振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第11話~プライドは2000z~

 

 

 防具作りを始めて5日。漸く必要な素材が全て集まった。

 ゲームをやっていた時は例のセンサーが発動しまくってくれるおかげで、素材が集まらないことは多かったけれど、今回はすんなり集まってくれたと思う。

 まぁ、レア素材もないのだし、こんなものなのかな。

 

「つ、ついに私もブレイブ以外の装備を身につける日が……」

 

 一方、相棒はと言うと、元々鉱石系などの素材は集めきっていたこともあり俺よりも一日早く素材を集め切った。だから最終日は別についてくる必要はなかったのだけど、俺に付き合ってくれた。助かります。

 

 さて、これで漸く俺もジャギィ一式となるわけなんだが……

 

「どうしたの? 難しい顔なんかしちゃって」

 

 一つ問題があります。

 お財布の中身を確認。所持金は3000zほど。

 

 まぁ、つまるところ……お金が足りません。いくらドスジャギィを倒したところで、報酬金は多くない。しかもソロではなく二人で行くためその少ない報酬金はさらに半額となる。

 そしてジャギィ一式を作るのに必要な費用は約5000z。2000zほど足りなかった。防具を作っても余る素材を売ればなんとかなるだろうけれど、それはあまりやりたくない。

 

「その、ですね……お金が足りないんですよ」

 

 本当に困りました。

 一度、魚釣りでも行って小金魚や黄金魚を釣り続ける作業でもやろうかな。アレらは一匹釣るだけで500zにもなるのだし。黄金魚の所持数は10匹が限界だけど、なんとか4匹以上釣れば防具を作ることはできるんです。

 ただ、アレひたすら面倒なんだよなぁ……

 

「え~……どれくらい足りないの?」

「……2000zほどです」

 

 それならもう一度ドスジャギィを倒して、素材を全部売った方が良いか? たぶんそれが一番早く稼ぐ方法だと思う。

 でもそれをするのなら、今ある素材を売っても変わらないか。……しゃーない、素材を売ろう。

 

「なんだ、それくらいなら貸すよ?」

 

 ……うん?

 

「えっ、良いの?」

「うん、私10万zはあるもん。別に2000zくらいなら直ぐ貸せるよ」

 

 じゅ……10万zですと?

 なんでそんなに持っているのさ。お互いHRは1。そうだと言うのに、いつの間にそんな溜め込んでいたんだ。なるほどこれが格差社会か。

 

「い、いや。ちょっと待て」

「どしたの?」

 

 確かに今借りれば直ぐに防具を作ることはできる。

 だが……だが本当にそれで良いのか? 俺にだってプライドはある。例えこの相棒が快くお金を貸してくれると言っていても、そんなホイホイお金を貸してもらうような安っぽいプライドは持ち合わせていない。

 俺の中にあるプライドはもっとこう……なんか崇高であったはずだ。ちょっと違った気もするけれど、此処はこの誘惑に打ち勝ち、忘れられかけたプライドを目覚めさせるところだろう。

 

 

「ほら、それじゃ早速加工屋へ行こうよ。私も早く新しい防具が欲しいし」

「あっ、はい。わかりました」

 

 プライドは2000zで売った。

 

 いや、お金はちゃんと返しますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「了解、ジャギィ一式を二人分だな。3日後の夕方には完成させておくよ」

 

 採寸をし、素材と代金の4750zをあのアクセルハンマーを作ってもらった加工屋へ渡す。

 ふむ、これでまた3日ほど暇になってしまった。まぁ、前回アクセルハンマーを作ってもらった時とは違い、武器も防具もあるのだから、クエストへ行くことはできるが。

 

「それにしても、二人揃って同じ装備とは随分仲がいいじゃねーか」

「どうせ集めるなら二人一緒に集めちゃった方が楽なんだよ」

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑を浮かべながら加工屋が言った。確かに相棒とは同じ装備なのだから、ペアルックと言えばペアルックだけど、別に深い意味はない。

 まぁ、仲は悪くないんじゃないかな。俺がそう思っているだけかもしれないんだけどさ。

 

「んじゃ。3日後、取りに来るわ。しっかり頼むぞ」

「ああ、任せとけ」

 

 さてさて、この3日間は何をしていようか。

 

 

 

 

 

 

 

「防具ができるまではどうするの?」

「どうすっかなぁ。休日にしても良いけど……何かやりたいものある?」

 

 加工屋からの帰り道。相棒と二人で満天の星空の下を歩く。

 防具が完成したら次は彼女の操虫棍を強化しないといけない。たぶん、彼女のことだから虫の餌は持っていると思う。だから必要となるのはモンスター素材だけど、ケチャワチャの素材なんだよなぁ。そして俺はアイツが好きじゃない。なんか嫌い。生理的に。

 

「私は特にないよ。あっ、でも武器を強くしたい!」

 

 まぁ、そうなるよな。

 操虫棍の種類は少ない。今、彼女が装備している以外の操虫棍となると、ネルスキュラのスニークロッド、ゴア・マガラのエイムofトリックしか下位では作ることができない。

 そんなわけで、今はボーンロッドを強化していくのが一番だろう。

 

 どの道、ネルスキュラとゴア・マガラは戦わなければいけない日が来る。俺もあの2体の素材は欲しいし、その時に集めれば良いだろう。

 

「と、なると、ケチャワチャに行かないとなんだけど……行く? ああ、別に防具ができてからでも遅くないと思うよ」

 

 ケチャとかゴリラなんかの牙獣種系って馬鹿みたいに攻撃力高いんだよなぁ。慣れないうちは苦労しそうだ。イャンクック以来の比較的ちゃんとした大型種。流石に失敗することはないと思うけど、少し不安。こっそり一人で練習しようかな。

 

「うっ、ケチャワチャかぁ……こ、今回はやめておくよ。流石にクリアできる自信がない」

 

 無難な選択だと思います。

 たぶん、怒り状態のアイツの攻撃を喰らえばHPの6割くらいは持っていかれるだろう。それにケチャワチャと戦うエリアにはザコ敵の中でも悪名高いクンチュウがいる。初期防具ではかなり厳しい戦いになりそうだ。

 そして何よりアイツはスタンが取り難い! なかなか頭が吸ってくれないんだ。ダウンした時も腕が邪魔で攻撃し難いし。

 

「んじゃ、3日後までは休日がてら自由行動にするか」

「了解。あっ、でももしクエストに行くなら連れて行ってよ?」

 

 あ~……ん~……後ろ向きに善処します。

 

「……一人で行く気だったんでしょ?」

 

 ちょ、ちょっとテツカブラと戦いたいなぁ。とは思っていました。アイツの素材がないとハンマー強化できないし。そして今の装備でテツカブラと戦えば、1乙はすると思う。一撃で乙ることはないだろうけど、失敗する可能性の方が高い。其処へ連れて行くのは……なんて思っていたんです。

 

「わかった。わかった。クエストへ行く時は声をかけるよ」

「絶対だよ!」

 

 はてさて、どうすっかね。

 

 

 その日はもう夜も遅く、そんな会話をしてから相棒と別れた。

 そして別れた後になって気付いたわけだけど。

 

 

「……アレ? 今の俺って1zも持ってなくないか?」

 

 

 大ピンチです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 次の日。

 眠気が抜けていないまま財布の中身を確認すると、見事に何も入っていなかった。夢じゃない。現実です。

 

「……ヤバイな」

 

 ヤバイです。何がヤバイって、所持金がないとほとんどのクエストを受注することができない。そして、食事が……ああ、お食事券があるから其処は大丈夫か。

 いや、まぁ、全然大丈夫じゃないんだけどさ。

 

 所持金が0でも行けるクエストは、闘技大会と採取ツアーくらいしかない。ただ、それらの報酬は全て残念だ。素材を売ればお金は入るけれど、そうするとあの相棒に返すお金がなくなる。

 借金生活は辛い。

 

「魚釣るか……」

 

 しゃーない。面倒とか、好きじゃないとか言っている場合じゃなくなったのだ。

 

 

 

 あの相棒はクエストへ行くなら連れて行けとか言っていたけれど、まぁ、流石に採取ツアーなら連れて行かなくても良いだろうと思い、声はかけなかった。だって時間いっぱいまでひたすら釣りをするだけだし。

 集会所へ行き、今日も今日とて元気の良い下位クエストの受付嬢に頼んで、遺跡平原の採取ツアーを受注した。そう言えばこのクエストも一ヶ月振りになるのか。

 まぁ、だからと言って特に思うことはないが。あれだけの数を倒したのだし、ドスジャギィにも借りは充分返せたと思う。

 

 クエストを受注してから、空いている席へ座りお食事券を使って、たてがみマグロと幻獣バターの揚げ料理を頼んだ。これで釣り名人さえ発動してくれれば大丈夫です。

 

 そして食事をしながら幻獣バターって何のバターなんだろうな……。なんて考えていた時だった。

 

「……今日は一人なんだ。クエスト行くの?」

 

 あのハンマーの彼女が声をかけてきた。

 装備も武器も変わった様子はない。どうやらまだHRは3で止まっていてくれているらしい。どうかそのままの君でいてくれ。

 

「うん、今日から3日ほどは自由行動なんだ。んで、俺はちょっと遺跡平原の採取ツアーへ行くとこ」

「そうなんだ。ん……魚、乳製品で揚げ料理……釣り?」

 

 ……随分と鋭いですね。大正解です。

 せっかくぼかしたのに意味がない。

 

「俺にも色々あるんだよ。んで、君はどうしたの? またワンコでもいじめに行くの?」

 

 お金がないから釣りに行くなんて恥ずかしくて言えません。

 

「そうしようと思っていたけど、今日はクエストがなかった」

 

 やめたげてよ。

 ちゃんと俺たちが戦う分のワンコも残しておいて欲しい。

 

「……ねぇ」

「どしたの?」

 

 彼女の声は決して大きい方ではない。けれども、今日はいつもに増して声が小さかった。

 そんなにジンオウガと戦えないことがショックだったのかな。

 

「私、暇になった」

 

 ……うん。そうだね。ワンコいないもんね。仕方無いね。

 

 

 ……うん?

 

 

「えと……だから――貴方のクエストについて行っても良い?」

 

 






今の主人公と同じ状態でケチャワチャと戦ってみましたが、かなり難しかったです
何が難しいって初期防具だとクンチュウの攻撃が滅茶苦茶痛いです
10分針でした……


と、言うことで第11話でした
超スローペースですが、これでも進んでいるつもりです
12話も書いてHRはまだ1ですが、進んでいるはずです

次話は魚釣りっぽいです
話進まねーよどうなってんだ
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております

~お知らせ~

ダイレクトメッセージなどで何人の方からモンハンのお誘いをいただきましたが、twitterをやっているので、お誘いはできればそちらからお願いします
また、こうやって偉そうなことを書いていますが、私は別に上手いわけではないので高何度クエストとかは勘弁してください

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