乾燥した空気。皮膚を焼くような強い日差し。
俺が訪れた初めての異世界は砂の味がした。
「はっは! そうか凄腕のハンターになるためか。そりゃあいいことだ!」
そう言っておっさんは豪快に笑った。そんな笑い方はおっさんによく似合っている。なんともカッコイイ人だ。
「あんたは?」
「俺はキャラバンの団長をやっていてな。今は仲間達と世界中を旅しているんだ。今はその仲間達の元へ帰るところだよ」
そんなおっさんの言葉は、いつか聞いたセリフとよく似ていた。
これがもしゲームの世界だとしたら、このおっさんのキャラバンへ加わり、世界中を旅するのだろう。それがあのゲームのシナリオだった。
「俺たちの団にもハンターがいるが、なかなか面白い奴でな。いつもいつも驚かされてばかりだよ」
……えっ?
あんたの団、ハンターもういるの? い、いや別におかしなことではないが、なんだろう。てっきり俺はこのおっさんの団員になるものとばかり思っていた。
「懐かしいな。初めてあのハンターと会った時も、こうやって今みたいに話したものだよ」
それでダレン・モーランに襲われたんですね。よく知ってるよ。
あんたのせいで、銅鑼の使い方を間違えるハンターが何人生まれてしまったことか……。この団長の罪は割と重い。
そっか、ゲーム通りに進むと言うわけではないのか。加工屋の娘と会いたかったなぁ。ぎゅーってしてもらいたかった。
「さて、そろそろバルバレに着くはずだ。俺はわかるよ。お前さんはいい目をしている。きっと凄腕のハンターになるさ。はっは! そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。お前さんなら、できるできる!」
どうやら顔に出ていたらしい。
けれどもそれだって仕様が無いことだと思うんだ。未だ自分の状況なんて全くわからない。いきなり異世界へ飛ばされ、自分の意思とは関係なしに物語は進む。
此処はもうゲームの世界ではないのだから。
それでも、おっさんの言葉を聞いてから少しだけ上を向けるようにはなったと思う。
その後も砂の上を走る船は何事もなく平和にバルバレまで到着した。
別にダレン・モーランと遭遇したかったわけではないが、少しだけ物足りない。それはわがままだろうか。
おっさんとも別れることとなったが、最後の最後まで笑っていた。できるできる! と。
おっさんと別れ、どうすれば良いのか困っていると、ギルドの者だと名乗る男性から俺の家だのこれからの予定だのを教えてもらった。
今の俺はこの世界のことを知らなかったため、男性にこの世界のことを聞いてみた。そんなことも知らんのか? みたいな顔をされたが、無知のままでいるよりはよっぽどマシだ。
その男性から聞いたことをまとめると、そもそもハンターと言うのは普通の人間ではなれず、特殊な力を持ったものだけがハンターになることができるらしい。
その特殊な力と言うのは、常人に比べて凄まじい体力を持っていると言うことと、武器を扱うことができる者。その武器と言うのが、ハンマーや片手剣などのこと。あの武器は特殊で、人に対しては何のダメージも生み出さないが、モンスターにはしっかりとダメージが通る特殊な武器らしい。ただ、詳しいことは知らんと言われた。
んで、その武器を扱えるのがハンターと呼ばれる者たちだそうだ。
しかし、ハンターの数は襲ってくるモンスターに対して圧倒的に少なく、ギルドも大変なんだと愚痴を零していた。
まだまだわからないことは多いが、この世界でハンターが優遇されている理由もなんとなく理解できた。この世界の人々にとってハンターとは希望なんだろう。
普通の人間では、小型のモンスターですら勝つことが難しいと言っていた。大型のモンスターが村を襲えば壊滅することもある。そんなこの世界。そりゃあハンターは貴重だろう。
正直、荷は重かった。
まだ俺が小さかった頃、ヒーローに憧れた。悪者を倒し人々を救うヒーローに。
しかし、そんな憧れは直ぐに消えた。自分じゃそんな存在にはなることができないとわかったから。そんな憧れを捨ててからもう何年経っただろうか?
消えたはずのものが今になって現れた。
そんな今の状況には、戸惑いしかない。どうすりゃいいんかなぁ。
どうしてこの世界へ来てしまったのかもわからない。どうすればあの世界へ帰ることができるのかもわからない。
けれども、止まっていることが正解じゃないことははっきりとわかった。
あの男性から教えてもらった自分の家へ。
扉を開け中へ入る。6畳程の縦に長い部屋が一つ。部屋の中にはベッドやアイテムボックスらしき物など、家具は充実していた。
アイテムボックスを開くと、其処にはブレイブ装備が一式と片手剣や双剣などの初期武器が一通り。
それらの防具や武器を一通り触ってみた。ゴツイ見た目に反して重さはあまりない。
装備をしてクエストに出かける元気もなく、その日は武器防具をアイテムボックスへ戻して寝た。目が覚めたら元の世界へ戻っていることを期待しながら。
――――――――
目が覚めた。そうして見えてきたのは、見覚えのない天井。
直ぐにわかった。此処はあの世界だと。
ため息が溢れる。無性に泣きたくなった。けれども涙は出なかった。
「……行くか」
声を出す。
少しでも気持ちが楽になるように。
アイテムボックスを開き、ブレイブ装備一式を取り出してからそれを装備した。
合計防御力はたったの5。発動しているスキルは乗り名人と回復速度+1のみ。それでも装備をしただけで、気分は高揚した。
武器は迷うことなくウォーハンマーを選択。切れ味は黄色、攻撃力312。初期武器だもんね。しょうがないね。
「よっしゃー! 行くぞー!」
気持ちを入れるため、大きな声を出す。
ドンっと壁を殴る音が聞こえた。どうやら壁ドンは世界を越えるらしい。
気合を入れ、勢いそのままに集会所へ向かう。初期防具に初期武器。どう見ても初心者ハンター。それでも、自分が少しだけ誇らしかった。
集会所へ行くと、下位クエストの受付嬢からクエストを受注する前に“ハンター登録”をギルドマスターに頼んでやってくれと言われた。
面倒臭かったが、言われた通りほっほほじいさんの所へ。其処でじいさんからバルバレの歴史やらを聞かされた後、自分のギルドカードをもらった。
「……ほれ、これで登録完了だよ。それじゃ、がんばんなさい。さても新鮮な働きを期待しているよ。ほっほほ」
改めて自分がハンターになったんだと感じた。
HRはまだ1。それでも此処から俺のハンター生活は始まる。けれども、その実感はあまりない。
「ハンター登録、おつかれさまです! クエストカウンターへようこそ! ここは下位クエストの受付窓口ですよ!」
何はともあれクエストを受注することに。本当なら旅団クエストをやっていきたいところだが、残念ながら、俺は旅団に入っていない。つまり集会所縛りプレイと言ったところか。
難易度高いなぁ……
「遺跡平原の採取ツアーを受注したいんだけど、いいかな?」
「はい、遺跡平原の採取ツアーですね! バルバレからは近いので半日ほどで着くかと思います。よろしいですか?」
……近いのに半日もかかるのかぁ。
予想はしていた。此処はゲームの世界ではないのだ。飛行機や新幹線もない。それならそれも仕方が無い。
「うん、頼むよ」
「わっかりました! 準備ができ次第、出口へ向かってください。ハンターさんが無事、帰ってこられるよう心から願っています!」
よく喋る娘だって思った。けれども、彼女のおかげで確かに元気にはなった気がする。
ありがとう。頑張ってみるよ。
よっぽどのことがない限り、ハンターはちゃんと帰ってくることができるらしい。それはハンターをサポートしてくれる人たちがいるからこそできることだろう。彼女だってその一人だ。
これから行くのはただの採取ツアー。
危険なことは何もないはず。
それでも、ちゃんと帰ってこないといけないなって思った。
準備をしようにも、アイテムなど何も持っていなかったため、受付を済ませてから直ぐに出口へ。
集会所の中には多くのハンターの姿。俺のように一人でいる奴もいれば、数人で一緒にいる奴らもいる。そしてその誰もが笑っていた。食事をしながら、酒を飲みながら愉快な声が聞こえる。
そんな奴らを横目に初めてのクエストへと俺は出かけることに。
その途中で、クエストから帰ってきたと思われるハンマーを担いだ女性のハンターと目が合った。もちろんお互いに初対面。
彼女と俺は同時に手を挙げた。
そしてすれ違い様にハイタッチ。パシンっと乾いた音が響いたが、そんな音は集会所内の騒がしい音に飲み込まれ直ぐに消えた。
そんじゃ、一狩り行くか!
SAをハンマーにください
と、言うことで第1話でした
あんまり進みませんでしたね
一話が4000文字を超えないように書いていく予定です
感想・質問などあればなんでもどうぞ