少年が自転車を漕いで真っ先に向かったのは、かつて自分が通った幼稚園だった。
自転車を止めると、少年に気づいた幼稚園児達が彼に向かった群がってきた。少年は幼稚園児達の
「あいだだ~!ひさしぶり~!」
「あいだ~~!」
男児も女児も、少年の事を呼び捨てで『あいだ』と呼ぶ。少年はそれを黙って・・・という訳ではなかった。
幼稚園児達の頭を強く撫で回すと、久しぶりの呼び捨てに少年は喜んでいるようだった。
「相田さんだろ。お前たち、ホント相変わらずだなぁ」
「だってあいだじゃんー!」
「あいだも変わらないよ~だからあいだね~」
この面倒くさい子供たち。相田にとって、これは幸福であり欠いてはいけない不変の日常。
いや違う。変わらない訳ではない。相田の背後から、聞き覚えのある甘い声が聞こえた。
「宙良くん。帰ってきてたんだ」
「その声は、まど姉か。なんだ、ちゃんと先生になれたんじゃないか」
まど姉と呼ばれた女性は、えへへ、と自身の頬を人差し指で撫でた。
「なんとか、ね。宙良くんも、頑張ってるみたいだね」
「あぁ、そりゃもちろん。今回は沖縄と九州を総ナメしてきたぜ。いっぱいお土産あるからさ。とりあえず、まずはこれどうぞ」
「ありがとう、いただくね」
宙良はリュックから丁寧に包装された横に広い箱を取り出すと、まど姉に渡した。
「後でまど姉に貰うんだぞ~お前ら。あ、良い子にしないと俺がお菓子全部食べちまうからなー」
はーい、と子供たちは元気よく声を上げると、宙良の手を次々に引っ張った。
「ねぇあいだ~早く遊ぼうよー」
「ねえはーやーくー」
「分かった分かった。んじゃ、ちょっとだけだからなぁ」
宙良は軽やかに体を動かし、子供たちに付き合おうとしたその時だった。
遠く、小さく。何かが爆発した音と同時に黒煙が高く空へと舞い上がる。
「なんだろ、あれ」
宙良は背をぐっと伸ばし目を凝らした。
「まど姉。あの方向には何があるんだっけ」
「確か、
「交通事故・・・そうだとすれば大変だ。可能性があるというなら、黙ってここにはいられないな」
どこ行くの?遊ぼうよ。無邪気な子供たちは宙良が自転車に乗る理由が分からない。宙良はサムズアップをすると、にっと笑ってみせた。
「大丈夫、また遊んでやっから。ちょっと行ってくる」
先程帰ってきたばかりで疲れているだろうその身体を、宙良は躊躇なく立ち上る火の手目掛けて向かわせた。
守るべき場所あってのヒーローだと私は思います。
やっぱり王道は古臭くて、温かくて大好きです。
一応作品のあらすじに書いてあるのですが、投稿は1週間に1度ではなく、水曜と土曜の1週間に2度です。つまり次回は今週の土曜日。また見ていただけると幸いです。