振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第19話~初めての緊急クエスト~

 

 

 酒の肴にはちょうど良い塩梅に味付けられたポポノタンを食べながら、ビールを豪快に流し込む。ビール独特の苦さと炭酸が口の中へ広がった。

 疲れた身体にビールは良く染みる。

 

 ああ、幸せだ……

 

「君っていつもビールだけど、飽きたりしないの?」

「これが一番好きなんだよ」

 

 別に他のお酒が嫌いと言うことはないし、お酒ならなんでも好きだけど、やはりビールが一番美味しい。向こうの世界でもビールばかりを飲んでいた。まぁ、アレは正確に言うとビールではなく第三のビールだけど。

 学生は毎日ビールを買えるほどお金を持っていないのだ。

 

 

「隣、いいかな?」

 

 相棒とそんな他愛ない会話をしていると、声をかけられた。

 それは何処かで聞いたことのある声。その声の主の方を見えるとギルドマスターが立っていた。この人は何をやっているんだろうか。

 

「すまないね、ちょいと座らせてもらうよ」

 

 そう言ってからギルドマスターは俺の隣に座った。

 一緒に飲みに来たと言うのも考えられるけれど、それは違うだろう。はてさて何の用事があるのやら。

 

「キミたちの活躍は良く聞いている。そんな活躍目覚ましキミたち宛に“緊急クエスト”が届いたよ」

 

 ああ、なるほどそう言うことでしたか。

 此方から聞きに行こうかと思っていたけれど、その手間が省けた。しかし、俺たち宛に届いたって誰が送ってくれたんだろうね? ギルドはまとめている奴らでもいるのだろうか。

 

「……クエストの内容は?」

「ネルスキュラの狩猟。状態異常にされ苦しむハンターも多いと聞く。だから準備はしっかりとするんだよ」

 

 ふむ……今回はゲーム通りですか。

 しかもネルスキュラが相手ならそれほど苦労することもなさそうだ。火力の高い攻撃もなく、直ぐ転けてくれるからスタンも取りやすいし、体力が多いイメージもない。

 強いて言うなら、乗りがちょっと難しいくらいだろうか。

 

「今、武器を強化しているから、明後日にならないとクエストへ行くことはできないんだけど、大丈夫だろうか?」

「それくらいなら心配いらないよ。しっかりと準備をして望めばいい。それでは、がんばんなさい。ほっほほ、さても素敵な活躍を期待しているよ」

 

 そんな言葉を俺たちに伝えてから、ギルドマスターは立ち上がり俺たちから離れた。

 これで漸くHR1とおさらばできるチャンスが来た。7回ある緊急クエストうちの1回目。先はまだまだ長いけれど、まず一歩と言ったところだろうか。

 

「お、おおー……ついにHRを上げるクエストが来たんだね」

 

 緊張している様子の相棒。

 HRが上がれば受注できるクエストも増える。そしてその分周りからかけられる重圧だって増えるだろう。まぁ、HRが2になったくらいじゃ何も変わらないだろうけど。

 いや、原生林や氷海に行けるようになるのは大きいか。

 

「まだまだ俺たちは駆け出しなんだ。当たって砕けるくらいの気持ちで良いんじゃないか?」

「そうできればいいんだけどさ……」

 

 こんなところで止まっているわけにはいかないけれど、焦る必要はない。ゆっくりでも良いから進んでいけば良いんだ。

 それに今まで一緒に戦ってきたところを見る限り、この相棒はなかなか上手い。ちょっと心配性なところはあるけれど、問題はないと思う。火力だって俺より出てるだろうし……

 

「ま、そのうち慣れるよ」

「むぅ……どうして君はそんなに余裕なの? 君だって私と同じなのに」

 

 俺だっていろいろあったんです。

 もしゲームのデータをそのまま引き継げていたら、きっとこの世界では有名人だったんだろうなぁ……それくらいの特典くらいつけてくれても良かったのにね。

 

「前世の記憶とかが残っているんじゃない?」

「なにそれ」

 

 なんだろうね。俺も説明くらいしてもらいたかったよ。

 そう言えば、あのジンオウガの彼女はどうだったんだろうか? きっとあの彼女もゲームは相当やりこんだんだろう。どことなく廃人臭がするし。

 

 ま、とりあえず今はそんなことを忘れ、美味しくお酒をいただこうじゃないか。

 難しい話はまた今度。逃げちゃダメなことだってあるけれど、逃げた方が良いことだってあるはずだ。

 

 黄金色の液体が入ったグラスを上げ、相棒のグラスとぶつける。次もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「はい、『地底の捕食者・ネルスキュラ』ですね。がんばってください! これを乗り越えればHRが2になりますので! それでははりきって行ってみましょー。ハンターさんには期待してますから!」

 

 今日も今日とて元気の良い下位クエスト受付嬢と会話をしてから緊急クエストを受注。場所はテツカブラと同じ地底洞窟。まぁ、ネルスキュラがテツカブラと同じエリアへ行くことはないんだけどさ。

 

「えと、えと……解毒薬持っていかなきゃだ」

 

 ギルドマスターから話を聞いて1日以上経ったと言うのに、未だ緊張している様子の相棒。解毒薬も大切だけど、元気ドリンコも忘れちゃダメだよ。たぶん即死はないと思うから其処まで気をつけなくても良いと思うけど。テツカブラの時と違って生肉もいないし。

 

 ただ油断だけはしないようにいこう。前回のようにはいきたくない。

 

「準備できたら出発するぞー。夜になる前に倒しちゃいたいし」

「あっ、うん。すぐ行く」

 

 時間は早朝。いつも通りの飯も食べ、調子も悪くない。

 そして何より、今の俺には新しい武器がある! 攻撃力は572もあり、会心率も5%アップ。名前はブーステッドハンマー。序盤ではお世話になった人も多いだろう武器。これは強い。

 

 まぁ、相棒の武器の方が武器倍率も高いんだけどさ……

 

「準備できたよー」

 

 了解。

 そんじゃ、ま。行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊張するね……」

 

 ガタゴト揺れる地底洞窟へと向かう馬車の上、相棒がぽそりと言葉を落とした。

 俺はそんなにしません。それよりも今直ぐ新しい武器を振り回したい。新しい武器ができると試したくなるよね!

 

 地底洞窟へ着くのは夕方になるはず。その間、ずっと緊張なんかしていれば疲れるだろうに、大丈夫だろうか?

 

 緊張するなと言ってもそれは無理だろう。それに緊張する気持ちもわかる。初めて戦うモンスターで、しかもHRの昇格がかかったクエスト。仕方の無いことだ。

 

「ネルスキュラだけどさ。今まではするなって言っていたけど、乗り攻撃しても良いぞ」

「えっ、いいの?」

 

 正直に言うと、この相棒は乗り攻撃が下手だ。簡単なはずのアルセルタス相手に3回連続で失敗とかするし。

 

「うん、ちょうど良い機会だし練習がてらやってみなよ」

「大事なクエストで練習って……」

 

 別に良いんです。乗りダウンには期待していないから。むしろ、ジャンプ攻撃が脚へ当たることでの大ダウンを期待しています。

 ダウンしてくれないと頭行き難いし。ネルスキュラが立っているとあの爪に攻撃が吸われるせいで、頭へ入れ辛いんだよね。

 

「ネルスキュラはさ。乗り攻撃を成功させるのが難しい方なんだ。だからアイツで成功できればほとんどのモンスターは大丈夫だよ」

 

 ゴリラとかミラとかはもっと難しいけれど、ネルスキュラだって難しい方だと思う。暴れる時間は長いし、予備動作も少ないし。

 

「そうなんだ……でも私、乗り攻撃成功したことないよ?」

 

 ないのかよ! 初耳だよ! ああ、でも一人で大型種を倒したことなかったもんね。じゃあアレか、俺と一緒に行ったクエストが初めての乗り攻撃だったのか。

 じゃあなんでこの相棒は操虫棍なんて使っているのだろうか……いや、まぁ、乗り攻撃しなくても虫棒は強いんだけどさ。

 

「それなら今回でコツを覚えれば良いさ。暴れたら振り落とされないようしがみついて、後はひたすら背中を斬るだけ。慣れりゃあ直ぐできるはず」

「が、がんばります」

 

 期待しています。

 まだまだ先のことだけど、グラビでは乗り攻撃をひたすら繰り返すことになるだろうし、今のうちに練習してください。

 俺もグラビ用に毒か水ハンマー作ろうかな……アイツを倒してしまえば、後はそれほど苦労することもないだろうし。そうすれば上位ハンターが見えてくる。

 

 

「そう言えばさ、上位ハンターってどれくらいいるの?」

「ん~……私も正確には知らないけれど、そんなに多くはないと思うよ。バルバレのギルドって人が多い方じゃないし」

 

 あら、そうだったのか。

 まぁ、バルバレにはG級もないから、ハンターはそんなに集まらないのかも。

 

 MH4GになればG級もあったのだろうか? 発売までもう少しだったのになぁ……未だ元の世界へ帰る目処は立たないし、もう諦めるしかないのかね。はぁ、G級やりたかったなぁ……滅茶苦茶強いモンスターにボコボコにされたかった。トライアル&エラーが好きなんです。

 

「それにバルバレって移動型集会所だから、やっぱり人は集まりにくいんじゃないかな」

 

 ああ、そう言えばそんな設定があったな。

 ゲームの中だとずっと同じ場所にいたからそんな感覚は全くなかった。

 

 ……うん? 移動するとなると、俺はどうすれば良いんだ? 集会所が歩いて行けなくなる距離になると流石に困るんだが。

 

「その移動って次はいつあるの?」

「わかんない。なんかノリと気分で移動してるみたいだし、もしかしたらもう直ぐかも」

 

 ホントかよ、それで良いのか……

 まぁ、バルバレはキャラバンつきのハンターが主に集まる集会所だったはず。俺たちみたいなはぐれ者の方が珍しいのか。

 

 俺も何処かのキャラバンへ入れてもらえないかね?

 

「私が此処へ来てからはまだ一度も移動してないけど、移動するときはバルバレについていけば良いと思うよ。アプトノスに引っ張ってもらえばあの家も動くはずだし」

 

 ああ、なんだ。それで良いのか。これで路頭に迷わなくて済む。

 てか、そもそもなんで移動するんだろうね? 地図に乗らない集会所と言う響きはカッコイイけれど、それが理由ではないはず。

 

 ま、移動する時にでも考えれば良いか。

 

 とりあえず今は目の前にある課題をなんとかしていこう。

 

 






カニさんなんかもそうですが、脚が沢山あるモンスターは直ぐに転けてくれるのです好きです


と、言うことで第19話でした
漸く緊急クエストだそうです
此処まで20話かかりましたので、最後の緊急クエストをクリアする頃には140話とかになっているかもしれません
失踪待ったなしです

次話はネルスキュラとの戦いとなりそうです
苦戦はしないんじゃないかなぁとか思います
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております

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