や、やってしまった……
逃げるように自分の家へ帰ってから直ぐにベッドへ倒れ込んだ。
絶対に彼、困っていたよね……それも私のせいで。
でも、やっぱり自信なんてない。ないものはないのだ。
上位ハンターと言えば、皆の憧れの存在。そんな場所へ私が居て良いのかがわからない。そりゃあ私だって上位ハンターにはなりたい。なりたいけれども、流石にこれはちょっと早すぎるよ……
だって、初めてアルセルタスを倒してからまだ1ヶ月も経っていないんだもん。漸く、彼の足を引っ張ることも少なくなってきたかなぁって思えるくらい。そして、実際はまだ足を引っ張っているはず。
そんな私に上位ハンターになる資格があるとは思えなかった。
彼や彼女は上手い。本当に上手い。だからやっぱり上位ハンターになってもらいたい。でも、私がそこへ一緒に立っていて良いとは思えない。
きっと私がイヤだと言えば、彼はそれを受け入れてくれる。それはわかっている。でも、そうやってまた彼の優しさに甘えてしまうのも嫌だった。
じゃあ、どうすれば良いのか……それがわからない。このままじゃダメだってわかっていても、何をすれば良いのかがわからない。
……やっぱり私が彼のパーティーを抜けることが一番なのかな。今のままじゃ私は足枷にしかならないもの。
一度パーティーを抜けて、一人で頑張ってみて、そして時間が経ったらまた彼のパーティーに……ってのは流石に都合が良すぎるか。
そして、やっぱり彼のパーティーを抜けられるような勇気もないのです。まさに雁字搦め。身動きが全然とれない。
上位ハンターかぁ……そこにはどんな世界が待っているんだろう。でも、周りなんて見えていない今の私にはどんな世界だろうと、結局は見えないんだろうなぁ。
彼の優しさに甘えるか。
勇気を出して上位ハンターを目指すか。
それとも、彼のパーティーを抜けるか。そんなことをうだうだと考え続けた。けれども、いくら考えたところで答えなんて出そうにはない。
ホント、どうすれば良いのかなぁ……
そして気がつくと、部屋の中は暗くなり始めていた。
どうやらいつの間にか寝てしまったみたい。変に頭を使ったせいで疲れていたのかな。
「……おはよう」
彼女の声がした。
超ビックリした。
えっ? え? な、なんで彼女が私の家に?
「え、えと……うん、おはよう。それでどうしたの?」
申し訳ないけれど、まだ答えは出ていない。答えが出る気はしないけれど、もう少し待って欲しいかな。
「……コレ、貸してあげる」
そう言って彼女は何故か抱いていたプーギーを渡してくれた。
意味がわからない。いったいどうすれば良いと言うのだ。それに貸すってプーギーは彼女のものじゃないよね……
「お腹をつつくと癒される」
そう言って、彼女は私の家を出て行った。彼女は何がしたかったんだろう。
いや、ホントどうすればいいのさ……
とりあえず、彼女が言っていたようにプーギーのお腹をつついてみた。
うん、確かに柔らかくて気持ちいい。気持ちいいけど……なんだろう。癒されるかどうかはわからなかった。相変わらず彼女は何を考えているのかわかりにくい。悪い人ではないと思うんだけど……
暫くの間プーギーのお腹をつついたり、頭を撫でてあげたりしていると彼女が私の家に戻ってきた。
「癒された?」
こてりと首を傾げながら私に聞く彼女。
いや……うん、まぁ、たぶん癒されました。
「……それなら良かった」
やっぱり何を考えているのかわからないけれど、彼女なりに私のことを心配してくれているのかな。そうだと嬉しいな。
そしてとりあえず、プーギーは彼女に返した。すると嬉しそうにプーギーを受け取る彼女。本当にプーギー好きなんだね。
「……もし貴女がこのパーティーから抜けると、火力は半分になる」
ふにふにとプーギーのお腹をつつきながら彼女がぽそりと呟いた。
えと……いや、流石にそれはなくないですか? だって私、全然上手く戦えてないよ? 乗り攻撃だってよく失敗するし、エキスだってまだ早く集めることはできていないもの。
「ううん、それは貴女が気づいていないだけ。貴女はあの彼よりも絶対に多くのダメージを与えているはず。そして、もちろん私よりも。だからもっと自信を持っても良いと思う」
つまりこのパーティーの中では私が一番ってこと?
いやいや、まさか……そんなはずが……だ、だって私だよ? 自分で言って悲しくなるけれど、私は上手くない。
「……私や彼の使う武器は強くない。どんなに上手く戦っても、貴女の武器の半分くらいのMP……あー……半分くらいのダメージしか出すことができないの。私はもう笛以外を使うつもりはないし、それは彼も同じだと思う。だから、貴女がいないとちょっと困っちゃう」
そう……なの?
そんなこと考えたこともなかった。足を引っ張らないようにすることで精一杯だった。それなのに、私が一番……だったの?
それはやっぱり信じられるようなことではなかった。
「私がこのパーティーへ入ったのは彼がいたからだけど、このパーティーにいたのが貴女で良かったって思う。そして、できれば最後までこのパーティーでいきたい。だから私は二人のペースに合わせる。……ただ、何時までも下位ハンターでいるつもりもない」
私を真っ直ぐと見つめながら言葉を落とす彼女。
私で良かった、か。
うん、そうだよね。何時までも止まっているわけにはいかないもんね。せっかくハンターになったんだもん。それならできる限り上を目指したいよね……
「私でいいのかな?」
「貴女でないとダメなの」
そうだったんだ……
彼女の言葉は純粋に嬉しい。けれども、やっぱり自信はない。
「これからも足引っ張ると思うよ?」
「大丈夫。それに足を引っ張るくらいでないと私たちの立場がない」
ふふっ、なにそれ。
……本当に私でいいのかな?
彼や彼女の横に立つのが私みたいな人間で本当に良いのかな……
不安しかない。上位ハンターになった未来の私なんて全く想像できない。
そして、もう少し上手く励ましてくれても良かったんじゃないかなぁとは思うけれど、これだけ彼女に励ましてもらった。
うん、決めました。
もう少しだけ頑張ってみます。
「ねぇ、笛ちゃん」
「うん?」
私の今の状況がなんだかわからないけれど、もう良いんです。我武者羅でも良いから前に進むんです。何かを考えることが苦手な私にはそれくらいが丁度良いのです。
「上位ハンター目指します」
「……うん、がんばろー」
そう言って彼女は可愛らしく笑ってくれた。
はい、頑張ります!
この時はもう上位ハンターになりきったつもりだったけれど、よくよく考えると、次のクエストをクリアしないとなれないんだよね……
そんなことを考えると急に不安になった。
でも、きっとこのパーティーなら大丈夫って思えるくらいには自信を持てるようにはなりました。
そしてこれからは、もうひたすら前へ進もうと私が決めた瞬間でした。
この先……ずっとずっと遠い未来で、今よりももう少しだけ自信を持つことのできた私は、あの二人と別れることになったけれど、それでも頑張ろうと思えたのは、この時の彼女の言葉があったからなんじゃないかなぁって思うのです。
だからこの日は、私が彼に初めて声をかけた時と同じくらい大切な日だったと、遠い遠い未来で思うのです。
まぁ、この時の私はそんなこと全くわからなかったんだけどね。
だって、未来なんて誰にもわらないんだもの。
――――――――
次の日の朝になってから、彼に私の考えを伝えた。
これからも足を引っ張るとは思うけれど、なんとか頑張るのでよろしくお願いしますと。
私がそう伝えると、彼は別に気を遣わなくても良いとか、嫌なら嫌だって言っても良いとか、ちょっと引くくらいの勢いで私の心配をしてくれた。
心配してくれることは嬉しいけれど、そんなに気を遣わなくても良いのに……
でも、そのことが嬉しかった。ありがとう。
その後、なんとか彼に納得してもらい3人で集会所へ。もう止まらないって決めたんです。だからギルドマスターにそのことを伝えないと。
「ほっほほ。私の提案を受け取ってくれるんだね。良きかな、良きかな」
「んで、飛び級をかけたクエストの内容は?」
彼がギルドマスターへ聞いた。
これで、もう戻ることはできない。そのことはやっぱり怖いけれど……うん、頑張ります。
「ちょうどこの時期になるとね。彼らは現れるんだ。それはもう此処バルバレの名物と言って良いかもしれない。今はそんなお祭りみたいな時期」
……私もその話は聞いたことがある。
そっか、もうそんな時期だったんだ。多くの腕自慢のハンターたちがその名を知らせるために挑むクエスト。
でもそれは、ギルドから与えられた多くの高難度クエストをクリアしたハンターのみに与えられる権利だと思ったけど……
「本当なら、此方で与えたクエストをクリアしたハンターへそのお祭りへ参加できる権利を送るのだけど……残念ながら、今回はそんなハンターが一人もいない。けれども、彼らを撃退してもらわないとバルバレは潰れてしまう。そこで、今回はキミ達にそれを任せる」
……私みたいなハンターが本当にいいのかな?
そんな大切なクエストに……
い、いや、もう私は止まらないって決めたんだ。もういっそ、このクエストをクリアして私の名をバルバレへ知らしめるくらいの気持ちでいかないと!
つまり、HRの飛び級をかけたこのクエストのターゲットは――
「……ダレンか」
ぽそりと呟いた彼の声。
彼もやっぱり知っていたんだ。
「そう、超大型古龍種であるダレン・モーランの討伐をキミ達に任せるよ」