振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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一人でも多くハンマー使いが増えてくれれば私は幸せです




プロローグ

 

 

「やー、今回は惜しかったねー。あと10秒だったのに」

 

 いつものように間伸びした声で、闘技大会の受付をしている女性が言った。

 

 4分41秒。あと11秒遅かった。

 途中までは良かったんだ。あそこで突進をされなければきっとSランクを出すことができたはず。はぁ……まぁ仕様が無い。また今度頑張れば良いさ。

 

「それにしても、どうして君はそこまでソロにこだわるのさー? 友達いないのー? やーいぼっちー」

 

 失礼な。張り倒すぞ。

 俺はただ、闘技大会イャンクックでソロSも取れないような奴が、集会所のクエストを受けるべきじゃないって思っているだけだ。集会所でクエストを始めれば、友達だってきっと直ぐにできる。できるはずだ。

 

「どうかなー。君って噂になっているから難しいと思うよー」

「えっ……マジで?」

「うん、マジマジー。ずっと一人で闘技大会をやってる変な奴だって噂だよー」

 

 確かにここ一ヶ月はずっと闘技大会をしているが、えっ……そんなにおかしなことだったのか?

 いやだって、そんな実力もないのに集会所クエストなど行っちゃダメだろ。

 

「そりゃあそんなハンターはいないよー。私が言うのもアレだけど、闘技大会やるくらいならー、クエスト行った方が絶対に儲かるもん」

 

 それは俺だってわかっている。

 しかし、闘技大会ほど初心者にとって良い練習の場所となるものはない。何より契約金ロハって言うのが一番助かる。それでいて討伐できれば報酬金がもらえるのだ。至れり尽くせりじゃないか。

 まぁ、最初の頃は討伐なんてできなかったが。

 先生(笑)とか思っていた昔の自分を殴りたい。クックさんマジ強い。だってアイツ火吐くんだぜ?

 

「とりあえず俺はソロSが出るまでは続けるよ。また明日来る。またな」

「またなー」

 

 受付嬢とそんな言葉を交わしてから集会所を後に。

 

 今までは気になっていなかったが、確かに周りのハンター達からは見られているような気がした。クスクスとまるで嘲笑しているかのような声も聞こえる。

 このやろー、見てろよ。絶対に凄腕のハンターになってやるからな!

 

 

 

 

 

 自宅へと帰り、装備と武器を外してからベッドへ倒れ込む。

 

 此処へ来てもう一ヶ月以上も経ってしまった。未だ集会所で受けたクエストは採取ツアーのみ。何が凄腕を目指しているハンターなんだろうか。一番簡単な闘技大会ですらソロSを取れない。そんな自分が情けなかった。

 メイン武器はハンマー。けれどもそのハンマーを使ったのも、採取ツアーでの一回のみ。今では片手剣の使用回数の方が圧倒的に多い。このままじゃ一番好きな武器の使い方だって忘れてしまう。

 

 ホント、上手くいかない人生だ。

 

 俺は……いつになったら元の世界へ帰ることができるのだろうか。

 

 ホント、どうすりゃ良いんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 今でもはっきりと覚えている。

 それは莫迦みたいに長い大学の夏休みの日のことだった。部活にも所属せず、バイトも休み。実家へも帰る気になれず、ただひたすらにモンハンをやり続けていた。

 

「はぁ、またゴミ武器か。別に最高倍率なんて求めてはいないんだけどなぁ」

 

 何が自分をそこまで駆り立てていたのかはわからない。理由があるとしたら、他にやることがなかったと言うだけだろう。

 金冠マラソンも終わり、称号も全て集めた。プレイ時間は1000を超え、HRはとっくにカンスト。それでも惰性で続けていた。

 

「もうテオも飽きたし、ゴリラに変えようかな」

 

 一人暮らしを始めてから、独り言がやたらに増えたと思う。

 メイン武器以外の発掘はある程度終わっていた。けれども、一番欲しいものだけが手に入らない。別にやる必要なんてなかった。何処まで行っても自己満足でしかないのだから。

 

 もし理想の発掘武器が手に入っていたら、俺は何をやっていたんだろうか?

 

「よぉ14代目、今度こそ使えるお守りを頼むよ」

 

 喋り返してくれることのないゲーム画面に向かって声をかける。周りから見ればさぞ滑稽な光景だろう。それでも何か声を出していると、それだけで気持ちは楽になった。

 

「……全部売却で」

 

 やはり俺の気持ちは画面の向こうまで届くことはないらしい。たまには俺の気持ちに応えてくれても良い気がする。

 

「はぁ、リセマラに切り替えるか」

 

 乱数調整をする気にまではならないが、やはり良いお守りは欲しかった。頑張れ14代目。期待しているぞ。

 

 

 セーブをせず電源を切る。

 

 電源を入れる。

 

 データが全て消えていた。

 

「…………」

 

 言葉が、出なかった。

 聞いたことはあった。リセマラはデータが“まかふしぎ~”されるから止めておけと。

 所詮はただの電子情報。それが消えただけ。けれども俺の1000時間を超える軌跡は一瞬で無と化した。

 

 ため息しか出ない。もうこれを機会に止めようとも考えた。それでも俺は――ハンターのセカンドライフを選んだ。

 自分でも思う。馬鹿だって。そんなの何の意味もないって。

 

 それでも俺はその道を選んだ。

 

 前回のデータと同じ名前。同じ顔、髪、声。行く宛の無い怒りは、筆頭オトモとか言う明らかなバグに“畜生”と名付けることで多少は軽減できたような気がする。

 キャラクターメイクの間、独り言の多いはずの俺は終始無言だった。

 

 またこれで楽しむことができる。初心に帰って楽しめるじゃないかだなんて、一人で強がってみた。

 

 はぁ……ため息しか出てこない。

 

 キャラクターメイクを終え、ゲームスタート。

 このデータはハンマー以外使わないぞ、と心の中で小さく誓った。

 

 そして、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な世界から何処かの船の上のような世界へ変わった。太陽が眩しい。風が強く、飛んできた砂粒が顔に当たる。

 

 

「よう! ハンターさん。もう少しでバルバレに到着だな! どうだ、こっちに来て一緒に眺めないか?」

 

 低くいかにもダンディーな声が聞こえた。

 そちらの方を向く。大きめの帽子を被り、なかなか良い身体をしているおっさんがいた。あら、カッコイイですね。

 

 そのおっさんは画面越しに見たあのキャラとよく似ていた。

 

「楽しみだなァ。ハンターさんも待ちきれなくなって、船底から出てきたんだろ? 実は俺もなんだ」

 

 ……なんだこれ。

 

 なんなんだこれ。

 

 混乱。パニック。意味がわからなかった。

 

「こうしている間にも、到着が待ちきれなくて血がザワザワと騒ぎ立てるよ」

 

 いや、もう……なんだろうね。

 誰か今の状況を説明してくれる人はいませんか?

 

「それで、ハンターさんはどうしてバルバレを目指しているんだ?」

 

 日差しが強い。肌が焼ける。

 風が強い。皮膚に当たる砂粒が痛い。

 

 夢? 現? それがわからない。

 

 それでも一つだけはっきりとわかった。

 

 

「凄腕のハンターになるためだよ」

 

 

 此処、モンハンの世界だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時から俺の物語が始まった。

 それは臆病で弱虫で馬鹿でどう仕様も無い男が、昔の栄光にしか縋り付くことのできない、最弱とまで言われるようになってしまった武器を担ぐ物語。

 それはプライドなぞ捨て、ただひたすらに生き抗った男の物語。

 それは意地っ張りで負けず嫌いな男の物語。

 

 鼻で笑ってくれ。お前は馬鹿だって。

 

 笑われながら生きていくくらいが丁度良いのだから。

 

 そんな物語を書き始めようと思う。

 

 






やっぱりハンマーって楽しいよね!



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