魔法少女の騎士   作:アンリ

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第5話 騎士(ナイト)

『私は巴マミ。あなたたちと同じ見滝原中学の三年生。そして…キュゥべぇと契約した魔法少女よ。』

 

『これがソウルジェム。キュゥべぇに選ばれた女の子が契約によって生み出す宝石よ。魔力の源であり、魔法少女の証でもあるの。』

 

『僕は君たちの願い事を何度も一つ叶えてあげる。』

 

『でもそれと引き換えに出来上がるのがソウルジェム。この石を手にしたものは魔女と戦う使命を課されるんだ。』

 

『キュゥべぇに選ばれたあなたたちにはどんな願いでも叶えられるチャンスがある。…でもそれは死と隣り合わせなの。』

 

 

 

 夕焼けに染まる巴マミの部屋。

 そこで聞かされる魔法少女と魔女の存在。

 そして一度だけなら、願いがなんでも叶うという奇跡。

 現実の中に潜んでいたフィクションでマジカルな異世界を、鹿目まどかと美樹さやかは偶然知ってしまった。

 説明を聞いてみると人間という生き物はすんなりと順応してしまうもので、自分に自信を持てず、平凡な暮らしをしてきた、と考える鹿目まどかは自分が選ばれた人間だということ、平凡な自分が物語の正義のヒロインのような世界へと飛びこめることに喜びを隠しきれない様子だ。

 それゆえに次の日、担任の早乙女女史が行う英語の授業に聞く耳を持たず、ノート2ページに魔法少女のイラストを描くほどに夢中になっている。

 その絵のモデルはもちろん鹿目まどか自身であり、昨日見た巴マミの衣装を横にも書いて、魔法少女の衣装を着た自身と並べてみたり、と書いては消してを繰り返している。

 巴マミの部屋で、魔法少女の衣装は自分の深層心理から作り出される、と聞かされた鹿目まどかは心に呼び抱えるように思い浮かんだ衣装を書き、修正し、より明確なものへと書きだしていく。

 巴マミに魔法少女になるイメージをつかんでほしいと言われており、それに対する鹿目まどかの答えがこの外見デザインであった。

 一時間目の授業から今までずっと続けているこの作業。

 あまりに熱中しすぎてしまうために弊害も起きてしまっているのだが…

 

「鹿目さん? 次の問題訳してくれるかな?」

「へっ…はい!!……すみません、聞いていませんでした…」

 

 

 

 

 

第5話 騎士(ナイト)

 

 

 

 

 

 

 

「…分かりましたね? それじゃあ今度からはちゃんと聞いてるのよ?」

「…はい、すみませんでした…」

 

 早乙女女史からひとしきり説教を受け、鹿目まどかは力なく座る。

 説教というよくあるハプニングに両肘を突いて眠っていた美樹さやかや、学校にまで付いてきていたキュゥべぇも起きて、被害者である鹿目まどかを前者は面白そうに、後者は首をかしげながら眺めていた。

 それと同時に鹿目まどかの頭の中に、誰かが話しかけてくる。

 

『何ボーっとしてんのさ?』

 

 鹿目まどかの頭に響く声は美樹さやかの声。

 しかし美樹さやかは黒板の方を向いたまま、口を開くことすらしていない。

 これはいわゆるテレパシーといわれるもので、お互いの会話を頭の中だけで行える一つの魔法だ。

 これは2人が魔法少女になったから使えるのではなく、仲介役としてキュゥべぇが魔法を使役することで行えている。

 そのためもあってか、テレパシーの内容はキュゥべぇが選択的に相手に送ることができる。

 

『さやかちゃん? えっとね、魔法少女ってどんなのかな、って考えてたの。』

『その説明は昨日マミがしただろ?』

 

 そして今回においてその相手とは鹿目まどか、美樹さやか、そして瀬津そうまの三人であった。

 三人は授業を聞いているふりをして、念話での会話を続ける。

 

『そうでしょ? えっと…奇跡を叶えてもらう代わりに魔法少女になって、町の至る所にいる魔女を倒して町の平和を守る! …でいいの? そうま?』

『俺は魔法少女じゃないから詳しいことは知らないけど、たぶんその認識で間違いないんじゃないか?』

『確かにそうまは昨日、あの毛むくじゃらお化けにそれっぽいことしてないしね。』

『えっと…瀬津君は魔法少女の騎士…だっけ?』

『それはマミが勝手に言ってるだけだよ。言っても俺は魔法少女の使い魔、が関の山さ。』

 

 魔女や使い魔の作りだす結界においても辺りを見渡す余裕さえあり、素手で魔女のしもべである使い魔を殴り飛ばした。

 しかし瀬津そうま自身は魔法を行使していない。

 

『言っても【魔法少女】だからな。俺がなれるわけないだろ?』

『そうまの魔法少女姿…』「ぷっ!?」

『さやか~?その思い描いた映像だって伝わるんだからな~? …あと急に笑い出したら、周りに変人扱いされるぞ?』

 

 巴マミの魔法少女の衣装を、筋骨隆々の瀬津そうまが纏う…

 そんな殺人的な想像をした美樹さやかは吹き出してしまい、その想像した画がテレパシーによって伝わってしまった鹿目まどかも笑いをこらえるのに必死だった。

 

「はい、それじゃあ瀬津君。この文章を英文に直してみて?」

「はい、かずちゃん。」『テメェら後で覚えとけよ~…』

 

 問題を当てられた瀬津そうまは念話で恨み言を飛ばしながら、ホワイトボードの前へと何事もなかったように歩いて行き、そしてすらすらと筆記体で回答していく。

 かなりの長文英訳だったので、早乙女女史としても何人かの生徒に分けて行おうとしていただけに、ホワイトボードに書かれた日本語を全て訳していく瀬津そうまに驚きを示していた。

 

『ちょっ!? なんであんなにすらすら解けるわけ!? 私なんて出だしからわかんなかったのに!?』

『【私は】なんだから、【I】から始まるのは分かるでしょ?それに瀬津君はすごく勉強できるよ。』

『…そういえば数学の時も国語の時もすらすら解いていたような…』

『まぁこれくらいならちょろいちょろい!』

 

 途中で回答を止められた瀬津そうまが席へと戻る。

 教壇では早乙女女史が瀬津そうまの回答に丸をつけ、他のクラスメイトのために解説していた。

 

『それなら今度あたしに当たった時、答え教えなさいよ!この魔法があればどんな問題でも怖くないっ!』

『さやかちゃん…それはちょっと…』

『はぁ…一回だけだからな?』

『十分十分~!』

「それじゃあ続きを…美樹さん。お願いします。」

「はいは~い!」『それじゃあ頼んだわ! そうま!』

 

 自信満々に立ちあがり教壇へと上がっていく美樹さやか。

 それもその筈、瀬津そうまからテレパシーを通して答えを教えてもらえるのだ。

 怖気づくことなど何もない。

 

『へいへい…How many times have you listened to that music?』

 

 美樹さやかが黒のペンを持ったのをタイミングに、瀬津そうまは英訳の答えをイメージしながら伝える。

 これで言葉だけでなく文章としても理解することができるので、瀬津そうまとしては親切心として伝えたつもりであった。

 しかしそれだけでは足りなかったようだ。

 

『ちょっと、そうま!? これって英語じゃないじゃない!?』

『はぁっ? どっからどう見ても英語だろ?』

『…あっ…筆記体なんかで書かないでよ! 全然単語が分からないじゃない!』

『筆記体は一年の時に習ってるはずだろ!? あぁもう…』

 

 このまま念話で押し問答を続けても美樹さやかは一生答えは分からず、ホワイトボードの前でペンを掲げながら固まっているだけに見えてしまう。

 しょうがない、と今度はブロック体で答えをイメージする。

 そこでようやく美樹さやかはホワイトボードに答えを書き始めた。

 

『まどか…さやかってやっぱおバカさん?』

『あはは…ちょっと英語と数学と社会と理科と国語が苦手なだけだよ。』

『…高校受験に魔法は使わせないからな。』

『そうなったら私が魔法少女になって魔法使ってやる~!』

 

 ようやく答えを書き終えた美樹さやかが席に座る。

 教壇では早乙女女史が美樹さやかの回答を添削し、『?』が文末に添えられていなかったことに軽く注意を促している。

 それを見て瀬津そうまは自身の気遣いが無駄であったことにため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

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「ねぇまどか…願い事、なんか考えた?」

 

 昼休み、美樹さやかは鹿目まどかと瀬津そうま、それとキュゥべぇを連れて屋上へと向かった。

 見滝原中学の屋上は常に開放されていて、授業の気分転換を行いたい学生が空気を吸いに来れるようになっている。

 今日は3人と1匹にとっては都合よく屋上に人の影はなかった。

 といってもキュゥべぇの姿は魔法による影響か魔法少女にしか視認できず、一般人には存在を認識することもできない。

 だからこそ学内にキュゥべぇを入れることができ、テレパシーによる密談も可能だったのだ。

 各自持参した弁当を和やかに食べ、3人が食べ終わったところで一言美樹さやかがつぶやいた。

 

「ううん。さやかちゃんは?」

「あたしも全然…なんだかなぁ~、いっくらでも思い付くと思ったんだけどなぁ~。…欲しいものもやりたいこともいっぱいあるけどさ、命がけってところでやっぱ引っかかっちゃうよね…そうまでするようなもんじゃね~よな~…って。」

「うん…」

「まぁそれが普通だと思うし、俺としてはやっぱり女の子には前に出てほしくないんだけどな。」

 

 魔法の力の片りんを見て興奮し憧れもした2人だが、それでも即断で魔法少女になる、と決意することはできなかった。

 魔法少女になることで得られる対価。

 『自身の望むものなんでも一つ叶う』…これ以上の対価は存在しないだろう。

 それでも二人は首を縦に振ることはできなかった。

 理由の一つとしてはやはり魔法少女になることは、今住む平凡な世界から殺しあいの世界へと足を踏み入れるとほぼ同義であると、巴マミと瀬津そうまに聞かされているからである。

 事実瀬津そうまは手の甲に深い傷跡を負い、血をだらだらと流しているのを2人は見ている。

 そしてもう一つの理由は…

 

「意外だなぁ~。たいていの子は二つ返事なんだけど?」

「まぁきっと…あたしたちがバカなんだよ。」

「え~…そうかな?」

 

 2人がバカである、ということである。

 美樹さやかは落下防止柵に近づいて続けて話す。

 

「そう…幸せバカ…別に珍しくなんかないはずだよ。命と代えてでも叶えたい望みって…そういうの抱えてる人は、世の中に大勢いるんじゃないかな? …だからそれが見つからない私たちって、その程度のことも見つけられない幸せバカってことじゃん。…恵まれすぎて…バカになっちゃってるんだよ…なんで私たちなのかなぁ? …不公平だと思わない? こういうチャンス、本当に欲しい人はほかにいる筈なのにね。」

 

「さやかちゃん…」

 

 鉄線でできた落下防止柵を握りしめる音が響いた。

 美樹さやかが語る『幸せバカ』

 …それは平凡に人生を過ごす鹿目まどかだからこそ深く理解でき、魔法少女の権利を得たことにさえ少し罪悪感を感じてしまう。また…鹿目まどかには美樹さやかが何を思って、そのような考えに至ったのかも理解できていたから、それは尚更であった。

 美樹さやかが思う『命と代えてでも叶えたい望みがある人』とは…

 美樹さやかは屋上から見下ろす風景と、ある部屋から見下ろせる風景を重ね合わせていた。

 髪を乱すほどの風が屋上を吹き抜ける。

 

「俺も人生が平等なんて思わないよ。」

「瀬津君…」

 

 瀬津そうまは鹿目まどかと背中合わせのベンチに座りながら、自身の考えを語り出す。

 

「交通事故に遭って死んでしまう人もいれば、無差別殺人犯に刺されて死ぬ人もいる。クラスでいじめられ続け自殺を考える人だっている…そんな中で、俺達はこうやって平穏無事に生きている。…そんな人生が平等であるわけないさ。」

 

 空を見上げ太陽の光に目を細めながら、空の青さに目を奪われる。

 気が付くと3人はそれぞれ屋上の床、郊外の森、雲が少し混じった青空、と折角集まってご飯を食べたのに、3人共がお互いの目を見ずぼんやりと風景を眺めていた。

 そして瀬津そうまの考えはまだ続く。

 

「だからさ…さやかはさやかで好きなこと叶えちゃえば良いんじゃないか? 俺や他人にはないチャンスなんだからさ。…その代わり生半可な覚悟じゃやっていけないけどな。」

 

 死と隣り合わせの世界。

 魔女の結界内での死は、現実世界では永遠に行方不明扱いとなる。

 両親が、友達がどんなに探しても一生見つかることはない。

 昨日巴マミの部屋で魔法少女の説明をしていた時、瀬津そうまは何度も危険性を説明していた。

 

「だからマミが体験講座を開いてくれたんだろ? 魔法少女の現実をその目で確かめられるようにな。」

 

 この瀬津そうまが話す内容は巴マミからの提案だった。

 巴マミが毎夜行っている魔女退治に付き添ってみないか、という提案のことである。

 もちろん怪我しないとも限らないしそのまま家に帰れなくなってしまうこともあり得る、と一言付け加えられてからだが。

 巴マミが魔女を相手している間は、瀬津そうまが2人を守る手はずになっているため、けがの心配は少ない。

 それが2人に少しの余裕のような何かを生み出していたのかもしれない。

 もしくはファンタジーの世界をもっと見ていたかったのかもしれない。

 2人は即断で付いていくことを決心した。

 

「とりあえず今晩だな。2人は俺が守るから心配せずついてきてくれよ。」

 

 少し大人びた顔立ちが満面の笑みを浮かべる。

 その表情に鹿目まどかの頬はサッと紅くなっってしまった。

 整った顔立ちに気さくな性格、学業も優秀で使い魔との戦闘を行えるほどの運動神経を持つ。

 そんなアイドルのような瀬津そうまの無邪気に浮かべられた笑顔に、鹿目まどかはつい見とれてしまった。

 

 昼休み終了を告げる学園にチャイムが鳴り響く。

 鹿目まどかは美樹さやかに顔が紅くなっていることをさんざん弄られながら、キュゥべぇを抱え教室へと戻っていく。

 鹿目まどか達がいなくなった屋上は雲の影に隠れ、全体を陰に落としていた。

 

 そして日は落ちていき、魔法少女体験講座は幕を上げた。

 

 

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