とある原石の言霊使い   作:セスナ1028

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第4話

 

「――知らない天井だ」

 

知っている場所だったが、言わなければならない気がした。

俺たちの担任――小萌先生の部屋だ。

相変わらず酒の匂いが臭い。

 

顔を顰めつつ、布団をどかして立ち上がろうとして体中に痛みが走る。

見れば包帯が体中に巻かれていた。

 

神裂に軽く説明をして――

 

「お、目ぇ覚めたか?」

 

小さい鍋らしきものを手に持って現れたのは上条だった。

所々に火傷らしき痕があるが、それほど大怪我らしきものはない。

 

「インデックスは!? いっでぇ!!」

 

身を乗り出した時に痛みが走り、その痛みにもがくと更に痛みが走るという地獄に

体がびくんびくんと跳ねた。糞痛い。

 

「お、おちつけって! インデックスなら無事だ!

あの夜――」

 

あの日、炎を扱う魔術師――ステイル=マグヌスに襲われていたインデックスを

助け出した上条は、神裂に救われた。

神裂から事情を聞いたステイルは、一旦炎を収め話を聞き今に至る。らしい。

 

「で、その二人とインデックスは?」

 

「二人は上司的な存在と連絡を取ってる。インデックスは――倒れた。

もう少しでタイムリミットの1年になるみたいなんだ」

 

「――じゃあ、急がねぇとな」

 

この面倒ごとをさっさとハッピーエンドで終わらして、有意義な夏休みとしたいもんだ。

 

 

 

 

 

午後10時頃、小萌先生の部屋には五人の男女がいた。

部屋の持ち主である先生は現在銭湯にいっているためここにはいない。

伏せっている少女――インデックスを囲む形で、話し合っていた。

 

「改めて言うけど、本を十万冊程度完全に記憶したって、それが1年事に消さないと

ならないってのは間違いだ。数百万冊だろうとそれは変わらない」

 

今落ち着いて考えれば、十万三千冊なんつー莫大な魔導書を全て記憶しているような存在に

首輪や枷を付けないってのが不自然だ。それなら、1年ごとに連れ帰るという名目で

記憶の消去を命じていたとしてもなんら不思議じゃない。

 

「俺は魔術なんてモンを詳しくしらないからアンタ達に聞くけど。

脳に影響を与える魔術で、尚且つそれが本人や他者が見えない位置……どこに

魔術を仕込む?」

 

顎に少し手を当ててステイルは考え、呟くように発した。

 

「僕なら喉周辺……口蓋垂の奥辺りにルーンを刻むな」

 

「他人から見えない位置っていったらやっぱりそのあたりが妥当か?」

 

「え、こ、こうが……?」

 

「喉の奥。そこなら誰にも見えないし本人だって気づかないだろ……というわけで、ほら」

 

ここからは上条の出番となる。

これで上条が右手でその原因に触れさえすれば、万事解決。

上条がインデックスの頬に触れ、唇に親指を挿し込み開く。

 

「――――あ」

 

口の中を覗き込んだ上条が、見つけたと言わんばかりの表情で呟いた。

 

「……少し我慢してくれよ」

 

意識のない少女の口に無理矢理指を突っ込む。

字面だけで聞けば言い逃れできないな、なんて的外れなことを考えていた時。

上条が後方へと大きく吹き飛ばされた。

本棚へと叩きつけられ、何冊か本が床へと落ちた。

 

指から血を滴らせながらも、上条は倒れ伏したインデックスを凝視していた。

ステイルも神裂も油断ならない表情でそれぞれ武器となるものを構えている。

明らかにインデックスの様子がおかしい。

 

「そりゃあ壊そうとすりゃ防衛装置なりなんなり起動するよな……!」

 

『――警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum――禁書目録の『首輪』、第一から第三まで全結界の貫通を確認。

再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、一〇万三〇〇〇冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します』

 

「来るぞ!」

 

ステイルが言うや否、インデックスから二つの魔法陣が展開される。

丁度重なり合う部分は空間に亀裂が入ったように見え、冷や汗が止まらない。

瞬間、光がこちらに飛んできた。

それはレーザーのような何かで当たっただけで消し飛ぶと錯覚するような何か。

 

「――縛道の八十一 断空(だんくう)!!!」

 

本能のまま、気づいたら俺は叫ぶように言葉を発した。

 

鏡のような薄い壁が出来上がり、光を防ぐ。

だが、防御力はちっぽけなモノで瞬く間に亀裂が入り、ボロボロと崩れていく。

 

「『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』!? 伝説にある聖セントジョージのドラゴンの一撃を魔術で……? 

まさか、あの子に魔術なんて使える筈が――」

 

「考えてる場合じゃないだろ!! さっさと防衛なりなんなりしてくれ!!

上条はインデックスに触れることだけ考えて突っ込め!」

 

断空が破壊された瞬間、次の縛道を行使する。

 

「縛道の一 塞!」

 

両手足が縛られたインデックスの体制が崩れ、光は天井へと発射された。

天井を易々とぶち抜き、空へと向かっていく。

だが、塞の拘束は一瞬で破られ、再び魔法陣が展開される。

 

 

Salvere000(救わぬ者に救いの手を)!!」

 

インデックスが佇む床周辺をワイヤーが刻み込み、魔法陣の展開を妨害する。

それと同時に、俺たちの頭上を天使の羽のようなものがヒラヒラと舞い落ちる。

見た目は奇麗だが明らかにいいものではないだろう。

 

「それは『竜王の息吹』。伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です。

余波の『光の羽』が当たっただけでも危険です、インデックスのもとへ!」

 

刀を目に見えない速度で振り回し、周囲の羽を切り落としながら神裂が告げた。

 

「――行け、能力者!」

 

ステイルの魔女狩りの王が、守る様に上条の前で両手を広げ、インデックスから発せられる光を防ぐ。

俺も縛道なり破道を使おうとした時、咳き込みながら片膝をついてしまった。

病み上がりなせいか、あまり無茶ができそうにない。

 

「――縛道の六十一 六杖光牢!」

 

六つの帯状の光が、インデックスの胴を囲うように突き刺さり、動きを封じ込める。

上条だけじゃなく、俺にも少しでも意識を向けさせる……!

 

上条の右手が魔法陣をぶち壊し、とうとう彼女へと触れた。

事切れたように倒れこんだインデックスを抱え、安堵のため息をつく。

 

「っとに……疲れ――」

 

最後の羽が、インデックスに当たろうとした瞬間――上条が倒れこんだ。

頭部から夥しい血を流しながらも、奴が笑っていたような……そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………大丈夫か、お前」

 

「あ、危なかった……」

 

上条の病室に入れば

大量の歯形がついた枕を抱えながら汗を流している上条が目に映る。

 

「インデックスとすれ違ったけど、怒ってたぞ」

 

「……そっか。泣いてはいなかったんだな」

 

そう言った上条は嬉しそうだった。普通記憶無くして他人の心配なんて

できるか? 普通できないだろ……。

 

「さっき、カエル顔の医者から話は聞いた……ほぼ記憶ないんだな?」

 

「……ああ」

 

『光の羽』が頭部に当たったことによる記憶の破壊。

記憶喪失ではなく、破壊というのがポイントだ。

忘れたのではなく、物理的に脳細胞が傷つけられた。

その結果、右手でも治せない。魔術や異能ではなく物理的なのだから。

 

インデックスを悲しませたくないがために、上条は記憶がある嘘を彼女についた。

 

「はぁ……いつまで騙せるかは分かんないけど、協力してやるしかないか。

まずはあれか、自己紹介からか――」

 

椅子に腰かけながら、俺はこれまでのことを上条に話を始めた。

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