「あっ、失敗しちゃった」
「なんだ、調合書は持ってきてなかったのか?」
いつも通り揺れる馬車の上、相棒に元気ドリンコの調合を見せてもらったけれど、できあがったのは得体の知れない何かだった。ふむ、これがもえないゴミか。
昔みたいに何かに使えれば良いけれど、今作は本当にゴミなんだよなぁ……
「うん、流石に持ちきれないもん。はい、じゃあこれあげるよ」
「張り倒すぞ」
「じょ、冗談だよ……」
相棒からのお説教を受けて二日。漸く防具が完成した。
祝、初期防具卒業。たぶんこれで下位クエストくらいならゴリ押せると思う。防御が足りなくなったら鎧玉を使っても良いし。
「てか、やっぱり失敗することもあるんだな」
あのジンオウガの彼女と一緒にクエストへ行ってから、今日までクエストに行くことはなかった。採取ツアーくらいなら行っても良かったけれど、相棒の買い物に付き合っていたのと、闘技大会を見に行ったことなどで二日は潰れた。
そして思ったことだけど、女性の買い物ってどうしてあんなに長いんだろうね……さっさと買っちゃえば良いのに。
「そりゃあ、あるよ。ほら、ラージャンも木から落ちるって言うじゃん」
「いや、ラージャンは木に登らないだろ」
「あれ? ケチャワチャだっけ?」
知らんがな。
闘技大会はイャンクックの大会を見た。観客席には人も多く、闘技大会自体がかなり人気なものなんだろう。数週間前までは自分が闘技場の中へいた。けれどもそれを観客席から見るというのは何とも不思議な気分。
そしてイャンクックと戦ったのは片手剣を使う二人組だった。どうせならハンマーを見たかったんだけどなぁ……それにタイムを出すのなら、一人は大剣の方が良いだろうに。
そんなことを思わないでもなかったけれど、闘技大会は見ていて面白いものだった。雄叫びを上げてイャンクックへ斬りかかる姿とか超カッコイイ。戦っていた時間は7分と長くはなかったけれど、イャンクックを倒したときは、隣で見ていた知らないおっちゃんとハイタッチして喜んだ。
うむ、今度また見に行こうかな。まぁ、闘技大会を見たところで参考にはなりそうもないんだけどさ。
「ケチャワチャかぁ……やっぱり強いんだよね?」
そして闘技大会を見た帰りに加工屋へ行き、防具を受け取った。
赤系等を基本としたちょっとカラフルな見た目。スキルは砥石高速化と気絶半減がついてくる。砥石高速化は助かります。
少々燃えやすいのが難点だけど、他の属性には弱くない。序盤では優秀な防具だと思う。
「まぁ、アルセルタスやドスジャギィに比べれば強いかな。でも、今回から防具もあるわけだしクリアすることはできると思う」
防御力も50となり、裸同然の防御力だった今までとは雲泥の差。負けることはないと思う。……たぶん。
「む、むぅ……不安だ」
正直、俺も不安なところがある。でも、コイツを倒さないと相棒の武器は強化することができない。だからどうにか頑張って欲しいところだ。この相棒の武器が強化できれば戦力は一気に上がるのだから。
「ケチャワチャは白エキスが取り難いけど、とりあえず3色集めた状態を維持するように。あと時計回りに動いていれば攻撃はほとんど当たらないよ」
ケチャさん右手で爪攻撃しないしね。小突きは鬱陶しいけれど、操虫棍なら問題ない。良いよなぁ、全モーションSA付加は。
「……なんでそんなこと知ってるの?」
「予習したからだよ」
100匹マラソンをしたおかげで、アイツの行動はちゃんと覚えている。まぁ、それもゲームの中のお話なんだけどさ。
それにしても、ジンオウガの彼女よりやっぱり相棒の方が一緒にいて気が楽だ。道のりは長いけれども、この相棒と一緒なら早く行けることができると思う。
そんな小っ恥ずかしいことを俺は思うのです。
――――――――――
「っしゃー、行くぞー!」
「おおー!」
遺跡平原に着くと彼はいつも通り大きな声を出した。
どうしていつも声を出すのか聞くと、声を出さないと身体が動いてくれないんだって。そんなふうには見えないけれど、もしかしたら彼は私が思っている以上に臆病なのかもしれない。
「悪いけれど、今回は応急薬半分もらえる?」
「うん、別にいいよ。でも珍しいね。君が支給品をちゃんと取るなんて」
いつもは地図だけ取ってさっさと行っちゃうのに。
それだけケチャワチャが強いってことなのかな。ふ、不安だ……
「全部は使わないと思うけど、初めて戦う大型種だしなぁ。念の為だよ」
初めて戦うのに、ケチャワチャの行動とかどうして知っているんだろ。不思議な人。
彼が残した支給品を全部回収し、もう既に走り出している彼を慌てて追う。
しっかりは見ていなかったけれど、支給品の中には音爆弾が入っていた。何に使うんだろ?
ケチャワチャのいる場所はエリア4らしい。そこはちょっとゴツゴツしているせいで戦い難い場所。アルセルタスにボコボコにされたのも、きっとそのせいだ。決して私が弱いわけではない!
そして、エリア4へ行くと直ぐにアイツを見つけた。
長い爪に尻尾。あと鼻も長い。象さんみたいでちょっとカワイイかも。でもやっぱり怖い。
私はケチャワチャを見た瞬間ちょっと怯んでいたけれど、彼はそんなことなくいつものようにハンマーを構えながらケチャワチャへ近づいて行った。
んもう、少しは驚いたらどうなのさ?
あまりもたもたしているわけにもいかないから、私も彼に続く。早くエキスを集めないと。
虫を飛ばし、ケチャワチャの顔に当てる。虫を呼び戻してエキスを回収。色は赤だった。そして彼が高台から飛ぶのが見えた。
さらにケチャワチャの頭へハンマーが振り下ろされ、何とも重そうな音が響いた。ハンマーを当てダウンしたケチャワチャの背中へ乗る彼。えと……乗り攻撃中は攻撃しちゃダメなんだよね。
サクサクと背中を斬る彼を応援。がんばれ、がんばれ。
今回、私は乗り攻撃を禁止されている。乗り攻撃するくらいなら普通に斬れとの命令です。操虫棍使いとして悲しい宣告だったけれど、命令されたのだから仕方無い。従います。
数秒程度、彼がケチャワチャの背中を斬り付けていると、ケチャワチャが転倒した。たぶん成功したんだと思う。
倒れたケチャワチャへ近づき、その背中へ虫を当てエキスを採取。色は黄色。これであと一色取れば良いはず。
頭の前でハンマーを振り回している彼を邪魔しないよう、尻尾の方へ。でも、白色って何処から取れるんだろ……
何色が取れるかわからないけれど、とりあえず大きな尻尾に虫を当て、エキスを採取した。
その瞬間、身体が光った。
――3色取るとだな、こう……身体が光って強くなる。
いつかの彼のセリフを思い出した。
ふふっ、あの言葉は本当だったんだね。クエスト中だと言うのに、笑いが溢れた。
でもこれでエキスは集まった。これで私も戦える。
私がエキスを集め終わるのとほぼ同時に、倒れていたケチャワチャが立ち上がった。え、えと、時計回り、時計回り。
立ち上がり、首をふるふるさせるケチャワチャ。そんなケチャワチャの頭へ彼のハンマーが勢い良く振り上げられた。
そしてまた転倒。確か“すたん”……だっけ? 流石です。
モンスターと戦う時、彼はだいたい頭の前にいる。怒られたことはないけど、そんな彼へ私の攻撃が当たると転けてしまう。だから私はケチャワチャの尻尾の方へ。
エキスを3色集めたけれど、赤白の2色を集めた時と何かが変わったようには感じなかった。これなら赤白の2色だけでもいいんじゃ……
攻撃をする時は、連続斬り上げ、けさ斬り、なぎ払いのコンボをひたすら繰り返す。赤色を取るとこう言う攻撃ができると知りました。
転倒していたケチャワチャが立ち上がってところで、連続斬り上げから叩きつけでフィニッシュ! ちょっと飛び過ぎたせいで、彼に当たってしまったけれど、それは許して欲しいかな。
ご、ごめんなさい。
そして、漸く立ち上がったケチャワチャの大きな耳が顔を覆うのが見えた。
小さくジャンプをしてから大きく息を吸い込むのが見えて直ぐ、ケチャワチャが雄叫びを上げた。ピリピリと空気が震える。
咆哮……なの?
大型種は耳を塞ぐほどの咆哮をする奴がいるって聞いている。でも耳を塞ぐほど五月蝿くはない。彼の方を見ても耳を塞いではいないし……
う~ん、良くわかんないや。
どうやら怒り状態になったらしいケチャワチャ。大変なのはここからだ。
――――――――――
これで1乗り、1スタン。ホンっト、コイツはスタンが取り難い! 倒れた時くらい手をバタバタしないでもらいたい。
立ち上がったケチャの小ジャンを確認。攻撃を止め、回避の準備。
頭が少し下がったところでローリングで咆哮をフレーム回避。まぁ、ケチャの咆哮は短いし、無理して回避する必要までは無いんだけどさ。
相棒の様子を確認すると、耳を塞いでいる様子は見られなかった。おおー、ちゃんと3色集めたのか。ケチャって白エキス取り難いのに頑張ったんだな。
てか、アレだ。3色集めたせいで相棒の体は光っているわけなんだけど……無駄に神々しいな……
祈れば御利益でもあるだろうか?
そんな莫迦みたいなことを考えながら、カチ上げをケチャの頭へ。しかし、スタンエフェクトも出ず、ヒットストップもない。たぶん爪に吸われたんだろう。
怒り状態のケチャはちょいと面倒臭い。やたらと動きが速くなる。ハンマーはそんなに速く動けません。
そして、大技はまだ喰らってないけれど……防御力って大切なんだね。ケチャの攻撃が全然痛くないもん。砥石高速化があるおかげで、斬れ味緑ゲージ維持も難しくない。
もう少し苦労すると思ったけれど、予想以上に難しくないのかもしれない。強くなっていることがはっきりとわかる。
そんじゃ、サクッと行かせてもらおうか。
たぶん、まだ5分針だと思う。そうだと言うのに、ケチャワチャが足を引きずった。
此処まで、乗り・スタン共に2回ずつ。スタン3回目はちょっと厳しいです。部位破壊は全て終えているはず。よだれを垂らし疲労状態のケチャ。
もう少しだ。
エリアチェンジされる前にどうにか倒したかったけれど、怯みもせずケチャは飛んで行ってしまった。
「あっ、ペイントボール忘れた!」
相棒が叫んだ。
ああ、そう言えばぶつけてなかったね。
「どうしよう……何処へ行ったのかわかんないよ」
今回も相棒は一度も乙をしていない。何かを言ったわけでもないのに、俺へ斬りかかることもかなり減った。下手したら俺よりも火力は出ているかも……さ、流石にまだ俺の方が強いよね?
「大丈夫、どうせエリア9で寝てるから」
確か、ケチャの寝るエリアは其処だったと思う。でもあの場所ってジャギィが叩き起こすことがあるんだよなぁ……
「……だからなんで知ってるのさ?」
色々と経験しているんです。
エリア9へ行くと、蔦へぶら下がったまま寝ているケチャワチャがいた。
あんな寝方で疲れが取れるのだろうか? 普通に横になって寝れば良いのに……
「えと、どうやって起こすの?」
ふむ、どうするか。
寝ている時、最初の一発は2倍のダメージが入る。だから俺のホームランで叩き起こすのが一番だけど……
「音爆弾持って来てる?」
「うん、あるよ」
「んじゃ、それ投げちゃって」
これでダウンも取れるし、落し物をいただければ儲けもの。
やる必要があるかわからないけれど耳を塞ぎ、音爆弾に備える。相棒がポーチから音爆弾を取り出し、ケチャへ投げるのが見えた。
瞬間――馬鹿みたいに甲高い音が響いた。
音に驚き落ちて来たケチャへ直ぐ様、ラッシュをかける。
寝起きで悪いですが失礼します。
「うわぁっ!」
音に驚き、怯んでいる相棒はとりあえず無視。お前が怯んでどうすんだよ……
そして2回目のホームランを決めたところで、ケチャが倒れた。
たぶん、10分針はいっていないと思う。上出来です。
「あっ、終わっちゃった」
お疲れ様。
うむうむ、やはり防具があると全然違うな。この調子なら本当に下位クエストはクリアできるかもしれない。
ま、どうせそんな上手くいかないんだろうけどさ。
「おーい、剥ぎ取ろうよー」
あっ、はい。
直ぐ行きます。
さて、次はどのモンスターを倒そうか。
防具って大切ですね
ジャギィ一式を着て私もやってみましたが、ブレイブ一式の時と違いかなり楽でした
そして何より砥石高速化が本当に助かります
タイムは8~11分台です
と、言うことで第14話でした
かなり頑張って、ちょっと無理矢理でしたが進めました
ツカレタネー(´・ω・)(・ω・`)ネー
次話は操虫棍の強化とかでしょうか?
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております
~語句説明~
これ、読んでる人いるんですかね……
~フレーム回避~
モンハンの回避……つまりローリングには無敵時間があります
その無敵時間で敵の攻撃などを避けることをフレーム回避と言うことがあります
スキル無しの状態のローリングの無敵時間は6F(フレーム)です
1秒が30Fですので、普通のローリングは0.2秒無敵時間があります
今回の話ですと主人公がケチャワチャの咆哮をフレーム回避しています
ケチャワチャの咆哮は短いので、かなりフレーム回避しやすい方ですが
このフレーム回避ができるのとできないのとでは、手数が全然違います
ですのでフレーム回避の練習をするのは大切かもしれません
ナルガクルガとか練習しやすかったんですけど……私はアイツの尻尾攻撃で練習しました
てか、アレを避けられるようにならないとなかなか倒せないと言う……
因みにですが、回避性能と言うスキルはこの無敵時間を伸ばすスキルとなります
+1では10F
+2では12F
+3では18Fとなります
また、これはローリングの話ですので、ランスなどのバックステップや双剣の鬼神ステップはF数がちょっと減ります
正確には覚えていませんが-2くらいだったかと
今回も一つにしておきます
では、また