物凄く聞き覚えのある名前に耳を疑った。
ルフィじゃん。ワンピースじゃん。主人公じゃん。ぐるぐるとした思考が加速する。
えっ? 何? じゃあここ地球じゃないの? 日本もアメリカもロンドンの時計塔もないの? 死徒も魔術師もサーヴァントもいないの? 世はまさに大海賊時代なの?
「おーい、どうした?」
呆然とした私をきょとんとした顔でルフィが問いかける。まじまじと彼の格好を確認すると麦わら帽子、頬の傷、赤い服、どこからどうみても日本一売れてる漫画の主人公様だった。
「ルフィじゃん……」
「だからそう言ってるだろ」
衝撃の事実に思わずモノローグが漏れる。
「大丈夫か? なんか変だぞ、お前」
「……正直、大丈夫じゃないっぽい」
「そうか、大変だな」
あまりに軽い返しに脱力しかけるが、無理やり頭を切り替えて新たな情報に考察をまとめる。
えーと、つまりなんだ? フィクションの姿になった自分がさらにまた別のフィクションの世界にいる……のか?
……ややこしくない?
「……あの」
「なんだ?」
「ここ、どこ?」
「知らん」
「……ゴム人間?」
「なんで分かったんだ!?」
「実はエスパーなんだ」
「すげー!?」
「その麦わら帽子、赤髪海賊団大頭のシャンクスに貰ったものでしょう?」
「だからなんで分かるんだ!?」
「エスパーだからさ」
「すげー!?」
……ふう、ルフィをからかっている間に幾分か冷静になれた。
まとめると、ここはワンピースの世界で目の前の少年は将来海賊王予定の主人公であると。
そういうことらしい。
◇ ◇ ◇
どうやらルフィはフーシャ村を出発した直後らしい。船での道中で島を見つけたので冒険しようと立ち寄ったのがこの島というわけだ。
いざ冒険という段階で私の姿を見かけ声をかけたら鎖で拘束されてしまったといった話だった。ごめんよ?
「気にすんな、怪我もしてねぇし大丈夫だ」
「ありがとう」
おおらかというか器がでかい彼の言葉に気が楽になる。
「アルクェイドはここに住んでんのか?」
「アルクでいいよ。住んでないよ、実は私も気がついたばかりなんだ」
「気がついた?」
「うん、目が覚めるとこの海岸に倒れていて、自分の名前以外なにも分からないんだ。これからどうしようって時にルフィと会ったの」
「何も分からないのか?」
「うん」
「ふーん」
こちらの事情も軽く説明する。まっすぐ見つめるその瞳からはその胸中を窺い知ることはできない。
「じゃあ、一緒に来るか?」
「えっ?」
「やることないんだろ? 海賊やってたらみつかるだろ、やりたいこと」
いや、その理屈はおかしい。
「でも、海賊って人襲ったりするんでしょう?」
「悪い奴しかぶっとばさねえよ」
「略奪したり」
「冒険して宝は貰うな」
「海軍に追われたり」
「そりゃ、海賊だからな」
駄目じゃん。
「あんま、めんどくさいこと考えんなよ。めんどくさいことばっかり考えてるとめんどくさいまま、ここからどこも行けないぞ」
「いや、割と重要な所なんだけど」
でも、ま、そうだな。
「海賊か……」
「ん? なるか、仲間? 楽しいぞ、海賊。自由だし」
「私、記憶喪失だから役に立つか分かんないよ?」
「役に立つか立たないかで仲間にするんじゃねえ。俺が気に入ったから仲間にするんだよ」
言い切られてしまった。根拠はない、だが説得力はある。この男についていけば広い世界を見られると。
口説かれたの初めてだし、記憶喪失だから当たり前だけど。
「……分かったよキャプテン。これからよろしく」
「おお! 来るのか! よっしゃ、初めての仲間ゲットだ!」
うひょー! と喜ぶルフィを横目にこれからのことを考える。
海賊か……、正直やっちまった感が拭えないがなると言ったのは自分の意思だ。まあ、ルフィについて行けば悪いようにはならないだろうという安心感もある。
その時、背後の森からガサリという物音がした。振り返ると体長3,4mほどのイノシシがこちらをにらみつけている。
「肉だー!」
喜び勇んでルフィがイノシシに殴りかかろうとする。
「待って、私がやる」
「……そうか、じゃよろしく!」
一瞬、やれんの? みたいな目で見られたがアイコンタクトで意思を伝えたらあっさり引いてくれた。
気合は十分。まずは船長にいいとこみせないとね。相手との距離は10mほど。
「ふっ!」
前傾姿勢から爆発的な速度で距離をつめる。イノシシはなにが起きているのか分からないまま立ち尽くしたままだ。そのまま、ぶつかる直前に軽く浮き無防備な背中めがけて足を振り下ろす。ドン、という音とともにイノシシの意識を刈り取った。
「……そういや、もう一つだけ覚えていることがあった」
意識を奪ったイノシシの上に降り立ちながら、ルフィに話しかける。
見た感じ、あんま驚いてる様子じゃない。ちぇ。
「私の名前はアルクェイド・ブリュンスタッド。月の姫にして吸血鬼の真祖。そして……君の海賊団の仲間だ」
にっこりと笑いかける。そうしたらルフィもニシシと笑って、
「おう!」
◇ ◇ ◇
ぷかぷかと浮かぶ船の上。
「そういえば、私のどこが気に入ったの?」
「ん? 何もない場所から鎖出せる奴なんてなかなかいねぇだろ」
つまりはマジシャン枠か。
「あと、エスパーだし」
「あ、ごめん。それは冗談」
冗談だったのか!? とガーンという擬音が飛び出そうなほどショックを受けるルフィがあんまりにもおかしくてアハハと笑った。
これで導入終了です。