目が覚めると砂浜だった。
海岸に横たわっていたからか全身に砂が付着しており、じゃりじゃりとしたその感覚が不快に感じた。
「ぺっぺっ! なんなのさ、いったい」
体中の砂を払いながら立ち上がる。照りつける太陽に砂が熱を持ち足元がじんわりと暖かい。
あたりを見回すと目の前には海が広がっていた。
「ここ、どこ……?」
寝起きのためか、どこかぼんやりとした頭でそう思った。
◇ ◇ ◇
胡乱な意識のまま現状を確認する。気がつくと海岸に倒れていた、以上。
……いやいや以上て、大問題ですがな。寝る前との前後が繋がらないじゃないか。寝たとき”俺/私”は……。
「あ……れ……?」
うん? ちょっと待て、ここにいる前”俺/私”って何をしてた? どこにいた? いいや、そもそも。
「自分は……誰だ……?」
思い出せない。己の脳に必死に過去を探すも何の形もなさない。
職業は? 年齢は? 家族構成は? 友人は? 分からないわからないワカラナイ。
「なんなんだよ……もうっ!」
苛立ちばかりがつのり、パニックで癇癪を起こしそうになる。何も分からない、それだけで孤独と不安に押しつぶされそうになる。
「あ……?」
ふと下を見ると己の体が映った。膨らみが二つ、これは胸?
「女、なのか……?」
確かめるように自分の身体を弄ると、くすぐったい感触とともに掌に鼓動の音を感じた。
そうか私は女なのか。自分の情報が更新されたことを認識すると幾分か冷静になれた。どうやら私は記憶喪失らしい。
「しっかし、まいったな」
ポリポリと頭をかく。
現在視認できる情報は、私女、装備品真っ白のワンピース、ペタペタのサンダル、現在地海岸。極めつけは自分の身体を見るまで性別が分からないほどの記憶喪失。
……詰んでね?
「とりあえず……移動するか」
このまま何もしないでいるとネガティブな思考に苛まれそうになるため、その場しのぎではあったが行動を起こすことにした。
◇ ◇ ◇
「無人島っぽいな……ここ」
歩き始めて2、3時間、無論時計なんざ持ってないので体感だがそういう結論に達した。海岸線をぐるりと一周、また同じ場所へと戻ってきた。
「どうしよう……これから」
あんまりな現実に途方にくれ、本格的に死のカウントダウンが頭をよぎる。見上げた空には燦々と輝く太陽。私の現状とは真反対のご機嫌なそれにチッと舌打ちをうつ。
むわっとした空気が身体に纏わりつくのをいい加減不快に感じ、足元だけ波に漬かることにした。
軽くワンピースの裾を持ち上げて押しては引いていく波に向かう。チャプ、という音とともに少しだけ砂に足が沈んだ。
「ふう……」
足元だけではあったが、体の熱が引いていく感覚が心地いい。ずっと歩いていたためか気温以上に足が熱を持っていたんだろう。
気持ちよさに足元に目を向けると押してくる波の間に己の全貌が映った。
「……」
ザザーン、ザザーンと波が押しては引いていく。途切れ途切れに映る自分の姿に覚えを感じる。当たり前だ、幾ら記憶喪失でも自分の姿なんだ、見覚えがあるのは当然だろう。
……いや、ちょっと待て。見覚えはあるがあるだけだ、違和感だらけじゃないか。もっとこう、鏡越しの自分じゃなく別の場所で見たんじゃないか?そう例えばブラウザの……。
「……アルクじゃん」
アルクェイド・ブリュンスタッド、通称アルク。吸血鬼にして真祖。型月のキャラクターとしては1,2を争うほどの有名な幻想の存在が私の顔として呆然と私を見ていた。