宙良が一通り幼稚園児達と遊び倒す頃には、すっかり彼らの下校時間となっていた。疲労感も達成感も人一倍で、彼らの下校よりも早く自宅へ戻ることを宙良は決意する。
その頃には、どしゃ降りだった雨はすっかり止んで。
「それじゃあまた今度な、元気にしてるんだぞ」
「ばいばいあいだ~」
「また来いよな~」
お互い手を振る宙良と子供たち、しかしまどかだけは不安そうな表情をしていた。ぎゅっと胸の前で手を合わせる。
「どうしたのまどか先生~」
「え、い、いや、なんでもないよ・・・さ、それじゃあお片づけして帰る準備しようね」
「はーい!」
まどかは自転車を漕ぎ急ぐ宙良の背中を見て心配した。それは帰ってきてからも普段通りの笑顔でこども達と接していた事でも、トラックの事故で沢山の人が死んだという事を聞かされた時の悲しい表情でもなく。ただ、理由は分からないが、彼がその事故に行ってからとその後で何かが違うような・・・そんな、女の勘が働いた事が心配する原因だった。
・・・
・・・・・・
「小夜子さん、いますかー?相田宙良っす、帰ってきましたー」
時は夕暮れ。守宿の中央住宅街。そこに広く領地を構える和風の豪邸。宙良は玄関に合鍵を使うことで入ると、中にいるだろう物件の主に声をかける。
しかし返事は帰ってこないようで。どうやら不在のようだった。
宙良は靴を脱ぎ上がり込む。幼稚園で体と服は乾燥させてくれたので、なんとか小夜子の家を汚さないで済むことにホッとする。
居間へ向かうと、いつも通り机の上に置き手紙があって、正一郎くん今日も友達と飲みにいってきまーす、と、しおらしさの欠片も感じさせない汚い文字で書いてあった。
「正一郎はいつも通り残業だとして、今日は小夜子さんもいないのか。とりあえず俺が帰ってることはメールしとこ。不審者に間違えられて殴られても困るしな」
宙良はメールで自身が帰ってきていることを知らせるメールを送ると、自分の部屋のある2階に上がる。そして旅に出る前と変わらない部屋を眺めると、ベッドに思いっきり大の字で飛び込んだ。
宙良は左手を天にかざす。まだ左手は化物を殴打する感触を覚えていた。仕方ない状況でかつ殴られるべき悪人だったとはいえ、良い気なんて微塵もしなかった。むしろ曇空のようなモヤのかかる気分だった。
「・・・・・・斎藤さんだっけ。今日は時間もなかったし、借りた歯車・・・今度返さないとな・・・・・・」
宙良はふぅっと息を吐くと、そのまま眠りこけた。
毎話タイトルを考えて付けているつもりなんですが、今回はひねっておりません(笑)
それでは、次回もよろしくお願いします。