0話『錆びさせないために』
轟々と燃える炎が青年の頬を刺激する。あたりは地獄と言って差し支えないほど、黒煙と爆発と悲鳴と狂気が支配していた。
青年は既に使い物にならなくなった左足を引きずりながら。自らの心を黒く塗りつぶそうとする衝動に抗いながら、それでも前を向き進む。
丸坊主の頭は怪我を伴い、青年の視界は赤へと染まる。青年は武器を持たない右手でそれを拭うと、左手の武器の様子を確認した。
禍々しく、黒煙よりも深淵な闇を纏った武器は、もはや原型が日本刀を模したモノであったことなど感じさせない。ただそれは次第に纏う闇を放出し、最終的に取り返しのない事になることだけ、青年には理解できていた。
「はやく、はやくたどり着かなければ・・・俺が、みんなを錆びさせないために・・・」
青年は歯を食いしばり、ようやくたどり着いた。そこは、8歳下の義妹が待つ洞窟であった。
洞窟の中に入ると、2人が作った石の柩が並べてある。義妹は重い柩の蓋を閉めずに、中に入ったまま待っていた。
青年は不安げな表情を見せる義妹の頬を撫でると、先程拭った血を義妹に付けてしまい後悔した。しかし、もう自分自身に拭き取る時間が残されていない。
青年は出せる精一杯の力を込めて、石の蓋を動かしながら、義妹の顔を閉じる最後まで見続けた。
「心配する事なんてないよ。また会えるからさ。・・・・・・おやすみ」
「・・・・・・・・・にぃ・・・さん・・・・・・」
「・・・・・・・・・え・・・・・・?」
ばたん、と完全に閉ざされた蓋。青年は義妹が残した言葉に、焦げ付いた瞳から一雫の水滴を落とした。
「ずるいなぁ・・・王様王様って、さんざん変えなかったのに、最期の最期で兄さんって呼ぶなんてよ・・・・・・」
青年はもう1つ用意した石の柩へと入る。内側からゆっくり壊さないように閉めると、そこは外の熱い世界から断絶され、ひんやりと冷たかった。
武器から放たれる闇と同じ、夜のような静寂。外の爆撃音が、まるで別世界での出来事のように聞こえてきて。青年は重たい瞼をゆっくりと閉じた。
今までの出来事が浮かんでは消え、浮かんでは消えて。幾星霜の想いが駆け巡ったのちに青年が最期に想うのは、守れなかった妹と、これからも守り続ける義妹の事だった。
「友子・・・・・・・・・兄さんが、守る、から・・・だから・・・・・・」
青年を動かす小さな歯車は、その時完全に動きを止めた。しかし、その歯車は、錆びつかず綺麗なまま義妹を守る糧となった。
0話はプロローグなのでまだ相田の一文字も出ません(笑
1話より、物語は本編へと突入します!