振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第16話~左からロケット生肉~

 

 

「ふふっ、新しい武器楽しみだ」

「良いなぁ、俺も早くレア2の武器にしたいよ」

 

 武器を強化し、御満悦な様子の相棒。

 レア度が1から2へ上がっただけではなく、攻撃力も279から371へ上がった。武器倍率換算で30アップ。俺の武器よりも20も高い。ずるい。

 

「君は一度強化したじゃん」

「一度じゃなくて二度だよ。でも君の武器の方が強いんだよね……」

 

 昨日は何と言うか、何も得ることのできない一日だった。

 最初は闘技大会へ行こうとしたが、先日相棒のご機嫌を直すためなどに出費をしてしまったため、やめた。そうなると本当にやることがなく、相棒の武器強化が完成するまではいつかのように、道端にいるプーギーの腹をつついて時間を潰した。

 

 アイツで遊んでいると心が洗われる気がする。

 

「そうだったの? じゃあ私の武器って結構強いんだ」

「まぁ、現段階では一番強いんじゃないか?」

 

 けれどもどうやら俺の運は相当悪いらしく、そうやってニヤけながらプーギーの腹をつついているところをあのジンオウガ一式の彼女に見られた。

 

 哀れみとか同情とか、色々な感情の混ざった視線だった。

 

『え、えと……うん。そういう時もあるよね……』

 

 そんな声をかけられ俺は泣いた。そっと、心の中で。

 足早に俺から離れていく彼女を見ながら悲しみに打ち拉がれた。

 

 次会った時、どんな声をかければ良いのかわからない。まぁ、向こうもそれは同じだろうけど。すみません、タイムマシンください。記憶を消す薬でも良いです。

 

 

「テツカブラかぁ……私、見たことないんだよね」

 

 それから相棒と一緒に加工屋へ行って武器を受け取った。そう言えばコイツは昨日、何をしていたんだろうか?

 まぁ、そんなことのあった次の日。朝早くからテツカブラを倒すために、地底洞窟へ出発。帰りは明日の昼くらいになりそうだ。

 テツカブラのクエストの依頼主は土竜族の人だった。テツカブラが大穴掘って採掘に支障が出ているからどうにかして欲しいらしい。土竜族ねぇ……やりすぎてまたテオの住処を掘り当ててしまうとかならないようにしてもらいたいものだ。

 

「おろ、そうなのか。まぁ、アイツはただの大きな蛙だよ」

 

 ちょっと牙が大きくて尻尾も生えているけれど、蛙には違いない。そして何より、テツカブラは顔が大きいから好きだ。スタン値の初期耐性が高いのと、あの車庫入れはどうにも困るんだけどさ。

 

「見たことあるの?」

「まぁ、あるっちゃある」

 

 ないと言えばない。てか、ゲームの中なら全てのモンスターを見ている。

 最大金冠がなかなか出てくれず、アイツには苦労させられた。何回、地底洞窟の相撲大会へ足を運んだことか……強くはないからまだ良い方だけど。

 

「そうなんだ。それでテツカブラって強いの?」

「強くはない方じゃないかな。攻撃力が高いのと、連続攻撃をしてくるからちょっと面倒臭いくらい。でも、倒せなくはないと思う」

 

 連続突進の後は確定で威嚇が入るし、確か下位クエストなら岩砕きの後も確定で威嚇だったはず。隙がかなり多いモンスターって言うイメージだ。

 気をつけるのは、減気ブレスからの突進くらいじゃないだろうか。あとは白くなった尻尾を斬っていてもらえれば倒せるはず。ケチャワチャよりは戦い易いだろうし、強い相手ではない。

 

「それに君の武器だって強くなったんだ。大丈夫だと思うよ」

 

 何より今回はそれが大きい。たぶん俺より火力が出るんだろうなぁ……

 ま、まぁ、これで俺もブーステッドハンマーを作ることができれば、火力も上がる。だから足を引っ張ることはないと思う。……ブーステッドハンマーって攻撃力いくつだったっけかな。

 

「が、がんばります」

 

 おう、頑張ってくれ。超期待してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 雑談をしたり、飯を食べたりしながら揺られること数時間。漸く地底洞窟へ着いた。

 日が昇り始めるくらい朝早く出発したと言うのに、日は西へ沈み始めている。ホントに遠いんだな。原生林や氷海にはどれだけかかるのやら……

 

「やっと着いたか……流石にこれは遠いな」

「そればっかりは仕方ないよ」

 

 それもそうか。

 運んできてくれたアイルーに礼を行ってからクエストへ出発。支給品ボックスからは地図と応急薬6つ、携帯砥石2つを取り出した。携帯食料はいらん。美味しくないもん。

 

「んじゃ、行くか!」

「おおー」

 

 テツカブラの初期エリアは8。段差や坂が多く、弓殺しのエリア。ゲームの時は本当に苦労したなぁ……

 

 一つ声を出し、気合を入れてからエリア1へと繋がる崖を飛び降りた。サクッと終わらせて美味しいビールを浴びるように飲んでやる。

 

 エリア2からさらに崖を飛び降りてテツカブラのいるエリア8へ。

 そしてエリア8へ行くと、崖の下に2匹のリノプロスが見えた。ロケット生肉か……面倒臭いな。クンチュウの方がまだ良かった。

 その生肉の先にアイツが居た。のそのそと歩くばかりで、崖の上にいる俺たちにはまだ気づいていない。

 

 さて、どうするか。できれば生肉を倒してから戦いたいけれど、倒してもどうせまた出てくるよな……しゃーない、生肉を避けつつ戦うしかないか。

 

「……行くか」

「う、うん」

 

 緊張している様子の相棒。まぁ、テツカブラの見た目怖いもんね。緊張するのも仕方無いか。

 エリア8の崖を飛び降り、テツカブラの居る段へ。そして、俺たちが飛び降りたのに気づいたのか、テツカブラが此方を向いた。

 

 今まではお散歩みたいにゆっくりと動いていたはずのテツカブラだったが、俺たちを見つけその動きは一気に速くなった。

 

「き、来た!」

 

 わかってます。

 ハンマーを右腰へ構え、此方へ向かって近づいて来るテツカブラへ此方からも近づく。

 

 そして、発見時の咆哮の前にカチ上げをその立派な顔面へ一発。

 カチ上げをして直ぐ横ロリはせず、咆哮へ備える。テツカブラが大きく息を吸い、頭を上げ一拍置いてから咆哮をフレーム回避。

 耳を塞ぐことはないけれど、咆哮で震えた空気がピリピリと肌を突き刺した。ヤバイな……予想以上に迫力がある。

 ビビるな、怯むな。

 

 フレーム回避後、直ぐにもう一度カチ上げ。これでスタン値は80。テツカブラの初期スタン値は……いくつだったかな。200は超えていたと思うけど。

 

 

「赤は顔、白は手足、橙は尻尾か胴体! 頑張れ!!」

 

 

 エキスの取れる位置を相棒へ叫びながら、崖を上り乗り攻撃を頭へ一回。

 地面から岩を掘り起こそうとするテツカブラからローリングで距離を取り、直ぐにハンマーを右の腰へ構える。そして、大岩を掘り起こしたところでまたカチ上げ。

 

 後退するテツカブラ。んもう、車庫入れやめてください。さらに、もう一度地面から岩を掘り起こしたと思ったら、そのままその岩を咥えた。確か肉質は18とかまで落ちるんだったかな……

 

「えっ、こ、これどうすれば良いの?」

 

 驚いたような相棒の声。

 まだ神々しくはなっていないからエキスは集めきれていないらしい。

 

「エキス取って後ろで斬ってりゃ問題ない」

 

 岩砕きも後ろの判定は薄い。尻尾でも斬っていてください。

 

 テツカブラから距離を取りしな右腰へハンマーを構える。とりあえず、その立派な牙を破壊させてもらおう。今、俺が欲しいのはその牙だけだ。

 斬れ味がもったいないけれど、構わず岩を咥えているテツカブラ顔へカチ上げ。そしてローリングで距離を取る。テツカブラが岩を噛み砕こうとしているのを見てもう一度ローリングで距離を取ってから、また右腰へハンマーを構える。

 

 とにかく今はカチ上げ! スタン取るまでカチ上げ!

 

 そんな、今にも岩を噛み砕こうとしているテツカブラの真ん前には、何故か相棒の姿。

 いや、ホントどうして其処にいるのよ……

 

 砕かれた岩を避けられるわけもなく、吹き飛ばされていく相棒。けれども、エキスは3色集めたらしく、その体は無駄に輝いていた。ああなるほど、赤色を取りたかったのね……

 そんなシュールな光景を横目にもう一度カチ上げ。そのカチ上げが当たった瞬間、2本ある牙が1本砕けた。まだスタンじゃないんですか。

 

 牙が砕かれ怯み後退したテツカブラへローリングで距離を詰め、横振りを一発。

 其処で本日、一回目のスタンを奪った。

 

 スタンし倒れたテツカブラへ縦1、縦2、そしてホームラ……

 

「なにごとっ!?」

 

 を決めようとしたところで何かに吹き飛ばされた。

 どうやらロケット生肉が本気を出し始めたらしい。本当に勘弁してください。

 

 本気を出したロケット生肉は強く、その突進を躱しているうちにテツカブラは立ち上がってしまった。無意識に舌打ちが出る。

 さらに見えていなかったもう1頭の生肉の突進をくらい、テツカブラの前へ強制的に連れて行かれた。洒落にならん、とか考えていると、テツカブラが体を大きく傾かせるのが見えた。

 所謂、四股踏み。ソイツを避けられるはずもなく直撃。

 

 華麗なコンボに拍手を送りたい。

 クソが。

 

 俺が転がされている間に復活したのか、相棒がテツカブラへ斬りかかるのが見えた。テツカブラはちょいと任せて回復せねば。

 そう思い応急薬を飲もうとした時、テツカブラが大きく叫んだ。

 

 ああ、もう!

 

 あまりにも大きな咆哮に耳を塞ぐ、その瞬間生肉に吹き飛ばされた。体力がそろそろヤバい! お願いです、回復させてください。

 

 やはり生肉を最初に倒した方が良いのか? いや、でもそろそろエリアチェンジしてもおかしくないはず。それなら今はなんとか耐え……

 

「うっ……」

 

 生肉に吹き飛ばされ立ち上がったところで、テツカブラの減気ブレスが直撃。

 体から一気に力が抜け、尻餅を付いた。

 

 

 そして目の前には今にも突進しようとするテツカブラ。

 

 

 ああ……こりゃダメだ。

 

 

 ローリングで避けるスタミナもなく、テツカブラが口を大きく開けながら突進をしてくるのが見えたところで、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 目が覚めるとベースキャンプに寝ていた。

 

 

 ……なに!? なんなのアイツら! コンボが上手すぎる。中に人でも入ってんじゃねーのか!?

 テツカブラの攻撃はまだ良い。躱し難いものではない。けれども、その周りを元気に走り回る生肉がちょっとヤバい。

 

「い、急いで戻らないと」

 

 ヤバい、ヤバい。今、テツカブラとはあの相棒が一人で戦っている。

 飲みたくなんてなかったけれど、支給品ボックスから携帯食料を2つ取り出し、一気に飲み込む。そして走り出そうとした時、数匹のアイルーが荷車を運んできて、乗っていた人間をベースキャンプで下ろした。

 

 ……うん、間に合わなかったみたいだね。

 

 これで2乙。クエスト失敗のリーチがかかった。秘薬なんて持ってはいないから、最大体力はさっきの3分の2。テツカブラの体力はまだ9割近く残っているだろう。

 

 まさに絶望的状況だ。

 

 けれども、そんな状況は嫌いじゃあない。

 

 






今回も主人公と同じ装備でテツカブラと戦ってみましたが10分針は切ることができませんでした(´・ω・`)
攻撃力は予想以上低く、体力が予想以上に高いです
そして何よりスタン耐性がパない……
攻略サイトやwikiに、テツカブラの初期スタン耐性は200と書いてありますが、240くらいはある気がします
少なくとも200ではない気が……だ、誰か検証をお願いします


と、言うことで第16話でした
ロケット生肉さん超強いです
耳が滅茶苦茶良いはずなのに、大型モンスターの咆哮にはいっさい怯まない生肉さんヤバイです
でも、女性のリノプロ装備は好きです
男性のガンナー装備はちょっと嫌ですが

次話はこの続きっぽいです
1話で収まりきりませんでした(´・ω・`)サーセン
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております


~語句説明~

何を書けば良いのやら……

~リノプロス~
ロケット生肉だとか、アーマード生肉なんて呼ばれます
その突進力と一度見つけたらマップの端まで追っかけてくるのが本当に面倒臭い草食種
一応、こやし玉を当てれば土へ帰っていきます
ただ、松明は効果がありません
むしろ余計に凶暴になります
そんな嫌がらせに特化したモンスターです
たぶんブラキさんの好物

今回も一つで
では、また

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