艦隊これくしょん〜ブラック提督(笑)の奮闘 作:SKYアイス
今回
朝潮、覚醒
「ふむ」
状況は一気に動いた。漣が敵の艦載機を撃ち落としている間に大井が魚雷による先制攻撃で相手の空母を中破に追い込んだ。大井の火力でも大破には追い込めなかったものの、これだけやれば充分だろう
だが代償も大きかった。相手の艦載機がそれを見通していたのか、大井による攻撃と同時に敵の艦載機が一気に漣に向かったため、艦載機の猛攻撃を凌ぎきれずに漣が戦闘不能になった。これで相手は二隻、こちらは一隻戦闘不能になった。だが相手にはまだ大和、長門、那智、熊野といった歴戦の強者が無傷で健在だ。
特に大和と長門は戦艦の中でも最高クラスの戦闘能力を持っている…迂闊に攻めてもまず敵わないだろう。返り討ちに遭うのがオチだ
「ここで漣が戦闘不能になったのは痛いな…」
本来の筋書きでは、雷撃を警戒して大井に戦力が集中すると思っていた。その為に大井はわざとフリー…攻撃しやすい位置に陣取らせておいた。
(だが大井を無視して漣を狙うとは…あからさますぎたか?)
本来提督は昼戦においては空母二隻を中破に追い込めば万々歳、欲を言えば熊野と那智を中破に追い込むのが理想だった。だが
「それも想定内だ」
提督は演習が始まる前に、それぞれ誰が一番最初に倒されるかをシミュレーションして、次の動きの指示を頭の中に叩き込んでおいた。漣が戦闘不能になった場合は、駆逐艦二隻を後方に下げ、神通を前線に上げる。その時に空母二隻が戦闘不能状態ならば、日向のユニークスキルである瑞雲運用技術を駆使して制空権を確保する事。
制空権を確保し、相手の動きを制限して鈍足な長門と大和を高速戦闘によって可能な限り消耗させる。熊野と那智は日向で食い止める。
それが作戦だ。だが戦場にはセオリーなど無い。常に状況が動く戦場においては事前の作戦通りに事が進む事は無いと思え。それが提督のスタンスであった。故に常に新たに作戦を考える…彼女達に確実な勝利を与えるために
「朝潮、事前に話しておいた通りだ。今の状況を詳しく教えてくれ」
『は、はいっ!えっと…今は…きゃあ!?』
通勤中に轟音と共に水が落ちる音が聞こえる。恐らく相手の戦艦の砲撃だろう。それも大和型の
(これがあるから大和型の相手はきつい)
大和型の主砲である46㎝三連装砲は、戦艦の中でも最高クラスの威力と射程を誇る。これの砲撃を受けてはひとたまりも無いだろう。
彼女の編成の中でも最高クラスの編成。火力と射程でねじ伏せ、近寄る敵を長門と那智で蹴散らす。今回は熊野だが、彼女が向こうにいる戦艦のツートップの内の一人である武蔵だった場合を考えると…少し身震いした。
『す、すみません!えっと今の状況ですが、大和さんの砲撃が雨のように降ってきます!』
想像通りだ、どうやら相手は先に空母が戦闘不能に追い込まれたせいで、完全に守りの態勢に入ったようだ。近づこうにも長門と那智で守られ、大和に近寄るのが容易ではない。
今の状況で最高クラスの対空戦闘技術を持つ漣が健在なら話は別だったが…彼女が戦闘不能ならば話は別だ。当初の予定通りに事を…
そう言おうとした所でふと、思い止まった。
今回の戦闘は朝潮の力を引き出し、見極める事だ。彼女の活躍の場を奪うのは…違うのではないか?
こんなピンチの時こそ、真価は発揮される…彼女達が艦娘ではなく、感娘であるが故に
だから提督は
「全艦隊に告ぐ。吹雪、神通は那智と長門への牽制を。朝潮は大和の遠距離攻撃を食い止めろ。大井は狙撃位置を変更。場所は任せる…日向は朝潮の援護をしてくれ」
『し、司令官!?』
朝潮が驚いたような声を上げる。無理もない…初めての演習でこんな大役を任されたのだから。だが
「朝潮、お前の力を…日々の訓練で付けた実力を今この場で、この瞬間で使うんだ。お前ならできる、そう確信している」
『……………』
『はいっ!朝潮、ご期待に応えます!!』
◇◇◇◇◇◇
「やられたねぇ」
横須賀の提督は最悪の事態は想定していた。大井による開幕雷撃による空母の戦闘不能は…そしてそれが現実になると同時に改めて思い知った。
10強と呼ばれる彼女達がどのような存在かを
「現に開幕戦はやられっぱなしだしねぇ、漣ちゃんに荒らされまくったし」
漣の普段はふざけているが、その仕事は確実にこなす精神…そして実力は知っていた。だからと言って…
「8割持っていかれるなんて、予想してないっての」
漣が落としただけでも4割、うち2割は先程から不規則な動きを見せる神通だ。後の2割は最後の力を振り絞った空母二隻による最後の一撃で漣と共倒れ。制空権を確保しようとした残りの2割は日向に蹴散らされた。
「ま、亀さん戦法で今は凌いでるけど…海色君は絶対に突破してくるよね」
彼の事を信頼しているからこそ生まれる考え。彼ならばあらゆる可能性を検証し、最も確率が高い作戦を取るだろうと。
それはどういう作戦だ?そしてそれは自分に読める作戦か?
(ピンポイントで当たるなんて思ってはいないよ、ただ…やられっぱなしは悔しいよねぇ)
普段はのほほんとしてる横須賀の提督だが、彼女は人一倍負けず嫌いでもあった。故に彼女も考える
(亀さん戦法ははっきり言ってその場凌ぎの時間稼ぎだ、私が向こうの作戦を考える時間稼ぎ。そのままやられてくれれば万々歳なんだけど…それは期待しない方がいい)
ありとあらゆる不利な作戦を成功させてきた彼だからこそ、この状況でも突破口を見出せる…そんな予感があった。
(さっきから気になるのは神通ちゃんなんだよね…開幕戦は参加したけど。それ以降の砲雷撃戦じゃ全く参加してない…どう考えてもおかしいよね)
神通の動きは、艦隊と共ににいる訳でもなく…本当に単独行動を取っていた。それなのに被弾すらしないのは彼女が避けに徹しているからだろうか?
(…………直感だけど彼女を放っておいたらマズイ事になる…そんな気がする)
驚異的な火力を持つ大井でも、それは雷撃に限った話だ。現状は無視しても構わない…吹雪は今の所は真価を発揮していないが、彼女を優先的に潰すのは変わらない…日向は那智と長門と熊野でかかれば倒せる…が
だからこそ不安になる。
(まるで彼の掌の上で踊らされてるみたいな感じ…嫌だなぁ、きっと私のこの思考も予測してるんだろうなぁ…だったら)
ならばと思う。踊らされてるならばそれ以上に踊ってみせようと。それこそ相手が付いてこれない位に
「熊野、ダンスタイムだよ…日向と同じく瑞雲を飛ばせる君だからできる仕事だ」
さあ、最高クラスのステージで…派手に踊ろうではないか
◇◇◇◇◇◇
「良い?朝潮ちゃん…大和さんの砲撃は当たったら私達駆逐艦はひとたまりも無い…全部避ける事を考えて」
「はい……」
不思議だと朝潮は思った。あれ程緊張していたのに…今は不思議と落ち着いている。
提督に言われた言葉を思い出す。日々の訓練で身に付けた実力を発揮する時…そして、提督に言われたお前ならできるという言葉。
胸が高鳴る…配属されて日は浅いが、彼の事は良く理解できている。
誰一人沈めない、その為に一人一人の訓練時間を濃厚にかけ、常に成長していく環境を作る。休みは就寝時間やご飯の時間や三時のおやつ、夜の自由時間のみ、それ以外は訓練付け…だからこそ実力はメキメキと付いてくる。そして今回それがよく分かった。
だからこそ…
(あの人の期待に…応えたい!!!)
不意に世界がゆっくりと動いてるように錯覚した。
全身が軽い。飛んでくる砲弾が文字通りに見える。
この程度の遅さだったら簡単に避けられる
「見えた!!!」
遅い、遅い、遅い
全てが遅い
「あれ?」
気付いたらもう大和さんの目の前にいた。
長門さんも那智さんも熊野さんも見えるけど、主砲を構える速度が遅すぎる
この程度の速度ならば
全員に攻撃できる
ドォォン!!!!!
◇◇◇◇◇◇
「想像以上だな…朝潮………」
「はへ?え?何それ?え?私の負け?え?」
こうして演習は、呉の提督の勝利で終わった。
だが…………
,
「………神通に指示しておいた切り札…無駄になっちまったな…まぁ朝潮の成長は喜ばしい事なんだけど…うちって駆逐艦ばかり強くないか?…うぅん…」
彼は一人唸っていた。
某仮面ライダーを参考にしました。