艦隊これくしょん〜ブラック提督(笑)の奮闘   作:SKYアイス

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うん、今回は難産でした。難しいね。


第40話

 横須賀の提督の感娘達と合流し、崩壊した鎮守府を目指し進む、進んで行くうちに硝煙の匂いが強まり、物が焼ける時に匂う独特な匂いがしてくる……同時に、血の匂いもしてきた。

 

 近付く毎に段々とその輪郭をハッキリと表してきた崩壊した鎮守府を見て、思わず固唾を飲んだ。

 

 

 それは、余りにも恐ろしい光景だった。

 

 

 足の踏み場を探すのにも苦労する程に、瓦礫が辺りに数多く散らばっている。

 鎮守府の道という道に巨大な穴が空いていたり、割れた硝子が散乱している。

 大型のクレーンは中間あたりで折り曲がり、先端部分が海へ浸かっていた。

 鎮守府本館は廃屋という言葉が易しく感じる程に崩壊していた、所々が焦げていて、本館の三分の二が瓦礫と硝子の山と化していた。

 入口部分と思われる箇所は本館二階と思われる場所の床が抜け落ちて、その瓦礫で塞がっていて入ることすら困難な状態になっている。

 

 そして何より……そこには死体が多すぎた。

 中には見知った顔も数多くいる、この鎮守府に所属している感娘達の……亡骸が……そのうちの何人かは戦闘の末に倒れたのだろうか、まだその手に主砲を持ったまま亡くなっている者もいれば、前のめりに倒れている感娘もいた。

 

 一体何が起こったのだろうか?一体何がこの鎮守府を壊滅させたのか?

 自分達と共に上陸した全員が言葉を発しない。横須賀の提督の感娘も、自分の感娘も……当然自分も。

 

 酷すぎた、非道すぎた、悲惨すぎた。

 

 自分は黒と呼ばれる鎮守府の有様や結末を見てきた。感娘を艦娘として扱った結果その身を滅ぼしてきた提督の結末を見てきた。

 中には彼女達を奴隷として扱った鎮守府があった。

 中には彼女達を化け物として扱った鎮守府があった。

 中には彼女達を性奴隷として扱った鎮守府があった。

 中には彼女達の存在を認めなかった鎮守府があった。

 中には彼女達を自分の目的の為に利用しようとした鎮守府があった。

 

 当然そのどれもが最終的には鎮守府を解体され、それ相応の罰を受けた。

 

 だが……この鎮守府はそういった黒とは無関係の鎮守府だ、何故この鎮守府がこんな目に合わなければいけない?

 この鎮守府は白だ、他でもない自分がそう言い切れるほどに綺麗な鎮守府だった。

 

 何故この鎮守府なんだ?何故彼が襲われたんだ?どうせ襲われるなら綺麗な彼ではなく、汚れきった自分が相応しいというのに……そして何故彼の感娘が死なねばならない?

 

 自分の中の何かが熱く煮えたぎるような感覚を感じた。

 

「……司令官」

 

 吹雪が自分に声を掛けてくる、彼女の目は自分に真っ直ぐ向けられていて、まるで語りかけてくるかのように自分の瞳を見つめてくる。

 まだやるべき事があるだろう?そう言われているような気がした。そして……嗚呼……確かにその通りだと自分は思った。

 

 嘆いている暇などない、自分は何のためにここへ来た?現実を直視して嘆くために来たのか?

 

 違う。

 

 なら何のためにここへ来た?わざわざ危険を犯してまで、残り少ない資材を使ってまで何をしにここへ来た?答え分かりきっていた、生存者を探すため……そしてこの鎮守府をこんな悲惨な姿に変えた元凶……深海棲艦を討つ、その為の力にするためにここへ来た。

 

 ああ、自分がこれからする行動に傍にいる彼女達はどう思うのだろうか?だが関係ない、自分は既に黒になっている、ならば黒は黒らしく行動するまで。

 

 この鎮守府の装備と資材を最大限に活用する。残り少ない自分達の資材と合わせて……その資材をもって大規模作戦に挑み、敵を討つ。

 それが今、自分ができる事だ。

 

 

 ……お前の鎮守府の力は俺が無駄にしない、そう決めた。誰がなんと言おうが関係無い、これは俺のわがままだ。

 

「指示を出す、雪風と吹雪は鎮守府にあるありったけの資材と装備の回収、そして生存者を探すんだ」

「「了解!」」

 

 吹雪と雪風は自分の指示を受けてから一目散に崩壊した鎮守府を進む。

 自分の指示に何ら疑問もなく従ってくれる彼女達に、心の中で感謝を送った。

 

「資材と装備の回収……?この状況でそれを行うのか?この鎮守府の有様を見て考えたのはそれなのか?何故だ……何故なんだ!?」

 

 予想してた通りだ、横須賀の提督の感娘である長門が悲鳴に近い声色で訴えてくる。

 だが、今は口論している時間さえ惜しい、無駄な口論に時間を掛けるのも惜しいし、横須賀の提督との付き合いは長いし彼女は自分の事を良く理解している。

 後で何かしら言われることは分かっているが……その時はその時だ、ありのままの意見を言おう。

 そう考えて、自分も崩壊した鎮守府に足を踏み入れた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 あぁ、やっぱり彼はそういう選択したか。

 確かにこの光景を見た瞬間、私も思考が止まってしまった。きっとこれはあの場所にいた全員がそうなんだろう、現地にいない私でさえそうなのに、現地で実際にこれを見た皆んなの内心は……きっと私が考える以上にショックを受けるに違いない。

 

 だって普段冷静な長門でさえ、海斗君の行動を批判しちゃったから。付き合いは長い筈なのになぁ……まぁ説明も無くあんな火事場泥棒みたいな事を命令した海斗君も海斗君だけどね!

 

「じゃあ第一艦隊の皆んなは海域の見張りをして、第二艦隊の皆んなは生存者を探して」

『あ、あの!司令官!呉の司令官の装備と資材の回収は止めなくて良いのです?』

「あぁ、放っておいて良いよでんちゃん、海斗君の事情は分かっているし……私もそうするべきだと考えているから」

『何……?』

「ながもん落ち着いて、理由は後でちゃんと説明するから、今は私の指示に従って……ね?」

『……了解、だが後で理由は聞かせて貰う』

「うん、それでいいよ」

 

 全く本当誤解されやすい人なんだから……ま、多分海斗君を理解できるのは私か元帥だけだろうし……全く幼馴染みも大変だなぁ。

 

 私は同期であり、幼馴染みであり、腐れ縁でもある彼の事を想って溜息をついた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「ひっく……ひっく、うぅ……うぁぁ……!」

「生存者二名確認……か」

 

 目の前には、変わり果てた姿の雨音雫と彼が初期に選んだ感娘の五月雨がいた。

 隣には気絶している白露の姿も見える……だが……惨い、そう思ってしまう。

 

 全身を赤に染め、左腕を失い脇腹に大きな空洞が空いている、即死……その言葉が頭から離れてくれない。

 

 ああ、くそ!

 

 目を背けたくなるが、しっかりと目に焼き付ける、彼の最後を、彼の死にざまを、彼の最後の姿を。

 

 この姿は、目に焼き付けなければいけない。

 この姿は、忘れる訳にはいかない。

 これは敵だ、奴等に奪われた者……奴等に殺された者と、残された者の怨みは……奴等への報復は必ず果たす。

 

 拳を硬く握りしめ、目を瞑り、静かに祈り、心の中でお前に言う。

 

 ー後のことは俺に任せろ、お前の敵は必ず取る、お前の無念は必ず晴らす。だから安心して逝け……雨音雫。ー

 

 目を開けて、雨音提督の亡骸に寄り添い泣く彼女に歩み寄る。

 

「これから俺は、お前の鎮守府の資材、装備を確保する」

「ひっく、えぐっ……」

「理解しろとは言わない、後で俺を批判するのも構わないし憎んでくれても構わない……だが、俺は決めた。この鎮守府の装備と資材を最大限に使い、大規模作戦を完遂させると、俺がこの鎮守府を無駄な犠牲にしない。してやらない」

 

 こんな事を言ったら色々と問題になるかもしれない、でも言わずにはいられない。

 

「おれが文字通り、言葉通り、雨音提督の分まで戦う、雨音提督が、彼の感娘が魂を込めて集めたこの資材……この資材を使って、俺は戦う。そして敵を取る……そしてあいつに報告する……お前の敵はとったと……」

 

 この鎮守府の装備や資材は本来なら大本営に押収され、然るべき鎮守府に送られるだろう……こんな勝手な行動をするなんて本来なら懲罰物だ、これは完全に俺のわがままだ。あいつの資材とあいつの武器を使って、敵を討ちたいなんてのは……それでも俺は、そうしたい。

 

「これからお前と白露は横須賀の提督に保護させる、そして吉報を待っていてくれ」

 

 そう言い残し、他の生存者を探そうとしたら

 

「……嫌です、保護されて安全な場所で報告を待つのは!……私も戦いたい、敵を、討ちたい……!」

 

 五月雨に呼び止められた、足を止めて彼女と向き合ったら、五月雨が涙を堪え、真っ直ぐな瞳を自分に向けてくる。

 

「…………」

 

 その目には何が宿っているのだろうか?その心は何を宿しているのだろうか?

 復讐心?使命感?それとも……別の何か?

 

 いや、関係ない、自分は強い心を持つ者を歓迎する。それが何であれ……自分はそれを否定しない。

 

「なら、うちに来るか?」

 

 気が付いたら、俺は手を差し伸べていた。

 新人の育成とか、自分の鎮守府の状況はその瞬間は頭から消え去っていた。

 ただ、この少女の願いを叶えてあげたい、そう心が叫んでいたから……自分は、俺は、俺の心に従った。

 

「ッ……!!」

 

 そして、彼女は俺の手を取る。

 冷たく冷えたその手は……自分には暖かく感じた。

 




唐突に現れる提督のブラックモード(笑)いやぁ、これは批判されてもおかしくないですわ


10強紹介part2

駆逐艦時雨

能力は装甲貫通、装甲や火力は普通の時雨改二よりちょっと高い程度だが、敵の装甲を無視する力は恐ろしく強力だ。
響や瑞鶴、漣や青葉みたく複数の能力を持つというわけではないが、その能力や元々の性能の高さも相まって10強最強の名を持つ。
また、さり気なく手加減した状態で夕立改二と互角に戦闘できるなど、頭がおかしいところも見せるが、あくまで普通の時雨改二よりちょっと性能が高いだけである。

次回は10強No.2、響ちゃんの紹介です。

最後に一言。
横須賀の提督は呉の提督を想っています。
想っています。
大事な事なので二回言いました。

シリアス続きだからね!偶には甘い要素も入れないとね!

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