魔法少女の騎士   作:アンリ

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第32話 トモシビ

「あなた達、ちょっといいかしら?」

 

 凛とした声が前を歩く2人組の少女を呼びとめた。

 見滝原中学とは違う、紺を基調とした赤いネクタイが映える制服。

 2人の少女は見ず知らずの、他校の生徒に話しかけられたことに気付くと、何とはなしに委縮した様子を見せた。

 そんな様子を気遣うことなく、了承を得ないまま話しを続けた。

 

「あなた達と同じクラスだった…元クラスメイトの瀬津そうま、という人に心当たりはないかしら?」

「瀬津…そうま?」

 

 1人の少女が頭を傾げてもう1人の様子を伺うも、もう1人の少女も頭を横に振った。

 どうやら心当たりはないらしい、と暁美ほむらは少女たちの考えを悟った。

 しかし…それはおかしい。

 

「待って。今写真を出すわ。」

 

 暁美ほむらはスカートのポケットから一枚の写真を取り出した。

 そこには鹿目まどかと楽しげに話す瀬津そうまの姿があった。

 暁美ほむらは瀬津そうまの頬に指を突きさしながら、少女たちに再度尋ねる。

 

「あぁ! 知ってる!」

「うん! 私たちの王子様じゃない!」

「お…王子…?」

 

 写真を見せた途端、少女たちは急激にヒートアップしていく。

 まるで有名アイドルをその目で見たかのようなはしゃぎ具合だ。

 少女たちの変わりように、暁美ほむらは言葉の真意と共に意味が分からず頭を傾げた。

 

「それで…この瀬津そうまという人のことについて、少し知りたいのだけれど…」

「えっ? この人、リョウ様じゃないの?」

「えっ…!?」

「うんうん! この人は絶対リョウ様だよね! 突然転校しちゃってからどこに行ったのか分からなくなってたけど、見滝原中学に転校してたんだね!」

「今度一緒に見に行こっ!」

「うんっ!」

「ちょっ…ちょっといいかしら!」

「ひぃっ!? …どうかしましたか?」

 

 辺りが見えなくなった少女たちに、自分でも驚くほどの大きな声で呼び戻す。

 自分の声も制御できないほど、頭の中がこんがらがっている。

 

「この人の…その…リョウ…様…って人のこと、少し聞かせてもらえる?」

 

 

 またしても了承を得ないまま、矢継ぎ早に質問を繰り返す。

 その話は一つひとつが暁美ほむらにとって聞いたことのない話であり、その事実がまた一層暁美ほむらの不安を駆り立てる。

 一時的に抑えられていた瀬津そうまへの疑惑も、今日でまた膨れ上がっていく。

 気付けば暁美ほむらは30分以上も質問を繰り返していた。

 これで…空白だった瀬津そうまの過去も少し浮き彫りになった。

 

 太陽が傾き、すでに空がまとわりつくようなオレンジ色一色に染まっている。

 一通り質問を終え、暁美ほむらは少女たちに礼を告げた。

 少女たちも最初は暁美ほむらに疑惑の視線を浮かべていたが、次第に瀬津そうまの昔話に熱がこもってしまい、最終的には暁美ほむらが質問した事に、瀬津そうまとの華麗な思い出を付属させて返していた。

 暁美ほむらが逆に質問を区切る始末だ。

 最後には魔法を使ってまで綺麗に真正面から撮った写真を強請られる始末。

 暁美ほむらは少なからず、瀬津そうまのある一点でのポテンシャルの高さに感嘆のため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第32話  トモシビ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ…私って運悪くない?」

 

 緊張感がほぐれると、美樹さやかは開口一番にそんなことを口にした。

 鹿目まどかと瀬津そうまは意図が分からず、お互いの顔を見やりながら頭を傾げた。

 

「それは恭介に振られたことか? そりゃあ運が良いとは言えないが、さやかだって納得…」

「違~うっ!! そんなことはどうでも…良くはないけど…そうじゃなくて! これで6匹連続よ!」

「何の数? カラスが頭上を通った数とか?」

「そんなことでさやかちゃんは落ち込まないんじゃ…」

 

 頭上を見ると夕焼けの空にカラスが数羽の群れを成し飛んでいる。

 少しばかり体の小さいカラスが懸命に付いていくような様子から、あれは親子なのか? と瀬津そうまはどうでもよいことに感慨を受けていた。

 

「違うわよ! 倒した魔女の数よ! ここ2週間でそれだけの魔女を倒したのに、誰一人としてグリーフシードを落とさないじゃない!」

「あぁ、それか。それは確かに深刻な悩みだな。」

「なんでそうまはそんな落ち着いてるのよ! このままじゃ魔法が使えなくなっちゃうのよ!?」

 

 美樹さやかは輝きを失った自身のソウルジェムを取り出した。

 鈍く、何か黒い影が蠢く蒼のソウルジェム。

 魔力の消費を抑えるように闘ってきたとはいえ、既に美樹さやかのソウルジェムは限界に近付いていた。

 それを感覚的に感じ取っているのか、美樹さやかはどこか焦った様子を見せている。

 

「まぁまぁ、落ち着けって。」

「うっ…」

 

 そんな落ち着きの無い美樹さやかをなだめるように、瀬津そうまは美樹さやかの頭をポンポンとなでる。

 背が高いこともあってか、瀬津そうまにとって美樹さやかの頭は丁度良い高さにあり、何となく頭をなでてしまうことが最近になって増えてきていた。

 不思議と美樹さやかの焦りも少しは薄れていく。

 

「いざという時のことは考えているさ。それにだからと言って魔女退治を辞めるつもりはないんだろ? さやかはそういうとこ頑固な性格してるからな。まどかもそう思わないか?」

「うん。さやかちゃんはえっと…猪突猛進…って感じかな。」

「ちょとつ…もうしん?」

「うわ~、さやかちゅわ~ん分からないの~? これって常識ですわよ~ん?」

「ば、バカにしないでよ! 私だってそれくらい…」

「はい、それじゃあ猪突猛進の意味を! 3、2、1、どうぞ!」

「へっ!? うぁ…その…ちょっ…ちょっ…『ちょっともう信じらんない』!!」

「はい、それじゃあ猪のさやかはほっといて、今日は早めに解散するか。」

「ふざけんな~っ!?」

「ごふっ!?」

 

 鋭く振りぬかれたさやかの腕にはいつの間にか卓球のラケットほどの大きさの棍棒が握られていた。

 瀬津そうまは突然の衝撃にあっけなく地に伏すこととなる。

 

「魔法を…節約する気ないのかよ…」

 

 そして瀬津そうまは意識を手放した。

 

 

 

 最近の魔女退治は本当に安定した闘い方が出来ていた。

 魔力消費を極力抑え、瀬津そうまと鹿目まどかでは手に負えない敵が出てきたときだけ美樹さやかが前に出る。

 鹿目まどかの弓の腕も経験を重ねるごとに上達し、いまではその殆んどを外すことなく、状況にあった攻撃をすることが出来るようになった。

 瀬津そうまは…まぁ前とあまり変わりないが、常人離れした体捌きで使い魔程度ならば傷一つなくねじ伏せる。

 また3人がそれぞれをフォローするように動けるようになったことが、何よりの成長点だろう。

 向かうところ敵なし…とは言いすぎかもしれないが、それほど隙の無い布陣がここに完成していた。

 それでも3人は慢心しない。

 今日も昼休みの僅かな時間を使って、魔女退治について話をしている。

 

「魔女少女って体型も変わんないのかな?」

「どうしたの、さやかちゃん?」

「いやさ? この頃魔女退治が増えたじゃない? その時にいっぱい動くから、晩御飯のご飯をおかわりするようになっちゃったんだけどさ、全然体重が増えないのよね?」

「えっ!? そんなのずるいよ!」

「ずるいって…」

「おや~? 私の嫁のまどか君はもしかして増やしちゃったのかな~? 乙女の敵を…」

「そ、そんなことないもん! たしかに私もお食事の量が増えちゃったりもしたけど、そんなこと!」

「…この話、俺も聞いてていいものなのか?」

 

 特に鹿目まどかと美樹さやかは真剣な面持ちで話を続け、鹿目まどかに至っては親の仇でもいるかのように歯を食いしばっている。

 瀬津そうまはオレンジのマフラーをもう一度捲き直し、2人の真剣な会話に入ろうと試みた。

 

「でも…こっちの方はまた大きくなっちゃったの。また合わなくなってきてさ。だからやっぱり魔法少女も成長して、いつか魔法乙女とかになるんだろうね。」

「そんな~…さやかちゃんだけずるいよ~…私だって早く大きくなりたいのに~…」

 

 すぐさま前言撤回を心の中で行う瀬津そうま。

 確実にこの会話に男子が、『僕はまどかのもさやかのも大好きだよ、ははっ』なんて勢いで入ろうものなら、今後二度と友好的な視線が送られることはないだろう。

 主に女子に…

 それなら『乙女ってのは歳の若い、もしくは未婚の女性のことを指す言葉だから、振られたばかりのさやかにはぴったりだな』と代替案を考えてみるも、これも主に女子にバッシングの嵐を受けるであろう返答だった。

 仕方が無いので意識を完全に冬の空に向ける。

 雪が降るほど寒くないが、日に日に寒くなっていく季節は冬の到来を表していた。

 もはや外に出るのにマフラーや手袋は欠かせない。

 日差しがまぶしい今日の天気ですら、屋上では肌寒さを感じてしまう。

 吐く息も白い。

 その証拠とばかりに盛大にため息をついた瀬津そうまの口から、白い息が勢いよく吐き出された。

 

「最近仁美の…おっきくなってない?」

「さやかちゃんもそう思う…? それってやっぱり上条君が…」

「お前ら、もっと俺に気を使え~~~っっ!!」

 

 瀬津そうまの頬に赤みが増している。

 それを美樹さやかに指摘されるも、それは冬の寒さの所為だということにしておいた。

 

「ったく…とりあえずさやかのソウルジェムの件だが、そろそろこれを使いたいと思う。」

 

 話の軌道修正とばかりに、瀬津そうまは比較的大声で話し始め、さらには懐から消しゴム大のものを取り出した。

 黒に黒を塗りたくったような、見るものを深い闇へと導くかのような漆黒の球体。

 通常のそれとは輝きがまるで違う、どこか特別な雰囲気を纏わせたそれに2人の目は奪われた。

 

「それってグリーフシードじゃない!? どこで手に入れたの!?」

「これはまぁ…俺の切り札だ。これを使ってさやかのソウルジェムを浄化するんだ。」

「切り札? グリーフシードって使ったら終わりなんだよね?」

「それはそうなんだけど…まぁ大切な記念品だとでも思っていてくれ。使ったら返してもらうからな?」

「記念…品…」

 

 瀬津そうまにしては歯切れの悪い言葉。

 美樹さやかはその言葉に反応してしまう。

 

(そうま。もしかしてそれってリホさんとの…)

(…そんなの気にしなくていい。今はさやかのソウルジェムを浄化することが大切だ。)

(…うん。)

 

 美樹さやかがテレパシーで瀬津そうまに尋ねる。

 少しの無言に鹿目まどかは首を傾げていた所を見ると、鹿目まどかには秘密にしていた方がいいだろうと美樹さやかは判断したようだ。

 その心遣いに瀬津そうまは笑顔で応える。

 

 美樹さやかは瀬津そうまからグリーフシードを受け取る。

 美樹さやかにとってそれはどこかずっしりと重たく感じてしまう。

 それは思いの重さか…

 それとも歴史の重さか…

 それを知る方法は美樹さやかには存在しない。

 たった一つ、瀬津そうま自身から聞くこと以外には。

 

 そして美樹さやかのソウルジェムは再び光を取り戻した。

 

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