憑依したプログラマーがアリスになりました 作:美晴
電子計算機の学問と魔法の技術が融合し、アリス・マーガトロイドは人形作りをしている。
外界のプログラマーだった青年は命を落とし、なぜか東方projectの「アリス・マーガトロイド」になっていた。
最初は混乱したものの、肉体に宿る記憶は「アリス」のものであり、しかし自我だけは青年のものであった。
アリスは今日も魔法の研究をしていた。
自分以外は誰も入れないように封印を施している「屋根裏部屋」が存在し、どこかの泥棒にも入り込まれる心配のない場所を作り、一人で研究をしている。
日中は本を読み、夕暮れになるとアリスは研究部屋へ入る。
魔法と科学の知識を合わせて作り出した、自称「パソコン」を立ち上げると、アリスは投影の魔法を作り出し、それをディスプレイの代わりにイメージを映し出す。
-ALICE wake up-
黒い背景に、緑色の字で起動ログが浮かび上がる。
それは「アリス」が魔法の研究用と、自律型人形の制御用に作ったオペレーティングシステムである。
今の「アリス」には、人形作りなど興味はなかった。
しかし、思いのほかやることも無くて、食事をしなくても死にはしない。
外気の寒さすら関係なく、人里での買い物すらも必要がない。
働いて日銭を得る必要もなければ、何もすることがない。
そのため、アリスになったはいいが、暇で暇で仕方なく、記憶にある「自律型の人形作り」の研究をすることにした。
「あー……、これ無理」
そこで一つの問題が発生して、魔法の研究というのが、とにかく難解であった。
「刻印」や「魔方陣」を、膨大な時間による試行錯誤で「どのような効果」をもたらすのかを調査し、その果てにやっと「新しい魔法」ができるという点だった。
百歩譲って外の世界の「回路図」を思い浮かべてみても、その作成風景は大きく違い、既にあるものを組み合わせるのではなく、作りだす事が求められている。
そんなものは魔法の「研究」ではなく、魔法そのものの「創造」と言ってもいい。
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最初にアリスは途方に暮れた。
しかし「魔法とはどのように動くのか?」を追及していくと、意外なほど簡単な事実に気が付いた。
発動段階では「魔力」を振動させているだけであり、望む効果を得られる「振動」を組み合わせることで「現象」を起こしているだけだった。
それを得る為に、複雑怪奇な魔法陣を書き込み、魔法使い個々人の「感覚」と「独学」にてアレンジを加えている為に、発展は阻害されているのだと感じられた。
元々「魔力を持つ者」にしか使えないというシビアな条件と、魔女狩りや異端審問による魔法使い排斥が行われていた歴史があり、技術も口伝でしか伝えられず、魔導書は公に出れば焼き払われる為に、秘匿される傾向があった。
話を戻すが、アリスだって並みの魔法使いではない。
自らの内に技術の積み重ねがあり、どのような魔法陣を刻めば、どのような現象が起こるのか、そのおおよそは検討がついている。
それらを「再利用可能」な形で情報として保存し、呼び出せるようにすればいい。
数学の「f(x)」のように、組み合わせやすい形で呼び出せるようにしておけばいい。
数式を組み合わせるように、文字列で与えてやればいい。
現代のプログラマーの経験を持ったアリスにとって、それらの「完成形」の一端が見えていた。
オブジェクト指向のプログラムのように、基本的な「魔法発動」の機能を持つ「基本的な魔法」に対し、追加で「やりたいこと」を上書きしてやればいい。
それ故に、アリスは見慣れている「プログラミング言語」を基にして、まずは可読性の高い「文字列」で記述し、それらを発動可能な魔法へと「変換する為の魔法」を作り上げた。
この魔法を「コンパイラ」と名づけると、その魔法を通すことで、実行可能な魔法を簡単に作り出せることに成功した。
ただし制約もあり、アリスが知っている「魔法法則」の中で組み合わせてできる範囲であり、全く新しいものを作る事ではない。
コンセプトとしてはあくまで、既知の魔法法則を組み合わせて、新しく見える魔法を作り出すことである。
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一つだけ、この方法に限界があるとするのなら、完全な「自律型」の自動人形を作るには、この方法は不向きであるという点が挙げられた。
簡単な命令を自分で解決できる程度のAIならばともかくとして、人工知能など「学習する」機能を持ち、そのほかにマルチタスクで「分析する」「記憶する」「情報を整理する」など、果てはそれらの「経験」と呼ぶべき記憶の中から、その時々で異なる思考を弾き出し、人間のような「多様性」を再現しなければならないのである。
これらはすでに「脳」の再現であるように思え、生身の肉体を再現するような、クローンに近い何かを作ればいいのでは?と頭をよぎるのだが、それでは美しくないし、何より気持ちが悪いと考える。
人格が入れ替わる前の「アリス」がどう感じていたのか、それは既に分からないが、それはナンセンスに思え、あくまで「手作り」の「人形」でなければならないのだろうと思った。
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閑話休題で、難しい話ばかりになってしまったが、アリスの研究は夜明け前には終わる。
自分で作ったパソコンを閉じ、自分にしか読み込むことができない魔導書である論文は、誰の目に触れることもない。
仮に泥棒が入ったって、情報の中身は自分の生体情報で暗号化されていて、読むことなど不可能である。
バックアップデータを数体の「上海人形」の中に隠すと、夜も深くなり、眠ることにした。
アリスは明日、博麗神社へ行くつもりであり、あまり夜更かしをするつもりはなかった。
概ね、アリスの行動自体は人格が変わる前も、後も変わることはなかった。
意図的にそれを行っているというのもあるが、何より肉体に宿る記憶と魂に宿った記憶のどちらに重みがあるかといえば、行動方針を決めるのは自我や魂の記憶でも、活動内容を決めるのは肉体の記憶である。
「はぁ…」
一つだけあくびをすると、アリスは部屋を出て、封印を施す。
金髪で青い瞳、服装は青と白を基調として、頭には紅いリボンを巻いてる。
人形のような少女であり、歩く姿には無駄がない。
このあたりは、アリスの体が覚えている動作なのか、意識せずともできていた。
傍らには試作品「ALICE」をインストールした上海人形がじーっと控え、その反対側には、魔法の刻印により安定的に動作をしている上海人形が静かに控えている。
それは今のアリスが作った人形と、前のアリスが作った人形である。
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以上がこれからのアリスの研究風景の一端であり、しばし、日常の風景に切り替わる。
研究成果は、少しずつ、機会があれば記載しておこうと思う。
ALICE 研究日誌:第1話