振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第29話~カチ上げでキャンセル~

 

 

 相棒と二人で遺跡平原の採取ツアーへ行った次の日の朝。ガララアジャラ討伐に向けて出発。

 かなり落ち込んでいたように見えた笛の彼女も何時もの調子に戻ってくれたみたい。うん、どうかそのままの君でいてくれ。

 

「そう言えばさ、デンジャーコールって作れてる?」

 

 ガタゴトと揺れる馬車の上。朝が早いこともあってか、随分と眠そうな顔をしていた笛の彼女に質問。

 

「ううん……牙が一本足りない」

 

 あら、そうだったのか。

 じゃあ、今回のクエストをクリアできれば作ることもできそうだ。攻撃アップと聴覚保護を吹け、麻痺まで取れる素敵な武器。笛使いなら誰もが一度は作るくらいじゃないだろうか。

 これからもあの笛があればかなり楽になる。

 

「あと、音が笛っぽくないからあまり……」

 

 うん、まぁ、あの笛ってなんかポコポコ鳴るもんね。笛の音と言うより太鼓の音に近い気がする。

 しかし、笛の中にはギターみたいな音を出す武器もあるし、もう何でもありなのかもしれない。

 

 そしてどうにも暇だったから、また声をかけようと思ったけれど笛の彼女はいつかのように毛布に包まり、完全に眠る体制へ移っていた。

 そんな彼女に声をかけるわけにもいかず、じゃあ相棒で良いかと思い其方を見たけれど、相棒も既に夢の世界へ旅立ってしまっていたらしく、寝息が聞こえるばかり。

 

 寂しい。

 

 二人共寝てしまったので、残っているのはガーグァを操っているいつものアイルーと俺だけ。

 

 

「へい、アイルーお前って彼女いる?」

 

 恋ばなしようぜ、恋ばな。

 

「バカ言ってないで旦那もさっさと寝るニャ」

 

 ……構ってくれない。

 寂しいね。

 

 今、寝てしまえば起きるのはきっと夕方になる。そうなると、あの暗い時間に寝ることはできないだろう。でもなぁ、皆寝ちゃったし……

 

 うん……寝ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 寝ようとは思ったものの、其処まで眠いわけでもなかったから、結局寝ることができたのは目を閉じてから数時間後くらいだったと思う。

 そしてもう慣れたとは言え、馬車の上は寝心地があまり良くはない。だから起きているのか、寝ているのか良くわからないような状態がずっと続いた。毛布を忘れてしまったことに後悔。

 

 夢か現か。そんな世界を行ったり来たりを繰り返し続けた。

 

「あっ、やっと起きた。随分と長い時間寝ていたけど、そんなに眠かったの?」

 

 そんな状態の俺が現実の世界へ完全に戻ってくることができたのは、相棒の声が聞こえた時だった。まぁ、そもそもこの世界が現実なのかもわからないんだけどさ。

 日は既に落ちたらしく、真っ暗な世界へと変わっている。

 

「ん~……いや、眠くなかったから長い時間寝ていたんだと思う」

「どう言うこと?」

 

 俺も良くわかりません。

 

 硬い馬車の上で寝ていたため節々が痛い。そんな体を伸ばしてどうにか痛みを和らげる。ケルビやポポの毛皮くらい敷いておいてくれても良いのにね。ギルドもお金がないのだろうか。

 

「ねぇねぇ、お腹空いちゃったからお肉焼いて」

 

 なんでかはわからないけれど、このパーティーでは俺が肉を焼く係に任命されている。それくらいなら別に面倒ではないし、断ろうとも思わない。でも、なんだろうね。こう……俺の立場がすごく低く感じる。

 

「だって、君が一番お肉焼くのうまいじゃん」

 

 ああ、そう言うことだったのか。

 でも上手いも何も決まったタイミングで、セットした肉を上げれば良いだけな気がする。そんなに難しいことじゃないよ?

 

 なんてことを思わないでもなかったけれど、他にやることもなかったし、自分と相棒の分の肉を焼くことに。生肉にはまだ余裕はある。でも、そろそろ生肉もなくなるかもしれない。アプトノスを見かけたら倒すようにしよう。

 

 因みにだけど、笛の彼女が起きたのはそれから数時間後でした。

 良くそんなに寝られるね……

 

 

 

 

 相棒が起きていてくれたこともあり、それから原生林へ着くまであまり長いとは感じなかった。食事をして雑談。やっぱり一人より二人の方が色々と良いものです。きっとあの時、この相棒が俺に声をかけてくれなかったら、今も俺はソロで戦っていただろう。

 そんな生活はちょっと想像できないけれど、きっと楽しいとは思えていないんじゃないかな。

 

 そして日が昇り始めた頃、漸く原生林へ着いた。ガーグァの頑張りもあるだろうけれど、氷海よりは少しばかり近いのかもしれない。

 

 原生林は水が豊富で緑豊かなステージ。エリア1にはフラミンゴのような鳥がいるし、巨大キノコや青色に輝く蝶、ヘラクレスオオカブトなど見ていて飽きないステージです。

 そして一番目に付くのが謎の巨大な骨。あのダレンやラオなんかよりも遥かに大きい。なんの生物なんだろうね?

 

「っしゃ、行くぞー!」

「おおー!」

「おおー」

 

 支給品を受け取ってから、エリア1、2を経由でガララアジャラの初期エリア5を目指す。エリア5へ入るだけならベースキャンプからエリア3へ飛び降りた方が早い。けれども、ガララアジャラのいる位置がエリア2へと続く道に近いため、接触するのは結果的に此方の方が早いかな。

 まぁ、ゲームだとエリアホストが欲しいからベースキャンプから飛び降りるんだけどさ。

 

 飛んでいるフラミンゴやネルスキュラが作った蜘蛛の巣を横目に目指し、エリア5へ到着。

 

「うわぁ……でかっ」

 

 そしてエリア5へ着くと直ぐにソイツを見つけることができた。全長40mオーバーの蛇。初見は俺もどう戦って良いのかわかりませんでした。

 

「頭と尻尾が赤、前、後脚が白、後は橙。乗り攻撃頼んだ」

「了解!」

 

 いつも通り相棒へエキスの位置を教えてから、咆哮に備える。笛の彼女もいつもなら直ぐに演奏を始めるけれど、今回は納刀したままだった。

 

 そして、ガララアジャラが馬鹿みたいに大きな叫び声を上げた。

 緊急回避ー。

 

 こんな時、抜刀したままでも咆哮をガードできるガード武器が羨ましく感じる。

 俺と笛の彼女は咆哮を回避できたが、エキスを取っていたらしい相棒は耳を塞いでいた。ああ、ありゃ捕まったな。

 

「えっ? えっ? なにコレ? どうなってんの?」

 

 そしてガララさんお得意の囲み攻撃。予想通りガララに囲まれわたわたしている相棒。

 

「ジャンプで身体を飛び越えられるぞ」

「えっ? あっ、はい」

 

 相棒が虫棒を使ってガララの身体を飛び越えると、一度地面に潜ったガララが地中から突き上げ攻撃をした。

 

「あぶなっ! な、何アレ!? 超怖いんだけど……」

 

 当たったら大ダメージ。けれども、ガララはアレ以外は気をつけることが特にない。それに操虫棍なら囲まれても直ぐに抜け出すこともできる。

 毒も効果時間が長いし、スニークロッドを担いでいる相棒とガララの相性は抜群。

 

 さて、それじゃあ反撃させてもらおうか。

 

 残念ながらハンマーのリーチではガララの頭に届かない。だから今回、頭には行きません。ひたすら後脚を狙います。頭の次に肉質が柔らかく、破壊すれば大ダウン。

 

「乗ったー!」

 

 後脚を追いかけ暫く攻撃していると、相棒がガララの背中へ乗った。ナイスです! ガララは乗り攻撃中に咆哮もなく、2連で暴れるのを気をつければダウンを取るのは比較的に楽な相手。期待してます。

 

 そして笛の彼女の攻撃アップの演奏が終わった時、乗り攻撃成功。ホント上手くなったね。

 倒れたガララの頭へとりあえずカチ上げ。其処で、本日1回目のスタンをとってしまった。そのせいで、せっかく相棒が取ってくれた乗りダウンがなかったことに。

 

「ご、ごめんなさい……」

「よくある。別に気にしない」

 

 俺の謝罪に対して直ぐに返事をしてくれた笛の彼女。まさかそんなにスタン値が溜まっているとは思わなかったんです。あ、あら? ガララのスタン耐性ってそんなに低かったっけ?

 

 スタンを取ったガララへの頭へ。横振り始動でホームランを2回。笛の彼女と被らないよう位置取りは以前と同じように。

 そして2回目のホームランを叩き込んだとき、ガララの嘴へヒビが入った。うむ、これで牙も出てくれるだろう。

 

 スタンから起き上がったガララを見ながら納刀。怒り咆哮に備える。

 顔を高く上げ、鳴る甲を震わせながらの怒り咆哮。緊急回避ー。

 

「……あっ、まずいですな」

 

 また回避に失敗したらしい相棒の声がぽそりと聞こえた。

 そんな相棒をガララが見逃すわけもなく、その巨体をいかしてまた相棒を取り囲んだ。まぁ、虫棒だし大丈夫だろうと思い、ガララに囲まれわちゃわちゃしている相棒を横目に砥石。

 

 

「えっ、痺れ……」

 

 

 ……あかん。

 

 運悪く痺れ100%の噛み付きを喰らったらしく、ガララに囲まれた中心で倒れている相棒の姿。ハンマーや笛のスタンプをすればまだギリギリ間に合うけれど、俺は砥石中。彼女は演奏中。

 

 ああ……こりゃあ、ダメだ。

 

 地中へ潜るガララ。ハンマーを研いでいる俺。痺れている相棒。演奏中の彼女。

 そしてフォルティッシモ独特の演奏音が原生林へ響き渡る中、ガララによる地中からの突き上げ攻撃が相棒へ直撃した。

 他人事ではあるけれど、すごい光景だった。

 

 

「……あっ、耐えるんだ」

 

 ぽそりと呟いた彼女の声。うん、俺もダメだろうと思った。

 そんなガララアジャラの最大威力の攻撃を喰らっても相棒は倒れていなかった。ジャギィ一式の防御力を舐めていたらしい。

 まぁ、笛の演奏と虫棒の防御力アップのおかげだとは思う。俺が食らっていたらどうなっていたかはわからない。

 

「うぅ……ダメかと思った。久しぶりに運ばれるかと思った……」

 

 よく耐えた。偉いぞ。とりあえず今は回復してくださいな。

 相棒へ攻撃がいかないようガララを誘導しながら後脚へカチ上げ、横振り、縦2。其処で、ようやっと後脚が壊れた。

 

「……ナイス」

 

 まぁ、俺にはこれくらいしかできないから、それくらいは頑張ります。

 大ダウンしたガララへ横振りからのホームランを2回。ガララは体力も少ないし、もうそろそろ倒せると思うんだけど……

 

「2回目ー!」

 

 大ダウンが解けた瞬間に相棒のジャンプ攻撃が決まった。タイミングは完璧。良い連携だ。悪くない。相棒さん素敵。

 彼女の演奏を聞きながらもう一度砥石。次のダウンで終わらせたい。

 

 そして、相棒の乗り攻撃が成功し、ダウンしたガララへ右腰に構えていたハンマーをカチ上げた。

 

 2回目のスタンを取りました。また乗りダウンがなかったことになりました。

 

「……ホント、すみません」

「あー……ど、どんまい……」

 

 そんな声をかけてくれた彼女の優しさが心にくる。

 いや、だってガララのスタン耐性なんて知らないんだもん……

 

 主に俺のせいでスタンのタイミングは悪かったけれど、2回目のスタン中にガララ体力を削り切ることができた。

 お疲れ様でした。

 

「おおー、終わった……な、なんだか良くわからないけど終わった」

 

 うん、俺もコイツは良くわからない。

 戦い易い相手ではない。けれども、強い相手ではないと言う本当にどう表現して良いのかわからない相手。

 

 そんじゃ、有り難く剥ぎ取らせてもらおうか。

 

 身体は大きいけれど、剥ぎ取ることのできる回数は3回。

 やっぱり良くわからない奴だ。

 

 

 






ついに平均文字数が4000文字を超えてしまいました
(´・ω・`)スマヌ


と、言うことで第29話でした
これでもうガララさんの登場はなさそうです
お疲れ様でした

次話はザボアさんなはずですが、たぶんまたクエストへは行かない気がします
のんびり雑談とかかしら?
では、次話でお会いしましょう

感想・質問なんでもお待ちしております

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