1話『動き出す歯車』
「斎藤さん。起きてください、そろそろ終わりますよ」
「あぁ、分かった」
斎藤と呼ばれた男は、演歌を流すウォークマンを止めると洞窟の奥底へと向かう。
洞窟内は全て真っ暗という訳ではなく、斎藤達が持ち出した照明器具で視覚したい地面のみ明るく照らされていた。
斎藤が到着したとき、他の仲間達は4、5人洞窟内にいたのだが、彼らは斎藤の命令外の事をしている。めいいっぱいお互いの力を込めて、2つ洞窟奥底に置いてあった石の柩の蓋を外そうとしていたのだ。
斎藤はそれを見るなり、冷静なため息をついた。
「おい、何をしている。俺はこの石の柩を地面から剥がせとだけ言ったんだが」
「もちろん剥がしました。しかし、ここで蓋さえ取れればわざわざ研究所に持っていかなくて済むと思いまして」
「馬鹿野郎~。もう2年になるが1度たりともこの蓋がピクついた事なんてありゃしないんだ。さっさと運んで、持ち帰ってから中身の研究だ。ほら、急ぐぞ」
「は、はい」
斎藤が指示を加えると、スタッフ達は2つの柩を洞窟から運び出した。そして、それをあらかじめ用意したトラックに収納すると、彼らは大学にある自分たちの研究室へ運ぶため、エンジンに火を加え走り始めた。
その様子を一部始終洞窟入口付近の木の影から見ている人間が1人。
・・・いや、人の『アイダ』というにはあまりにも息づかいは荒く、瞳孔は開いたままのその人物は、トランシーバーを懐から取り出した。
「・・・はい、ついに奴ら柩を動かして・・・・・・きひひひ、了解しました早急に追い掛けます・・・・・・生死を問わず、強奪して参ります・・・・・・」
途端、その男はトラックを生身の体で追跡しはじめた。その速度は遥か前方を行くトラックの方へ走っていく。もちろん速度も距離も人間なら到底追いつくことは出来ないが、男はそのハンデを覆す『力』を有していた。
「たったの10分で・・・蹂躙してやりますよォ・・・きひひひ」
・・・
・・・・・・
斎藤がトラックを運転させ始めた頃。山を越え、1つの街を自転車の上から見下ろす17歳の少年が1人。眼前に広がる景色は、彼の生まれた街の端から端を捉えることが出来た。
いったい何ヶ月ぶりだろうか。少年は思わず山びこをしたい気分に駆られたが、ぐっと堪えた。
「やっっっと着いた!んじゃ、まずはあいつらの顔でも見に行くか」
少年は自転車のペダルに力を入れると、背中のリュックを思いっきり揺らしながら、下り坂を駆けていった。
止まっていた運命の歯車は動き始める。ふと来週もお楽しみにみたいな言葉が浮かんでしまいました(笑)
それでは来週の水曜日に投稿しますので、良かったら見てください。