ストライク・ザ・ブラッド ー暁の世代ー   作:愚者の憂鬱

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時差ボケキッツー……。

古城の嫁は後何人出そうか。

あ、落書きです。

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異次元の真祖編Ⅰー②

「あ、古城君」

 

「…なんだ、零菜か」

 

 古城の書斎に向かった零菜が長い廊下を歩いていると、暁の帝国の皇帝、父親の暁古城に出くわした。

 声をかけた時、ポケットに何かをしまったような動きをしていたことから、直前まで入用の電話でもしていたのだろうと思った。

 

「むぅ、なんだとは何よ。失礼な」

 

「いや、他の娘はともかく、お前とはほぼ毎日顔を合わせているからな。よく言えば一番馴染み深いし、悪く言えば面白みがない」

 

「わざわざ悪く言わないでよ⁉︎」

 

 もー!と可愛らしい顔を膨らませてぷりぷり怒る娘の頭を、少し乱暴に撫でてやる。

 しばらくは黙ってされるがままだった零菜も、やがて「髪が乱れるよ!」と言って、ごつごつとした手を払い除けた。

 

「そういや、お前は何でこんなとこに居るんだ? 今は亞矢音も奏麻もいるだろう。みんなで外に遊びに行ったらどうだ」

 

 不思議に眉を顰めて聞いてくる古城に、零菜は呆れ顔で返した。

 

「今から何か大事な会議があるんでしょ? 私も参加するの。ママにもそうしろって言われたし」

 

 そう言い終えると、古城の顔つきが変わった。眉間にしわを寄せ、強張った表情になる。

 

「そうか、雪菜がそう言ったのか…」

 

 そして小さくため息を吐くと、いつもより少し低い声で、言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

「お前が参加する必要はない。子供は元気に外で遊んでるのがいいと思うんだが」

 

 古城の言葉に、僅かに険があるのを敏感に察知した零菜は一瞬驚き、身構えたが、それでも一歩も引かなかった。

 

「どうして? 私だってもう中学生だし、ママは私の歳の時には古城君と一緒に闘ってたんでしょ。それに、萌葱ちゃんに亞矢音、奏麻だって呼んでるのに、私だけ仲間外れ?」

 

「あいつらも参加させるつもりはない。今回用があるのは、お前の母さん達であって、まだ半人前のお前たちまで人手として考えるほど、この国は貧しくないんだよ」

 

 半人前、という言葉に反応して、零菜は父の顔を見た。そこにはいつも通りの落ち着いた表情が張り付いていたが、やはりどこか"いつも通り"でない何かがあるように感じられた。

 純白に彩られた廊下に、静寂が満ちていく。しばらく向かい合っていた二人だったが、やがて古城の方から、零菜に背を向けて廊下を歩き出した。

 

「間違っても、"自分だって闘える"、なんて考えるなよ」

 

 去り際にそんな言葉が聞こえた。

 まるで突き放すような、普段の古城からは考えられない冷徹な態度に思わず面を喰らうが、雪菜監修のもと積み上げている厳しい訓練の日々を真っ向から否定された気になった零菜は、一瞬で頭に血が昇るのを感じた。

 

「なんでそんなこと言うの‼︎?私だって毎日辛いけど、いつかママみたいな攻魔官になってこの国の為に働きたいって…そう思って頑張ってきたッ‼︎」

 

 遠くなっていく背中に吠える。

 それでも父の歩みは止められない。

 

「今日の古城君なんかおかしいよ‼︎何があったの⁉︎」

 

 やがてその姿は、長い廊下の突き当たりを曲がり、零菜の視界から完全に消えてしまった。

 

「……私だって、」

 

 一人残された広い空間に、僅かな嗚咽の混じった消え入りそうな声が響く。

 

「私だって……っ」

 

 小さな雫が、俯いた顔の頰を伝い、床に敷かれた黒い絨毯に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古城の書斎の隣室には、会議やレセプションの為に用意された、屋敷全体の中でも比較的広い部屋があった。

 上から見て0の字を描くような、巨大な木張りのテーブルが中心に据えられたその部屋に集まったのは、古城の呼び掛けに答えた五人の妃とその従者数人、アイランドガードの最高責任者と、王宮の重職者数人だ。

 全員が入室し、与えられた席に座ったのを確認してから、暁古城は口を開いた。

 

「急に集まってもらって悪かったな。まぁうちの女性陣は前々から集まる予定があったわけだが」

 

 まずは聞いてくれ、と言って、右隣に座っていた雪菜に目配せをした。

 神妙な面持ちの雪菜は、自身が経験したかつてない敵の危険性について、ひとつひとつ淡々と話を始めた。

 

 

 

 

 

「……雪菜さんでダメなら、それこそもう古城がやるしかないんじゃないの?」

 

 全てを話し終えた後、凍りついた会議室の空気をはじめに打ち破ったのは、古城の左隣の席に陣取っていた妃の一人 暁浅葱であった。

 学生時代の派手な金色から、少し色素の抜けた黒髪に染め直して、ゆったりとしたロングスカート、白いワイシャツの上からゆったりとしたベージュのカーディガンを羽織った美女は、言葉を続けた。

 

「だって、そのウズヒメって女は第四真祖の眷獣すら簡単に無効化する手段を持ってるし、もう一人の男も雪菜さんが戦ったときは万全のコンディションじゃなかったってことでしょ? そんな出鱈目な連中、私たち『血の従者』が向かっていったところで、できることなんて限られてると思うけど」

 

 雪菜とその隣に座っている紗矢華は、浅葱の冷静な言葉に悔しげな顔を作ったが、なまじ正論であるために反論ができないでいた。

 

「俺が思っていたこともだいたい同じだ。だが、見てわかる通り俺はこの世に一人しかいない。今や人工島の域を超えつつあるこの国の広さでは、いざ奴らが仕掛けてきた時に、たった一人で対応しきるのはまず不可能だろう」

 

 第一、その『奴ら』がいつ攻めてくるのか、明日なのかそれとも遥か遠い未来なのかも分からないのでは、対処には更に骨が折れる。ただの一人も国民から被害者を出さないように、古城はずっと最良の方法を考え続けてきた。

 そしてついに、一国の指導者として取るべき方針を決めたのだった。

 

「何てことはない。ここに巻島さん、アイランドガードを呼んだのは、この国中のありとあらゆる監視防衛システムを利用して、奴らの侵入をいち早く察知できるようにしてもらうためだ」

 

「…やはりそういうことでありましたか。古城殿」

 

 巻島と呼ばれた、アイランドガード最高責任者である初老の男は、深いシワの刻まれた顔に不敵な笑みを浮かべた。

 

「確かに骨は折れるかもしれませんが、そういうことならお任せください。必ず、古城殿の期待に応えてみせます」

 

「悪いな、頼むぜ巻島さん」

 

 ガラの悪い笑みを交わす二人を他所に、他の会議参加者たちは、ぽかん…という擬音が似合いそうな、あっけにとられた表情を浮かべていた。

 要はこの男、「敵が現れたら一人の犠牲者も出さないうちに自分が死ぬ気で駆けつける」と言っているのだ。確かに、次元を超えて現れる敵は観測、捕捉することが難しい。どうあったって後手に回るのは確実なので、対策できることは現段階でほとんどなかった。

 

「古城、本当に自分だけでなんとかするつもりなのかい?」

 

 ここに来て初めて口を開いたのは、浅葱の隣に座っていた妃の一人 暁優麻だった。

 茶色の短髪に黒のサマードレスを着て、美しいというよりは格好良いイメージを与える麗人は、ずっと俯いていた顔を上げ、哀しげな目で古城を見る。

 もとより古城の決めたことに反論するなど考えてもいなかったが、いざ本当にやる気になったところを見ると、どうしても心配する心の方が勝ってしまった。

 

「そうですっ! もし古城さんに何かあったら、私……!」

 

 勢いよく席を立ち上がり古城に駆け寄ったのは、会議に参加していた妃たちの中でも一際若い印象を与える、白いセーターにジーンズを履いた小柄な女性、 暁結瞳。

 服の上からでも分かるほど大きく膨れたお腹は、彼女が今最も大事な時期を過ごしている妊婦だということを物語っていた。

 

「今は国の危機だ。そして俺は曲がりなりにもその国王を任されてる。敵は強大。多分俺でも一筋縄ではいかないだろう。俺が国のために自分を犠牲にするのは当然のことだし、義務でもあるんだ」

 

 そして、一拍置いて力強く言った。

 

「確かに、うちの子供たちは吸血鬼としても呪術師としても一流の力を持っているかもしれない。だがそれでも、未来ある命をぬけぬけと危険な戦場に投げ出すことがあってはいけない。俺はそう考えてる」

 

 古城の脳裏には、今朝の零菜の顔がずっと焼きついて離れなかった。

 その言葉に、雪菜をはじめとする妃たちは一様に複雑な思いを抱いていた。

 彼女らは皆、すでに子供を持っていたからだ。

 それぞれが脳裏に、自分の娘の顔、あるいはこれから生まれてくる新しい命のことを思い浮かべる。

 

「それに今からも、時間はかかるかもしれないが、次元の歪なり穴なりを感知できる技術を使った防衛装置も制作、実装を急がせる。その辺の努力も怠るつもりはない」

 

 古城の気迫に、会議室は静まり返っていた。

 

「絶対に、誰も死なせねぇ。ここから先は…俺の戦争(ケンカ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、久々に聞いたね。古城のあの言葉」

 

 愉快げに笑いながら、優麻が言った。

 会議を終えた妃たち五人は、さっそく巻島と打ち合わせのため部屋を出て行った古城を目で見送ってから、そろって退室した。

 言葉を交わしながら廊下を歩む五人を、少し後ろから従者の女性数人が付いてきていた。

 

「本当に、無茶ばかりするんだから。あのバカは…」

 

「でもそんなバカだからこそ、私たちが手伝ってあげないと」

 

 呆れ顔を隠すことなく、深いため息とともに浅葱が呟くと、紗矢華もそれに続いた。

 結瞳もそんなやりとりを見てコロコロと笑っていたが、その中で雪菜だけが浮かない顔をしていた。

 

「……どうしたの?雪菜」

 

 最も付き合いが長いからか、雪菜の感情の機微に敏感な紗矢華は、暗く俯いた顔に気付いて話しかけた。

 

「いえ、たしかに古城さんも心配なんですけど、あれは多分…零菜と何かあったんだと思います」

 

 雪菜は四人に、今朝娘に会議室に来て自分らとともに参加しなさいと言ったことを話した。

 最初はきょとんと呆けていたが、やがて四人はそれぞれ得心がいったという顔をした。

 

「十中八九それだろうね」

 

「会議に参加しようとした零菜ちゃんと一悶着あったってワケね…まぁこればっかりは古城の気持ちも分からないでもないけど」

 

「やっちゃいましたね…雪菜さん」

 

「だ、大丈夫よ雪菜! なんとかなるっ、古城も気にしてないわよきっと! 元気出して!」

 

「うぅ…」

 

 方向性のバラバラな四人の言葉に、思わず胃が痛くなる。もしかしたら、いやもしかしなくても、自分が娘と夫の仲違いの原因となってしまったのだ。

 雪菜も、決して悪気があって行動したのではない。

 態度にこそ出していなかったが、最近の零菜の稽古に立ち会ううちに、「そろそろ一人前と考えてもいいかもしれない」と思い始めた雪菜は、こんな言い方は大袈裟かもしれないが、一種の成人の儀のようなモノとして娘を会議に呼んだのだ。

 零菜の方はその会議内容を全く知らなかったはずなので、半ば懇親会のように考えていたかもしれないが、自分の言葉が足らなかったことが回り回って現状を作り上げたと思い、痛烈なまでの後悔を感じていた。

 

「私、ちょっと今から零菜のところに行ってきます…」

 

 現在地を詳しく知っているわけではないが、この家のどこかにいるはずだ。会ったところでなんと声をかけたらいいか雪菜には分からなかったが、このまま知らぬ存ぜぬを通す気にもなれなかった。

 

「と、取り敢えず、ガンバってください! 雪菜さん」

 

 早足で他の四人をぐんぐん突き放していく背中に、結瞳の応援の声が投げかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「…ねぇ皆、コレどういうことだと思う?」

 

 雪菜が離脱した後、ポケットの中で起こった振動に気付いた浅葱は、取り出した携帯端末を見ながらしばらくフリーズした後、険しい表情で周りの女性たちに声をかけた。

 何事かと三人が一斉にその液晶画面を覗き込む。

 そこには、『麗しのお母様へ♡ タレコミ燃料投下☆』という件名のメールが、動画を添付された状態で受理されていた。

 

「コレ、萌葱ちゃんからかい?」

 

「それがどうしたのよ浅葱さん」

 

 二人の言葉に会えて何も答えず、黙って動画の再生ボタンを押す。

 

 そこには、昨晩監視カメラに捉えられていた、古城と雪菜の情熱的な逢瀬の一部始終が収められていた。

 

「……あちゃあ」

 

 優麻はわずかに頬を染め苦笑いを浮かべ、

 

「なっ……な、や、やっぱりあの電話の後、しっかり本番を……‼︎」

 

 紗矢華は羞恥に顔を真っ赤にしながらも、顔を隠した指の間からしっかり動画を視聴し、

 

「ず、ズルいです。抜け駆けっ! あっ、でも私今デキないし! でもでもっ!」

 

 結瞳は悔しげな甲高い声を上げた。

 

「こういうことがあることを見越して書斎にカメラを設置してたけど、正解だったようね」

 

 浅葱はふんっ、と鼻を鳴らし動画の再生を止め、メールの送り主である愛娘に『褒美を使わす。今度パフェでも食べに行きましょ』と返信した。

 動画での雪菜の行為は、所謂反則である。妃たちが古城と寝る時、彼女たちは古城の知らないところで密かに取り決めたルールを持っていた。まぁ大層なことを言っているが、ようは『浅葱は毎週火曜日。あるいはあちらから誘いをかけてきた時』とか『優麻は水曜日。あるいはあちらから誘いをかけてきた時』など、全員に平等に逢瀬の機会を与えるための配慮に過ぎないのだが。

 雪菜が割り当てられた日は毎週金曜日。監視カメラによると、その日は木曜日であった。

 

「コレは、雪菜さんには何かしらのペナルティを背負って貰う必要がありそうね……」

 

 不気味な含み笑いをこぼしながら、浅葱の脳内はすでに如何に趣向をこらせた罰を与えるか、それにのみ没頭していた。

 

 

 

 




話の進み、遅いですか?それとも早いですか?
それともそれ以前の問題ですか?

誰かオラに文才を分けてくれ。

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