

 

 暁美ほむらはそう言い残して、長い髪を翻しながら一人保健室へと向かっていった。

 立ち尽くすことしかできない二人。

 まだ夏に向けてこれからだというのに、渡り廊下には冬を感じさせるような冷たい空気が漂っていた。

 身を震わせる鹿目まどか。

 

「ほむりゃの奴何だったんだ?」

「分かんないよ…」

 

 意味深な言葉をかけられた二人はそろって首を傾げる。

 心当たりはない、といった表情だ。

 

「…それじゃあ教室に戻るか。たぶんほむりゃは付いてきてほしくないんだろうし。」

「うん…そうだね。」

 

 二人の間に流れる気まずい風。

 それを作りだした元凶は今はいない。

 そして二人は今来た道をなぞるように引き返すことで、場の空気から逃げていった。

 

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