艦隊これくしょん〜ブラック提督(笑)の奮闘   作:SKYアイス

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まだ……見てくれる人はいるのだろうか?
皆様お待たせしました……はい。


第35話

 一つだけ、たった一つだけ残っていたものがある。それは数少ない自分の楽しみの一つであり至福の時間を生み出すモノ。

 それは、プリン……プリンだ。それもただのプリンではない、とある有名店の特性プリンだ。休日はおろか平日でも開店と同時に人が押し寄せ、並ばなければ手に入る事は無いレベルの人気の品。

 

 1口食べれば舌に濃厚な旨みが伝わり、とろり……と、歯を使わずとも形が崩れる程の柔らかさ。文字通りの至高の一品。これを食べた人はその美味さに取り憑かれたかのように買い求める程に、時には買い占める人がいたりする程の人気だ。(危ない材料は一切使っておりませんので安心してお買い求め下さい)

 

 勿論我らが提督もその美味さの虜になった一人……という訳ではなく、この提督は単純に甘い物があればそれでいいやという思考でプリンを二個買った。結果ハマった。

 

 だからこそ数少ない自分へのご褒美として超絶美味いプリンを食べていたのだ、そして今日英気を養う為にもと思いプリンを食べようかと思ってたのだが……

 

 そのプリンは無くなっていた、消えていた、お亡くなりになられました。

 

「……………………………ふぅ」

 

 溜息をついて、椅子に座る。執務室には自分以外に誰もいない、そして自分以外基本的に報告に来る感娘以外はやって来ることは無い。(何人かの例外は除く)

 だが提督は自分の部下はそんな事はしない……と考えている。ならどうして無くなっているんだ?そう考えた所で二度溜息をついた。

 

「……………………………はぁ」

 

 二度目の溜息をついたところで、自分の気持ちが沈んで行くのが手に取るように分かった。

 さっきまで自分の心は柄にもなく浮ついていたにも関わらずに、だ。

 思ったよりもメンタル弱いな……そんな言葉が頭を過ぎった。くよくよしても仕方ない、また新しく買い直せばいいか。そう気持ちを切り替えて執務をしようと……そう考えたのだが

 

「あっ」

 

 ペンを手に取ろうとしたら、机の上に置いておいたカップを落としてしまった。幸い中身は空だったので書類に液体が零れる事態にはならなかったが……それを見たらまた気持ちが沈んでしまった。

 

 何をやっているんだ俺は……そんな事を思ってしまうくらいには、この男は凹んでいた。

 

 

  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 ダン!ダン!ダン!と砲撃をする時に響く音が耳に届く。

 砲撃をする度に感じる反動が、また心地いい。砲撃は良い物だ。

 目標物である海上の的に着弾すると、爆発と共に黒煙が上がり、それが晴れたら見えるのは粉々に砕けた的の残骸。

 それを見る度に私は思う、ああ……何て気持ちが良いんだろうかと。

 

 一発一発撃つ度に、一発一発当てる度に、全身が歓喜に震えるのが手に取るように分かる。

 嗚呼、欲を言えばこれが昼ではなく夜ならばと……彼女はそう思わずにはいられなかった。

 砲撃は良い、だが夜はもっといい。敵と私が戦闘する(殺し合う)のにこれほどうってつけの時間は無いからだ。

 

 夜になる度に思う。夜になる度に身体が疼く。夜になる度に走り出したくてたまらなくなる。私が……私という存在が輝く時間だ。

 

 とは言っても昼が嫌いな訳じゃない、私が輝くのに一番適している時間が夜なだけ、それだけなんだ。

 でも……やっぱり夜がいいな。

 

 

 

 的を全て落としてから、彼女は一息つく、日本に伝わる忍をイメージさせるような風貌の彼女は艤装のチェックを軽く済ませてから、魚雷を手に取った。

 軽く身を震わせてから、自分が向いていた方向と逆の方を向く。そしてそこにはある感娘がいた。

 その感娘は真剣な眼差しをこちらに向けてくる。それだけで彼女がこの訓練にどういう気持ちを持って挑んでくるのかが分かった。

 

 それだけで、自分の感情が昂るのを感じた。

 

 

 

 

 ーいいよ、凄く……良いー

 

 

 

「さあて、時間になったし始めちゃおうか?」

 

 早く戦いたい……もっともっと強くなるために……!

 その強い思いを胸に抱き、彼女は抜錨した。

 

 

 

  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「あっ」

 

 たまたまそれが目に入った。本当に偶然なのだけれど……それを見てしまった。大井が何やら執務室の前をうろうろとしていたのを見た。そして手には何らかの食べ物……いや、あれはプリン?そして大井は深呼吸してから扉をノックして、執務室の中に入った。

 

 この事は私の胸にしまっておこう。そう考えてその場を立ち去ろうとしたら……

 

 

「なんですか抜け駆けですかあざといですねぇ流石は大井さんデレデレなんですよ分かりますか?それがどれだけ罪深いのかをそれにそんな分かりやすい好意に気が付かないのは提督ぐらいですからねぇ助かってますねぇ大井さん色々と本当にああそれにしても本当にあざといですねぇ鎮守府中にその痴態を拡散してやりましょうか普段大井さんが部屋でヤってる行為を青葉が知らないとでも思ってるんですか?青葉の情報力は世界一ィィィィですからねぇ」

 

 何かハイライトを消した青葉がいた。

 

 

 ーそっとしておこう。ー

 

 鎮守府の感娘の中では珍しく病んでいない彼女は……暁は顔を青くして、目尻に涙を浮かべながら立ち去った。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 若干落ち込んでいたところにコンコンと扉を叩く音がした。青葉に頼んでおいた先日の報告書か?そんな事を考えながら提督は執務を中断して扉を叩いた主を招き入れる。

 

 

「入れ」

「失礼します提督」

 

 驚いた事に入って来たのは大井だった、それも手元にはプリンを二つ持って。

 ふと、もしかしたらプリンを盗んだ犯人は彼女ではないかと考えたが、冷蔵庫に入っていたプリンは一つだけだったので、それは無いかと結論を出す。

 

「提督、あの夜戦バカと北上さんに近づく不届き者が訓練していたのだけれど……」

「ん?あぁ……訓練は中断と指示したんだが……まぁ後で二人共お仕置き部屋に連れて行くか。他に訓練している感娘は?」

「いなかったわ……ふん」

 

 お仕置き部屋に連れて行くと言ってから大井が急に不機嫌そうな表情をし始めた。一体何だ?と思っていたら彼女は不機嫌そうな表情を崩さずにプリンを机の上に一つ置いた。

 

 

「ところで提督、少しばかり話題になっているプリンを手に入れたので一緒にどうですか?」

「……北上と食べないのか?俺よりも北上と食べた方がお前にとって……」

「北上さんとはもう食べましたので、それに提督も働きすぎてまた倒れられたら困りますので甘い物で少しは息抜きすれば良いでしょう!?」

「……そ、そうか」

 

 若干大井の勢いに押され気味な提督、困惑気味の彼はさっきまで落ち込んでいたのもあり、素直に大井の提案を受け入れていた。

 プリンに手を伸ばし、一緒に置いてあったスプーンをとり蓋を開ける。すると甘い香りが部屋に漂い、思わず笑顔になった。

 

「そ、そうよ。普段からそう素直になれば良いんですよ」

「お前に言われたくはないな」

「ち、ちょっと!?どういう意味よ!私は何時も素直よ!」

「それより、お前は食べないのか?」

「あーもう!食べますよ!食べれば良いんでしょう!?」

「な、何をそんなに怒っている?」

「うっさいわよ!」

 

 口では文句を言いつつも、一口プリンを食べたら途端に笑顔になってもう一口食べる辺り、こいつも現金な奴だな、と、提督は思った。

 

 




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