宙良は汗をアスファルトへと落とすと、一目散に走り始めた。
「おいあんた、大丈夫か!!」
地面に仰向けで倒れる男の頭を抱えると、宙良は必死になって声を荒らげた。
その様子を冷淡な瞳で見るバケモノは、宙良の腹部を軽く蹴って倒す。
「ぐぅ―――!?」
バケモノは軽く蹴ったつもりでも、宙良にとってはコンクリートの地面に2階から叩きつけられた衝撃。歯を食いしばって、その痛みに悶えた。
「アホらしい・・・・・・死を宣告したのに逃げるばかりか近づいて来るなんて・・・・・・きひひひ、そんなに死にたい死にたがりやは、後でたっぷり殺してやるからそこで待っていなさい」
鎧武者のように重音を響かせて、モノは周りに炎燃え盛るトラックの荷台へ足を運ぶ。宙良は運転手付近から情景を見ていたので今気づいたが、不思議なことにトラックの荷台部分には火の手が一切上がっていなかった。まるで火の手がその部分を避けているようだった。
荷台のドアは開きっぱなしで、中に入っている黒い2つの箱が見えたが、近づいていくにつれ、化け物の動きは鈍くなった。
「ほう・・・まだ巫女を守護する王の結界はご健在と言ったところですか・・・あなた方に敵意を向ける私がそんなに憎いとねぇ。しかし、座標固定型の絶対防壁は神殿より離れればもはや紙くず同然。時間の問題ですねぇきひひひひ!!」
化け物が見えない何かに悪戦苦闘する最中。宙良はゆっくりと這いながら男へと近づいていった。
「大丈夫か・・・。今すぐ、助けてやっからな・・・」
宙良は脚をガクつかせながら、立ち上がると、男を抱え込もうとする。
すると男は、その手を払った。
「バカ野郎・・・・・・早く逃げろと言っているのが分からないのか。俺なんか担いでよ・・・あいつの視界から消えられるほどの速度が出るのか・・・ッ?」
「お生憎様だが、こちとらさっきの一発で千鳥足さ。可能性が薄くたって、あんたを抱えて逃げるぐらいしかもう出来ないっての」
「なんだその意味不明の理屈は・・・お前は馬鹿か、真性の大馬鹿野郎なのかッ!」
「大馬鹿で結構!!真性の大馬鹿野郎で結構!!でも、傷ついて困っているおっさんが目の前にいて、そいつを蝕む力があって、俺は力にビビって自分の魂に嘘を付いてしまうような卑怯者にだけはなりたくない、ただそれだけだッ!!」
大声を張る宙良に、男の弱々しかった心の臓腑は震えた。そして、まっすぐ何もかもを見つめる透明な瞳に、男は宙良に全てを賭ける決意を決めた。
「・・・・・・斎藤だ」
「え、何?」
「・・・・・・おっさんじゃあない。斎藤って名前がある。お前は?」
「・・・相田宙良。気軽に相田でも、宙良とでも呼んでくれ」
「それじゃあ相田と呼ばせてもらう・・・・・・。いいか、出血多量でクラクラする頭で考えた結果だが、やっぱ俺を抱えてあいつから逃げるのは無理だ・・・。例えお前が魂に嘘を付かなかったとしても、奴の力は無残にも俺達の魂を踏み躙るだろう」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」
「話の途中だ、よく聞け。トラックの荷台・・・2つの石で出来た柩が見えると思うが、そのどちらでも良い、手を触れ、開けと念じろ、それだけでいい」
突然下される理由の分からない作戦に、宙良は意味を問う。
「それをすると、どうなるんだよ」
「2人同時に助かるのは無理、1人でもダメ。となると答えは1つ。あの化物を倒すことだろ・・・・・・。そのためにチカラ、対抗するためのチカラが、あの柩には眠っている。さあ、相田。勇気を出して、踏み出せえッ!!」
ぽん、と胸に拳を当てる斎藤。宙良は決意を秘めた瞳でうなづくと、柩目掛けて走り始めた。
「うおおおおおおおお――――――ッッッ!!!!!!」
暑苦しくて恩着せがましい主人公って、自分好きなんです。たぶんそれはがむしゃらに相手の事を考えて行動しての結果だと思えるからなんじゃないかな、って。
それではまた次回もお楽しみに。