振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第37話~静かな暮らしとさようなら~

 

 

 随分と面倒なことになってしまった。

 

 無事ダレン・モーランの討伐を終えて思ったことはそんなことだった。

 お祭りなどと呼んでいたあのクエストは、どうやら俺が考えていた以上に大きな意味を持っていたらしい。

 

 クエストを終え報酬への期待に胸を膨らませながら、集会所へ向かった。

 そしてその集会所へ入った瞬間、異変に気付いた。集会所はいつも騒がしい場所ではあるけれど、その時はいつも以上だった。こう……熱気的な何かがあったんです。

 そして面倒なことにその熱気はどうやら俺たちへ向けられていた。

 

 その時は何が何だかわからなかったけれど、とりあえず報酬を受け取ることに。其処でギルドマスターから声をかけられ、ものすごい勢いで褒められた。

 いや、褒められるほど難しいクエストではなかったんだけどなぁ……なんて思っていると、更に俺たち三人へ“三ツ星ハンターの印”とか言う勲章の授与が行われた。其処でまたギルドマスターの有り難いお話を聞かされたけれど……まぁ、何を喋っていたのかは忘れた。その時は早くお酒が飲みたいとしか思っていなかったんです。

 

 勲章の授与だのなんだのは予想以上に長く、とても疲れました。精神的に。たぶんクエストの時間より長かったんじゃないだろうか? マジ勘弁してください。勲章をもらうよりハチミツをもらえた方がよっぽど役に立つ。

 

 そんな長ったらしいものが終わり漸く報酬をもらえると思っていると、今度は話したこともないハンターどもに囲まれた。クソが。

 其処で俺は限界。報酬を受け取るのは諦め、集会所から逃げ出しました。因みに、一番早く逃げたのは笛の彼女だったりします。

 まぁ彼女の性格的に、こう言うの苦手そうだもんね。褒められるのは悪い気分じゃないけれど、自分の中では別にすごいことをした覚えもないから、それで褒められると何だか微妙な気分になる。

 宝くじで大金が当たると急に知り合いが増えると聞く。今回のことは、たぶんそれに近いんじゃないかなって思います。

 

 そんなことのせいで、俺たち3人はバラバラに。てか、相棒だけ集会所に残ったまま。結果的に相棒へ面倒なことを全部押し付けてしまった気もするけれど、其処は深く考えないことにした。

 すまんな。

 

 そして厄介なことに、俺たちがダレンを倒したことはバルバレ中に広がっているらしく、集会所から抜け出すことには成功したのに、今度はハンターじゃない人たちに捕まった。

 主に、加工屋や道具屋なんかがこれからはウチの店で買ってくれ。だとかそんなことだった。あと、数人からはサインとか握手をお願いされた。サインを求められるのなど、配達のお兄さんを抜かせば人生初だ。サインの書き方なぞ知らないから断ったけど。

 でも、道具屋がくれると言ったアイテムは有り難くいただきました。もらえるものはもらうに限る。たぶん、あんたの店を使うことはないだろうけれど、このアイテムは大切にさせていただきます。

 

 後々になってわかったことだけど、どうやらダレンと戦っている間、俺たち3人の似顔絵がバルバレ中に配られたらしく、それで顔がバレてしまったらしい。今まで有名でもなんでもなかったのに、どうしてこうも知らない人から声をかけられるのか、とか思っていたけど……とんでもないことをしてくれたものだ。

 

 因みにだけど、俺の似顔絵は闘技大会の受付嬢が書いてくれたんだとさ。それを見せてもらったけど、予想以上に上手くて驚いた。

 

 

 

 

 クエストから帰ってきたばかりと言うのに、色々な人に揉みくちゃにされ、心身共にボロボロ。食事を取る元気もなく、這う這うの体で自分の家へ逃げ込んだ。

 もう疲れたから今日は寝よう。なんて考えながら家のドアを開けると、中には笛の彼女がいた。あとプーギー。

 

 色々とツッコミを入れたいところだったけれど、疲れていたし、もうなんかどうでも良くなった。

 

「……おかえり」

「うん、ただいま」

 

 でも、此処は君の家じゃないよね? いや、別に文句があるわけじゃないんだけどさ……

 

「えと……何やってんの?」

「きちゃった」

 

 そんな彼女の言葉に一瞬ドキリとしたけれど、どう考えたって彼女なりの冗談だろう。

 やめてください。恋愛関係のことには疎いので直ぐに勘違いしてしまいます。

 

「……彼女は?」

「はぐれちゃったからわからないけど、たぶんまだ集会所で捕まってるんじゃないかな」

 

 此処に来て少しばかりの罪悪感。

 いや、でも、俺にあの空気は無理です。静かに暮らしたいです。

 

 はぁ……ホント面倒なことになった。せっかく上位ハンターとなったのにね。このお祭り状態はいったいいつまで続くことなのやら……それも贅沢な悩みなのだろうか。

 

「迎えに行かなくても大丈夫?」

「あー、行った方が良いとは思うけど……今の集会所へは行きたくないかな」

「……同感」

 

 ふにふにとプーギーで遊びながら言葉を落とす彼女。溜まったストレスの捌け口となっているのにも関わらず、プーギーは嬉しそうだった。

 お前は単純で良いね。

 

「これからの予定は?」

 

 ん~……どうすっかね。

 これからは今までとは違って上位クエストとなるから、早く武器防具を揃えたいところだけど……武器をどうするかが難しい。ソロならベネ・ホワユンで良いけれど、相棒のスニークロッドも毒なんだよなぁ……山権現でも作ることができればそれで良い気もする。報酬次第だけど、要求素材はそんなにキツくなかったはず。

 防具は……まぁ、ジャギィSが無難なところだろうか。本当はさっさと複合装備を組んでしまいたいけれど、その素材を集める時の装備が欲しい。

 

「とりあえずは装備を整えないとかな。君は武器どうするの?」

「マスターバグパイプ作って、その後はガララ笛になると思う」

 

 まぁ、そんなもんだよな。

 上位になったとは言え、行けるクエストはまだ多くない。色々な武器や防具を作るのにはHRをあと2つは上げたいところ。

 防具は全員同じ物を作ってしまった方が絶対に効率は良いけれど……パーティー全員が同じ装備ってどうなんだろう。いや、仲は良さそうに見えるけどさ。

 

 ああ、そう言えば俺たちは全員HR4となったのか。

 すっかり忘れていたけれど、これで俺は彼女に追いつくと言う目標を達成することができた。うむうむ、なかなか順調じゃないか。

 まぁ、HRの上限が解放されたらクエストクリア数の関係で彼女とはまた離れることになるんだろうけどさ。それがいつのことになるのかはわからない。

 でも、それまではこの彼女と肩を並べることができる。それが少し嬉しかった。

 

 上位かぁ……本当に苦労しそうだ。ハチミツの量産体制へ移る必要がありそうだ。流石に回復薬グレートなしはキツイ。

 

 ま、今までもちょこちょこ集めはいたから、なんとかなると思うけどさ。

 

「そんじゃま、そろそろ行くか」

「何処へ?」

 

 これ以上放っておいたら流石に怒られる。

 

「あの相棒を迎えに」

 

 気は進まないけれど、大切な仲間のためちょいと我慢しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 渋るかなぁと思っていた彼女もちゃんとついて来てくれるらしく、二人で集会所へ向かった。

 やはり途中で何度も知らない人から声をかけられたけれど、どうにか逃げ切ることに成功。集会所の中は相変わらず騒がしいままであったものの、俺が逃げ出した時よりはかなり落ち着いていた。

 

 そして、集会所のテーブルに突っ伏している相棒を発見。

 ……俺が逃げ出したあと、何があったのかわからないけれど、どうやらかなり大変だったんだろう。お、お疲れ様です。

 

「えと、だ、大丈夫……ですか?」

 

 そんな相棒の肩を叩きながら声をかけた。

 

「私はもう疲れました……」

 

 でしょうね。

 

「二人共、私を置いていくなんて酷いよ!」

 

 ガバっと起き上がり大きな声を出す相棒。

 いや、だってアレは無理だろ。あんな経験慣れていないし、好きにはなれる気がしない。申し訳ないとは思っているけれど、次にまた同じようなことがあっても俺は絶対に逃げる。

 

「お疲れ様。これで君も有名人だな」

「私にはそんな実力なんてないのに……」

 

 それなら、これから上手くなれば良いさ。

 大丈夫、君ならきっとそれくらいの実力をつけることはできるよ。

 

「ま、とりあえず、飯食べようぜ。お腹空いた」

 

 せっかく上位ハンターとなったのだからお酒だって飲みたい。

 

 これからのことを色々と考えないといけないとは思うけれど、未来のことばかり考えても仕方無い。今できることを少しずつやっていけば良いのだ。

 

 


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