「……ご、ごめんなさい」
「いや、すまん。まさか乙るとは思わなかった」
完全に舐めていた。
テツカブラくらい余裕だろうと思っていた慢心が原因。どう考えても自分のせいだ。
さて、反省会を開いている場合じゃない。クエストの時間にはまだまだ余裕があるとは思うけど、これで色々と追い詰められた。
う~ん、しかし困ったな。このまま行ってもさっきと同じようにやられるだけだろう。しかもさっきより体力は減っているんだ、戦い方を変えないと。
むぅ、こんなことになるのならスタンを取らなければ良かった。一度スタンを取ってしまったせいで、耐性値は上がっている。まぁ、たられば言っても仕様が無いことくらいわかっているんだけどさ。
「それで、どうするの?」
とりあえず、あの生肉をどうにかしないとダメだ。流石にさっきのは運が悪かったからだろうけれど、それでも生肉が走り回っていたら面倒臭い。かと言ってこやし玉なんて持っていないし、あの生肉には松明も意味なかったよなぁ……
ん~、どうすっかね。
「……ちょっと狭いけど崖の上で戦うか」
たぶんそれが一番良いはず。流石に崖の上まで生肉は来ないだろう。来たらお手上げだ。
「崖の上って、エリア8に入って直ぐのところ?」
「うん」
落とされたら面倒だし、テツカブラが落ちても面倒臭い。けれども、此方はもう後がないんだ。どんなに面倒だろうが、もう一度来るよりはよっぽどマシと言うもの。
とりあえずテツカブラがエリアチェンジしてくれれば問題ない。エリア3も戦い易い場所ではないけれど、生肉は彼処にいない。それだけで充分だ。
「行けそうか?」
「がんばります!」
うん、頼むよ。
「時間はかかっても良いから無理はしないように。とにかくクリアだけを目指そう」
「おおー!」
むぅ、まさかテツカブラにこれほど苦戦するとは……
でも良いさ。それくらいの方がやりがいはある。そう思うことにしよう。
さて、反撃を開始させてもらおうか。
――――――――
エリア2から飛び降りエリア8へ入った瞬間、テツカブラに見つかった。本当ならよろしいことではないけれど、今ばかりは都合が良い。
「回復するときはエリアを離れても良いから、とにかく安全に」
「了解です!」
崖の下のさらに遠くの方で咆哮をしているテツカブラを見ながら、相棒へアドバイス。もう此方に後はない。とにかく命を大事に。
大きな咆哮をしたテツカブラは直ぐに地面へ牙を突き立て、大きな岩を掘り返した。
そしてずるずると後ずさり。
そのせいで、どんどんと俺たちから離れていく。
あのカエル、何やってんだろ……
頭の良い生物ではないと思うけれど、もうちょっとこう……なんとかならないのだろうか。あんな頭の弱い奴にやられたのか……
地面へ牙を突き立て、大岩を掘り返して後ずさり。そんな意味のわからない行動をもう2回繰り返してから、漸く此方へ近づいて来た。
「来るぞ」
「う、うん、わかってる」
背中に担いでいたハンマーを右腰へ。
そして、崖下からジャンプで上ってきたテツカブラへスタンプ。溜まっているスタン値はない。上昇量も高いだろうし、どんなに取れてもあと2回が限界だろう。面倒臭い相手だ。
崖から落とされないよう、できるだけ真ん中で戦うように意識。無茶な行動はせず、岩を砕いた後や、連続突進の後に確定でやる威嚇モーション中を中心に狙う。
もう失敗はできないことからのプレッシャーで、嫌な汗が止まらない。良い緊張感だ。嫌いじゃない。
そして、怒り咆哮を躱してからカチ上げをぶち込んだとき、2本目の牙が砕けた。これで目標は達成。後は倒すだけ。まぁ、それが難しいんだけどさ。
牙を砕いてからは戦い方を変え、手や足、膨らみ白くなった尻尾を中心に狙う。流石に頭の前はちょっと怖いです。相棒を吹っ飛ばさないよう、カチ上げとスタンプは使わず、溜め1と縦振りをメインに。
手数を減らし、回避を優先。ダメージを受けたら直ぐに回復。そんなことを心がけた。
そして、戦い続けること暫く。漸くテツカブラが疲労状態となった。
畳み掛けろぉ!!
口を開き、苦しそうに呼吸を繰り返す疲労状態のテツカブラ。そんなテツカブラへ攻撃をしようとしたが、ホームランを尻尾へ当てる前に土の中へと潜り込んでいった。
「うぅ……まだ倒せないの?」
多くても6割くらいしか削れていないんじゃないかな。
今回は回復薬も持ってきているから、薬にはまだまだ余裕がある。ただ、アレだ。精神的にかなり疲れた。体力はまだまだあるけれど、嫌な汗は止まらないし無駄に手足が震える。
相棒の表情もかなりキツそうだ。これ、倒せっかなぁ……
まぁ、そんな弱音を吐いている場合じゃないんだけどさ。
「かなり削ってはいると思うし、もうちょいだろ」
まだ時間はかかると思うけど頑張ってくれ。
「……がんばります」
砥石を使い武器を研いでからテツカブラを追いかけエリア3へ。
エリア3へ入ると、未だ疲労状態のテツカブラと直ぐに目が合った。此方も彼方もボロボロだ。
動きの遅くなったテツカブラへとりあえずカチ上げと横振り。ローリングで距離を取り直ぐにまた右腰へ構える。
そして後ろから相棒の虫が飛んできて、テツカブラの顔に当たった。パキンと光るスタンエフェクト。
其処でテツカブラがスタンした。
「えっ?」
何とも間の抜けた相棒の声。ナイスです。
スタンしたテツカブラへカチ上げを決めてから、横振り始動でホームランを顔面へ。ローリングでテツカブラの左側へ回り込み、もう一度横振り始動でホームラン。
起き上がったテツカブラが大きく息を吸い込むのが見えた。んもう! 疲労状態終わるの早くないですか!?
一拍置いてから咆哮をフレーム回避。右腰へハンマーを構え――
「あっ、まず……身体が動かない……」
そんな声が聞こえて来た方を向くと、痺れながら相棒が倒れていた。ロケット生肉の次はブナハブラが邪魔をしてくるらしい。
明らかに相棒の方を向いているテツカブラ。
大ピンチです。
「……ごめんっ!!」
そう言ってから本当はやりたくなかったけれど、溜め3スタンプで相棒を吹き飛ばした。
相棒を吹き飛ばした後は直ぐにローリング。その瞬間、テツカブラが大口を開け地面を抉りながら通り過ぎて行った。
ヤバいヤバい、起き攻めとかこのカエルマジ怖い。
「あ、ありがとう?」
気にすんな。
ちょっとした段差に上りハンマーを構える。乗り攻撃は一度当てている。乗り値に減少はないはずだから、あと一回で乗りダウンを奪える。
テツカブラと目が合った。
右腰へ構えたハンマーへ力を入れる。
呼吸が荒い、心臓の音が五月蝿い。できるとわかっていても怖いものは怖いのだ。
大口を開け突進してくるテツカブラ。失敗すれば大ダメージ。成功すれば一気に削ることができる。ハイリスクハイリターン。そんな博打も嫌いじゃない。
そしてテツカブラの突進に合わせて段差から飛び、ジャンプスタンプを叩き込んだ。
「っつ……!」
結果、失敗。タイミングが少々遅く突進が直撃。吹き飛ばされました。
乗りダウンを奪うため直ぐに起き上がる。攻撃は入ったはず。しっかりとした手応えはあった。
だからダウンは奪え――
「終わった……の?」
……起き上がると其処には仰向けに倒れたテツカブラの姿があった。
どうやら自分が思っていた以上にダメージが入っていたらしい。まぁ、相棒の武器だって強化したんだ。火力は出ていたんだろう。
「はぁ…………疲れた」
本当に疲れました。
無駄に緊張してしまったせいで心身ともにボロボロ。いくら強くはない相手とは言えダメだね、舐めてかかっては。
「ん~疲れたぁ……ほら! 剥ぎ取ろうよ」
わかってます。
ハンマーの強化にはコイツの大牙が4本必要。どう見てもコイツに牙は2本しかないけれど、運がよければ一回で4本揃う。
まぁ、報酬を受け取ってみなければわからないんだけどさ。
ただ、もう暫くこのカエルとは戦いたくないかな。
「なぁ、知ってるか?」
「何を?」
残念なことに剥ぎ取りでは大牙が出ない。捕獲なら出るはずだから、捕まえちゃえば良かったね。
まぁ、今更そんなことを言っても遅いんだけどさ。
「コイツの口の中ってカブトムシがいるんだぜ」
「……何言ってんの?」
ゲームとは違い、体をすり抜けることができないため、仰向けに倒れているテツカブラの口の中を見ることができない。
はてさて、この世界にもゲームスタッフの遊び心は届いているのかね?
そんなどうでも良いようなことを思った。
カブトムシは喉の根元あたりにいます
ちょいと見づらいですが、是非探してみてください
亜種は……どうだったかな
と、言うことで第17話でした
まさかテツカブラに2話も使うとは……わからないものですねぇ
次話は武器を強化したりするので、また日常みたいなお話でしょうか?
まだ何も考えていませんが
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております