『俺』と『彼女』の入れ替わった20日間   作:アブソリュート

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キャラの口調の表現が皆似たり寄ったりで難しい……
なるべく更新は早めになるように頑張りますので


第二話「金剛」

 「チェック、ワン、ツー……うん。今日もいい感じね!」

 

 つい先ほどまで霧島は提督の命令により北方海域のキス島沖まで出撃していた。損傷も少なく入渠は少しかかったけれど大破のときよりも断然時間は短くすんだ。正直、戦艦クラスになると入渠する時間は駆逐艦の倍以上かかる。当然、かすり傷程度でも二十分や三十分かかるなんて日常茶飯事である。その分火力、装甲、耐久力は随一なのだから仕方がないといえば仕方がない。

 ちょうど入渠も終わったことだし、さっさと提督に報告書を提出しようとすると、駆逐艦の響と正規空母の加賀が歩いてきた。

 

 「あら、めずらしい組み合わせですね」

 

 「えぇ、そうかもしれないわね」

 

 「霧島さん、すまないけどこれから用事があたったりするかい?」

 

 響は霧島の巫女服の裾をひっぱると、すっと手に持っていた提督に提出するはずの書類を見せる。

 

 「これから提督に出撃の報告を出そうと思ったのだけど……どうかしたの?」

 

 「うん、実は――」

 

 響の話によると、なんでも第六駆逐艦のメンバーと天龍と一緒に野球をしていたらしい。出撃までの時間に少し空きがあったから暇つぶしということでやっていた。そこまではよかったがやっていた途中、響の投げたボールがあまりにもいい球だったからか。それとも最近出撃をまともにさせてもらえない天龍のフラストレーションが爆発したからか。

 どちらにせよ天龍が打ったボールが金剛の頭に直撃。そのせいで金剛の様子がおかしいことがわかり呼びに来たということだった。

 

 「……すまない。こんなことになるなんて」

 

 「そう……きっと大丈夫よ」

 

 響の瞳からぽろぽろと涙が溢れ、くぐもった声で言うと、霧島はそっと帽子の上から撫でてあげた。

 

 「ちゃんと隠さずに教えてくれてありがとうございます。やってしまったことを言うのは勇気がいることですし、何よりも大事になるような事態にならなかったわけですから」

 

 「……うん」

 

 響が泣き止むまであやしている間、不思議そうに加賀を見つめると、霧島の視線に気づいたのか加賀の言うには――

 

 「なんでも秘書官の私にも報告をした方がいいからって」

 

 ――とのことだった。なんとも律儀な子だろう。ここまでする子はそうそういないだろうなと思いつつ改めて響に対する評価が上がったのであった。

 

 「では、今、金剛姉さまはどちらに?」

 

 「それは……あっちの方なんだけど」

 

 ひときしり泣いたおかげか目元が真っ赤になった響が指を指す方向から三人の人影が見えてくる。一人はどこか納得のいかないと言わんばかりの表情を浮かべる天龍と手をつないでやってくる榛名と金剛の姿が見える。金剛に関しては榛名に手を引かれてきたので、少なからず、いつも元気いっぱいで周りからも騒がしいと言われている金剛の様子に加賀と霧島は驚きを隠せなかった。

 ――何があったというの?

 

 「あ、響さん。わざわざ呼んでくれたのに、こっちから来てしまってすいませんでした」

 

 「いや、こっちも遅くなってすまない。ちょうど霧島さんと加賀さんを呼び終えたから向かうところだったんだ」

 

 「そうでしたか、ありがとうございます」

 

 榛名がペコリと頭を下げると、泣いていたこともあって恥ずかしいのか、響は帽子を深く被りなおした。しかし、耳元も赤くなっていることは彼女のためだと思い黙っていることにするのであった。

 

 「ところで金剛姉さまの様子が優れないとか聞いたのですが……榛名姉さま、どうなんですか?」

 

 「そのことについてだけれど、一度明石さんに見てもらった方がいいと思って」

 

 榛名の言う明石とは、この鎮守府で主に艤装の設備、開発などを行っている。稀にだが、空いた時間を使って売店を営業していたりする。これが意外に評判が良く、艦娘から提督まで様々な方が利用している。中でも魔法のカードがあるらしく提督たちは日々それを求めて生きていると言っても過言ではないとかなんとか。あくまで噂ではあるが。

 

 「そんなに金剛姉さまの容態が優れないのですか?」

 

 「そういうわけではないと思うわ。けれど、私たちだけで判断を決めるにはいけないと思って……」

 

 「そうですか……金剛姉さま? 大丈夫ですか?」

 

 「……ッ!」

 

 霧島の声に金剛は肩を震わせる。いつもの金剛の様子と違ったせいか不安を抱くが――

 

 「……金剛姉さま?」

 

 「し、心配しなくて大丈夫デース。少し気分が優れないだけデース!」

 

 「そ、そうですか?」

 

 「イエース! 少し経ったらまた元気になりマース!」

 

 金剛の様子を見て霧島はホッと息をつく。響から聞いていた話だと様子がおかしいと言うのだからどれほどのものかと思えば、いつもと変わらない様子で安心する。

 

 「大体、ボールが当たったくらいで大げさなんだよ。俺らは艦娘だぜ? よっぽど敵から受ける攻撃の方が心配すると思うけどな」

 

 「ボールを当てた張本人が言うことじゃないわね」

 

 「うっ……」

 

 「そもそもあなたが遠征前に野球をしたからこんなことになったんじゃない」

 

 加賀の指摘に天龍はぐうの音も出なかった。それからの加賀は天龍にくどくどと小言を言い始めると、いかにもやってしまったという顔をしている。

 

 「ですから最近のあなたは――って、聞いていますか?」

 

 「あーもう! 悪かった、俺が悪かったよ!」

 

 「わかればいいのよ」

 

 げっそりとした雰囲気で天龍が言うと、加賀はどこか勝ち誇った顔を見せる。そんな光景を見ていた金剛はどこか微笑ましい表情を浮かべている。

 

 「どうやら杞憂のようでしたね」

 

 「……?」

 

 「いえ、なんでもありません。それよりも金剛姉さま。早く明石さんのところに行ってきてください。提督には話しておきますので、終わり次第執務室に来てくださいね」

 

 「リョーカイネ! 榛名、行きましょうカ!」

 

 「はい。榛名、行けます!」

 

 霧島に言われて金剛と榛名は天龍達を残して明石の工廠へと走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく廊下を歩くと工廠付近に日の光が当たらない部屋を発見する。金剛は誰もいないことを確認すると、榛名を部屋に連れ込みドアを背にしてもたれこんでしまった。

 

 「……はぁ、一気に疲れた気がする」

 

 「お疲れ様です。本当に私たちのことを知っていたのですね」

 

 「まあ、喋り方とか雰囲気はなんとなくだけどな。金剛っていつもこんな感じなのか?」

 

 「えぇ、金剛姉さまはいつも明るい雰囲気ですね。周りからは……少しうるさいと言われたりすることもありますが」

 

 「ははは……なんか想像してた通りの奴だな」

 

 ホッと息を吐き出すと今までの疲労が一気にくる感覚を思わせる。全身だる気を感じさせ足を伸ばすと少し気持ち良かったりする。榛名も俺と同じくドアにもたれこむと、肩によりそうように座り込んだ。

 その仕草に一瞬ドキッとしたが悟られないように顔を下に向けるのであった。

 

 「でも、意外でした。まさかこんなにも金剛姉さまの真似を出来るなんて……榛名、感激です」

 

 「そりゃ、どうも」

 

 榛名の褒め言葉を素直に受け取る。自分でもこんなに出来るとは思ってもいなかったのだろう。正直、驚きを隠せなかった。見様見真似だが上手く出来てよかった。

 そもそもだが、どうして俺が金剛の真似事をしているかというと、遡ること小一時間前になるんだが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 天龍が放った言葉に俺は何も出来ずにいた。ここの提督でもない。元の世界が誰だったのかもわからない。では一体自分は何者なのか。これからどうしたらいいのか、それさえもわからなくなっていた。

 そんな時、自問自答をしている俺に榛名が肩に手を置くとじっとこちらを見つめてくる。

 

 「……榛名?」

 

 「私に考えがあります」

 

 じっと見つめてくる瞳には、なにかを決意したかのように揺るぎない瞳をしている。そんな瞳に俺は吸い込まれそうになっていた。天龍も榛名の発言に静かに耳を傾けていた。

 

 「えっと……考えっていうのは?」

 

 「はい。とりあえず元の世界に戻るまでの間、あなたには金剛姉さまを演じてもらおうと思います」

 

 「「……はい?」」

 

 俺と天龍の声が同時に発せられた。

 ふざけて言っているのかと思えば、榛名の顔にはいかにも私は真剣だと言いたげな

表情をしている。天龍は皺がよった眉間に指を添えて唸り始める。

 それは至極当然だ。俺も言ってる意味が理解できなんだから。

 

 「あーなんつうか……冗談だろ?」

 

 言っちゃったよこの娘!? 今、俺が言いたかった事、普通に言っちゃったよ!

 

 「いいえ! 榛名、本気です!」

 

 しかも本気なのね! さっきの冗談じゃなかったのね!?

 

 「大体よぉ、なんでそんなことする必要があんだよ。そいつが言っていることがホントかわかんねぇんだぜ?」

 

 「それはそうかもしれません。だからと言って今この事を公にするにはいけないと思うんです」

 

 「あん? なんでだよ」

 

 「先日届いた大本営からの特別任務。あれのせいで今提督は多忙なのに、そんな話をしたら提督もそうですが士気全体関わると思うんです」

 

 「それは……そうかもしれねぇけどよ」

 

 特別任務――おそらく今日から始まる夏イベントのことだろう。実際、俺も今回初めてのイベント参加だったから楽しみだったしな。

 けれど、それは元の世界での話だ。今は金剛になっているわけだが……もしかして俺が戦場に赴くっていう訳か?

 

 「は、はは……冗談だろ?」

 

 特に戦い方の知識とか戦艦についての知識が詳しい訳でもない。ただ、可愛いと思ってやり始めたゲームなはずがどうしてこうなったんだ。しかも、このゲームは何が怖いって誤って大破――つまり、瀕死状態にも関わらず進撃すれば沈むことがあるのだ。それも育ててきた時間、手間、労力、何もかもが無駄になる仕様だ。ご丁寧な仕様なことだ。間違ってやってしまったプレイヤーなんて大勢いるくらいだ。

 中でも酷いプレイヤー――いわゆるブラック鎮守府の提督は捨て艦なんてものを作っては実行するくらいだ。強い艦隊をつくるためにはどんな手段も厭わない。ゲームだからといって沈んでもゲームだと割り切るやつもいる。

 じゃあ、この世界で轟沈したらどうなる? おそらく――『死』だろう。

 思えば思うほど身体の震えが湧き出てきて止まることを知らない。歯はガチガチと鳴り響く。全身から血の気を引くのが感じる

 嫌だ、戦いたくなんかない!

 そんな思いを無視するかのように榛名と天龍は討論を続けていた。

 

 「俺は嫌だぜ! 見ろよ、今の金剛の姿を見て誰が一緒に戦いっていうんだよ。そんな震えた野郎なんかに……背中を預けたらいつ沈むかわかったもんじゃねぇ」

 

 「ですが! こんな話を提督や皆さんに話しても混乱を招くだけだと思うんです! だから……せめて、少しの間だけでも黙っておきたいんです」

 

 「俺だってやれるならそうしてぇよ。けどよぉ、あいつは第一艦隊の主力メンバーの一人なんだぞ? どうやって説明するんだよ」

 

 そうか……この世界でも金剛は主力メンバーなのか。元の世界でも俺の艦隊では金剛が主力メンバーだったっけな。

 この世界と元の世界で俺がプレイしていた内容と、どこか通じる部分があるのかもな。

 

 「それについては榛名に任せて下さい。それと、このことは私たち三人の秘密にしておきたいんです。どうか……お願いします」

 

 「……ちっ、しょうがねぇな」

 

 榛名の真剣な表情に、天龍は納得がいかなげに舌打ちをするもの渋々と頷く。

 すると、天龍は俺の方へと足を運ぶと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。

 

 「おい、金剛なのかどうなのかよくわかんねぇ野郎」

 

 「………………」

 

 「俺はお前のことを信用したわけじゃねぇぞ。榛名がどうしてもって言うから仕方なく黙っておくけど本当なら提督に報告もんだからな」

 

 「……そんなこと言われなくてもわかっている」

 

 ぽつりと濡れた呟き。瞳には潤んだ雫が頬を伝い落ちる。

 本当なら、こんな突拍子もない話を聞いてくれたことだけでも有難いことぐらいわかっている。けど、わかってはいるけどこっちもどうしてこうなったのかわからないのだ。そこまで言わなくてもいいじゃないか。

 すると天龍は俺の頭をくしゃくしゃと掻き撫でると勢いよく立ち上がり背を見せる。あまりにもいきなりなことだったからか、驚いたとした表情で見つめると、どこか照れくさそうに頬を掻いている。

 

 「あーそのーなんだ。確かに信用してねぇとは言ったけどよ。全部が全部信じてねぇわけじゃねぇからな? まあ、その……なんだ。頑張れよ」

 

 自分のしたことが恥ずかしいのか、いたたまれない気持ちになると天龍は響が他の二人を呼びに行った道へ歩き始めた。

 俺がどうしてと呟くと抱きしめている榛名が嬉しそうに微笑んでいた。

 

 「ふふ……彼女、本当は優しい人なんです。ただ、素直に伝えるのが苦手なせいで上手く言葉にすることが出来ないんですけど、行動は言葉とは裏腹に相手のために何かしようとするんです」

 

 確かに、元の世界でも天龍の扱いは『怖い』というよりも頼りになる『お姉さん』だった気がする。始めはキツイ言い方されてなんだよコイツとか思ったりしたけど、ちゃんと最後まで話を聞いていたりとか、頭を撫でる仕草は小さい子をあやし方とか、こっちの身を案じてくれていなければそんなことしないはず。

 ……本当はいい奴なんだな。こっちの世界でも。

 

 「だから、あなたも協力してくれませんか? これから先、どうなるかは榛名もわかりません。それでも、榛名はあなたが元の世界に戻れるように協力していこうと思います」

 

 「……金剛のためか」

 

 「……えぇ、金剛姉さまも同じくあなたの世界に行っているのかもしれません。それまで、金剛姉さまの居場所を残しておきたいんです」

 

 そうだ、俺だけじゃない。もしかしたら金剛も俺の世界に行ってるのかもしれない。可能性はゼロじゃないんだ。もし、元に戻れることになった時に、この身体にもしものことがあったら金剛はどうなる。これはもはや俺だけの問題じゃないんだ。

 

 「……わかった。上手くできるか分かんないけど金剛に成りきってみるよ」

 

 「――ッ! ありがとうございます! 榛名、全力でサポートします!」

 

 「は、はは……こちらこそ、よろしくお願いするわ」

 

正直なところ金剛に成り切れるかわからないけど、やれるだけのことはやってみよう。

……しばらくの間、この体借りるぞ『金剛』。

 そっと手を胸に当てて密かな誓いを立てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――とまあ、このことがきっかけで今に至るっていうわけだ。

 

 「……しっかし、本当に俺ってば『金剛』になったんだな」

 

 ふと視線を下に向けるとふくよかな膨らみが視界いっぱいに広がって見える。つまりあれだ。男にとって女性を目にしたときに必ずと言ってもいいほど視線を向けるアレである。   

 それが自分についているわけだが――一言でいえば『重い』と一言に尽きる。

 歩く度に揺れるわ、肩は凝るわ、下を向いて歩きにくいで見る分にはいいんだけど、いざ自分がなってみると不便で仕方ない。某、軽空母の前で言ったら引きちぎられるかもしれないから迂闊に言ったりしないように気を付けよう。

 

 「そんなに真剣に胸を見ていて……男の人は何が楽しいんですか?」

 

 「うーん……楽しいって言う人もいるけど、俺はそこまでは言わないかな。ただ、単純に気になっただけさ。今まで胸だってこんなに大きかったことないし」

 

 「そう言われてみれば……あなたは元の世界では男性だったんですよね。何か不快なことがあったりしますか?」

 

 「今のところはないかな。でも――お風呂とかトイレは絶対に避けられないんだろうな」

 

 深いため息をつくと、榛名は特に慌てる様子を見せることはせず、さも当たり前のように言ってのけた。

 

 「それは当然ですよ。むしろ避けてもらっては困ります」

 

 「えぇー……」

 

 あっれーおかしいな? 俺の知ってる榛名ってもっとこう……穢れを知らない天使のイメージがあるんだけど。初心(ウブ)というかなんというか顔を赤らめてあたふたするのかと思ってた。

 

 「何を想像したのかわかりませんが、榛名はあなたが男の姿でお風呂に入ってきても気にしませんよ?」

 

 「……マジで?」

 

 ヤバい、俺よりも男らしいんだけど……俺だったら絶対パニックになるぞ。榛名が裸でお風呂に入ってきたら、それこそ鼻から流血沙汰だと思うが。

 

 「どのみちあなたにはお風呂やトイレにも慣れてもらわないと困ります。いくら榛名がサポートするとは言ってもいつも一緒にいられるわけではありません。大変だと思いますが頑張ってください」

 

 「……ああ、わかっているさ」

 

 そうさ、わかっていたことだ。こういう事態になってしまったことはいくら嘆いても変わりはしないんだ。だったら、せめて榛名がいないときでも自分のことは自分でなんとか出来るようにしないとな。

 

 「それでは行きましょうか。あちらも待っているでしょうし……ね、『金剛姉さま』?」

 

 「……そうネ。そろそろ行きましょうカ」

 

 すぐさま俺はさっきまでとは違いスイッチを入れ替える。ここにいるのは元の世界の俺じゃない。

 金剛型一番艦の――『金剛』だ。

 

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