「はー今日もいい天気だ」
「まさに絶好の航海日和といえるね」
島を出発して1日、小船の上でゆらゆら揺れながらぼんやりと海を進む。
「ねえ、せんちょ?」
「なんだー?」
「本当にこの方角であってるの?」
「進んでたらいつか島につくだろ」
「そっかー」
現在、絶賛遭難中。だるーんとした意識になかなか危機感が浮かばない。ルフィといるとなんとかなるさの精神になるんだよなー。
その時、ガタンという音とともに船が海に沈む。
「大渦だな」
「大渦だね」
危機感の足りない会話をよそに船はぐるんぐるんと大渦に飲み込まれていく。当たり前だが周りには助けを呼べる船などは一隻もない。
「まーのまれちまったものはしかたねぇとして、泳げないんだよねー俺」
「いやいや、こんな大渦だったら泳げても意味ないと思うよ」
「それもそーか」
はっはっはとお互い笑い合う。
「……漫才はこれくらいにして、それじゃせんちょそこの樽に入って」
「なんでだ?」
「いいからいいから」
ルフィを空の酒樽に入れ、力を使って浸水防止と強度を上げる。
「まだ能力のコントロールになれてなくて自分のことで精一杯なんだ、お呪いはかけておいたから後で合流しましょ?」
その言葉を最後に船が壊れ、渦に飲み込まれた。
◇ ◇ ◇
「っと、到着」
ルフィと別れて2時間、ようやく島を見つけることができた。さて、無事着いてるかな?
きょろきょろとあたりを見回すと森の中に二人の人影が見えた。あれはルフィとコビー……だっけ?
「おーい」
「あ、アルク!」
ルフィもこちらに気付いたようだ。
「お前いきなり樽にいれるもんだから、死ぬかと思ったぞ俺。あの樽妙に硬かったし」
「まあまあ、死なないようにお呪いもしてあげたんだから大目にみてよ」
「うん? そうなのか? じゃ許す」
単純だ。
「あの……ルフィさん、この方は?」
「こいつはアルク。俺の仲間だ」
「やっほ、アルクだよ」
ニコリと笑いかけるとコビーは顔を赤らめてしまった。美人だもんね、アルク。
「ああああの、コ、コビーって言います! よろしくお願いします!」
「よろしくー、コビー」
「なんだこいつ? 急に慌てて?」
男子の心の機微に疎いルフィには分からないだろう。分かる日がくるかも疑問である。
「それで? 二人はここで何してたの?」
「ああ、俺たちの船なくなっただろ? それでコビーが船くれるっていうから見にきたら棺桶だったんだよ」
「なにそれ?」
彼らの肩口からひょいと覗くと船っぽい何かが見えた。あー、確かに棺桶って言われても仕方ないなこれ。
「あはは……一応、船なんです。2年かけて造った」
「2年かけて? で……いらねぇの?」
「はい……いりません。逃げ出す勇気が持てなくて」
どこか陰を持った卑屈な笑みをコビーが浮かべる。
「逃げればいいのに」
「ム…ムリですよ! もしアルビダ様に見つかったらと思うと、怖くてとても……! 釣りに行ったあの日、間違えて海賊船に乗らなければ!」
あまりにも哀れすぎて思わず目頭を抑えたくなった。
「あれから2年、殺されない代わりに雑用係として働いています……」
「お前ドジでバカだなーっ」
どストレートなルフィの言葉にえへへと乾いた笑いを漏らしながら涙を流すコビー。
「でも……その通りです。僕にも樽で漂流するような度胸があれば。 あの、ルフィさんはどうしてそこまでして海に出て何をするんですか?」
コビーの言葉にルフィはにっと笑って、
「俺はさ、海賊王になるんだ!」
「らしいよ?」
ルフィの言葉に私が重ねる。するとコビーは驚愕したような顔を浮かべる。
「え、え! 海賊王はこの世の全てを手に入れた者の称号ですよ!? つまり富と名声と力”ひとつなぎの大秘宝”あの、ワンピースを目指すってことですよ! 死にますよ、世界中の海賊がその宝を狙ってるんですから!」
「俺も狙う」
「狙うんだって」
信じられないものをみるような目で私たちを見つめる。
「ム、ムリですよ! 無理無理! 絶対できませんよ! って痛い、なんで殴るんですかルフィさん!」
「なんとなくだ」
「どうどう、殴らないの。それにコビーも駄目だよ? 人の夢を否定するようなことを言っちゃ」
ルフィをなだめながら、コビーに注意する。それに対し殴られることにはなれてますからとやっぱり辛気臭い。
「俺は死んでもいいんだ」
「え?」
「俺がなるって決めたんだから、そのために闘って死ぬんなら別にいい」
コビーはルフィのその言葉に感銘を受けたような表情を浮かべる。口調は軽いが覚悟や信念がこもる言葉とはこういうのをいうんだろう。
私は腰をついてルフィに殴られた額を押さえるコビーに近づき、
「ねえ?」
「え? は、はい、アルクさん?」
「コビーはさ、どんな大人になりたいの?」
かつて正義の味方に憧れた少年に問うように。
「どんな……大人……?」
「うん、ここで海賊の雑用をすることがあなたのやりたいことじゃないんでしょう? 教えてほしいな、あなたのユメ」
「僕は……」
私とルフィ、二人の視線がコビーを射抜く。
「僕は、海軍に入りたいです」
溜まっていたものを吐き出すようにコビーの口から言葉が漏れる。
「ルフィさんやアルクさんとは敵ですけど、子供のころからの夢なんです! やれるでしょうか!?」
「知らねぇよ」
にべもないルフィの言葉にもめげた様子は見せず、
「いえ、やります! このままここで一生雑用で終えるくらいなら、命を懸けて逃げ出してアルビダ様……アルビダだって捕まえてやるんです!」
「誰を捕まえるって、コビー!」
ドカンという音とともに背後の棺桶っぽい船が金棒で粉々になる。怒りの形相を浮かべた太ったおばさんがこちらをにらみつける。
「そいつがお前の雇った賞金稼ぎかい? ロロノア・ゾロじゃなさそうだね。最後に聞いておこうか……この海で一番美しいものはなんだい? コビー!」
「そ、それは……」
「誰だ? このイカついおばさん?」
ま、そうなるよね。
絶妙に空気を読めないルフィの台詞にアルビダからぶちんと何かが切れる音が聞こえた。しかし、その言葉にコビーは覚悟を決めた顔つきになり、
「この方は……こいつは……この海で一番イカついクソばばあですっ!」
「このガキァ!」
「あっはっはっはっは!」
愉快気に笑うルフィと怯えた表情のコビー目掛けて、怒り狂ったアルビダが金棒を振り下ろす。私はするりとコビーの前に躍り出て、鈍い音をたて金棒を掴む。
「ナイスッ、コビー根性みせたね!」
「よく言った下がってな、コビー!」
私は金棒を砕き、ルフィはアルビダの顔目掛けて腕を振りかぶる。
この日、コビーは自由になった。